日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第53回大会
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E 放射線治療・修飾
  • 櫻井 智徳, 佐々木 竜馬, 三浦 宰, 宮越 順二
    セッションID: PE-14
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/01
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    【背景】筋組織のX線に対する感受性は低いが、筋芽細胞にXが照射されると、筋管の形成過程において重要な、筋細胞の融合が遅延または阻害されることが報告されている。我々の研究室では、筋芽細胞の分化誘導過程においてinsulin-like growth factor-1 (IGF-1)を存在させることにより、X線照射によって誘発される筋管形成の遅延または阻害を軽減できることを報告している。本研究では、IGF-1の課題、限界を改善するために、fibroblast growth factor-2 (FGF-2)、hepatocyte growth factor (HGF)を検討した。 【方法】細胞培養・分化誘導:住友ベークライト製24ウェル・セルデスクに、マウス由来筋芽細胞株C2C12を4×104細胞/cm2で播種し、10%FBS含有DMEM培地中で終夜培養後、培地を2%FBS含有DMEM培地に変更し、そのまま6日間培養を継続、筋管組織に分化誘導した。分化誘導の際に、FGF-2 (1, 10, 100 ng/ml)またはHGF (1, 10, 100 ng/ml)を培地に添加した。 X線照射:日立MBR-1520R装置で、150 kV、20 mA、Al 1 mm・Cu 0.1 mmフィルター(1 Gy/分)の条件により、2または4 GyのX線を、分化誘導培地変更直前に照射した。 評価:筋細胞、筋管組織を、抗ミオシン抗体で蛍光免疫染色することによって筋組織に分化した細胞を同定した。 【結果】FGF-2は、低濃度(1 ng/ml)においてのみX線による筋管形成阻害を緩和した。HGFも効果に濃度依存性があるが、FGF-2よりも高濃度まで緩和効果を有していた。4 Gy照射では、両増殖因子とも、X線による筋管形成阻害の緩和効果が見られなかった。今後、X線による筋管形成阻害の機構を解析し、効果の高い方法を検証していく予定である。
  • 上林 紗矢香, 上野 智弘, 山下 剛範, 具 然和
    セッションID: PE-15
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/01
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    [研究目的] 水溶性ビタミンE配糖体であるTMG(2-(α-D-Glucopyranosyl)Methyl-2,5,7,8-Teramethylchorman-6-OL)は放射線防護効果があることが報告されているが、明確に動物を用いた血球細胞についてのデータを発表している文献は少ない。そこで、本研究ではマウスにおいて、放射線照射後の血球細胞への影響に対するTMGの放射線防護効果について検討することを目的とした。 [方法] ICR雄マウスを、Control群、Sham Control群、X線単独照射群、TMG+X線照射群、X線照射+TMG群に分類して以下の実験を行った。TMGは600mg/kgを腹腔内投与した。また、X線照射は、マウスの全身に2Gy照射した。照射前日から30日後にかけて採血を行い、得られた血液を用いて血球数(赤血球、白血球、リンパ球、単球、顆粒球、血小板)の測定を行った。 [結果] TMGの投与により白血球数(リンパ球数、単球数)のX線照射後の回復が、単独照射群よりも早かった。さらに、TMG投与群は、Control群に比べて変化が緩やかであった。 [考察]  TMGは放射線による致死効果を防ぐ効果があり、フリーラジカル除去作用による作用、つまり、抗酸化作用による放射線防護効果と考えられる。また、TMGにおけるグルコースの存在がより高い放射線防護効果を示しており、放射線による造血組織の損傷を防護する作用があると考えられる。TMGは血液細胞の急激な変化を防ぎ、免疫低下を妨げる作用があると考えられる。 [結論] 本研究により、TMGのマウスに対する放射線防護効果を認めた。TMGは放射線照射に対しての効果と体内における作用が水溶性ビタミンE であるため、代謝も早くより安全に使える放射線防護剤として期待される。
  • 中山 文明, 梅田 禎子, 本村 香織, 本田 絵美, 植木 美穂, 安田 武嗣, 浅田 眞弘, 鈴木 理, 今村 亨, 明石 真言
    セッションID: PE-16
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/01
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    我々はFGF1/FGF2キメラタンパク質を創生し(Imamura et al., Biochim Biophys Acta, 1995)、その至適化分子FGFCが強力な放射線防護効果を発揮し、放射線障害の治療にも有用であることを示してきた。このFGFCは、一部FGF2ペプチド配列を含むものの、そのFGFレセプター特異性がFGF1と同一であってFGF2のそれとは異なることから、FGFCは機能的にはFGF1であると推定された。そしてFGFCの機能的な優位性はその構造的な安定性に由来すると考え、今回FGF2配列を含まないFGF1ミュータントを作成し比較検討した。方法は、FGF1の3アミノ酸を置換することで構造が安定化したFGF1ミュータント(Q40P/S47I/H93G)蛋白質を報告に基づき作成した(Zakrzewska et al., J Mol Biol, 2005)。FGF1、FGFC、Q40P/S47I/H93GをそれぞれBALB/cマウス腹腔内にガンマ線照射24時間前に投与し、8, 10, 12Gy照射後3.5日でクリプトの生存数を数えた。その結果、FGFCとQ40P/S47I/H93GはFGF1に比べて多くクリプト数を増加させた。一方、照射後24時間で投与した場合、FGF1は無効だったが、FGFCとQ40P/S47I/H93Gは10、11、12Gy照射でクリプト数を増加させた。過去の報告によると、50%の熱変性がFGFCでは43度で起こるのに対して、Q40P/S47I/H93Gは61度であり、FGFCよりもはるかに安定な蛋白質である。しかしながら、両者の有効性に有意な差を認めなかった。クリプトにおけるBrdUの取り込み、クリプトの深さ、上皮細胞の分化、アポトーシスの抑制も検討したが、両者の効果はほぼ同程度だった。以上の結果から、FGF1はその構造を安定化させることで、FGFCと同様の高い放射線防護効果を発揮できた。よって、FGFCの高い効果にもその安定性の貢献が大きいと考えられた。
  • 劉 勇, 鈴木 実, 菓子野 元郎, 増永 慎一郎, CHEN Yi-Wei, 木梨 友子, 田中 浩基, 櫻井 良憲, 丸橋 晃, 近藤 ...
    セッションID: PE-17
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/01
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    悪性腫瘍組織内のホウ素の分布はホウ素中性子捕捉療法(BNCT)の効果を左右する因子である。しかし、腫瘍血管は異常で、硼素化合物を癌細胞へデリバリするのは困難になる。一方で、血管新生抑制剤は腫瘍血管新生への影響が報告された。そこで、本研究では血管新生抑制剤による硼素化合物の腫瘍分布の影響を検討した。The human squamous cell carcinoma細胞(SAS)、human malignant glioblastoma cells(U87-MG)細胞を用いた。BPA (p-boronophenylalanine)を培地に加え、数段階の濃度とし、1時間培養した後、抗BPAモノクローナル抗体によって、免疫蛍光染色を行った。蛍光強度とBPAの濃度の関係を調べた。In vivoで、担癌マウスに、Avastin (10 mg/kg, i.p.)を投与し、また2日、7日後のサンプリング前の1時間にBPA ( 250 mg/kg, i.p.)を投与し、1時間後に腫瘍組織を取った。腫瘍組織内の硼素濃度を即発ガンマ線分析装置(PGA)で調べた。腫瘍内の血流及びBPAの分布を、Hoechst 33342(16 mg/kg, i.v.)まだBPA免疫蛍光染色よって検討した。培養細胞の蛍光強度を測定すると、BPA濃度に応じて蛍光強度は増加することも分かった。Avastin処理の2日後に腫瘍内の硼素濃度は増加することが分かった。蛍光染色によって、Hoechst及びBPAの腫瘍内の分布がよくなった、しかしAvastin処理なし対照マウスと比べて、腫瘍サイズの顕著な変化を見つけなかった。血管新生抑制剤はある期間でマウス悪性腫瘍組織内のホウ素化合物分布を増強することが確認された。血管新生抑制剤による腫瘍血管まだ腫瘍環境の変化はこの影響の一因と考える。
  • 曽 子峰, 袁 軍, 本間 信, 松本 洋平, 高辻 俊宏, 古澤 佳也
    セッションID: PE-18
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/01
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    【目的】
    放射線照射してから18時間後に現れるタマネギ発芽種子の根端細胞に見られる小核の発生頻度は、低線量では線量の増加に伴って増加するが、さらに高線量では減少に転じる。当初、高線量で小核が見られなくなるのは、細胞死によるものだと考えた。しかし、根の伸長の実験では、γ線で160Gyを照射しても、根の伸びは止まることがなかった。このタマネギの成長に目立った影響がないことから、小核の減少の主な原因は、細胞死ではなく、照射後の細胞分裂が遅延するのではないかと考えられる。このことを明らかにするため、放射線の種類や線量と小核発生の遅延の関係を調べた。
    【方法】
    長崎大学先導生命先導生命科学研究支援センターアイソトープ実験施設のセシウムを線源としたガンマ線及び放射線医学総合研究所の重荷電粒子を用いて、タマネギ発芽種子を照射し、小核の発生は時間につれて、どのように変化するのかを観察した。
    【結果及び結論】
    同じ放射線で照射した細胞は線量が高いほど、小核が出現するピークが遅くなる。
    同じ線量で照射した細胞はLETが高いほど、小核が出現するピークが遅くなる。
  • 王 冰, 田中 薫, 森田 明典, 尚 奕, VARES Guillaume, 森本 泰子, 藤田 和子, 根井 充
    セッションID: PE-19
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/01
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    オルトバナジン酸ナトリウム(Na3VO4、バナデート)は、バナジウムの無機化合物であり、転写依存性と転写非依存性両経路による放射線誘発p53を介したアポトーシスを効果的に抑制する。マウスに全身照射を行なう前に20 mg/kgのバナデートを腹腔内投与すると、有効な放射線防護剤として働き、造血死を完全に防ぎ、部分的に腸死を防護する。今回我々は、マウスに全身照射を行なった後にバナデート投与することによって、放射線緩和効果について調べた。その結果、20 mg/kgの量のバナデートを1回投与しただけでも30日生存率や、生き残ったマウスの骨髄形成不全、末梢血の血液像、そして骨髄中にある赤血球の微小核形成に、明らかな改善が見られた。40 mg/kgの量のバナデートを1回投与した場合、あるいは、20 mg/kgを 1回投与した後、1日当たり5 mg/kgの量のバナデートを4日間連続投与した場合、有効性は更に有意に向上した。マウスに全身照射した15分後、40 mg/kgの量のバナデートを1回投与した時のdose reduction factor (線量減少率)は、1.3であった。これらのことは、バナデートが、マウスにおいて、全身照射によって誘発された造血障害に対する有効な防護剤であるだけでなく、強力な緩和剤でもあることを示している。
  • 武島 嗣英, 脇田 大功, 大栗 敬幸, 白土 博樹, 北村 秀光, 西村 孝司
    セッションID: PE-20
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/01
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    これまでの放射線治療による腫瘍縮小のメカニズムはDNAへの傷害付与による癌細胞のアポトーシスに起因すると考えられてきたが、我々は最近、放射線治療により高頻度に癌特異的キラーT細胞が所属リンパ節と腫瘍内に誘導され、これが放射線治療の腫瘍縮小効果に大いに寄与することを発見した。さらに所属リンパ節における放射線治療由来癌特異的CTLをex vivoで増殖し、担癌マウスに移入することで癌を治癒することに成功したのでここに報告する。C57BL/6マウスに2x106個のEG7(OVA gene-taransfected EL-4)を脚部に皮内接種して腫瘍の大きさが8mm程度になったところで腫瘍塊にX線を2Gy照射した。照射5日後に所属リンパ節内と腫瘍内リンパ球の癌特異的キラーT細胞(CD8+OVA-tetramer+細胞)の割合が高頻度に出現していることを確認した。次に照射により所属リンパ節で出現したOVA-tetramer+ CTLをex vivoで増殖させてこれを担癌マウスに移入しての腫瘍の治療ができるかを試みた。照射5日後に所属リンパ節細胞を採取しCD8+OVA-tetramer+細胞をセルソーターにて分取しこれをIL-2、IL-12、IFN-γ存在下にて培養したところ、培養7日目には細胞数が約5倍に増加した。このCD8+OVA-tetramer+細胞をEG7担癌マウスに移入したところ、強い腫瘍増殖抑制がみられ完全治癒するマウスが現れた。現在、移入するCD8+OVA-tetramer+細胞を減らし、他の免疫治療(Th1細胞療法)との併用で腫瘍を治癒させることができるか確認しているところである。これらの結果は臨床における放射線治療と免疫治療の新規併用治療法の開発につながると考えている。
  • 船生 悠美, 勅使河原 愛, 関 良太, 大石 晶子, 江原 俊介, 飯島 健太, 田内 広
    セッションID: PE-21
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/01
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    放射線照射した細胞内にはDNA二重鎖切断(DSB)が効率よく生成され、細胞致死の主要な原因になると考えられている。このことはDSB修復に関わるタンパク質機能を操作することで、がん放射線治療の成績向上などに応用できる可能性を示唆する。DSB修復機構のうち、相同組換え修復(HR)は、S期後半からG2期に頻度が上昇すると考えられている。がん組織は細胞増殖が盛んであるため、細胞集団内に占めるS/G2期細胞の割合が周囲の正常組織よりも高いと考えられる。このことから、放射線照射時にHRを阻害すれば、がん放射線治療の線量低減が可能となり、それによる正常組織への影響低減もはかれるはずである。一方で、HRを完全に阻害すれば細胞は致死となることが多くのHR因子のノックアウト実験で示されており、HRを完全阻害するという発想では放射線増感剤の実現性は乏しい。そのため、我々は、HRを部分的に阻害するという視点に立って増感剤や増感方法の探索を行っている。実際、HRは亜致死損傷回復の主要な経路であることが示されているので[Utsumi et al. 2001]、通常の放射線治療で採用されている分割照射においてHRの部分的阻害を行うことは腫瘍組織の回復を抑制することにつながり、照射回数を重ねるごとにその効果が大きくなるということが予想できる。本研究では、変異型NBS1を過剰発現させることでHRを部分的に阻害できること、およびこの阻害効果によって増感比はあまり高くないものの放射線増感効果が現れることを報告する。この効果はHRが回復に大きく影響する分割照射において放射線増感効果が大幅に強められることが確認され、がん放射線治療において相同組換えの部分的阻害が有効な放射線増感手法となり得ることが示唆された。
  • 鍵谷 勤, NAIR CKK
    セッションID: PE-22
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/01
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    「背景」:トコフェロールモノグリコシド(TMG)は水溶性で優れた生体防御能を有するが、その合成法は極めて高価である。
    [目的]:本報告では、安価な水溶性ビタミンE誘導体の合成法を開発し、その放射線防護活性について述べる。
    「試料」:テトラメチルクロマノールカルボン酸(TMCC、市販名:トロロックス)、無機アルカリ、アルコールなどが用いられた。
    実験1(合成1):TMCC(2.5g)に1規定の水酸化ナトリウム水溶液(40ミリグラム)を加えてTMCC塩(2.6グラム)をつくった。
    実験2(合成2):TMCCに等量のグリセリンなどのアルコールを加えて650℃・40分間加熱してTMCCのグリセリンエステルを作成した。
    実験結果1(水溶性)
              水に対する溶解度(_%_)  比
    TMCC         0.02     1.00
    TMCC-Na        0.13     6.5
      TMCC-GE      0.63    31.5
    実験2(放射線防護活性):放射線(25Gy)照射によるプラスミドDNAの損傷(主鎖切断による解環度をComet 試験法によって測定)に及ぼす1ミリモルのTMCC-NaやTMCCグリセロールエステル(TMCC-GE)の防護活性を調べた。
     放射線(Gy)  TMCC誘導体 DNA損傷率(_%_) DNA損傷防御率(_%_)
    25         なし         54          46
         25        TMCC-Na    18          67
              25        TMCC-GE              5           91
    結論: プラスミドDNAの放射線損傷はTMCC-NaやTMCC-GEによって防護され、TMCC-Gの防護活性は最も高かった。
  • 古谷 真衣子, 小野 哲也, 小村 潤一郎, 上原 芳彦, 地元 佑輔, 仲田 栄子, 高井 良尋, 大澤 郁朗
    セッションID: PE-23
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/01
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    放射線はさまざまなラジカルを生成させるが、その中でも細胞障害の主な原因となるのは水の分解に伴うOHラジカルであることが知られ、しかもそれはSH剤によって捕獲されることが分かっている。他方、最近細胞内で生じるさまざまな活性酸素のうちOHラジカルだけが水素分子によって特異的に除去されることが示されている(Nature Med 13 (6) 688-694 (2007))。そこで我々はこの水素分子が放射線障害を軽減化する活性がないかどうかについて検討してみた。 [材料と方法]  8週齢のC57BL/6J、雌マウスを用いて2%の水素ガスを1時間吸わせた後同じ水素ガス存在下で8Gy及び12GyのX線全身照射を行い生存日数を調べた。X線は0.72Gy/minの線量率。また水素ガスに1時間曝露後普通の空気吸引にもどし、1時間あるいは6時間経た後で放射線を照射し、生存率を調べた。 [結果と考察] 水素ガス投与によって8Gy照射後の平均生存日数は10日から17日へと有意に増加し(p=0.0010)、12Gy照射でも増加傾向がみられた。これらは骨髄幹細胞や腸のクリプト幹細胞に対し水素ガスが防護効果を持つことを示している。さらに水素ガス吸引の効果は吸引を止めた後1時間及び6時間後では明白に減弱していることも分かった。  これらの結果は水素ガスが新しい放射線防護剤として有用であることを示唆すると同時に、水素分子がOHラジカルと反応し得ることも示唆するものである。  現在、水素ガスの効果が細胞レベル、DNAレベルでも観察されるものかどうかについて検討している。
F 被ばく影響・疫学
  • CULLINGS Harry
    セッションID: PF-1
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/01
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    日本公衆衛生協会が1976年に採取し、広島大学が測定した土壌コアに関する最初の地理空間的解析について前回は報告した。これら試料は、広島の爆心地を中心として放射方向に30キロまでの領域で、幾つかの方向に沿って2キロ間隔で採取されており、1945年に採取された試料や調査測定値よりも広い範囲を網羅している。データは空間的に相関関係にあるが、適切と思われる想定のもと地理空間的ホットスポッティング・アルゴリズムを用いたところ(すなわち、測定値の対数に正規分布するデータのアルゴリズムを使用すること)、広島の原爆からの局所的放射性降下物の堆積に関連するかもしれない統計的に有意なホットスポットは見られなかった。問題は、1945年から残っている降下物は、その後行われた大気圏核実験によりもたらされた多くの空間的にも異なる地球規模の降下物によって分かりにくくなってしまっているということである。今回、1976年の幾つかの採取地点を含む領域において採取間隔を狭めて1978年に採取した試料を含め(これによって、より近距離における空間的相関関係に関する情報を追加できる)、解析を拡大する。さらに、広島原爆からの降下物の仮説に基づくガウス分布によるプルームに加えて地球規模の降下物の可変性蓄積を考慮する幾つかの確率論的モデルを使用し、測定された種類の試料の地理空間ホットスポッティングにより検出できる広島原爆からの降下物の堆積レベルをシミュレーションによって測定する。
  • 七條 和子, 高辻 俊宏, 福本 学, 松山 睦美, 関根 一郎, 中島 正洋
    セッションID: PF-2
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/01
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    目的:長崎原爆被爆者の体内残留放射能を検出し、放射線が人体に及ぼす内部被曝の影響を病理学的に検討する。その一環として、我々は長崎原爆急性被爆者剖検例標本及びトロトラスト患者の肝臓標本を用いて内部被曝の検出法を確立した。即ち、オートラジオグラフィー法により、長崎原爆急性被爆症例では、肺、腎、骨等について非被爆者に比べて多数のアルファ粒子飛跡が認められ放射能は高値を示すこと、また、アルファ粒子飛跡の長さの計算から239Pu特有のエネルギーとほぼ一致する飛跡パターンが確認されることが明らかになった。一方、我々は放射線発がんについてゲノム不安定性に関わる分子病理学的側面からの検討で、原爆被爆症例ではがん抑制遺伝子p53関連蛋白でDNA二重鎖切断部位に集積して核内フォーカスを形成する53BP1が高発現していることを報告した。今回、トロトラスト患者及び長崎原爆急性被爆者組織標本について53BP1の発現を検討した。試料と方法:1)内部被爆例としてトロトラスト症患者1症例、2)長崎原爆被爆者として急性被爆7症例、3)非被爆者として2症例を用いて、肝臓および脾臓標本について53BP1の蛍光免疫法を行った。結果:トロトラスト症標本では特にトロトラスト顆粒周辺の細胞に53BP1のフォーカス形成が認められ、単位面積当たりの陽性細胞数は高値を示した。トロトラスト沈着内部被曝によって肝細胞、胆管上皮細胞、脾臓の細胞ではDNA二重鎖切断が生じ、修復機構が作動することが明らかになった。原爆被爆者脾臓標本では、被爆距離0.5km、被爆後生存日数が短く、屋外被爆であった症例で53BP1発現は高値を示した。さらに、53BP1発現の発現パターンの解析、フォーカス形成部位についての検討を行う予定である。
  • 柴田 知容, 蜂谷 みさを, 浅田 眞弘, 今村 亨, 明石 真言
    セッションID: PF-3
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/01
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    Fibroblast growth factor 1 (FGF1)、FGF2は、放射線被ばくによる障害に対して防護効果がある。FGFCはFGF1/FGF2のキメラ蛋白質であり、FGF1よりも構造的に安定であり、放射線による腸管障害においてFGF1よりも高い放射線防護効果を有することを我々は示してきており、高線量被ばく後の生存や他の臓器への影響について詳細な検討を進めている。今回、照射マウスの生存率に与えるFGF1及びFGFCの影響について、被ばく線量と投与量について比較した。まず骨髄死をもたらす線量に近い7 Gyで解析を行った。雄のBalb/cマウスに、線量率0.53 Gy/minのγ線全身照射を行なった。LD100/30相当線量である7 Gy照射後30日の生存率は、照射24時間前投与では、両群共に投与量12 μg/mouseで対照群に比べ有意な増加を示したが、両群間には差は認められなかった。一方、照射1時間後投与ではFGF1は14 μg/mouseの投与量で有意な増加を示した。これに対しFGFCは14 μg/mouse投与量でも効果が認められなかった。次に、本来は腸管死をもたらす線量である11 Gyで、骨髄移植(BMT)とFGFとの併用効果について調べた。LD100/10相当線量である11 Gyでの全身照射では、24時間後にBMTを行っても照射後30日の生存率には増加が認められなかったことから、主な死亡理由は腸管障害にあると考えられたが、FGFCを14 μg/mouse照射前投与しておくと、BMT単独群と比べて有意に高い効果を示した。これに対しFGF1では効果がみられなかった。今後、BMTを併用しない場合の生存率などを比較解析することにより、BMTとの併用によるFGFCやFGF1の放射線防護効果を評価し、その機序や、2つのFGFの効果の違いについて、解析を進めていく。
  • 児玉 喜明, 中野 美満子, 大瀧 一夫, 濱崎 幹也, 島田 義也, 西村 まゆみ, 吉田 光明, 中田 章史, 中村 典
    セッションID: PF-4
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/01
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    目的:我々はこれまでに、原爆胎内被爆者のリンパ球における染色体異常頻度にはほとんど線量反応関係が見られないこと(40歳で検査)、またその後のマウスを用いた照射実験によっても同様の結果が得られたことを報告してきた(生後20週で検査)。今回我々は、これらの結果が血液系細胞に特有のものなのかどうかを調べるために、胎仔期に照射したラットの乳腺細胞について染色体検査を行った。 方法:妊娠17.5日目のSDラットに2 Gyの137Csガンマ線を照射した。照射後、6、9、45週目に乳腺上皮細胞を培養し、染色体標本を作製した。転座の検出には2番染色体(黄)と4番染色体(赤)を着色するFISH法を用い、各例について800細胞を分析した。一部のラットについては脾臓Tリンパ球の染色体検査も行った。 結果:2Gy照射した胎仔の乳腺細胞における転座頻度は平均3.5%であった。これは、母ラットの乳腺細胞で観察された転座頻度の平均2.9%とほぼ同じレベルであった。これに対し、脾臓Tリンパ球における転座頻度は、胎仔期照射ラットでは0.2~0.5%であり、母ラットの平均3.4%と比べ明らかに低かった。 結論:胎仔照射したラットの染色体を調べたところ、乳腺上皮細胞では、母ラットと同様に放射線被曝のダメージとして染色体異常が残っていたが、リンパ球ではほとんど認められなかった。この結果は、胎仔被曝における染色体異常の欠如に組織特異性があることを示している。
  • 平井 裕子, 児玉 喜明, CULLINGS Harry, 宮澤 忠蔵, 中村 典
    セッションID: PF-5
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/01
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    原子爆弾から直接放出されたガンマ線と中性子線の量については、2002年線量体系(DS02)として、物理学専門家による作業により一致した見解が得られた。しかし、中性子線による土壌などの放射化に起因する放射線被曝や放射性降下物に含まれた核分裂生成物などによる被曝に関しては、実測データが不十分なため議論が続いている。我々は、原爆被爆者より提供された大臼歯のエナメル質を用いて、電子スピン共鳴法(ESR)により、放射線被曝線量を推定している。今回、爆心地より約3kmあるいはそれ以遠で被曝し、DS02推定被爆線量が5mGy未満の広島の被爆者からの歯を用いて、ESRによる被曝線量の評価を行なった。対象試料は被爆時年齢10歳以上の49人の被爆者より提供された56本の大臼歯で、歯科診療用X線による被曝の影響を知るため、頬側と舌側に切断し、別々にエナメル質を分離して、ESRの測定を行なった。ESR信号強度はコバルトガンマ線を照射した校正試料の検量線を用いてガンマ線量に換算した。56本の大臼歯の推定線量は-200mGyから500mGyのガンマ線量を示した。平均線量は頬側が70±157mGy、舌側が34±127mGyであった。49名中4名は、黒い雨の地域で被曝したが、特に高い線量は示さなかった。頬側、舌側ともに300mGyから400mGyと高い値を示した大臼歯の提供者が3人あった。これらについては何らかの放射線被曝の可能性が考えられるが、その原因は特定することはできていない。しかし、49人の遠距離被爆者のESRにより推定した被曝線量からは、残留放射線から大量の放射線(例えば1Gy以上)を被曝したという証拠は示されなかった。
  • 辻 隆弘, 三浦 昭子, 中本 芳子, 小平 美江子, 中村 典, 浅川 順一
    セッションID: PF-6
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/01
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    マイクロアレイを用いた比較ゲノムハイブリダイゼーション(CGH)法では、遺伝子コピー数の変化(CNV, 遺伝子欠失と遺伝子増幅)を調べられる。マウスでも210万個ものプローブが貼り付けられた超高密度のアレイが入手可能となり、ゲノム全域にわたり約1 kb間隔でCNVが調べられる。オリゴプローブを用いるアレイCGH法では観察するプローブの蛍光強度の変化が少なくとも5個以上に及ばないと真の突然変異である確率が低いと考えられてきた。私たちは今回2-3個のプローブで正確にCNVを検出できるように実験法と解析法を改良した。この方法では一方を緑色、他方を赤色の蛍光色素標識した2種類のDNAサンプルを混合し、1本鎖にした後、同じアレイスライドに貼り付けられたオリゴプローブと競合的にハイブリッドを形成させ、同じプローブに結合した緑と赤の蛍光色素量を測定する。この蛍光強度比のlog2値変化を観察することでCNVを検出できる(コピー数増加はlog2比がlog22/2 = 0からlog23/2 = 0.58に、コピー数減少はlog21/2 = 1になる)。モデル実験を行い、改良法の精度について検討を行った。最初にC57BL/6では2コピーだがC3Hでは0コピー(欠失)である、その領域に位置するプローブ数が2-4個の小さな欠失(2-4 kb)をPCRで確認した。C57BL/6ホモ接合DNAとC57BL/C3Hヘテロ接合DNAのCGH実験を行った結果、PCRで確認した17領域中16領域が改良CGH解析でヘテロ遺伝子欠失と判定できた。一方、CGH実験で候補と考えられた小さなヘテロ接合遺伝子欠失の候補(連続する2個以上のプローブのlog2比が0.4以上変化している領域)の80%以上が真の突然変異であることがPCRで確認できた。HDアレイCGH改良法では、数kbからMbに及ぶCNVを高精度に検出でき、自然および放射線関連生殖細胞突然変異の頻度と大きさについて、新たな情報が得られると期待できる。
  • 坂田 律, 清水 由紀子, 許 婉玲, 林 美希子, 早田 みどり, 陶山 昭彦, 小笹 晃太郎
    セッションID: PF-7
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/01
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    【目的】放射線治療による早期閉経、無月経については種々の報告がなされている。原爆被爆者においても、被爆者での閉経年齢低下を示唆する報告があるが、この閉経年齢の低下が全身的な傷害、精神的な打撃によるものか、放射線被曝の影響によるものかは明らかでないと結んでいる。そこで、被曝後数十年を経ても、被曝線量増加に伴う閉経年齢の低下が見られるかを放射線影響研究所寿命調査対象者について検討した。【方法】現在までに寿命調査集団女性を対象とした郵便調査は1969年、1978年、1991年の3回行われている。解析には、それらの郵便調査で回答された自己申告の閉経年齢を用いた。被爆による傷害に伴う体力低下による閉経を除くため、被爆後5年以内に閉経を迎えた女性は解析から除いた。DS02被曝線量が推定されており、いずれかの調査で閉経についての回答をした21,866人が解析対象となった。ポアソン回帰モデルを用い、閉経に影響を与えると思われる、出生コホート、喫煙歴、初経年齢、出産歴の有無を考慮した上で、卵巣被曝線量と閉経との関連を調べた。【結果】卵巣被曝線量が高い群で、平均閉経年齢は自然閉経、人工閉経の両方で有意に低下した。線量反応曲線は、線形、二次、線形二次、線形閾値モデルの比較において、自然閉経に対しては0.39Gy(95%信頼区間:0.15-0.6Gy)に閾値を持った線形閾値モデルが、人工閉経に対しては閾値のない二次モデルが最も当てはまりがよかった。自然閉経、人工閉経に対して推定されたモデルから求めた50歳までに閉経を迎える女性の累積割合は0Gy、1Gy、2Gyで、それぞれ 38%、52%、73%となった。
  • 笠置 文善, 杉山 裕美, 坂田 律, 陶山 昭彦, 小笹 晃太郎
    セッションID: PF-8
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/01
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    出生前の診断用X-線被曝に関する研究から、胎芽あるいは胎児期の放射線への被曝は感受性が高いのではないだろうかとの考えが提起されてきた。放射線影響研究所における胎内被曝者コホートは、原爆投下時に胎内で被曝した約3,600を対象しており、胎内発症期における放射線被曝がもたらす影響研究に示唆を与える無二の長期追跡集団である。成人性のがん発生率をみた最近の研究では、過剰相対リスク(ERR)は、被爆時6歳未満の若年被爆者と比較して低く、また、過剰絶対リスク(EAR)でみると、若年被爆者では年齢と共に高くなる傾向と比較して、胎内被曝者ではむしろ変化しないことが示唆された。本研究の目的は、がん死亡率データにおいても、発生率研究で観測されたと同じようなリスクパターンが認められるかどうかである。1950年から2003年にわたる死亡率データに基づく検討から、胎内被曝者における年齢に伴って低下するERRの推移は、若年被爆者の低下よりも急激であり、また、EARの年齢に伴う推移、つまり胎内被曝者の比較的一定の一方で若年被爆者ではそれが上昇する傾向は、がんの死亡率においても観測された。がんの発生調査またがんの死亡率の解析から、胎内被曝者における成人性がんの生涯リスクは、若年被爆者よりも小さいという意味において、出生前の放射線被曝は出生後被曝よりも感受性は低いかもしれないことが示唆された。
  • 吉本 泰彦
    セッションID: PF-9
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/01
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    【目的】原発など環境汚染源周辺地域の健康リスクの増加の懸念がしばしば見られる。地理的相関研究による環境汚染源周辺の健康リスクの暦年・地域変動の適切な理解を図る。【資料】主に2005年の行政地域単位(都道府県別、市町村別)の国勢調査に基づく人口データと地方財政状況調査(決算カード)に基づくたばこ税収入額。比較のため1995年の道府県たばこ税及び1997年の市町村たばこ税も用いた。【方法】喫煙率は1995と1997年で36.6%、2005年で29.8%と仮定。たばこ税収入額を喫煙者(20歳以上)当たり1日当たり箱(20本)単位の昼間人口調整済たばこ消費量に換算。【結果】2005年のたばこ税収入額で自治体の奨励金が原因と思われる人為的変動が一部地域に見られた。喫煙者の常習性から喫煙者当たりのたばこ消費量はあまり変動しないと期待したが、都道府県又は市町村別のそれらはかなり変動していた。1995年の道府県たばこ税のものと比べてたばこ消費量が0.1箱以上の増減が見られたのは東京都周辺と滋賀県周辺であった。前者で地域別喫煙率の違いが部分的に寄与しているだろう。後者で人為的変動が一つの原因であった。1997年の市町村税のものと比べて、2005年の東京都23区で喫煙者当たりのたばこ消費量は一般的に減少していた、また同年の17の原発所在市町村の内8市町村でたばこ消費量に0.1箱以上の増減が見られた。地理的相関研究は環境汚染源からの方向や距離に基づく規格化された小地域単位(例えばメッシュ単位)による健康リスク評価が理想的であるが、行政単位に基づく人口動態統計に依然として依存せざるを得ない。社会人口学的因子として地域別たばこ税収入額は有用であろう。
  • 辻 さつき, 米原 英典, 神田 玲子
    セッションID: PF-10
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/01
    会議録・要旨集 フリー
     国際放射線防護委員会の2007年勧告では「放射線の医学利用は、患者の健康上の便益への期待と結びついた自発的なものであり、患者または法的保護者は、予期される便益や潜在的リスク等の情報を含むインフォームドコンセントを得て、放射線医学的手法に同意する」とされている。また個々の患者への手法の正当化に関しては、その手法が必要な臨床的情報を提供する最適な方法であることの点検が含まれるべきと明記されている。そこで、我が国における放射線検査の正当化について、医療機関等による患者への説明事例を収集、分析し、患者に提供されている正当化に関する情報の質と量について整理した。 放射線検査の受診者や一般公衆に対して、医療機関や関係学協会が正当化についてどのように説明しているのかを、ホームページ、書籍、パンフレットなどにより収集し、1.放射線検査全般 2.X線撮影(腹部、マンモグラフィ、歯科除く)3.腹部X線撮影 4.マンモグラフィ 5.X線撮影(歯科)6.CT検査 7.核医学 8.IVRの8種類の検査について、正当化の論拠を整理した。その結果、1)根拠を示さずに「正当化されていること」のみを示して医師の判断に対する信頼を促すもの(27%)、2)検査のリスクよりも利益が大きいことを説明するもの(46%)、3)利益を示す指標に言及するもの(17%)などの類型がみられた。また正当化の評価指標としては、死亡率、生存率、罹患率、発見率、費用対効果などがあげられている。診断・治療方法の科学的根拠をもとに最良の意思決定を行うEBM(Evidence Based Medicine)の考え方に従えば、受検群と対照群との比較など、比較対照試験のデータが重視されるはずだが、そのような説明はほとんどみられなかった。
  • 大森 厚子, 千葉 貴子, 柏倉 幾郎
    セッションID: PF-11
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    臍帯血は胎児の末梢血であり、造血幹細胞を豊富に含んでいるため近年造血幹細胞移植への応用は増加している。一般に造血幹/前駆細胞は、放射線や化学療法剤のような細胞外酸化ストレスに対して感受性が高く、その放射線感受性には大きな個体差が存在する。しかしながら、放射線感受性の個体差についての情報は乏しい。本研究では、分娩の際の母子情報に基づく妊娠/出産関連因子が放射線感受性に何らかの影響を及ぼす可能性を検討する目的で、造血幹/前駆細胞の放射線生存率と妊娠/出産関連因子との関連性について検討した。インフォームドコンセント実施後、単胎正期産児の分娩時に採取された臍帯血63検体を対象とした。臍帯血採取後24時間以内にFicoll-paqueを用いて単核球低比重細胞(LD cells)を分離後、磁気ビーズ法によりCD34陽性細胞(CD34+ cells)を分離精製し、造血幹/前駆細胞とした。CD34+ cellsはX線発生装置を用いて2 Gy照射を行った。白血球前駆細胞(CFU-GM)、赤血球前駆細胞(BFU-E)、混合前駆細胞(CFU-Mix)はメチルセルロース法によるコロニーアッセイで、巨核球前駆細胞(CFU-Meg)はプラズマクロット法で評価し、それぞれの放射線生存率を求めた。その結果、児体重、胎盤重量、臍帯血量、総LD cells、及び総CD34+ cells間に、相互に有意な正の相関が観察された。この時、総LD cellsとCFU-Meg 生存率との間に有意な負の相関が観察された。また、CFU-GM生存率は男児が有意に高かったが、一方CFU-Meg生存率では女児が有意に高い値を示した。次に、造血幹/前駆細胞の放射線生存率と季節変動との関連性を検討すると、CFU-GM生存率は春(3-5月)が秋(9-11月)より有意に高値を示し、逆にCFU-Meg生存率は春が秋より有意に低値を示した。更に、妊婦の居住地で比較した総LD cellsでは、里帰りで出産した場合が市内在住妊婦の場合より有意に高値を示した。臍帯血の造血幹/前駆細胞の放射線感受性は、児の性別や分娩月、妊婦の居住環境に影響される可能性が示唆された。
  • 多賀 正尊, 伊藤 玲子, 丹羽 保晴, 三角 宗近, 中地 敬, 安井 弥, 楠 洋一郎, 濱谷 清裕
    セッションID: PF-12
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    放射線が肺発がんに影響を及ぼす分子機序は未だ不明である。エピジェネティックな機構が放射線肺発がんに関係するか否かについてもまだ調べる必要がある。我々は、原爆被爆者の非小細胞肺がん保存組織試料を用いた予備的研究として、がん組織と周辺の非がん組織におけるレトロトランスポゾン LINE1のDNAメチル化状態をCOBRA法で解析した。扁平上皮がんでは、原爆放射線を被曝した患者 (n = 5) の周辺非がん組織のLINE1メチル化頻度は非被曝者 (n = 5) の非がん組織のものよりも低かった。同じ患者のがん組織では、被曝者と非被曝者との間で、LINE1メチル化頻度に差はなかった。一方、23症例の肺腺がんでは、がん組織・非がん組織ともに、LINE1メチル化について放射線の影響はなかった。これらの結果を考慮すると、放射線被曝が肺扁平上皮がんの発生に潜在的に関係するゲノムDNA全体のメチル化と遺伝子特異的なメチル化に対する放射線の影響を評価するための、患者数を増やした研究が必要である。
  • 小平 美江子, 中本 芳子, 三浦 昭子, 辻 隆弘, 今中 正明, 西村 まゆみ, 島田 義也, 古川 恭治, CULLINGS Harr ...
    セッションID: PF-13
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    私たちは高密度(HD)アレイを用いた放射線の遺伝的影響調査の予備実験を行ってきた。実験法と解析法を改良した結果、マウス系統間に存在するCNVをモデルとした実験では領域内に位置するプローブ数が2-4個の小さなコピー数変異(CNV)についても約90%の高精度で検出できるようになった。この改良HDアレイCGH法を用いて、実際に自然および放射線関連生殖細胞突然変異の検出を試みた。改良予備調査で用いた超高密度2.1Mアレイ(合計210万個のプローブが3箇所に分けて70万個ずつ配置されている)は2-4 kbの小さなCNVを検出できるが、1枚のアレイスライドで1組のサンプルしか解析できない。一方、720Kアレイではマウスゲノムから約2.7 kb間隔で選ばれた約72万個のプローブが1枚のスライドに3組配置されており、1回のCGH実験で3組(6サンプル)について実験・解析ができる。以前に行ったマウスのDNA 2次元電気泳動法で検出された11例の遺伝子欠失は最小のものでも30 kb、多くのものがMbに及ぶ大きなものであったこと、アレイスライドの価格がHD-2アレイと同じであることを考慮して、720Kアレイを用いた。5 Gyのガンマ線照射したオスC3Hマウスを照射後8週以降にメスC57BL6と交配し、精原細胞由来F1を準備した。非照射オス由来のF1を対照とした。脾臓DNAを用い、照射群と対照群のF1 DNAを1組とした。照射群6匹と対照群6匹の解析の結果、観察プローブのlog2比の値が4個以上連続して変化している20 kb以上の大きい変異9例、3個以下のプローブしか変化していない小さい変異5例、合計14例の突然変異候補を検出した。これら14例についての詳細な解析結果を報告する。
  • 高橋 恵子, 多賀 正尊, 伊藤 玲子, 丹羽 保晴, 林  雄三, 中地 敬, 楠  洋一郎, 濱谷 清裕
    セッションID: PF-14
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    原爆被爆者成人甲状腺乳頭がんの分子生物学的解析より、RET/PTC再配列と放射線量との有意な関連に加えて、遺伝子変異が未同定、即ちRETNTRK1BRAFおよびRAS遺伝子に変異を持たない甲状腺乳頭がん症例も放射線量に関係することが見出された。このことは、RET/PTC遺伝子再配列以外にも、放射線関連成人甲状腺乳頭発がんに関与する遺伝子変異が存在することを示唆する。   我々は遺伝子再配列型の癌遺伝子に焦点をおき、遺伝子変異が未同定の甲状腺乳頭がん症例に生じている遺伝子変異の解析を行った。その結果、甲状腺乳頭がんではまだ報告されていない新しい型の遺伝子再配列、未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)遺伝子の再配列を初めて見出した。被曝症例19例中10例にALK遺伝子再配列を見出したが、非被曝症例6例中にはいずれにもこの変異は検出されなかった。現在、ALK再配列のパートナー遺伝子を同定中である。これらの結果より、放射線関連成人甲状腺乳頭発がんにおいて、RET/PTC再配列および ALK再配列を主とする染色体再配列が重要な役割を担うことが示唆される。
  • 遠藤 暁, 田中 憲一, 今中 哲二
    セッションID: PF-15
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    現在、黒い雨に関わる被ばく線量推定の見直し作業が行われている。その作業において、金沢大・山本等により、「1945-1948年の期間に立てられた古民家床下土壌中に広島原爆に由来すると考えられる137Csが検出」や、京大・今中により、「核分裂降下物によるγ線被ばくが137Cs沈着量1kBq/m2当たり最大30mGy」などが報告されている。これらの結果は、黒い雨地域における核分裂降下物による被ばく線量推定が行えることを示唆する。一方、これまで黒い雨地域において脱毛の報告があるものの、その被ばく線量は脱毛閾値よりかなり低い値と見積もられてきた。頭髪の脱毛は、β線による被ばくと関連が深く、議論するためには、核分裂降下物によるβ線被ばくの評価が必要である。本研究では、235Uが1kt(TNT火薬換算)の核分裂を起こしたときに生成される核分裂生成物放射能を用いて、全放射能の1%以上を占めるβ線放出核種、71核種を選び出した。71核種の放射能比、各核種のβ線放出比およびβ線スペクトルを用いて、21時間点(2ih: i= -1 to 19) に対し、β線スペクトルを作成した。このβ線スペクトルを入力としてmcnp計算を行うことで、各時間点ごとのβ線空間線量およびICRU球70μm組織線量(皮膚線量推定値)の計算を行った。その結果、1mm土壌中に均一に分布した核分裂放射能を仮定したとき、137Cs 1kBq/m2の沈着量当たり、地表1mでの積算β線空間線量は最大470mGy、積算皮膚線量(土壌26μm皮膚表面に付着のとき)は最大490mSvと見積もられた。この結果は、137Cs 4kBq/m2の沈着量を仮定すると、脱毛閾値である2Svを説明でき、黒い雨地域において報告されている脱毛の原因が核分裂降下物に由来する可能性を示唆するものである。
  • 山本 浩一, 呉山 尚子, 森安 彩子, 浅野 景子, 池田 稔治, 大和谷 厚
    セッションID: PF-16
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    [目的]  悪性腫瘍の放射線治療を受ける患者さんでは、副作用として紅斑、浮腫、脱毛などの放射線皮膚炎を発症するとの問題がある。現在、臨床ではこの皮膚炎に対し、ステロイド剤外用療法が適応されているが、再発を繰り返すなど問題解決には至っていない。浮腫、紅斑の発症には肥満細胞から遊離するヒスタミンなどケミカルメディエーターが関与し、ヒスタミンH1受容体遮断作用を持つ薬物に治療・予防効果があることが古くから知られている。一方、脱毛や毛周期の調節に神経ペプチドのサブスタンスPとその受容体であるニューロキニンNK1受容体が重要な役割を担っているとの報告があるが、未だ放射線による皮膚障害の発症機構の詳細は不明である。そこで、本実験では放射線皮膚炎発症におけるヒスタミンとサブスタンスPの関与を検討するため、γ線照射によって惹起したマウス放射線皮膚炎に対するH1受容体遮断薬のクロルフェニラミンおよびNK1受容体遮断薬のCP-99,994の作用について検討した。さらに放射線皮膚炎発症における肥満細胞の関与を検討するため、肥満細胞欠損マウス(W/WV)に線照射した時の皮膚の変化について比較検討した。
    [方法]  C57BL/6の下腿にγ線40Gyを限局して照射し、照射後60日間、紅斑、浮腫、脱毛、落屑を観察した。観察期間中、マウスにはクロルフェニラミン(1mg/kg/day)、CP-99,994(10mg/kg/day)もしくは生理食塩水を投与した。また、W/WVとその野生型マウスの下腿にも同様にγ線を照射し、紅斑、浮腫、脱毛の程度を観察した。
    [結果・考察]  C57BL/6マウスでは照射後10日目以降から紅斑、浮腫がみられ、約15日後から脱毛、落屑を呈した。この脱毛は観察期間中に回復することは無かった。クロルフェニラミン1mg/kg/day投与群では約15日後から落屑、脱毛を呈したが、紅斑や浮腫は抑制された。一方、CP-99,994投与群では脱毛範囲が抑制され、観察期間中に脱毛は完全に回復した。 肥満細胞が欠損しているW/WVマウスではクロルフェニラミン投与群と同様に紅斑、浮腫のみが抑制された。以上の結果から、放射線照射によって惹起される紅斑および浮腫は肥満細胞から遊離したヒスタミンがH1受容体を介して、脱毛はサブスタンスPとその受容体のNK1受容体がそれぞれ発症に関与していることが示唆された。
G 非電離放射線
  • 西浦 英樹, 菓子野 元郎, 田野 恵三, 渡邉 正己
    セッションID: PG-1
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    <目的> 皮膚における紫外線応答の1つとしてメラノサイトにおけるメラノジェネシスが知られており、このメラノジェネシスの亢進反応は、ケラチノサイトから放出されるエンドセリンやα-MSHなどのサイトカインがメラノサイトを刺激することが関与していると報告されている。しかし、紫外線照射によってメラノサイトで誘導されるメラノジェネシスが紫外線未照射のメラノサイトでも同様の反応が起こるバイスタンダー効果についての報告は未だなされていない。今回、マウスメラノーマ細胞、ヒト正常メラノサイトを用いて、紫外線照射によるバイスタンダー効果について調べた。
    <方法> マウスB16メラノーマ細胞にUVAもしくはUVBを照射し、24時間後に培養上清を回収、別に用意したUVA, UAB非照射細胞に処理し48時間培養した。そして、メラニン産生量、細胞内チロシナーゼ活性および細胞内酸化度を指標にバイスタンダー効果を調べた。
    <結果・考察> UVA 4 J/cm2照射細胞由来の培養上清を非照射の細胞に処理することで、コントロールに比べて約1.2倍のメラニン量が増加していた。また、UVB 10 mJ/cm2照射細胞由来の培養上清を非照射の細胞に処理しても、約1.3倍メラニン量が増加していた。このことは、マウスB16メラノーマ細胞では、紫外線照射によるバイスタンダー効果としてメラノジェネシスが誘導されることを示している。本発表では、紫外線照射によるバイスタンダー効果が何を介して起こるのかについて併せて報告する。
  • 趙 慶利, 藤原 美定, 近藤 隆
    セッションID: PG-2
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    [目的]ヒト白血病細胞株U937, Jurkat-T, HL60とMolt-4細胞を用い、(1)温熱によるHSPs誘導とアポトーシスとの相関、(2)U937細胞の温熱アポトーシスを増感するTempo併用時のアポトーシスとHSPs変化についても比較検討することが目的。
    [結果] U937, Jurkat-T, HL60, Molt-4のすべての細胞においてHSP70の誘導発現変化は認められたが、HSP27 の顕著な誘導性発現は見られなかった。(i) 44℃/10分処理後2時間でU937のHSP70の発現はほとんど認められなかったが、Jurkat-T, HL60とMolt-4ではHSP70の顕著な発現を認めた、4時間ではU937のHSP70の発現は顕著となり、Jurkat-TとMolt-4ではさらに増強された。この条件下ではいづれの細胞でも6時間後のアポトーシスはほとんど検出されなかった。(ii)44℃/30分処理後2時間で全ての細胞においてHSP70の誘導発現はほとんど見られなかった。4時間でJurkat-TとMolt-4のHSP70誘導は44℃-10分誘導発現より少なかった。6時間でU937細胞は約80%のアポトーシスを誘発したが他の3種類細胞ではアポトーシスはほとんど起こらなかった。(iii) 44℃/10分と5 mM Tempo併用で2時間と4時間後でHSP70の誘導発現は44℃/30分間処理とほぼ同じの効果を示した。6時間後のアポトーシスは、U937細胞において約80%誘発されたがJurkat-T, HL60とMolt-4では誘発されなかった。(iv) U937細胞において44℃/10分間処理、1-4時間のHSP70の誘導発現は2時間から時間依存性に増加した。Geldanamycin前処理によるHSP70の著しい誘導は、44℃/10分とTempoの併用あるいは44℃/30分によるアポトーシスを強く抑制した。
    [結論] 44℃/10分処理では、一般的にHSP70を強く誘導し、これがアポトーシスに抑制的に動く。しかしU937細胞では、これが遅延し、また量的に少なく、そのためアポトーシスは高頻度に誘発される。一方で、44℃/10分とTempo併用効果は44℃/30分相当の効果を有し、HSP70発現を抑制する。U937細胞では、この作用が顕著であり、温熱アポトーシスは顕著に増強される。HSP70の発現誘導が遅れ、量的にも少ないことはU937における温熱によるアポトーシス高感受性を説明する。
  • 林 幸子, 畑下 昌範, 塩浦 宏樹
    セッションID: PG-3
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】アンドロゲン非依存性前立腺癌細胞DU145, PC3においてNF-κB阻害剤Parthenolide(PTL)による温熱併用療法は有意なアポトーシス誘導による増感効果を示した。DU145, PC3細胞はH-ras遺伝子が変異型であることが報告されている。NF-κB阻害剤PTLによる温熱増感効果のメカニズムについて細胞周期位相応答及びRas/Raf/MAPKを介した経路をブロックすることでアポトーシス誘導促進に作用する分子機構を明らかにする。 【材料と方法】細胞はヒト前立腺癌アンドロゲン非依存性細胞株DU145, PC3細胞を用いた。PTLは培養液中に溶かし最終濃度を2.0μMとし実験に供した。細胞の温熱及び薬剤に対する感受性はコロニー形成法により評価した。MAPK経路をブロックするJNK, p38の誘導動態はWestern blot法により行った。 【結果】PTL及び温熱の併用による増感効果はDU145, PC3細胞共に同等の温熱感受性を示した。PTL及び温熱の単独または併用処理後の細胞におけるフローサイトメトリーによる細胞分画からアポトーシスの誘導を表すSubG1画分は各々の単独処理に比べて併用処理では有意な増加を示した。またフローサイトメトリーにおいて細胞周期からPTL及び温熱併用によるG2-M arrestの増加が観られた。温熱単独でのNF-κB活性の阻害効果は加温直後で有意に阻止されたが時間経過と共にその効果は減弱した。しかしPTLの併用によりNF-κB活性の阻害効果は増強され完全にブロックされた。NF-κB活性を阻止してアポトーシスを誘導する経路の下流に位置するCaspase-8, -9について有意な誘導は見られなかった。 【総括】アンドロゲン非依存性前立腺癌細胞DU145及びPC3細胞における温熱感受性はPTLを併用することにより相乗的な増感効果を示した。この相乗的温熱増感効果はPTLによってアポトーシスが有意に誘導されることが示された。即ちPTLは温熱によるNF-κB活性の阻害効果を増強し、細胞をアポトーシスやG2-M arrestに誘導することで温熱増感効果を示し、Caspase-8, -9経路は辿らないことが示唆された。JNK, p38について検討している。
  • 喜多 和子, 杉田 克生, 陳  仕萍, 佐藤 哲生, 郭  文智, 鈴木 敏和, 菅谷  茂, 鈴木 信夫
    セッションID: PG-4
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    [目的] 申請者らは、紫外線照射ストレスに対応するシャペロンとその結合タンパクの代謝を研究し、これまでに、HSP27やGRP78などのシャペロン(HSPs)とその結合分子HSP-binding proteins (HSPBs)が紫外線致死耐性に関わること見出している。最近、それらがストレスに応答して細胞外からも作用するとの示唆を得た。そこで、今回、細胞外に添加されたシャペロン結合タンパクHSPB-Aが紫外線致死抵抗化に関わるか否かを検討した。 [方法] 使用した細胞は、紫外線高感受性培養ヒト細胞RSa,コケイン症候群(Cockayne syndrome, CS)患者由来細胞(CS細胞)である。培養液中に、recombinant HSPB-A (rHSPB-A)を添加し24時間培養した後、紫外線(UVC)致死感受性をコロニー形成法で、UVC損傷DNAの除去能力を損傷DNAに特異的な抗体を用いて調べた。rHSPB-Aは、GST融合rHSPB-AのPreScission protease分解により得た。 [結果と考察] RSa細胞を、rHSPB-A (0.5 μg/ml)が添加された培養液中で培養すると、mock処理細胞に比べUVC致死抵抗化が認められた。一方、X線や5-FUなどに対する致死感受性に顕著な変化は認められなかった。CS細胞おいても、rHSPB-A添加によりUVC致死抵抗化が認められた。この培養液中へのrHSPB-A添加による修復能力上昇は観察されなかった。  以上の結果より、細胞外に添加されたHSPB-AがRSa細胞やCS細胞を紫外線致死抵抗化することが明らかなった。この紫外線抵抗化の詳細な機構は不明であるが、本研究で調査した損傷修復能力の変動が関与するとの示唆は得られず、他の要因、例えば、細胞外からのシグナル伝達系などによる細胞生死の調節機構を介している可能性が示唆される。
  • 安田 佳代, 須田 斎, 石井 恭正, 石井 直明
    セッションID: PG-5
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    線虫C. elegansrad-8は紫外線高感受性として分離されたが1)、我々は酸素にも高い感受性を示すことを見出している2)。活性酸素による酸化ストレスは、放射線と同様に細胞内構成成分に傷害を与え、その結果、癌をはじめとする様々な疾患や老化を引き起こすと考えられている。生体内から生じる酸化ストレスはミトコンドリアからの活性酸素が大半を占めることが知られている。ミトコンドリアは細胞内のエネルギー産生源である一方で活性酸素の産生やアポトーシスの制御にも関与している。rad-8の酸素高感受性にミトコンドリアが関わっているかどうかを調べるために、ミトコンドリアからの、1)活性酸素量(O2-)、2) 酸化タンパク質、および3)胚発生期のアポトーシス量、4)成長速度、5)エネルギー代謝量(酸素消費量)について解析を行った。その結果、抽出したミトコンドリアからのO2-量は、rad-8では野生株に比べて有意に上昇していることを確認した。さらにO2-によって引き起こされる酸化蛋白質の蓄積も上昇し、アポトーシスも増加していた。一方、エネルギー代謝は低下しており成長も遅延、さらに成虫の体のサイズも小型であった。以上のことは、rad-8の原因遺伝子の機能がミトコンドリアに関与していることを示唆し、この遺伝子変異によりエネルギー代謝に異常が生じることで酸化ストレスの増大、アポトーシスの増加などの特徴が現れると考えられる。

    参考文献
    1) Hartman PS et al., Genetics 102:157-178, 1982
    2) Ishii N, et al., Mech. Ageing Develop. 68: 1-10, 1993
H 放射線物理・科学
  • 前山 拓哉, 山下 真一, 勝村 庸介, BALDACCHINO Gérard, 田口 光正, 木村 敦, 工藤 久明, SI ...
    セッションID: PH-1
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    がん治療用炭素線は生体内で数十cmの飛程を有する必要があり、核子あたり数百MeVのエネルギーで利用される。このような高エネルギー領域では、核破砕(フラグメンテーション)が起こり、炭素イオンが破砕してより軽いイオンや中性子などになる。本研究では、治療用炭素線のブラッグピーク付近において、水の放射線分解で生じるOHの収量を測定した。さらに核破砕による線質(イオンの内訳など)の変化についても計算機シミュレーションで考慮し、測定結果の再現を試みた。 水分解OHの収量測定には、これまで開発してきた高感度蛍光プローブを利用した(Baldacchino et al, Chem. Phys. Lett. 2009)。Coumarin-3-carboxylic acid (CCA) の希薄水溶液を照射試料とし、OHをCCAと反応させて蛍光体7OH-CCAに転換し、その生成量を測定した。照射は放射線医学総合研究所のHIMACで行い、400 MeV/uのエネルギーを用いた。照射の際には試料の上流にエネルギー吸収材を挿入し、ブラッグピークが試料溶液の内部または近くになるようにした。また、計算機シミュレーションは粒子輸送計算用コードPHITSを用いて実施し、照射ポートのジオメトリを考慮して計算を行い、粒子の種類・エネルギーなどを計算した。 収量測定の結果、上流側からブラッグピークに近づくにつれてOH収量は減少し、ブラッグピークの直ぐ下流で急激な増加を示した。PHITSシミュレーションでは、ブラッグピークを含む領域では一次粒子の寄与が大きく、ブラッグピークより下流の領域ではプロトンやヘリウムなど軽いイオンの寄与が大きかった。ブラッグピークより上流ではPHITS計算に基づいてOH収量を見積もることで測定結果が再現できたものの、ブラッグピークより下流の領域では差異が大きいことが分かった。
  • 羽根田 清文
    セッションID: PH-2
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/01
    会議録・要旨集 フリー
     医療被ばくによる生体への影響を調査する際、使用されるX線のエネルギーは、診断領域(30 keV~150 keV)と治療領域(1 MeV~20 MeV)に大別される。これらに関与する相互作用は、診断領域では主に光電効果であり、治療領域ではコンプトン効果となる。また、実験対象として細胞や小動物に照射することが多いが、一般に照射される線量は、広範囲均質媒体を対象として線量校正を行ったものであり、実際の実験環境と異なる。  そこで、本研究では、エネルギー領域の違いによる線量分布の違いおよび実験環境と校正環境との違いによる差異についてモンテカルロシミュレーションを用いた検討結果を発表する予定である。
  • ZHUMADILOV Kassym, IVANNIKOV Alexander, ZHARLYGANOVA Dinara, SHASHTIN ...
    セッションID: PH-3
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    The method of electron spin resonance (ESR) dosimetry has been applied to human tooth enamel to obtain individual absorbed doses of residents of settlements in vicinity of the central axis of radioactive fallout trace from the contaminating surface nuclear test in 7, August 1962. Most of settlements (Kurchatov, Akzhar, Semenovka, Begen, Mayskoe) are locating from 70 to 100 km to the North from epicenter of explosion at the Semipalatinsk Nuclear Test Site (SNTS). This region is basically agricultural region. It was found that the excess doses obtained after subtraction of natural background radiation ranged up to about 100 mGy all for residents in this region. Totally about 50 teeth samples were collected. Kokpekty settlement was chosen as a control and not subjected to any radioactive contamination and located 400 km to the Southeast from SNTS.
  • 齊藤 剛, 藤井 紀子
    セッションID: PH-4
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】自然界より単離された放射線耐性細菌はその共通の特徴としてカロテノイド色素を含有してこと、そしてそれら細菌の無色突然変異株は電離放射線に対して感受性となることが報告されている。これらのことより、放射線耐性細菌の放射線耐性機構にカロテノイド色素が関与していると考えられている。また、これらカロテノイド色素は細胞中において細胞膜等脂質部位に局在していることが知られている。このことより、放射線耐性細菌含有カロテノイド色素は生体脂質等の生体分子を電離放射線による損傷より防護することによりその放射線耐性機構に寄与しているという生体防護機構が考えられる。本研究では最も単純な生体脂質である脂肪酸(リノレン酸)へのγ線照射による損傷に対する、代表的なカロテノイド色素であるβ-カロテンの影響について解析を行った。【方法】1)0.5 Mリノレン酸ベンゼン溶液に対して最終濃度5.0 x 10-6 ~ 8.5 x 10-3 Mとなるようにβ-カロテンを添加し溶液を調整した。2)調整β-カロテンリノレン酸ベンゼン溶液に対し30 kGyのγ線照射を行った。3)照射試料にTBA(thiobarbituric acid)試薬を加え15分間沸騰水中で加熱し、加熱後試料の532 nm吸光度を測定することにより、脂質の酸化的分解生成物であるmalondialdehyde量を定量し、γ線によるリノレン酸の酸化的分解損傷に対するβ-カロテンの添加効果に関して解析を行った【結果および考察】本実験条件において、8.5 x 10-3 Mβ-カロテンはγ線によるリノレン酸の酸化的分解反応に対して有意に抑制的効果を示した。一方、5.0 x 10-5、5.0 x 10-6 Mβ-カロテンはγ線によるリノレン酸の酸化的分解反応に対して有意に促進的効果を示した。これらのことより、放射線耐性細菌細胞中においてカロテノイド色素は、γ線照射による脂質等生体分子損傷に対して防護的に機能することによりその生体防護機構に寄与しており、さらに生体中のカロテノイド色素濃度は厳密に制御されている可能性が示唆された。
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