土木学会論文集D
Online ISSN : 1880-6058
ISSN-L : 1880-6058
62 巻, 3 号
選択された号の論文の19件中1~19を表示しています
和文論文
  • 片田 敏孝, 桑沢 敬行
    2006 年 62 巻 3 号 p. 250-261
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/07/20
    ジャーナル フリー
     津波災害による人的被害の発生は,その時の住民の避難状況により非常に大きな差が生じる.したがって,津波対策として従来の防災施設の整備に加えて,的確な災害情報の伝達や避難誘導,そして防災教育の実施により,迅速な住民避難を実現することが非常に重要となる.この問題に対し筆者らは,津波の襲来状況のみならず災害情報伝達から住民避難の意思決定,そして避難行動までを一括して考慮し人的被害の発生を表現するシミュレータを開発した.このシミュレータは,任意のシナリオによる人的被害の推計が可能であり,津波防災の戦略検討ツールや防災教育ツールとしての利用が可能である.本研究では,三重県尾鷲市を対象にシステムを適用しその有効性を示した.
  • 加藤 浩徳, 松本 学
    2006 年 62 巻 3 号 p. 262-275
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/07/20
    ジャーナル フリー
     本研究は,夫,妻,子の3人から構成される核家族世帯を対象として,世帯の構成員による時間及び費用の配分行動をモデル化するものである.モデル化にあたっては,世帯の資源配分を,構成員の所得および時間を制約条件とする世帯効用関数の最大化によって定式化している.ここで,世帯効用関数としては,世帯構成員の効用の重み付け線形関数を用いている.次に,東京都とその近郊および富山市内の小学生を子に持つ世帯を対象として世帯構成員のダイアリー活動調査を実施し,世帯構成員の時間および費用の配分の実態を把握した.そして,このデータをもとに,モデルの推定を行った.その結果,核家族の構成員の効用特性が明らかとなるとともに,東京と富山との分析結果の比較により両都市間の世帯行動特性の共通点と違いを考察した.
  • 鈴木 一史, 中村 英樹
    2006 年 62 巻 3 号 p. 276-287
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/07/20
    ジャーナル フリー
     交通工学分野においてビデオ画像観測は,車両などの詳細な挙動分析や交通状況の正確な把握に必須の観測手法であるが,車両走行軌跡のような詳細データをマニュアルで収集する場合,解析に膨大な時間と労力を要することが大きな課題であった.本研究では,画像処理技術を駆使することにより交通工学分野で多用される交通量計測,移動体追跡,車番認識を自動化し,データ収集作業の飛躍的な効率化を可能とする多機能ビデオ画像処理システムTrafficAnalyzerを開発した.本システムの性能を実際の家庭用デジタルビデオカメラ映像により検証した結果,交通量計測は概ね95%以上,車番認識は50%以上の認識性能を有し,移動体追跡では車両や歩行者などの詳細な挙動を1/10secごとに効率的に追跡できることを示した.
  • 土井 健司, 中西 仁美, 杉山 郁夫, 柴田 久
    2006 年 62 巻 3 号 p. 288-303
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/07/20
    ジャーナル フリー
     都市インフラ整備においては,適切なスコーピングの下で,様々な価値観に照らした総合的な公益性の判断が必要とされる.本研究では,多様な利害グループの共同利益の同時性という視点から,インフラ整備を評価する手法を開発している.これは個人・社会に跨る多元的な共同利益を表わすQoL概念に基づき,主体の価値観の違いに起因した整備効果の違いを可視化することにより,意思決定の透明性と当事者間の公平性の確保を支援するものである.本稿では,2004年に甚大な高潮被害を受けた高松港海岸の整備シナリオの評価に本手法を適用し,グループごとのQoL改善効果の違いを明らかにした上で,安心安全性,経済活動機会,生活文化機会,空間快適性および環境持続性という5つの要素に基づく総合的な公益性に関する分析を行っている.
  • 越水 一雄, 羽鳥 剛史, 小林 潔司
    2006 年 62 巻 3 号 p. 304-323
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/07/20
    ジャーナル フリー
     本研究では公的アカウンタビリティ概念とその発展系譜をとりまとめるとともに,アカウンタビリティの構造と機能について分析し,アカウンタビリティが果たす計画論的意義について考察する.具体的には,アカウンタビリティ概念の構造が,意味の構造,正統化の構造,支配の構造という3つの構造の複合体として把握できることを明らかにする.その上で,正統性概念が,実用的,道徳的,認識的正統性という3つの正統性概念により構成されることを明らかにする.さらに,不特定多数のステークホルダーが関与するインフラストラクチャの計画においては,認識的正統性を確保することが重要であることを指摘し,計画プロセスにおけるアカウンタビリティを確保するための課題について展望する.
  • -一般廃棄物処理施設を対象とした中国四川省成都市における事例分析-
    周 葵, 近藤 光男, 和田 録樹
    2006 年 62 巻 3 号 p. 324-333
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/07/20
    ジャーナル フリー
     従来の都市施設の配置計画においては,施設を利用する際に克服しなければならない空間的な抵抗として,距離や時間など物理的な指標などが主に用いられていた.本研究では,都市施設のなかでも迷惑施設を対象とし,住民意識を考慮して確率論に基づいたモデルを用いて,施設の配置問題を分析した.分析に必要なデータを入手するため,一般廃棄物処理施設を対象として中国四川省成都市で住民意識調査を行い,そのデータを用いて迷惑施設の配置に対して住民の許容率を推計できるモデルを構築した.許容率モデルは,配置された迷惑施設までの距離と住民の許容率との関係を表わしており,このモデルを用いることにより,住民の視点からみた迷惑施設の配置距離を提案できることを示した.
  • -近代保守思想に基づく和辻「風土:人間学的考察」の土木工学的批評-
    藤井 聡
    2006 年 62 巻 3 号 p. 334-350
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/07/20
    ジャーナル フリー
     本稿では,土木において風土の問題は極めて重大であろうとの認識の下,風土に関する代表的哲学書である和辻哲郎著「風土:人間学的考察」(1943)を批評することを通じて,土木工学への知見を得ることを目指した.和辻の哲学的存在論の基本的立場を踏まえることで,各種土木事業が地域のあり方のみならず,地域の人々の人間存在そのものに根元的影響を及ぼし得る可能性が浮かび上がることを指摘した.それと共に,和辻風土論には「健全なる風土と不健全なる風土」との別が論理的に指し示され得ないという実践倫理哲学上の問題点が潜んでいることを指摘し,その問題点が土木において和辻風土論を参照するにあたっての重大な障害となることを指摘した.その上で,その問題点を超克するためのアプローチとして,近代保守思想を参照し,援用することの有効性を論証した.
  • 羽鳥 剛史, 小林 潔司
    2006 年 62 巻 3 号 p. 351-368
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/07/20
    ジャーナル フリー
     本研究では政府がプロジェクト情報を開示するとともに,プロジェクトの実施に対する個人の賛否をとり,その結果に基づいてプロジェクトの実施の有無を決定するような場面を想定する.その際,政府が詳細なプロジェクト情報を事前に提供することにより,個人が私的利得の獲得をめざした機会主義的行動を採用できる可能性が存在する.一方,個人に詳細なプロジェクト情報を提供しない場合,個人がプロジェクトに関して正確な判断ができないという問題が発生する.このような問題設定の下で,本研究では政府が提供するプロジェクト情報の精度と個人の機会主義的な行動の相互関係をコミュニケーションゲームとして定式化する.さらに,政府が社会的に最適なプロジェクトを実現するための方策について分析する.
  • -Landsat/ETM+およびTerra/MODISデータの利用-
    朝香 智仁, 西川 肇, 藤井 壽生, 木田 哲量
    2006 年 62 巻 3 号 p. 369-382
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/07/20
    ジャーナル フリー
     分布型流出モデルの汎用性を高めるには,反映させる空間分布情報が洪水流出予測の精度に与える影響を検討する必要がある.本論文では,分布型流出モデルに反映させるモデルパラメータとして現地調査から得られた森林土壌データを設定し,衛星データから判読した土地被覆分類図を空間分布情報として利用した.また,分布型流出モデルの空間分解能を50mと250mに設定したモデルにおける洪水流出予測の精度について,実流域を対象とした洪水流出追跡計算を通じて検証した.追跡計算の結果良好な流出予測精度が得られ,現地調査方法の妥当性ならびに衛星データを利用する有効性が確認された.
  • 石 磊, 大西 正光, 小林 潔司
    2006 年 62 巻 3 号 p. 383-400
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/07/20
    ジャーナル フリー
     本研究ではPFI(Private Finance Initiative)事業の事業権契約を不完備契約として位置づけ,プロジェクト費用に介在するリスクがPFI事業の社会的効率性,及び財務的効率性に及ぼす影響を分析する.その際,負債契約の有限責任性と不完備性が,プロジェクト方法の選択における資産代替と,プロジェクトリスクの発生後における非効率な事業清算をもたらす原因になることを指摘する.さらに,事業権契約におけるサービス対価が完全競争的な入札制度で決定されるメカニズムについて考察する.その上で,公共主体が事業解除権を有し,かつ事業契約締結時にSPC(Special Purpose Company)より保証金を徴収することにより,PFI事業の社会的効率性と財務的効率性を同時に達成できることを理論的に明らかにする.
  • 村木 里志, 三星 昭宏, 松井 祐介, 野村 貴史
    2006 年 62 巻 3 号 p. 401-416
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/07/20
    ジャーナル フリー
     交通バリアフリー法やハートビル法の施行により,公共施設や設備のバリアフリー化が進められている.このような背景から,近年,公共施設利用時に生じる身体的負担を定量的に表し,公共施設のバリアフリー度合いを示す手法が必要となっている.そこで本研究は,公共施設内のスロープ走行を模擬できるトレッドミルを用いて車いす走行時の酸素摂取量等を測定し,身体的負担の定量化を試みた.その結果,一定距離当たりの酸素摂取量は登坂勾配に対して指数関数的に増加した.車いす走行時の身体的負担と移動距離の組み合わせから見た推奨されるスロープの勾配基準は4.0%以下であった.また,スロープの勾配と酸素摂取量との関係等から,車いす身体的負担算出モデルを提案した.
  • 前川 秀和, 高山 純一, 埒 正浩
    2006 年 62 巻 3 号 p. 430-439
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/07/20
    ジャーナル フリー
     道路計画の策定などを中心に,PIの重要性は広く認識され,実施事例も多くなっている.しかしながら,PIの効果を事後に検証したり,PI参加者の立場から評価したりしているものは極めて少ない.本研究は,国道8号加賀道路を事例に,PIに参加した市民等への事後アンケート調査により,市民参加の水準とPIの満足度,計画の認知度や満足度などとの関連分析を行い,PI参加者の参加水準の要因と影響を把握し,PIを実施する上での留意点を明らかにすることを目的とする.PIを実施するにあたっては,参加者の特性を踏まえた運用や,プロセスの妥当性の確保,市民との信頼関係の構築と,より地域に密着した情報提供や参加する立場に応じたコミュニケーション手法の採用が求められることを示した.
  • 羽鳥 剛史, 小林 潔司
    2006 年 62 巻 3 号 p. 442-459
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/18
    ジャーナル フリー
     本研究では,社会基盤整備における国民と行政との間の信頼形成を,国民を社会基盤整備の委託者,行政を受託者とする信頼ゲームを用いて分析する.その上で,行政が国民からの信頼を獲得するための方策として,第三者評価制度の有効性について検討する.その際,第三者委員間の相互評価メカニズムに基づくチェック&バランス機能に着目し,第三者委員会のメンバー構成のあり方として,1)単一の第三者評価,2)同質パネルによる第三者評価,3)異質パネルによる第三者評価,4)検証委員の参加による言語の共有化方策という4つの方策をとりあげる.さらに,これらの方策の下での信頼ゲームを分析し,社会基盤整備における国民と行政との間の信頼形成を実現する上での政策的含意をとりまとめる.
  • 円山 琢也
    2006 年 62 巻 3 号 p. 460-473
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/18
    ジャーナル フリー
     交通市場は,他の市場と異なり,需要量が発生交通量/OD/手段/経路/リンクとさまざまな集計レベルで表現されるという特徴を持つ.したがって交通プロジェクトの便益評価の際に,どの集計レベルで計測すべきか,という問題が生じる.この問題に対し,本研究は,内部整合的な交通需要予測モデルと価格指標を利用する限りでは,どの集計レベルの便益評価値も理論的に等しくなることを示す.この性質は,Nested Logitモデルを代表とするランダム効用理論と整合的な任意のモデルの場合,経路レベルの選択が確定的(完全代替的)な場合,任意のODレベルの需要関数を想定する場合,それぞれで成立することを明らかにする.また,この理論的性質の適用性について円山ら(2003)のモデルを用いて実証的に検討する.
  • 村上 睦夫, 日野 泰雄, 黒崎 剛史
    2006 年 62 巻 3 号 p. 474-482
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/09/20
    ジャーナル フリー
     本研究は連続高架橋道路を対象として,交通障害に大きく影響する伸縮継手をとりあげ,構造等の属性データと日常点検データから損傷要因を分析し,次のような知見を得た.1)伸縮継手損傷の主な要因は最大張出長,最大主桁間隔,補修からの経過年数,大型車交通量である.2)ゴムジョイントの損傷率は鋼製ジョイントの3~4倍であり,同一レーンで損傷を繰り返す傾向がある.3)新設または補修から20年を経ると損傷発生の可能性が急増する.4)損傷発生への寄与率の高い条件を整理し,これらを中心とした重点点検方式を提唱した.これらのことから,都市の重交通を担う連続高架橋を有効に活用するための適正な維持管理方法の提示が可能であることを示した.
  • 内田 賢悦, 加賀屋 誠一
    2006 年 62 巻 3 号 p. 483-495
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/09/20
    ジャーナル フリー
     本研究では,道路利用者の経路選択行動を考慮した道路舗装のLCC評価手法を提案する.道路利用者は,路面劣化による走行費用の変化,凍結防止剤散布によって管理される冬期の路面状態および修繕作業に伴う交通容量の変化に対して経路選択を行うことを仮定している.LCC最小化問題は,こうした道路利用者の反応をプロビット型SUEによって表現し,この均衡制約を条件としてLCCの最小化を行うImplicit Programとして定式化している.最後に,テストネットワークを対象とした,計算例を示している.
  • 布施 孝志, 安井 仁, 清水 英範
    2006 年 62 巻 3 号 p. 496-504
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/09/20
    ジャーナル フリー
     江戸市中における景観において,富士山等の遠地形は重要な要素の一つであったといわれている.しかしながら,史料に記述された地点以外における遠地形の視認可能性は,これまでのところ議論されていない.本研究では,当時の人々の眺望対象であった遠地形が江戸市中のいかなる地点から視認できたか,その可能性について分析を行うことを目的とする.最初に,古地図の幾何補正を行い,デジタル地形モデルを作成する.更に,視認可能性の分析にとって重要となる構造物の高さデータを整備する.これらのデータを用い,江戸市中からの富士山等の可視マップを作成する.その結果,史料に記載の見られない江戸各所からも富士山視認の可能性のあることが明らかとなった.
英文論文
  • Norio OKADA, Liping FANG, Keith W. HIPEL
    2006 年 62 巻 3 号 p. 417-429
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/07/20
    ジャーナル フリー
    An enlightened viewpoint in infrastructure management is put forward whereby institutional arrangements and physical facilities, as well as parts of the natural environment, are systematically coordinated to serve the common needs of different stakeholders in society in a sustainable fashion. A pressing issue in infrastructure management is how to encourage cooperation among divergent stakeholders who envision different alternatives to infrastructure development, management and renewal. Accordingly, requirements for public participation in infrastructure management in North America are discussed. Their policy and governance implications are also discussed including possible utilization in Japan. To facilitate conflict resolution, a range of techniques designed for handling multiple participant-multiple criteria problems are suggested.
国際会議報告
feedback
Top