保健医療科学
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71 巻, 5 号
健康日本21(第二次)最終評価 ―都道府県等健康増進計画のためのメッセージ―
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
特集
  • 都道府県等健康増進計画のためのメッセージ
    横山 徹爾
    原稿種別: 巻頭言
    2022 年 71 巻 5 号 p. 377
    発行日: 2022/12/28
    公開日: 2023/01/18
    ジャーナル オープンアクセス
  • 辻 一郎
    原稿種別: 解説
    2022 年 71 巻 5 号 p. 378-388
    発行日: 2022/12/28
    公開日: 2023/01/18
    ジャーナル オープンアクセス

    平成25年 4 月に始まった「健康日本21(第二次)」の最終評価が令和 4 年10月に終了した.それによると,53個の目標項目のうち,目標値に達したものが 8 項目(15.1%),改善傾向にあるものが20項目(37.7%),変わらなかったものが14項目(26.4%),悪化したものが 4 項目(7.5%),評価困難が 7 項目(13.2%)であった.平成22年から令和元年までの間に,健康寿命は男性で2.26年,女性で1.76年延びた.これは平均寿命の延び(男性1.86年,女性1.15年)より大きく,「健康日本21(第二次)」で最も重視された「平均寿命の増加分を上回る健康寿命の増加」という目標は達成された.一方,健康寿命の都道府県格差は,男性では縮小したが,女性では増大した.

    各種の生活習慣に関する都道府県格差の推移を示すことにより,健康格差の縮小を図るうえで対象集団の中から課題の大きいところを抽出し,そこへの取組を強化して底上げを図ることの重要性を指摘した.

    がんや脳血管疾患・虚血性心疾患の年齢調整死亡率(アウトカム指標)は目標以上に顕著に減少した.一方,その基盤となるはずの生活習慣(メタボリックシンドロームの該当者及び予備群の人数,肥満者の割合,成人の喫煙率など)や基礎的病態(収縮期血圧の平均値,高脂血症の割合など)に関する指標は不変・悪化が目立つという矛盾した現象が見られた.

    最後に,次期国民健康づくりプランは,今後の人口構造や経済・産業構造の変化を見通した上で策定が進められていることを紹介した上で,都道府県等の健康増進計画を策定するにあたって留意すべき事項を述べた.

  • 都道府県・市区町村の取組状況の評価のための調査
    寺井 愛
    原稿種別: 解説
    2022 年 71 巻 5 号 p. 389-396
    発行日: 2022/12/28
    公開日: 2023/01/18
    ジャーナル オープンアクセス

    健康日本21(第二次)最終評価の一環として,計画期間中の取組状況を評価するため都道府県・市区町村に対する調査を行った.

    本調査の結果から,健康増進計画の評価を行う体制や,部局横断的な組織体制等,健康づくりのための体制整備は健康日本21の最終評価時点と比較して進んできたと考えられる.教育部門や介護保険部門等,健康づくり部門以外の部門との連携に関しても多くの自治体で行われている一方,まちづくり部門との連携は都道府県・市区町村ともに少なく今後の課題と考えられた.

    健康格差については,全ての都道府県及び約半数の市区町村で把握されていたが,所得や教育,職業等の社会経済的要因による格差を把握している都道府県・市区町村は 1 割程度にとどまった.

    計画期間中に取組が進んだ領域や,今後重点的に取り組みたい領域としては,がん,循環器疾患,糖尿病領域や,栄養・食生活,身体活動・運動領域等を選んだ都道府県・市区町村が多く,休養,飲酒領域を選んだ都道府県・市区町村は少なかった.今後,休養,飲酒領域等,取組が進んでいない領域に関しては,目標達成のための具体的な取組を示していく必要があると考えられた.

    厚生労働省では,現在,最終評価の結果も踏まえて次期プランの検討を行っており令和 5 年春を目途に公開予定である.都道府県,市区町村におかれては,最終評価の結果や,国で作成する次期プランも踏まえ,令和 6 年度から開始する次期健康増進計画の策定を進めていただきたい.

  • 目標に対する実績値の評価法を中心に
    横山 徹爾
    原稿種別: 解説
    2022 年 71 巻 5 号 p. 397-407
    発行日: 2022/12/28
    公開日: 2023/01/18
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    「健康日本21(第二次)」の最終評価は,1目標に対する実績値の評価,2諸活動の成果の評価,321世紀の健康づくり運動全体としての評価と次期国民健康づくり運動プランに向けての課題の整理,の 3 点について行われた.本稿では都道府県等で健康増進計画の評価を行う際の参考となるように,1の方法を中心に解説する.

    「健康日本21(第二次)」では基本的な 5 つの方向性に基づいた具体的な「目標項目」が53個ある.各目標項目について具体的な「指標」が設定され( 1 つの目標項目に性・年齢別など複数の指標が設定されることもある),目標値に向けた指標の実績値や取組の評価を行い,その際,指標の値の動きや特徴的な取組について,図表等のより“見える化・魅せる化”の工夫をした.また,信頼区間の算出や,統計学的検定が可能なものは検定を行い,必要に応じて年齢調整も行った.目標値に対する指標の実績値の評価は,A目標値に達した,B現時点で目標値に達していないが,改善傾向にある(このうち,設定した目標年度までに目標到達が危ぶまれるものを「B*」),C変わらない,D悪化している,E評価困難に区分した.また,個別指標だけでなく目標項目としての総合評価も同様にA~Eに区分した.評価分析結果は目標項目ごとの「評価シート 様式 1 」に,目標値に対する指標の推移,データの出典と算出方法等,分析結果(調査分析上の課題を含む),指標の評価と目標項目の総合評価を整理した.そのうえで,「評価シート 様式 2 」で,①目標項目の評価状況のまとめ,②関連する取組の整理,③各目標項目の評価に係る分析及び領域全体としての評価,④今後の課題,⑤新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた今後の課題について,詳細な評価分析結果を記載した.

    さらに,2諸活動の成果の評価では国,地方公共団体,企業・団体等の取組状況の整理・評価を行い,3では各領域での12も踏まえて,健康日本21(第二次)の総合的な評価を行うとともに,健康日本21から続く大きな流れの中で我が国の健康づくり運動を評価し,次期国民健康づくり運動プランに向けての課題を整理した.

    これらの“見える化”や年齢調整・検定などについて,同様の分析が可能なツールのいくつかを国立保健医療科学院のWEBサイトで提供し,研修でも扱っているので,都道府県等で健康増進計画の評価を行う際には,必要に応じて参考にしていただきたい.

  • 定義,算定方法と最近の動向
    橋本 修二, 川戸 美由紀
    原稿種別: 総説
    2022 年 71 巻 5 号 p. 408-415
    発行日: 2022/12/28
    公開日: 2023/01/18
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    健康日本21(第二次)に係わる健康寿命は「日常生活に制限のない期間の平均」,「自分が健康であると自覚している期間の平均」と「日常生活動作が自立している期間の平均」である.3指標の間で,定義と算定方法が大きく異なることが確認された.2010~2019年(健康寿命の目標達成の評価対象期間)において,全国では,健康寿命はいずれの指標とも延伸傾向であったが,不健康寿命(平均寿命と健康寿命の差)は「日常生活動作が自立している期間の平均」で若干の延伸傾向,他の 2 指標で短縮傾向であった.都道府県と市町村における健康寿命の解釈にあたって,指標の定義と算定方法,および,全国の2010~2019年の推移を考慮することが重要であろう.

  • 石川 みどり, 横山 徹爾
    原稿種別: 総説
    2022 年 71 巻 5 号 p. 416-431
    発行日: 2022/12/28
    公開日: 2023/01/18
    ジャーナル オープンアクセス

    本稿の目的は,1健康日本21(第二次)における自治体の健康増進計画に関する国立保健医療科学院(以下,科学院)の研修について,平成25年度から令和 4 年度までの1研修のテーマの変遷ならびに,2研修を進めた方法をふりかえること,2科学院研修を受講した自治体の健康増進計画の推進への効果を,受講者数が多い・少ない自治体群それぞれの状況を,厚生労働省が健康日本21(第二次)最終評価の際に行った,自治体の取組状況の評価のための調査,国民健康・栄養調査の公表結果を活用して比較分析すること,3科学院研修の課題と今後の展開について考察することとした.

    健康日本21研修の主テーマは,優先度の高い健康課題に関連する食事・食生活の課題解決に向けた対策の企画と体制づくりであった.研修を進めた方法は,1行政栄養士業務指針において,成果のみえる栄養施策に向けた要素を示した.2行政栄養士業務指針を実践するための資料集を作成した.3既存データ健康増進計画等のモニタリング・評価・見直しのために各種資料・関連ツールを作成し,活用して統計学的分析を行った.4科学院長期研修(研究課程)において自治体が上記分析を進めるための支援を行った.5栄養・食生活課題改善のための対策についてワークシートを用いて計画,調整を行った.さらに,6科学院研修内容を深め,普及のために,日本公衆衛生協会,日本栄養士会等,他組織と協力した事業を行った.

    自治体の健康増進計画の状況への効果については,受講者数が多い群は,少ない群に比べ,地域間の格差を確認した市区町村,在勤者への施策を実施した市区町村の割合が有意に多かった.また,国民健康・栄養調査の分析の結果, 男性のBMIは,平成24年に両群の差はなかったが,平成28年に,受講者数が多い群が有意に低かった.女性の歩数は,平成24年には両群の差はなかったが,平成28年に,受講者数が多い群が有意に多かった.一方,女性の食塩摂取量は,両群ともに減少したものの,平成28年に,受講者数が多い群で有意に多かった.野菜摂取量,習慣的な喫煙者の割合は,男女とも両群間の各年の値と変化に有意差はなかった.

    いくつかの限界はあるものの,科学院研修の長期的な評価のために,既存調査の公表データを用いて評価できる可能性が示唆された.その為には,都道府県・市区町村の健康増進計画の各種指標の状況が,策定時,中間・最終評価時に調査され,適切なデータが継続的に公表される必要があるだろう.また,今回は, 2 つの短期研修における長期的評価の試みを行ったが,科学院研修全体における標準的な長期的評価の方法の検討が必要であろう.

論文
  • 佐藤 直子, 稲田 尚子, 中島 俊, 大井 瞳, 井上 真里, 宮崎 友里, 足達 淑子
    原稿種別: 原著
    2022 年 71 巻 5 号 p. 432-439
    発行日: 2022/12/28
    公開日: 2023/01/18
    ジャーナル オープンアクセス

    目的:母親の抑うつに関して,母親自身および幼児の睡眠問題との関連がこれまでの研究で多く示されている.さらに近年では,母親の抑うつには幼児の夜間の睡眠問題だけでなく,それに関連する日中の問題の影響が示されている.しかし,これまで,母親の抑うつと母親の睡眠問題,幼児の夜間の睡眠問題または睡眠関連の日中の問題は別個に検討されてきた.そこで本研究では,幼児の夜間の睡眠問題と睡眠関連の日中の問題を同時に測定できる質問紙を用いて,母親の抑うつと母子の睡眠との関連について検討することを目的とした.

    方法:保育園・幼稚園に通う幼児とその養育者205組を対象として,質問紙調査を実施した.得られた回答159件(回収率77.6%)から,主たる回答者が母親である132組の母子データ(有効回答83.0%)を分析対象とした.質問紙は,幼児の睡眠問題の評価に,日本版幼児睡眠質問票(Japanese Sleep Questionnaire for Preschoolers : JSQ-P) 10因子のうち,本研究の目的に合致したパラソムニア,不眠・リズム障害,朝の症状,日中の過度の眠気,日中の行動,睡眠不足の 6 因子25項目,母親の睡眠問題の評価にAthens Insomnia Scale (AIS) ,母親の抑うつ症状の評価にOverall Depression Severity and Impairment Scale (ODSIS) を用いた.分析は,各質問紙によって得られた得点に基づき,相関分析および重回帰分析を行った.

    結果:相関分析の結果,ODSISはJSQ-P下位 6 因子のうち,幼児の夜間の睡眠問題である「不眠・リズム障害」と睡眠関連の日中の問題である「日中の行動」,AIS下位 2 因子と有意な相関を示した.しかし,ODSISを従属変数,ODSISと相関が示された「不眠・リズム障害」と「日中の行動」,AIS下位 2 因子を独立変数とした重回帰分析では,幼児の睡眠関連の日中の問題である「日中の行動」と母親の夜間の睡眠問題のみが母親の抑うつと有意な関連を示した(日中の行動: β=0.20, p=0.03, 母親の夜間の睡眠問題: β=0.32, p=0.001).

    結論:幼児の睡眠関連の日中の問題(日中の行動)と母親の夜間の睡眠問題が,母親の抑うつ症状と関連するものと考えられる.今後,母親のメンタルヘルスの問題を考える際には,母親の睡眠の問題だけでなく,幼児の日中の問題も含めた睡眠の問題を評価することの必要性が示唆された.

  • Cannabidiol(CBD)に焦点をあてて
    木下 翔太郎
    原稿種別: 論壇
    2022 年 71 巻 5 号 p. 440-446
    発行日: 2022/12/28
    公開日: 2023/01/18
    ジャーナル オープンアクセス

    2022年 6 月 7 日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針」においては,「大麻に関する制度を見直し,大麻由来医薬品の利用等に向けた必要な環境整備を進める」との記述が含まれており,今後確実に我が国でも大麻草由来成分の医薬品利用に向けた規制整備が進んでいくとみられる状況にある.広義の医療大麻は,カンナビノイド医薬品(大麻由来医薬品),ヘンプ由来カンナビジオール(cannabidiol:CBD)製品,大麻草由来製品(狭義の医療大麻)の 3 つに大別されるが,我が国で目下検討されているのは,医療ニーズを踏まえたカンナビノイド医薬品の輸入・製造・施用を可能にすることなどである.狭義の医療大麻は,諸外国でカンナビノイド医薬品の代替などに使用されているが,精神依存などをもたらすΔ9-テトラヒドロカンナビノール(tetrahydrocannabinol:THC)を含み健康影響も大きいため,依存・乱用のおそれの低いCBDとは区別して議論されるべきである.

    近年の我が国における大麻乱用の背景には,大麻の有害性・危険性を軽視している若年者が多いことが指摘されており,カンナビノイド医薬品やCBD製品の普及にあたっては,「大麻を使用してよい」という大麻乱用に繋がるような誤った認識が広がらないよう留意する必要がある.保健医療の現場や地域における専門家である保健医療従事者も,大麻の健康影響を否定したり,有用性のみを強調する言説を肯定・拡散したりしてしまうことのないよう努めるべきであるが,大麻草由来成分に関しては2018年頃から大きく情勢の変化が生じており,大半の者は教育課程などにおいて適切なインプットの機会を得られていない.そのため保健医療従事者が情勢認識をアップデートすることのできる機会や教育・啓発コンテンツなどの充実などが必要であると考えられた.

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