2020年1月6日に,厚生労働省より中国・武漢での原因不明の肺炎拡大が報じられ,14日には世界保健機構(WHO)でもその存在が確認されました.そして1月30日にWHOより国際的な緊急事態が宣言されたのち,3月11日にはCOVID-19感染状況がパンデミックであるとの認識が表明されました.これらの事態を受けて,3月30日に国際オリンピック委員会(IOC)の臨時理事会でオリンピック・パラリンピックの1年延期が決定されるに至ったのです.この決定はオリンピアン・パラリンピアンに少なくない衝撃を与え,心理的支援の重要性が大きく論じられました.さらに本邦では4月7日に7都府県に対して,そして16日には全国に緊急事態宣言が発出されたため,解除された5月31日を過ぎるまで,多くの地域で各種スポーツ活動が制限されました.この間,約8週間あるいはそれ以上にわたる長期的な競技活動休止が余儀なくされており,アスリートにとって様々な悪影響がもたらされたのです.運動休止による体力低下,運動休止期間中の健康状態の悪化,そして活動再開後の傷害発症やパフォーマンス回復に対する不安など,挙げればきりがありません.このような未曽有の状況下において,スポーツ医科学支援スタッフは,数少ない情報を頼りにスポーツをする人たちの支援にあたっていました.長期活動休止後の再開時に生じうる傷害リスクについては,National Football Leagueで2011年に生じたロックアウト後のアキレス腱断裂の増加に関するレポートが,そして活動自粛期間中の運動能力低下リスクについては各種ディトレーニングによる体力低下に関する先行研究結果が参照され,それらの情報をもとに傷害予防や体力維持のプログラムが作成されていました.この例でわかるように,過去の知見は今の人々を救う非常に重要な情報になります.スペイン風邪,アジアインフルエンザ,そして新型コロナウイルスと,残念ながら社会活動を大きく制限し得る感染症は,一定期間を経て流行を繰り返しているのが事実です.スポーツ医科学支援者および研究者が得た2020年の知見を紙面に残すことは,未来の人々を救う礎になります.そこで本号ではCOVID-19感染症拡大によるスポーツ活動制限期間に生じたアスリートの心理,栄養,体力・運動能力面での課題とその対応について,それぞれの専門家から知見を残していいただくこととしました.COVID-19感染の早期収束と,このような感染症拡大が繰り返されないことを願いつつ,もしもの時に本誌の情報が,まだ見ぬアスリートやその支援者たちの活動の支えになることを願います.
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