[目的]
悪性腫瘍の放射線治療を受ける患者さんでは、副作用として紅斑、浮腫、脱毛などの放射線皮膚炎を発症するとの問題がある。現在、臨床ではこの皮膚炎に対し、ステロイド剤外用療法が適応されているが、再発を繰り返すなど問題解決には至っていない。浮腫、紅斑の発症には肥満細胞から遊離するヒスタミンなどケミカルメディエーターが関与し、ヒスタミンH
1受容体遮断作用を持つ薬物に治療・予防効果があることが古くから知られている。一方、脱毛や毛周期の調節に神経ペプチドのサブスタンスPとその受容体であるニューロキニンNK
1受容体が重要な役割を担っているとの報告があるが、未だ放射線による皮膚障害の発症機構の詳細は不明である。そこで、本実験では放射線皮膚炎発症におけるヒスタミンとサブスタンスPの関与を検討するため、γ線照射によって惹起したマウス放射線皮膚炎に対するH
1受容体遮断薬のクロルフェニラミンおよびNK
1受容体遮断薬のCP-99,994の作用について検討した。さらに放射線皮膚炎発症における肥満細胞の関与を検討するため、肥満細胞欠損マウス(W/W
V)に線照射した時の皮膚の変化について比較検討した。
[方法]
C57BL/6の下腿にγ線40Gyを限局して照射し、照射後60日間、紅斑、浮腫、脱毛、落屑を観察した。観察期間中、マウスにはクロルフェニラミン(1mg/kg/day)、CP-99,994(10mg/kg/day)もしくは生理食塩水を投与した。また、W/W
Vとその野生型マウスの下腿にも同様にγ線を照射し、紅斑、浮腫、脱毛の程度を観察した。
[結果・考察]
C57BL/6マウスでは照射後10日目以降から紅斑、浮腫がみられ、約15日後から脱毛、落屑を呈した。この脱毛は観察期間中に回復することは無かった。クロルフェニラミン1mg/kg/day投与群では約15日後から落屑、脱毛を呈したが、紅斑や浮腫は抑制された。一方、CP-99,994投与群では脱毛範囲が抑制され、観察期間中に脱毛は完全に回復した。
肥満細胞が欠損しているW/W
Vマウスではクロルフェニラミン投与群と同様に紅斑、浮腫のみが抑制された。以上の結果から、放射線照射によって惹起される紅斑および浮腫は肥満細胞から遊離したヒスタミンがH
1受容体を介して、脱毛はサブスタンスPとその受容体のNK
1受容体がそれぞれ発症に関与していることが示唆された。
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