IOCによるInjury surveillance system(ISS)は,冬季オリンピックでは2010年のバンクーバー大会を含め3大会における論文が公表された.本稿では,冬季オリンピック競技大会における外傷・障害および疾病の発生状況について,過去3大会の傾向を整理し概説する.総合競技大会である冬季オリンピック競技大会の疫学データを整理することで,今後の大会運営や選手サポートに役立てることができる.
フリースタイルスキーモーグル(モーグル)は,その競技特性から,下肢を中心とした衝撃吸収能力,身体操作性,体幹の安定などが極めて高い次元で要求される.モーグルはダイナミックかつエキサイティングな競技である一方,膝靱帯損傷,腰痛症,脳振盪などの外傷・障害と常に隣り合わせである.本稿では,競技力向上と外傷予防のための,年間を通じた体力測定,コンディショニング,動作解析研究などの取り組みについて紹介した.
アルペンスキーは積雪寒冷環境下で医療機関が近くにない場所で行うことも多く,外傷発生時の搬送方法や医療機関を事前に調べて準備しておくことは大切である.また,外傷・障害予防に対するリスク管理やコンディショニングも重要な取り組みであり,他競技にはない特異的なサポートも必要とされている.本稿は,アルペンスキー競技における外傷・障害予防に対するリスク管理とコンディショニングについて述べる.
スピードスケートは,1周400 mのダブルトラックを周回しタイムを競う競技である.速い速度で滑走するために低い滑走姿勢からの下肢の伸展パワーが重要であるが,一方で,この滑走姿勢は腰椎・骨盤,股関節,膝関節への運動負荷が高い.スクワットや片脚立ちのような基本動作の崩れは障害リスクの増加やパフォーマンス低下等のコンディション不良の要因になる.これらを定期的に評価,補正することで,障害予防とコンディションの維持に繋げている.
本研究では,4週間のショートフットエクササイズ(SFE:Short Foot Exercise)が動的姿勢制御および足部・足関節の安定感に及ぼす影響について検証し,足関節捻挫の予防エクササイズの観点からSFEの有用性について考察することを目的とした.研究の結果,4週間のSFEは,健康な大学生の動的姿勢制御および足部・足関節の安定感を向上させることが示唆された.このことから,SFEを足関節捻挫の予防エクササイズの一つとして取り入れることの有用性は高いのではないかと推測する.今後の研究では足関節捻挫経験者を対象とし,SFEが足部・足関節に及ぼす影響についてより詳細な検証が必要である.
アスリートのコンディショニングにおいて,身体的,環境的,心理的要因など様々な要因を考慮することが重要である.睡眠は,健康維持,外傷・障害の予防,ハイパフォーマンス発揮のために不可欠な要因の1つである.Athlete Sleep Screening Questionnaire(ASSQ)は,アスリートの睡眠状態を評価するためのツールとして国際的に推奨されている.本邦においてはASSQを用いた調査は,まだ少ないのが現状である.本研究では,日本語版(ASSQ-J)を用いて,日本人男子大学サッカー選手を対象として睡眠状況の調査を行った.その結果,世界の大学アスリートと同様に,睡眠に問題を抱えている日本人男子大学サッカー選手がいることが明らかとなった.
本研究では日本の大学アスリートにおけるスポーツ関連脳振盪(SRC)受傷後の未報告の発生状況と関連因子を明らかにすることを目的とした.SRCの疑いを周囲の人に報告をしない未報告は調査対象者の7.1%(42名)で生じていた.未報告との関連因子として,スポーツ科学専攻以外の学部生,年長であること,コンタクトスポーツ競技,SRCに関する高い知識に未報告との関連が認められた.一方で,性別,SRC教育を受けた経験の有無には関連がなかった.未報告の理由にはプレーへの執着やSRC知識・理解の欠如の項目が認められた.
和歌山県アスレティックトレーナー連絡協議会(WAT連絡協議会)の2013年~2019年の7年間の活動分析を行い今後の課題について検討した.その結果,和歌山県体育協会との連携によって,WAT連絡協議会の活動が和歌山国体以降も減少することなく維持できていることを確認できた.しかし,研修会参加人数は和歌山国体以後急激な減少を示した.WAT連絡協議会発足から10年が経過し,若手育成,研修会参加者数減少などの今後の課題が発見された.
本研究の目的は肩関節に対するコンディショニング手法における前胸部筋群の腹臥位のストレッチング(SA),立位のストレッチング(SB)の効果を検証することである.運動課題前後で指椎間距離(FVD)・肩甲骨脊椎間距離測定を行い,効果を検討した.ストレッチング前後でSA,SBはFVDで有意な向上がみられた.SA,SBは投球障害肩予防のストレッチングとして有用な手法であることが示唆された.
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