人口学研究
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最新号
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表紙・目次
会長講演
論文
  • 奥田 純子
    原稿種別: 論文
    2023 年 59 巻 p. 8-23
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/02
    [早期公開] 公開日: 2022/12/06
    ジャーナル フリー

    日本では,若者の東京一極集中が長年続いている。地方への人の流れをつくることは,国の重要な課題でもある。出身地への帰還移動に関する研究は多いが,大卒後の初職時の移動に着目した研究は少ない。本研究は,県外進学した大卒者の初職時における出身都道府県への帰還移動(初職時Uターン)の要因を明らかにすることを目的としている。そのために,国立社会保障・人口問題研究所の『第8回人口移動調査』(2016年)の個票データを用いて,(1)出身地および進学先の経済的要因は,大学卒業後の初職時Uターン確率に影響を与えるのか,あるいは別の要因による影響があるのか,(2)その影響は男女で違いがあるのかについて,プロビット・モデルで分析した。本研究では経済的要因として,所得水準を表す「一人当たり県民所得」と,求人の豊富さを表す「有効求人倍率」を用いた。なお,地方創生の観点で非東京圏出身者を分析対象としている。分析の結果,以下のことが明らかになった。第一に,出身地が所得や求人の面で経済的に豊かであることは,県外進学した大卒男性の初職時Uターンを促すが,進学先の経済的豊かさはUターンを抑制する。その一方で,女性の場合,出身地および進学先の経済的要因と初職時Uターンとの間に有意な関連はない。第二に,初職時Uターンする男性は,出身地からの距離に関係なく県外進学し,卒業後は出身地の経済的豊かさに引き寄せられて帰還する傾向にある一方で,初職時Uターンする女性は,もともと出身地から比較的近い地域へ県外進学し,出身地の経済的豊かさとはあまり関係なく出身地へ帰還する傾向にある。このことから,女性の初職時Uターンを促すには,出身地の経済的要因以外の,地域アメニティや家族関係,個人の価値観といった別の要因が重要である可能性がある。

  • 衣笠 智子, 豊澤 圭, 藤岡 秀英, 山岡 淳, 田村 穂
    原稿種別: 論文
    2023 年 59 巻 p. 24-40
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/02
    [早期公開] 公開日: 2023/02/16
    ジャーナル フリー

    日本で,中山間地域の高齢化は地方の都市部よりもはるかに深刻であるが,地域社会の持続可能性にとって,「健康維持」は重要な課題の一つである。

    本研究では,地域行事への積極的な参加が,中山間地域の住民の「主観的健康感」に影響するか否かということについて,住民アンケートデータを用いて検証した。調査研究の対象として,高齢者が過半数を占める兵庫県姫路市夢前町山之内地区を取り上げた。同地区では,複数の大学が参画し「長寿と健康のまちづくり」をテーマに掲げ,新しい健康診断「加点式健診事業」など実践的研究事業を展開している。本研究では,「積極的に地域行事に参加することは,健康につながるのではないか」,また,「大学生のような地域外の人との関わりを前向きに持とうとすることは,健康につながるのではないか」,という仮説を検証した。2019年と2021年に山之内地区の全戸を対象とした郵送によるアンケート調査を実施し,住民の行事参加や大学生のイベントの認知の主観的健康への影響を,計量的に分析した。変数の内生性を考慮し,拡張順序プロビット・モデルにより推定した。

    計量分析結果から,我々の仮説が支持され,地域の行事により多く参加している住民や,山之内地区における大学生が参加するイベントをより多く認知している住民は,主観的健康感が高い傾向にあり,その相関は統計的に有意であった。このことから,地域の行事を積極的に行うことは,住民の健康向上に有益であると思われる。また,大学生のまちづくりへの参加は,地域住民の健康に効果的である可能性がある。特に,人口減少している中山間地域では,行事の存続も容易ではないが,健康への影響を意識し,多様な行事が開催できるようにすることが重要であると思われる。

  • 廣嶋 清志
    原稿種別: 論文
    2023 年 59 巻 p. 41-60
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/02
    [早期公開] 公開日: 2023/07/28
    ジャーナル フリー

    山陰の一農村,今浦の宗門改帳を用い結婚率と出生率の年次別観察によって,天明・天保飢饉およびそれ以前の2つの推定された飢饉について(1)飢饉時に低結婚率・低出生率,(2)飢饉直後に高結婚率・高出生率が生じたこと,(3)さらにそれぞれの約30年後に,適齢期(26-30歳)の女の人口割合の減少および増加が現れることを確認した((3)は天保飢饉を除く)。

    また,この適齢期人口割合の減少・増加は結婚数と出生数の減少・増加(粗結婚率と粗出生率の低下・上昇)を2次的に引き起こしたことを示した。この因果関係は相関分析と整合的であることから,その存在が推定される。ただし,この2次的な粗結婚率・粗出生率の変動の発現は1815-19年を除いてそのときの新たな飢饉の発生や余波により加速・相殺などの変形を受けた。

    適齢期人口の増減は直接に結婚件数を単純に増減させるだけではなく,誘導的な年齢別結婚率の上昇・低下を引き起こすことにより結婚数を増減することが明らかになった。このような適齢期人口規模の増減による誘導的な年齢別結婚率の増減現象は従来ほとんど検証されたことがないが,現代人口のような晩婚化,未婚化などの強い長期的趨勢の存在しなかった江戸期農村人口においては観察が可能になったと考えられる。

    1810年代後半に起こった結婚率と出生率の低下は,天明飢饉時の出生率低下の影響が30年後に顕在化したものであるが,この村の人口増加率は年0.33%の増加基調であるためこの2次的な人口減少が顕在化したものと考えられる。この一時的な人口減少の最大の要因は出生減であるが,社会減の増大も影響しており,他村において同じような状況が起こることによって他村からの婚入の減少を中心とする社会の不活発な状況も影響したといえる。この人口減少を起因とする経済社会の異変が生じていたことは同時代の人に感じられていたかもしれないが,人口減少はおそらく原因不明であっただろう。

特集論文
  • 清水 昌人
    原稿種別: 論文
    2023 年 59 巻 p. 61-62
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/02
    [早期公開] 公開日: 2023/09/15
    ジャーナル フリー
  • 丸山 洋平
    原稿種別: 論文
    2023 年 59 巻 p. 63-75
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/02
    [早期公開] 公開日: 2023/09/15
    ジャーナル フリー

    新たな分析指標が生み出される背景には,それを必要とする研究命題があり,その研究命題は新たな着眼点や問題意識を内包している。これらは切り離して考えられるものではなく,普遍的,一般的な状況を想定するというよりも,特定の課題解決や仮説検証,探索的検討のために新しい分析指標は生み出される。2000年代以降の日本の地域人口研究をめぐる展開としては,まず人口減少と少子高齢化が本格化しており,各地域の人口の特徴を把握する要請がある。それにe-Statを始めとしてマクロ統計データの入手が容易になったことが加わり,より強く認識されるようになった東京一極集中と地方圏からの若年人口の流出,大都市圏郊外地域の変容,出生率低下の背景にある家族形成行動の変化といった,時代に沿った新しい人口・家族問題を考えるための分析指標が創出されている。本稿では日本の地域人口研究における分析指標,および指標化には至っていなくても新しい分析視角を提供するものについて,2000年代以降の研究を中心に,その前身となる研究も含めて創出されたものをレビューした。レビューは1)人口移動の実体を捉える分析指標,2)人口移動の影響を考慮した地域間比較の視点,3)詳細な世代間関係を考慮した分析指標,の大きく3つに分類している。

    研究という行為には,それを行う研究者の持つ専門性や分析視角が反映されており,研究者毎の課題認識や着眼点に基づく研究命題がある。そうした命題に接近するために新しい分析指標を創出する行為には,数々の試行や研究的な営みがあり,その指標による分析から得られる知見のみならず,指標の創出過程にも大きな学術的意義がある。

  • 鎌田 健司
    原稿種別: 論文
    2023 年 59 巻 p. 76-88
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/02
    [早期公開] 公開日: 2023/09/15
    ジャーナル フリー

    本稿は,近年人口学分野においても実証研究の蓄積が進んでいる空間統計学を用いた地域人口分析について研究動向を整理することを目的としている。はじめに空間統計学の概要と空間的特性として空間的自己相関と空間的異質性の説明を行い,次に人口学分野における研究動向として(1)出生力転換における拡散仮説の検証における方法論的刷新として空間計量経済学モデルを用いた新たなアプローチ,(2)回帰モデルにおける,地域によって従属変数と独立変数の関係が異なることを許容するローカル・モデルについて解説した。

    出生力転換における拡散仮説は「ヨーロッパ出生力プロジェクト(1963-1986)」の一連の研究により提示され,出生抑制に関する考え方や行動が民族等の文化的共通性をもった集団の間を中心に,社会経済的要因の変化とは独立に拡散したとする有力な仮説である。空間統計学を用いた検証では,これまで否定的であった社会経済的要因の影響についても検出されるという点に新規性がみられた。しかし,依然として拡散効果の方が大きいという点は従来の仮説と同様である。

    ローカル・モデルの代表的な分析手法である地理空間加重回帰モデルはノンパラメトリックな空間回帰モデルの一つであり,通常の回帰モデルに緯度経度情報を用いて回帰モデルの偏回帰係数の推定に空間的加重をかけることで,偏回帰係数の空間的なばらつきを表現する。地域の出生力分析や小地域人口推計,Covid-19における地域の死亡率分析などでの分析事例があり,制約を緩和したモデルやパネル構造への拡張など開発が進んでいる。

    日本においても空間データの充実は近年目を見張るものがあり,QGISやR,空間統計学用ソフトGeoDaなどフリーで利用できる環境も整ってきており,空間統計学的手法を地域人口分析に適用する範囲は拡大の途上にある。

  • 中川 雅貴
    原稿種別: 論文
    2023 年 59 巻 p. 89-104
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/02
    [早期公開] 公開日: 2023/09/15
    ジャーナル フリー

    本稿は,近年の社会科学の諸分野で応用が進むマルチレベル分析について,人口移動研究に適用するうえでの意義と展望を示す。まず,人口移動研究における従来の方法論的課題として,移動の発生や目的地選択に関するミクロ分析によるアプローチと,地域を単位として移動の水準や地域間の移動流を分析するマクロのアプローチという二つのアプローチの分断状況について概観する。具体的には,それぞれのアプローチにおける分析の視角と方法,分析に用いるデータの特性を整理し,マルチレベル・モデルを適用したアプローチが有効と考えられる概念的・方法論的背景について検討する。そのうえで,マルチレベル・モデルの特徴を確認し,内外における研究動向を踏まえた成果について述べる。マルチレベル分析の導入により,階層構造をもつデータにおける標本独立性仮定の問題や地域単位の集計データによる生態学的誤謬といった技術的な課題を克服するだけではなく,異なる水準で測定される多層的な要因の効果の峻別や,それらの相互作用を考慮した分析フレームワークの構築が可能になる点を指摘する。その成果として,従来の分析手法では精緻に検証することが困難であった古典的命題や「古くて新しい」分析課題についても,重要な知見が蓄積されつつあることを示す。

  • 丹羽 孝仁
    原稿種別: 論文
    2023 年 59 巻 p. 105-113
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/02
    [早期公開] 公開日: 2023/09/15
    ジャーナル フリー

    本稿は,発展途上国の農村地域における地域人口分析について近年の動向を整理した。先進諸国と異なり発展途上国では今日でも,地域人口に関する不十分な統計資料が人口学的研究のボトルネックである。この問題を解決するために,従前より小地域を対象とした回顧法による調査が行われてきた。調査手法そのものに大きな変化はないものの,その精緻化を試みる取組や調査・分析をサポートするデータベースツールの進歩がみられる。また,特定の地域で大規模に人口動態を把握するためのHDSS(Health and Demographic Surveillance System)プロジェクトも広がってきている。さらに,発展途上国の農村地域では人口移動の動きが激しく,流動的な人の結びつきがトランスナショナルやトランスローカルの概念を用いて超領域的に議論され始めている。この考えは都市側からも農村側からも提示されており,農村地域の地域人口の捉え方においても地域の枠組みを広げる必要があろう。

  • 高橋 眞一, 山内 昌和, 丸山 洋平, 鎌田 健司, 中川 雅貴, 丹羽 孝仁
    原稿種別: 論文
    2023 年 59 巻 p. 114-122
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/02
    [早期公開] 公開日: 2023/09/15
    ジャーナル フリー
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