目的:母親の抑うつに関して,母親自身および幼児の睡眠問題との関連がこれまでの研究で多く示されている.さらに近年では,母親の抑うつには幼児の夜間の睡眠問題だけでなく,それに関連する日中の問題の影響が示されている.しかし,これまで,母親の抑うつと母親の睡眠問題,幼児の夜間の睡眠問題または睡眠関連の日中の問題は別個に検討されてきた.そこで本研究では,幼児の夜間の睡眠問題と睡眠関連の日中の問題を同時に測定できる質問紙を用いて,母親の抑うつと母子の睡眠との関連について検討することを目的とした.
方法:保育園・幼稚園に通う幼児とその養育者205組を対象として,質問紙調査を実施した.得られた回答159件(回収率77.6%)から,主たる回答者が母親である132組の母子データ(有効回答83.0%)を分析対象とした.質問紙は,幼児の睡眠問題の評価に,日本版幼児睡眠質問票(Japanese Sleep Questionnaire for Preschoolers : JSQ-P) 10因子のうち,本研究の目的に合致したパラソムニア,不眠・リズム障害,朝の症状,日中の過度の眠気,日中の行動,睡眠不足の 6 因子25項目,母親の睡眠問題の評価にAthens Insomnia Scale (AIS) ,母親の抑うつ症状の評価にOverall Depression Severity and Impairment Scale (ODSIS) を用いた.分析は,各質問紙によって得られた得点に基づき,相関分析および重回帰分析を行った.
結果:相関分析の結果,ODSISはJSQ-P下位 6 因子のうち,幼児の夜間の睡眠問題である「不眠・リズム障害」と睡眠関連の日中の問題である「日中の行動」,AIS下位 2 因子と有意な相関を示した.しかし,ODSISを従属変数,ODSISと相関が示された「不眠・リズム障害」と「日中の行動」,AIS下位 2 因子を独立変数とした重回帰分析では,幼児の睡眠関連の日中の問題である「日中の行動」と母親の夜間の睡眠問題のみが母親の抑うつと有意な関連を示した(日中の行動: β=0.20, p=0.03, 母親の夜間の睡眠問題: β=0.32, p=0.001).
結論:幼児の睡眠関連の日中の問題(日中の行動)と母親の夜間の睡眠問題が,母親の抑うつ症状と関連するものと考えられる.今後,母親のメンタルヘルスの問題を考える際には,母親の睡眠の問題だけでなく,幼児の日中の問題も含めた睡眠の問題を評価することの必要性が示唆された.
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