地域包括ケアシステムにおける歯科保健のあり方を検討した.
まずは,現状を把握するために3 つの調査を行った.
1つ目として,訪問看護ステーションを対象に歯科関連事業の実施状況・歯科医療機関との連携等を調査した.その結果,口腔状態の把握に関しての研修の実施は半数と少なく,把握方法のほとんどが看護職の観察と家族からの情報であった.これらから,歯科専門職との連携が希薄ではないかと考えられた.
2つ目は,全国の自治体の在宅要介護高齢者への歯科保健事業の実施状況を調査した.その結果,全自治体を通して,実施率は,事業別では訪問口腔保健指導,訪問歯科診療,歯科検診の順であった.いずれの事業も,保健所設置市,市,町,村の順に,人口規模が大きいほど実施率が高い傾向にあった.
3つ目には,「郡市区歯科医師会」へ,介護関連機関との連携状況を調査した.連携先は,地域包括支援センターが最も多く,次いで介護老人保健施設,訪問看護ステーションが最も低かった.また,介護老人保健施設に対しては個別対応の形態をとる傾向が強く,地域包括支援センターでは連絡協議会を設けて連携をはかる傾向にあった.訪問看護ステーションとの連携率は低く,対応は個別が多かった.連携事業は,介護老人保健施設と訪問看護ステーションでは,歯科治療・専門的口腔ケアが多かった.地域包括支援センターでは口腔ケアが多くなされていた.
さらに,先進地域の事例についても聞き取り調査の結果について検討を加えた.
以上より,地域包括ケアにおいて歯科保健がその役割を果たしていくには,「情報の共有」「良質なコーディネーター」などの条件が満たされているともに「顔のみえる連携」が必要であるが,まずは連携事業を行うべきであろう.事業開始時以降の歯科医療のマンパワー提供は,地域歯科医師会が相互協力の調整を行うことが必要になろう.また,歯科が多職種との連携をどのように進めていくかが大きな焦点となる.これらを推進するシステムは,全国均一のものに当てはめるのではなく,地域の特性を生かして進めていくべきである.
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