保健医療科学
Online ISSN : 2432-0722
Print ISSN : 1347-6459
ISSN-L : 1347-6459
最新号
Recent topics in public health in Japan 2024
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
特集
  • 横山 徹爾
    原稿種別: Preface
    2024 年 73 巻 1 号 p. 1
    発行日: 2024/02/29
    公開日: 2024/03/27
    ジャーナル オープンアクセス
  • 彼らは何をされ,何をしてきたのか?
    武村 真治
    原稿種別: 総説
    2024 年 73 巻 1 号 p. 2-15
    発行日: 2024/02/29
    公開日: 2024/03/27
    ジャーナル オープンアクセス

    日本の患者たちは様々な苦難に耐えながらも,自らの境遇を改善するために闘い,権利を勝ち取ってきた.本稿では,日本における患者の歴史,つまり患者に対して行われたことと,患者によって行われたことを概説する.

    19世紀後半にコレラが大流行した際,患者は避病院に隔離され,ほとんど治療されないまま放置された.1900年代に入り工業化が進展するとともに,貧困層,特に女工の間で結核が流行するようになったが,療養所が不足していたため十分な治療がなされなかった.性感染症は「花柳病」と定義され,売春婦から男性へ,男性から妻へと社会全体に拡大し,女性は売春婦としての悲劇,妻としての悲劇に耐えてきた.20世紀初頭から,浮浪徘徊するハンセン病患者は療養所に収容されるようになり,その後全てのハンセン病患者を療養所に入所させ,生涯完全に隔離する政策が進められた.ハンセン病患者の中には,監禁,減食,謹慎,譴責などの処罰を受け,清掃,洗濯,重症患者の看護などの「患者作業」を強いられ,断種される者もいた.精神疾患患者の多くは私宅に監置されていたため,精神病院の設立が推進された.精神病院では,手錠,足かせ,鎖などの拘束具が使用されることもあった.その後私宅監置は禁止され,自傷他害の恐れのある精神疾患患者を入院させる措置入院制度が設けられた.

    患者に対する差別は,上記の疾患だけでなく,公害病,職業病,医原病,難病,エイズ,COVID-19も対象となった.また貧困の患者を研究や教育に利用する「学用患者」と呼ばれる仕組みも存在していた.

    第二次世界大戦後,患者たちは自身の要求や問題を社会に積極的に訴えるようになり,それは世界でも珍しい「患者運動」へと発展していった.患者会は当初,結核やハンセン病の療養所の患者によって組織されたが,1950年代以降,難病や公害病など,様々な疾患の患者会が設立されるようになった.1970年代に入ると,疾患ごとに設立された患者団体が互いに連携するようになり,2005年5月,患者団体の統一組織として日本難病・疾病団体協議会(JPA)が設立された.

    患者の人権の擁護や生活・医療の保障については法律等で明文化されるようになった.しかし,特に難病患者が求めている,疾患の原因解明や治療法の確立には至っておらず,患者自身が積極的に研究開発に関与する「患者・市民参画(PPI)」の推進が必要である.

  • 湯川 慶子, 島貫 美穂子, 江口 尚
    原稿種別: 総説
    2024 年 73 巻 1 号 p. 16-31
    発行日: 2024/02/29
    公開日: 2024/03/27
    ジャーナル オープンアクセス

    過労死が社会問題となって以降,法律や認定基準の制定,また企業側,労働者側での対策が充実してきた.しかし,過労死や過労自殺,パワーハラスメントなどに関する報道を聞かない日はない.世界共通の社会問題である「過労死/KAROSHI」について「日本の過労死対策」の変遷や主要な事件を取り上げ,現在の最新の過労死対策の動向や医療と司法を中心に連携について解説する.

    過労死・過労自殺が社会問題として確立した経緯から,予防策,過労死防止法,認定基準の見直し,過重労働や職場でのストレスに悩む労働者や家族の活動,「過労死110番」といった相談窓口を全国に展開した弁護士の活動などを整理したうえで,過労死・過労自殺が生じた時の法的手続きを詳説する.

    労働衛生分野の医療関係者と,労働問題に法的側面から取り組む司法関係者とが連携し,過労死対策や支援に取り組み,過労死が根絶されるまでは,発生した事件の救済を支援し,社会に広く啓発していく必要がある.

  • 概念と実践に向けた課題
    大夛賀 政昭
    原稿種別: 総説
    2024 年 73 巻 1 号 p. 32-41
    発行日: 2024/02/29
    公開日: 2024/03/27
    ジャーナル オープンアクセス

    少子高齢化という人口動態の変化はグローバルな課題であり,これに対応したヘルスシステムの変革が求められている.1990年代から統合ケアという概念によって,質を確保しながらその効率性を高めていくケアの提供手法について検討されてきた.日本は,高齢化の進展に伴い増大するケアニーズに対応するために介護保険制度を創設し,介護サービスに特化した提供システムを整えてきた.これによって,医療やリハビリテーション,その他福祉サービスとの断絶が起こったため,その統合にむけ「地域包括ケア」という概念が提唱され,この実現に向けた取り組みが継続的に実施されてきた.その後,高齢者福祉領域で実施されてきたこれらの試みを他の領域(生活困窮者,子ども家庭,障害を持つ人など)の支援へと展開し,その充実を図る過程において,縦割りの制度の克服や地域づくりが求められ,「地域共生社会」という概念が提案された.この概念は,世代や分野を問わず地域を基盤として包括的にケアを提供していくという日本型の統合ケアの概念と,ケアの支え手と受け手や人々と地域の共同性を推進する地域づくりの概念という2つの概念を内包するものと説明できる.この地域共生社会を実現するための包括的支援体制の構築に向けた政策は2016年度以降実施されてきており,2021年度より市町村による重層的支援体制整備事業も創設された.現在,これらの取り組みを地域の実情に応じて推進していくための,戦略の立て方を含む方法論の確立が求められている.

  • 種田 憲一郎
    原稿種別: 総説
    2024 年 73 巻 1 号 p. 42-54
    発行日: 2024/02/29
    公開日: 2024/03/27
    ジャーナル オープンアクセス
    超高齢社会を迎えて,介護施設の果たす役割は益々大きくなり,介護施設において,安全な介護の実施が求められている.医療安全の取組みの推進において,まず起きている事故を把握することの必要性から,「Reporting first」と言われる.本邦においては,国レベルの事故報告システムとして,2004 年から医療事故情報収集等事業,2015 年から医療事故調査制度が開始されている.一方で介護における事故情報収集に関しては,地方公共団体にまかされているが,必ずしも介護の安全に活かされていない.このため介護現場の事故情報収集においても,将来,国レベルでの活用の仕組みの構築を視野にいれた,報告様式の標準化,介護現場の安全管理体制の強化などが取り組まれつつある.さらに介護現場の取組み状況についてのヒアリングなどからは,介護安全の全体構成(案)を参考に,事故予防に体系的に取組むための仕組み(報告,分析,対策立案,実施,評価など)と利用者・家族も含めて多職種で協働する訓練を整備・推進する取組みが,各施設レベルでも各自治体レベルでもさらに期待される.この論文では,本邦における介護現場における安全の取組みの現状について紹介する.
  • 上原 里程
    原稿種別: 総説
    2024 年 73 巻 1 号 p. 55-61
    発行日: 2024/02/29
    公開日: 2024/03/27
    ジャーナル オープンアクセス
    本論文では日本における最近の疫学研究,特に,災害疫学,社会疫学,出生コホート研究のトピックスを記述する.災害疫学は 2011 年の東日本大震災の経験から注目を集めるようになった.社会疫学は社会環境の曝露と様々な身体的,精神的な健康アウトカムとの関連を明らかにすることを目的としている.出生コホートは社会状況によって様々な影響を受ける.疫学研究は様々な分野で活用され,今後も発展することが期待される.疫学研究による成果が社会実装されることが望まれる.
feedback
Top