保健医療科学
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65 巻, 4 号
多職種連携に基づく在宅高齢者の口腔機能の維持・向上への取り組み
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
特集
  • 三浦 宏子
    原稿種別: 巻頭言
    2016 年 65 巻 4 号 p. 367
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/11/06
    ジャーナル オープンアクセス
  • 尾﨑 哲則, 三澤 麻衣子, 上原 任
    原稿種別: 総説
    2016 年 65 巻 4 号 p. 368-374
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/11/06
    ジャーナル オープンアクセス
     地域包括ケアシステムにおける歯科保健のあり方を検討した.
    まずは,現状を把握するために3 つの調査を行った.
     1つ目として,訪問看護ステーションを対象に歯科関連事業の実施状況・歯科医療機関との連携等を調査した.その結果,口腔状態の把握に関しての研修の実施は半数と少なく,把握方法のほとんどが看護職の観察と家族からの情報であった.これらから,歯科専門職との連携が希薄ではないかと考えられた.
     2つ目は,全国の自治体の在宅要介護高齢者への歯科保健事業の実施状況を調査した.その結果,全自治体を通して,実施率は,事業別では訪問口腔保健指導,訪問歯科診療,歯科検診の順であった.いずれの事業も,保健所設置市,市,町,村の順に,人口規模が大きいほど実施率が高い傾向にあった.
     3つ目には,「郡市区歯科医師会」へ,介護関連機関との連携状況を調査した.連携先は,地域包括支援センターが最も多く,次いで介護老人保健施設,訪問看護ステーションが最も低かった.また,介護老人保健施設に対しては個別対応の形態をとる傾向が強く,地域包括支援センターでは連絡協議会を設けて連携をはかる傾向にあった.訪問看護ステーションとの連携率は低く,対応は個別が多かった.連携事業は,介護老人保健施設と訪問看護ステーションでは,歯科治療・専門的口腔ケアが多かった.地域包括支援センターでは口腔ケアが多くなされていた.
     さらに,先進地域の事例についても聞き取り調査の結果について検討を加えた.
     以上より,地域包括ケアにおいて歯科保健がその役割を果たしていくには,「情報の共有」「良質なコーディネーター」などの条件が満たされているともに「顔のみえる連携」が必要であるが,まずは連携事業を行うべきであろう.事業開始時以降の歯科医療のマンパワー提供は,地域歯科医師会が相互協力の調整を行うことが必要になろう.また,歯科が多職種との連携をどのように進めていくかが大きな焦点となる.これらを推進するシステムは,全国均一のものに当てはめるのではなく,地域の特性を生かして進めていくべきである.
  • 稲荷田 修一
    原稿種別: 解説
    2016 年 65 巻 4 号 p. 375-384
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/11/06
    ジャーナル オープンアクセス
     千葉県柏市では,急激に高齢化が進む中,超高齢社会に対応するまちづくりに取り組むために,2009年に東京大学・UR都市再生機構との3 者で,「柏市豊四季台地域高齢社会総合研究会」を設置した.翌年には協定を締結し,主に「生きがい就労」と「在宅医療」の取り組みを進めている.在宅医療の推進では「在宅医療に取り組む医師の負担軽減」「医療介護の多職種連携の推進」「情報共有システムの構築」「市民への啓発及び相談」「地域医療拠点の整備」という5 つの取り組みを,医師会を始めとする医療・介護関係団体と協働で行っている.
     その中で歯科については,柏歯科医師会を中心として,主に次にあげる二つの取り組みを行っている.ひとつは「口腔ケアチェックシート」の作成と普及啓発である.多職種が簡便に利用者・患者の口腔機能をアセスメントでき,ご本人・ご家族も同様にセルフチェックができるようなツールとして当該シートを作成.口腔の問題を簡易に抽出し,必要時歯科医師につなぐような仕組みを作った.この活用にあたっては,そもそも多職種間の顔の見える関係の構築が重要である.
     もうひとつは,総合特区制度を活用して,「リハビリ職による訪問リハビリ事業所の開設」及び「歯科衛生士の居宅療養管理指導を,歯科医院から離れた場所から提供できる」規制緩和を申請したものである.この仕組みにより,同年11月に柏歯科医師会が「口腔ケアセンター」を設置.協力歯科医師とセンターの歯科衛生士が雇用契約を締結し,居宅療養管理指導を行い,実施件数が増加しているところである.
     一方,単一職種の動きでは効率的な支援に限界があることから,特区制度の枠組みを活用して,口腔・運動・栄養のサービスがトータルに提供できる仕組み(トータルヘルスケアステーション)を市内で展開することを,歯科医師会・在宅リハビリテーション連絡会・栄養士会等と協議中である.予防から人生の最終段階まで切れ目なく支援が提供でき,安心して暮らせるまちづくりを,関係団体と連携して推進しているところである.
  • 村中 峯子
    原稿種別: 総説
    2016 年 65 巻 4 号 p. 385-393
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/11/06
    ジャーナル オープンアクセス
     高齢者が住み慣れた地域で,できる限りその人らしい生活を健やかに継続するために,個々の高齢者の状況や変化に応じた適切な保健医療福祉サービスや,多様な支援が求められ,そのための仕組みである地域包括ケアシステムの構築・推進が進められている.
     従来の病院完結型の医療から,地域で支える地域完結型医療・介護へのパラダイムシフトが急務となり,歯科口腔保健・歯科医療(以下「歯科保健」)においても,地域において多様な専門職が連携・協力することが期待されている.  そうした中,連携・協働を軸とした地域包括ケア実現のカギとして,介護保険法の改正に伴い,地域ケア会議を設置することが市町村の努力義務となった.構成員には歯科医師,歯科衛生士も例示されているが,地域ケア会議への歯科保健従事者の参加が十分得られているとは言い難い現状にとどまっている.
     歯科保健従事者と,地域における関係多職種の連携の促進が急務であり,その連携の要として保健師に期待される役割は大きい.保健師は従来から,乳幼児健診等や介護予防事業の口腔ケア事業において,歯科保健従事者と顔の見える関係を築いている.保健師は行政にいる医療専門職として「口腔ケア」の重要性を認識し,歯科保健従事者が在宅歯科診療や地域における歯科医療・口腔保健活動を効果的に展開するにあたり行政側の担当者として関わってきている.
     本来,地域包括ケアは高齢者支援に留まらず障害児者等も含め,地域に住む人々すべてを対象としたまちづくりとして展開されることが必要である.保健師には,これまでの活動における協働の実績を元に,地域包括ケア推進においても,歯科保健従事者との連携の窓口・要となること,同時に歯科保健従事者には,保健師との連携を糸口に,まずは地域ケア会議に参加することから地域包括ケアシステム実現に向けた取組みに参画・展開されることが期待される.
  • 三浦 宏子, 大澤 絵里, 野村 真利香, 玉置 洋
    原稿種別: 総説
    2016 年 65 巻 4 号 p. 394-400
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/11/06
    ジャーナル オープンアクセス
     高齢期の口腔機能の維持・向上を図ることは,生涯にわたって健全な摂食嚥下を保持し,全身の虚弱化を防ぐために有効である.口腔機能の低下に起因するオーラル・フレイルの改善は,今後の介護予防施策にも大きな影響を与える.本稿では,わが国の地域在住高齢者での疫学知見に基づき,フレイルの概念とその有症状況を示した.次に,フレイルのなかで,口腔機能や食に着目したオーラル・フレイルの概念形成に関するこれまでの研究動向をレビューし,今後の研究課題について検討した.
     併せて,オーラル・フレイルに関連するわが国の健康施策の概要と口腔機能評価法について言及し,今後の高齢者歯科保健施策の方向性について考察した.
  • 白髭 豊
    原稿種別: 解説
    2016 年 65 巻 4 号 p. 401-407
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/11/06
    ジャーナル オープンアクセス
     長崎在宅Dr.ネットを中心とした口腔機能の維持・向上,栄養改善に関する多職種連携を紹介する.2003年に発足したDr.ネットは,都市部の診療所連携を推進して医師の負担感の軽減を図る一方,多職種間で様々な連携を行なってきた.結成当初より独自の管理栄養士派遣システムを作り, 2 名の管理栄養士が複数の診療所において外来および訪問栄養指導を実践した.Dr.ネットと管理栄養士の連携を普遍化した形で,長崎県栄養士会は2004年10月『ながさき栄養ケアステーション』を組織し,栄養士を診療所,病院,医師会などの依頼により斡旋・派遣するシステムとなった.また,在宅でできる簡単なレシピ集作りを行なうとともに2005年10月には胃ろうに関する研修会を実施し,知識・技術の普及に努め,2012年には,「在宅における胃ろう管理の手引き」を作成し,地域の関係職種が力を合わせて,病院,在宅でバラバラだった指導方法等をまとめた.Dr.ネット医師と歯科医師,歯科衛生士,栄養士とが緊密な連携を行ない,口腔機能の維持・向上に取り組んだ.
     これらの活動によって,管理栄養士が在宅で利用者家族とともに調理し,誤嚥性肺炎の再発予防に寄与するとともに,介護者の自信と安心につながった.在宅でできる簡単なレシピ集も高齢者の栄養改善に役立った.また,胃ろうに関する研修会によって,経験のなかった医師でも在宅で胃ろう交換・管理が困難なく出来るようになり,胃ろう管理の手引きとともに一般医のレベルアップへつながる取り組みとなった.
     嚥下能力の低下により体重・食事量が減少している特養入所中の要介護高齢者に対しては,歯科医の指示のもとに歯科衛生士が介護職員に指導して咀嚼訓練を行った結果,口唇などの口腔周囲筋力や摂食嚥下状態が改善し,食事摂取量と体重の増加が認められた.また,脳梗塞の後遺症で経口摂取が顕著に減少した要介護高齢者に対しては,耳鼻科医の嚥下評価の後に実施した栄養士による嚥下食指導,歯科医による入れ歯の調整,歯科衛生士による口腔ケアの定期導入により食欲や咀嚼が改善し,胃ろう導入を回避できた.このように医師,歯科医師,歯科衛生士,栄養士などの多職種連携を有機的に展開することで,口腔機能の維持・向上,栄養改善で着実な成果が得られた.
  • 角町 正勝
    原稿種別: 解説
    2016 年 65 巻 4 号 p. 408-414
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/11/06
    ジャーナル オープンアクセス
    これからの歯科医療は,診療室完結型ではなく,他職種と連携していく地域完結型歯科医療でなければならない.本稿は,長崎における医科歯科連携の先駆的取り組みの紹介を行うとともに,在宅高齢者の口腔機能の維持・向上のための医科歯科連携のあり方を検討した.長崎県寝たりきりゼロ戦略検討会を契機に,口腔リハビリテーションの視座に立脚し,他職種と連携して食支援を行うための地域連携システム構築に着手し,救急を担う病院グループと長崎市歯科医師会との間で「脳卒中等口腔ケアネットワークシステム」を,1997年に長崎市においてスタートさせた.その後,長崎市では訪問歯科診療が確実に定着し,現在では,訪問歯科診療の件数は年間1000名弱に達しており,この動きは全国的にも確実に広がりを見せ始めた.これらの一連の取り組みの基盤となったのは,在宅医療を担う医師との連携を中心に,看護師,薬剤師・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士,ケアマネージャー等の関連専門職との連携を強化したことが挙げられる.また,栄養士との連携については,医療機関内での連携に加え,在宅ケアの場でも求められている.医科歯科連携を中核とした地域での多職種連携体制の確立は,地域在住高齢者の食支援の推進に不可欠な要素である.
  • 安藤 雄一
    原稿種別: 総説
    2016 年 65 巻 4 号 p. 415-423
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/11/06
    ジャーナル オープンアクセス
     咀嚼は高齢期において適切な栄養摂取を行ううえで重要な機能である.この機能が損なわれると,野菜・果実類を中心とした食物摂取が低下してビタミン類を中心とした栄養素摂取の低下を招くことが世界各地で行われた観察研究により支持されている.
     このように咀嚼の重要性に関する認識が次第に深まり,健康日本21(第二次)の目標値として採用された.また,国民健康・栄養調査でもモニタされるようになり,咀嚼良好者の割合は増加しているが,高齢者人口の増加により咀嚼不良者の人数は減っていない.
     咀嚼は半自動運動であり,歩行と神経制御面で類似する点が多いが,歩行に比べるとう蝕や歯周病の進行による歯の喪失として高齢期以前に器質的障害が生じる頻度が高い.このため健全な咀嚼機能の維持を図るためにはライフコース疫学の視点が必要である.
     特定健診・特定保健指導の標準的メニューには,今まで歯科関連の内容が組み込まれていなかったが,咀嚼を軸にしたメニューが盛り込まれ成果を挙げた事例もあり,今後の普及が期待される.
論文
  • 渡邉 直行
    原稿種別: 総説
    2016 年 65 巻 4 号 p. 424-441
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/11/06
    ジャーナル オープンアクセス
     2002年から2009年まで国際原子力機関(International Atomic Energy Agency,IAEA)原子力科学応用局ヒューマンヘルス部核医学課高等医官として在籍し,国際保健医療におけるアイソトープ・放射線技術に係る標準化,IAEA加盟国の標準化されたアイソトープ・放射線技術の導入と持続的利用を支援し,2010年から現在にかけては,IAEAコンサルタントとしてIAEA加盟国に対する引き続きアイソトープ・放射線技術に係る支援を行っている筆者は,平成27年度日本公衆衛生協会地域保健総合推進事業で2018年1 月10日~15日にかけてベトナム社会主義共和国(ベトナム国)の保健医療の状況調査,そしてベトナム国保健省や世界保健機関西太平洋事務局ベトナム国オフィス(World Health Organization Western Pacific Regional Office Viet Nam Office)と同国の保健医療の現状と取り組みに係る意見交換を行うことを目的とした国際協力事業に参加し,IAEAと世界保健機関(World Health Organization,WHO)の国際機関のベトナム国への医療保健の取り組みを理解する機会を得た.
    IAEAはこれまで,保健医療の分野で各種アイソトープならびに放射線技術の利用を検証し,加盟国へ技術提供を行ってきた.IAEA の活動として核セキュリティ分野の保障措置についてはよく知られているが,保健医療分野での活動は日本ではほとんど知られていない.国連システム下での人々の健康を達成・維持する目標を達成するために保健医療分野をはじめとする非原子力発電分野での原子力技術の平和利用の推進活動がIAEAにより実施されている.IAEAとWHOとの間で,保健医療での支援に係る分野や戦術などの幾つかの点において違いが見られる.しかしながら,多くの加盟国で喫緊の課題となりうるNCDs対応支援についてIAEAが有するアイソトープおよび放射線技術を超える包括的な対応が求められることも少なくない.IAEAはWHOをはじめとする他の国際機関や世界各地にある大学や研究施設などと,より積極的で密接な連携を図り,課題解決に邁進すべきである.
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