本特集は,第9回日本アスレティックトレーニング学術学会の学術ワークショップで取り上げた講演内容を中心にアスレティックトレーニング分野における学術的基礎に関連する記事をまとめました.
まず一編目には「学術論文の読み解き方」として阿部(平石)さゆり先生(帝京大学スポーツ医科学センター)にご執筆頂きました.「なんとなく英語論文を読むのは苦手だ」と感じている読者には是非参考にして頂きたい工夫が多く紹介されており,入門編に相応しい内容です.村田祐樹先生(中京大学スポーツ振興部,名古屋大学大学院教育発達科学研究科)にはご自身の経験を元に「システマティックレビューの進め方」についてご執筆頂きました.システマティックレビューはその名の通り系統的であり,その質を担保するため執筆過程にはルールが存在します.できる限りバイアスを取り除いた形で現存のエビデンスを集約する過程を理解することは,これからシステマティクレビューの執筆に挑戦したいと考える研究者だけでなく,日々エビデンスの吟味と統合を行なっている実践者においても参考になる内容であると考えます.筆者が担当した「科学的根拠に基づいた提言書ができるまで」では,実践者に向けて発信されている提言書の成り立ちを解説しています.今後発表される提言書やガイドラインを読み解く際に正しく推奨文のエビデンスの強さと限界点を検討し,臨床的判断に繋げて頂く一助となれば幸いです.そして山次俊介先生(福井大学)には「アスレティックトレーナーのための統計解析」として,アスレティックトレーニング関係者に馴染み深い事例を交えながら帰無仮説検定の必要性と弱点,および帰無仮説検定結果をどのように解釈し結論を導くべきかについて解説して頂きました.機械的に統計を利用・解釈するのではなく,臨床的に意味のある価値の有無を判定するために必要な視点が分かりやすくまとめられています.
これら一連の論文に触れることで,アスレティックトレーニング分野における研究者らが今後さらに読み手を意識した執筆を行うきっかけになるだけでなく,実践者らが論文を手に取るハードルが幾分か下がり,学術論文が身近なものになることを願っています.
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