保健医療科学
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67 巻, 4 号
今改めて保健師の専門性とは―ジェネラリストというスペシャリティ―
選択された号の論文の11件中1~11を表示しています
特集
  • ジェネラリストというスペシャリティ
    丸谷 美紀
    原稿種別: 巻頭言
    2018 年 67 巻 4 号 p. 339
    発行日: 2018/10/31
    公開日: 2018/11/29
    ジャーナル オープンアクセス
  • 丸谷 美紀
    原稿種別: 総説
    2018 年 67 巻 4 号 p. 340-349
    発行日: 2018/10/31
    公開日: 2018/11/29
    ジャーナル オープンアクセス

    目的:本稿の目的は,各種資料に記述された公衆衛生看護の定義・理念・機能・役割等の内容から,ジェネラリストの概念を整理し,国立保健医療科学院に今後強化が求められる人材育成・研究について考察することである.

    方法:公衆衛生看護関連の書籍,看護関連論文,看護関連学会及び職能団体の見解に記述されている公衆衛生看護の定義・理念・機能・役割等の記述から,分野を限定しない活動・広範囲な対象者等,ジェネラリストを表現していると筆者が判断した記述を抽出し,記述内容の類似性をとらえて分類整理した.

    結果:公衆衛生看護関連の書籍11件,英文献 3 件,看護関連学会 2 件,関連団体 3 件,計19の資料を選定した.ジェネラリストに関する和文献は皆無だった.分析した結果,「全ての発達段階・健康レベルを看護の対象とする」「個人から国家レベルまでの規模を連動して看護の対象とする」「個別ケアから政策まで多岐に渡る方法を連動して公平に看護を提供する」「長期的視点に立った看護の提供」「幅広い学問分野を基盤とする」の 5 つに分類された.

    結論:ジェネラリストに関する和文献が皆無だったことは,保健師がジェネラリストであることが自明とされてきた可能性もある.本稿で整理した内容のうち,「長期的視点に立った看護の提供」「幅広い学問分野を基盤とする」は,公衆衛生看護におけるジェネラリストの特徴と思われる.我国の喫緊の健康問題を鑑みると,今後,公衆衛生看護におけるジェネラリストには「多分野に渡る健康問題に対して予防的に支援する」技術の強化が必要と考える.

    近年,国立保健医療科学院の役割は,保健師の「人材育成能力」の育成に移行しつつあり,今後は,「ジェネラリストを育成する能力」の強化が必要と考える.保健師のジェネラリストとしての暗黙知を明らかにし,形式知として人材育成に反映していく必要がある.国立保健医療科学院の役割遂行に向け,公衆衛生看護の人材育成開発に関する確立された部門の新設も一考と考える.

  • ―個別支援を例として―
    吉岡 京子
    原稿種別: 総説
    2018 年 67 巻 4 号 p. 350-359
    発行日: 2018/10/31
    公開日: 2018/11/29
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    公衆衛生看護活動は,その黎明期から個別支援を主軸としてきた.個人や家族の健康レベルの維持・向上に貢献しようとするこの活動は,地域全体の健康レベルの向上の礎となるものである.保健師は,常に時代の変化の影響を受けながら,社会のニーズや健康課題の変遷に対応してきた.近年公衆衛生看護の実践の場では,複雑化した健康問題や生活上の問題(以下,健康・生活問題とする)を抱える「支援困難事例」への関わりが求められている.その背景要因として,1)貧困問題の深刻化,2)社会階層による居住地域の分断化と健康への影響,3)家族のあり方や価値観の変容,4)健康・生活問題の多様化,5)住民同士の交流の変化,6)在留外国人の増加などが複雑に絡み合っている.

    支援困難事例の抱える健康・生活問題は社会の縮図であり,その解決のためには行政内外の様々な関係機関と協力することが不可欠である.一般的に行政の多くの部署では,所管する所掌事務のみを行う「縦割り」スタイルを採用している.一方,保健師は分野横断的な健康・生活問題に対応するために,様々な関係機関と協働してきた.この「分野横断的支援」スタイルは,近年厚生労働省が打ち出している地域共生社会の概念の中で,改めてその重要性が強調されている.保健師は地域共生社会の実現に向けて,これまで培ってきた実践知を活かし,関係職種や住民と共に個別支援や地域づくりをより一層推進していく必要がある.また,今後人口減少や公務員の定数削減が加速化することを考慮すると,個別支援で把握した健康・生活問題の発生を将来にわたって予防し,効率的・効果的に解決するための政策形成や,地域の実情に合わせて課題解決を図るための「ご当地システム」の構築につなげていくことが課題である.

  • ―チームで対応した事例による考察―
    崎村 詩織
    原稿種別: 報告
    2018 年 67 巻 4 号 p. 360-364
    発行日: 2018/10/31
    公開日: 2018/11/29
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    自治体の保健師は主に,地域の母子保健・精神障害者・長期療養者等を対象とした直接的支援(ケースワーク)および地域保健に関する政策立案や保健サービスの事業化を専門分野としている.近年の地域保健を取り巻く環境の変化により,保健師が介入する事例は複雑・困難化しており多数の関係機関が関わることが多い.加えて,政策立案や事業化においても関係機関との協働が重視されるようになってきた.保健師は,関係機関とチームで問題を解決し,関係機関同士を問題解決に向かってまとめていく,「ジェネラリスト」としての専門性が重視されている.本稿では,自治体の保健師活動の中で,多数の関係機関や多職種が関わり解決してきたケースワーク事例および政策立案の事例を分析し,保健師に求められる「ジェネラリスト」としての専門性や役割について考察した.その結果,保健師に求められるジェネラリストとしての専門性を発揮するために必要な能力は,①コミュニケーション能力,②コーディネート能力,③マネジメント能力の 3 つであると考えられた.

  • ―住民の健康管理における分野横断的・総合的視点―
    永吉 真子
    原稿種別: 総説
    2018 年 67 巻 4 号 p. 365-372
    発行日: 2018/10/31
    公開日: 2018/11/29
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    地域の健康管理には,地域を把握するためのデータ収集・評価と,地域ぐるみで取り組むためのデータ活用が必要である.データ収集・評価では,取り組みの根拠を明確にするため,健康に関連する様々な情報を活用することが望ましい.大学と自治体が連携することで,疾病発症情報等様々な追加情報を得られることから,地域の疾病要因についての検証と評価が可能となる.また,大学が提供する分析結果を,行政や住民の強みを活かし伝わりやすい方法で示すことで,分野横断的な取り組みと,課題解決を後押しできると考えられる.

    本著では,大学が行う地域健診活動とコホート調査の調査手順について紹介し,地域で有用な情報を集める際の分野横断的な協働の必要性について説明した.また,自治体で入手しやすいデータの活用方法の工夫として,国保データベースシステム(KDB)データ・特定健診データの提示例と共に,公表機会の活用事例についても紹介した.分野横断的な協働の基盤となるのは,組織間や住民との信頼関係である.長崎大学と五島市の事例を通して重要であった活動基盤,視点と目標の共有,お互いの力が最大限に発揮できるよう情報提供し合える関係づくりについて説明した.

  • ―協働による地域づくりに求められるジェネラルな能力―
    川崎 千恵
    原稿種別: 総説
    2018 年 67 巻 4 号 p. 373-381
    発行日: 2018/10/31
    公開日: 2018/11/29
    ジャーナル オープンアクセス

    人口減少・超高齢化に伴い,地域社会には様々な課題がもたらされている.これらの地域課題を解決するために,多分野で「地域づくり」が行われている.本稿では,まず「地域づくり」について概観し,「協働の地域づくり」を行ううえで必要な視点と,保健師に必要なジェネラルな能力について検討した.その結果,「協働の地域づくり」に取り組む保健師には,「社会的決定要因(Social Determinants of Health)」と「社会的包摂(Social Inclusion)」の視点を持つこと,ジェネラルな能力として,「マネジメント能力」,「パートナーシップを形成する能力」が特に必要であることを中心に解説する.

  • 成木 弘子, 藤井 仁
    原稿種別: 資料
    2018 年 67 巻 4 号 p. 382-393
    発行日: 2018/10/31
    公開日: 2018/11/29
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    目的:地域医療ケアシステム構築における保健所保健師の関与と他職種の関与を比較することを通して,保健所保健の関与の特徴を探求することとした.

    方法:全国の県型保健所372カ所を対象に地域医療連携に関する業務を主に担当している保健師などに対して無記名の質問票による調査を郵送で実施し.保健師と保健師以外の職種の関わり等を比較した.調査内容は,1)対象者の基本状況,2)担当している事業の概要を調査し,3)地域医療ケアシステム構築に関与している内容32項目である.

    結果:1)対象者の背景:保健師148名(保健師群),保健師以外163名(保健師以外群)から回答があり,年齢や行政経験などは両群で大きな差は見られなかった.2)担当している事業:地域医療システムの構築段階では,両群とも「構築期(中期)」が最も多く,次いで保健師群では「創設期(初期)」,保健師以外群では「維持期(後期)」であった.関係機関による会議は,両群共に「連携推進協議会」が最も多く,実際に連携体制を取っている関係機関は,「病院」が最も多かった.保健師群では「市町村」「診療所」「訪問看護ステーション」「在宅介護支援所」なども保健師以外群よりも多かった.3)関与に関して保健師群は保健師以外群より「関係者への地域医療連携に関する研修会を企画する」「連携推進会議で参加者が活発な発言ができるよう内容をまとめて述べたり,発言の少ない人に発言を促したりする」「連携づくりに必要な人材を関係機関から見いだし適切な役割が担えるよう支援する」など12項目が有意に高かった(p<0.001).この12項目を「関与強群」「関与中群」「関与弱群」分けて内容を検討した結果,「関与強群」は地域の専門職への教育機能,「関与中群」は地域医療システムの構築におけるマネジメント機能,「関与弱群」は情報収集・発信機能をそれぞれ発揮していたと考えられた.

    結論:保健師は在宅ケア領域などの領域で,システムの創設期~構築期で役割を担うことが多く,小さい組織や実務担当者の会議などへの関与や立場の弱い職種のアドボケーターとしての役割を担ったり,様々な機関をつなぐコーディネーターとしの役割を担ったりしていると考えられた.また,公衆衛生看護管理の機能の「事業・業務管理」など 5 つの管理機能を発揮し地域医療システムを推進していると考えられた.これらは,ジェネラリストとしての保健師の機能として考えることができる.

  • ―自然災害時に保健師に求められるジェネラルな能力―
    奥田 博子
    原稿種別: 総説
    2018 年 67 巻 4 号 p. 394-401
    発行日: 2018/10/31
    公開日: 2018/11/29
    ジャーナル オープンアクセス

    自然災害時は,緊急性を要する医療・保健・福祉に関連するニーズが急速に増大し,支援の需要と供給の不均衡が生じる.また,復興期においても,被災住民の健康課題は,教育,住宅,労働,交通など生活全般にわたる要因が関連するため,医療・保健・福祉の各個別の専門性による対応だけでは解決できない事態が生じ得る[1].

    近年,災害の頻発化に加え,被害の甚大化によって,被災地域住民の生命の危機,重篤な健康課題をもたらす事態が深刻化し,その課題解決に向け,災害発生後の早期から多種多様な専門職が被災地に参集している.このような昨今の自然災害の実態を鑑み,平常時から受援を想定した活動体制の構築の検討や,発災時には,被災地の健康課題に対峙するために適した速やかな組織体制の構築が求められている.

    本稿では,災害時の公衆衛生活動と保健師の役割,他職種マネジメントと組織体制のあり方,組織内外の分野横断による活動の観点から,過去の知見や課題を概観し,自然災害時に保健師に求められるジェネラルな能力と,効果的な活動を推進するための分野横断のあり方について言及する.

  • ―公共政策研究の視点から―
    真山 達志
    原稿種別: 総説
    2018 年 67 巻 4 号 p. 402-412
    発行日: 2018/10/31
    公開日: 2018/11/29
    ジャーナル オープンアクセス

    地域包括ケアシステムでは,住宅,保健,医療,介護,福祉などの生活支援サービスが日常生活の場で提供できるような地域の体制を確立することが目指されている.保健師は,これまでから地域の保健,福祉,医療などに関わる業務を担う専門職として活躍してきた.したがって,新しい地域包括ケアシステムにおいても保健師に対する期待は大きい.

    そこで,本稿では,先行研究や保健師に関する調査報告,さらに行政資料などを検討することによって,今日の保健師の実情を確認する.その上で,公共政策研究に依拠し,地域包括ケアシステムにおける保健師の役割を明らかにすることを目的にしている.この目的のために,保健師の中でも特に市町村保健師に焦点を合わせている.

    市町村においては,保健師は多様な組織に所属し,多分野の業務に従事している.今日では,分野横断的な業務を担うことが保健師の特徴であると言える.文字通りの第一線職員(street-level bureaucrats)として,地域社会の日常生活に関する政策の実施を担っている.同時に,政策形成に対する保健師の貢献にも期待が高まっていることも明らかになった.

    結論として,地域包括ケアシステムにおける保健師の役割を 3 点に集約した.第 1 は,地域に精通した専門家として,保健,福祉,医療,介護などの専門職間のコーディネートを行うことである.第 2 は,ケアに関わる自治体の様々な部署を,組織横断的に連携させるための要の役割である.そして第 3 は,ケアに関する施策や事業を企画・立案するとともに,自治体の政策形成全般に関わることである.すなわち,地域の実情や実態,住民ニーズについての情報を自治体政策に反映させる役割である.保健師が,これら 3 つの役割を果たすためには,専門職(スペシャリスト)としてだけではなく,ジェネラリストとしての能力を高める必要がある.また,実施だけでなく政策形成の能力を高めることも求められている.

  • 加藤 典子, 山口 道子, 田中 志保
    原稿種別: 総説
    2018 年 67 巻 4 号 p. 413-421
    発行日: 2018/10/31
    公開日: 2018/11/29
    ジャーナル オープンアクセス

    超高齢社会を迎えた我が国において,健康に関する国民の多様なニーズに対応するため,地域保健対策の主要な担い手である保健師の役割が変化・拡大している.地方自治体における保健師数は増加しているが,地域の実情を踏まえた活動を展開していくため,保健師の配置や役割分担について検討する必要があると考える.

    地域保健対策においては,既存の地域保健対策に加え,ソーシャルキャピタルを活用した自助及び共助の支援を推進し,持続可能で地域特性を活かした健康なまちづくりや健康危機管理体制の確保などを推進することが重要であり,保健師は「地域における保健師の保健活動に関する指針」を踏まえて,活動を更に推進していく役割が期待されている.

    このため,保健師は専門的な知識及び技術,連携・調整に係る能力,行政運営や評価に関する能力を育成していくことが非常に重要である.近年,保健師の教育課程は多様化しており,保健師の職務経験は経験年数により一様でない.そのため,キャリアラダーを用いて,個々の保健師の能力の獲得状況を的確に把握・評価し,体系的に人材育成を行うことが必要であり,人事部門,教育機関等と連携して推進することが望まれる.

    さらに,保健師の効果的な保健活動やそのための人材育成を推進していくために,統括保健師の役割の重要性が高まっている.昨今発生している様々な災害においても,統括保健師の組織横断的な活動が重要である.地方自治体においては,これまでの保健活動を評価し,統括保健師を中心に検討,再構築していくことが求められる.地域住民が安心して暮らすことができるよう,成果につながる保健活動が推進されることを期待する.

論文
  • 白岩 健, 船越 大, 村澤 秀樹, 下妻 晃二郎, 斎藤 信也, 福田 敬
    原稿種別: 解説
    2018 年 67 巻 4 号 p. 422-426
    発行日: 2018/10/31
    公開日: 2018/11/29
    ジャーナル オープンアクセス
    電子付録

    医療経済評価において,QALY(quality adjusted life years: 質調整生存年)を算出するためには,選好に基づく尺度により測定されたQOL値が必要である.プロファイル型等の非選好型QOL尺度により測定されたスコアを医療経済評価に活用するために,近年「マッピング」と呼ばれる手法が用いられることが多くなってきている.マッピングは,非選好型尺度の測定値から選好型尺度により測定されるQOL値を予測するための手法であり,このマッピングの関数(あるいは変換方式等)を推定することが目的で実施される.このマッピングに関する研究報告については,23項目からなるMAPS声明が作成されており,筆者らによりその詳細を含め全訳されている.この全訳については,本解説のAppendixを参照されたい.マッピング研究は,現状のところその質につき玉石混淆の状況であるが,MAPS声明に従った質の高い報告が行われることにより,マッピング研究の活用可能性も広がっていくのではないかと考えられる.

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