本研究では北海道における規模が大きくエネルギー消費量の多い老人福祉施設を対象に,建物の状況,エネルギー消費量などを調査し,省エネルギー・省資源に資する改善方法を検討した.さらに,実際の施設内の温熱環境,入居者の健康度を分析した結果,以下の知見を得た.
(1) 有効回答数165件のアンケート調査から,建物の規模,築年数,仕様などの建物状況を分析した 結果,施設の平均述べ床面積・平均築年数は,特別養護老人ホーム:3,729m
2 ・20.3年,軽費・養護老人ホーム:3,486m
2 ・18.0年だった.
(2) 各建物の電気,ガス,油などの各種エネルギー消費量の調査結果から,暖房用途,冷房用途,ベー スの 3 種類の消費量を推定した.エネルギー消費原単位・暖房用途のエネルギー消費量比率・建物の熱損失係数は,特別養護老人ホーム:2,512 MJ/(m
2 year)・44.5%・3.08 W/(m
2 K),軽費・養護老人ホーム: 2,082 MJ/(m
2 year) ・50.5%・2.58 W/(m
2 K)だった.
(3) 前項で得られた建物の熱損失係数を用い,建物の熱性能向上に伴うエネルギー消費量削減効果を推定した結果,建物の断熱性能を住宅の次世代省エネ基準(地域区分Ⅰ)1.6W/(m
2 K)程度にする ことで,暖房エネルギー消費量が約50%削減することを示した.
(4) 札幌市内の 3 施設において室内温熱環境と入居者の健康感を調査した結果,2 施設では共用部と居室の温度差が 5 ℃以上あった.相対湿度は居室・共用部ともに20~30%の場所が多かった.高 血圧者の方が居室と共用部の温度差が大きい環境に居住していることがわかった.
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