土木学会論文集F5(土木技術者実践)
Online ISSN : 2185-6613
ISSN-L : 2185-6613
76 巻, 1 号
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和文論文
  • 西宮 宜昭, 花岡 伸也, 江上 雅彦, 山本 さおり
    2020 年 76 巻 1 号 p. 1-13
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/20
    ジャーナル フリー

     開発援助では,参加型のコミュニティ開発プロジェクトが増加しており,社会開発効果として関係者のエンパワーメントが重視されている.コミュニティ開発プロジェクトはインフラ整備を主な構成要素としているものの,投入内容・実践方法とエンパワーメントの関係は十分に分析されていない.本研究では,国際協力機構によって実施された59プロジェクトを対象に,著者らが構築したエンパワーメント発現メカニズムを用いて,投入内容・実践方法の違いが生み出すエンパワーメント発現差とそれらの差が生ずる要因を明らかにした.また,インフラの種類や実践方法により発現差が生じること,他のセクターと比較しインフラ整備がエンパワーメント発現に優位性を持つことを明らかにした.

  • 竹之内 健介, 藤原 宏之
    2020 年 76 巻 1 号 p. 14-25
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/02/20
    ジャーナル フリー

     2015年の水防法の改正を受け,想定最大規模に基づく新たな洪水ハザード情報の公表が推進されてきた.本研究では,三重県伊勢市宮川下流域を対象に,まずこの新たな洪水ハザード情報が,住民の災害対応の視点から評価した際にどのような個別性や地域性を生み出しうるか評価するとともに,住民を対象としたワークショップを通じて,個別性や地域性を考慮した利用方法がどのような効果を持つか確認した.

     結果,新たな洪水ハザード情報において災害対応における個別性や地域性が高まることが確認されるとともに,実際のワークショップのアンケート結果から,こういった個別性や地域性の向上が情報を通じたリスクコミュニケーションを高め,住民の洪水リスクの検討や洪水リスクと自身の関係認識,危険理解の向上につながる場合があることを確かめた.

  • 筒井 勝治, 村上 嘉謙, 喜多 伸明, 冨岡 健一
    2020 年 76 巻 1 号 p. 26-42
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/20
    ジャーナル フリー

     ラオス国では1990年代からBOT(建設・運営・譲渡)方式のIPP(独立発電事業会社)による水力開発と隣国タイへの電力輸出が進んでいる.後発プロジェクトでは,立地条件の厳しさや少数民族の移転問題等でプロジェクトの成立を左右する程の困難が強いられている.水力IPPの建設契約は,EPC(設計・調達・建設)契約を採ることが多いが,自然由来のリスクを抱えるためプロジェクトコストを押し上げている.同国のナムニアップ1水力発電プロジェクトでは,EPC契約とは異なる契約形態の採用,少数民族移転に対する事業会社の直接関与など,積極的なリスクコントロールに努めてきた.本論文では,リスク分担事例を分析し,建設契約の形態に言及しつつ,今後の海外水力IPPプロジェクトを進めるためのリスクマネジメントの方策を提案する.

  • 木下 義昭
    2020 年 76 巻 1 号 p. 52-65
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/20
    ジャーナル フリー

     全国的な橋梁メンテナンスサイクルの進捗状況は,定期点検の1巡目を終了したが,市町村の措置が遅れている.メンテナンスサイクルは措置が完了しなければ回らないため措置の遅延は問題である.さらに,自治体職員として,筆者が受けるメンテナンス最前線の住民要望は措置の進捗である.そこで,平成28年度当初から『措置の確実な進捗』を目的として,職員が直営施工により橋を修繕する『橋梁補修DIY』を実践してきた.これは地方であっても調達できる材料や機器を用いて,自治体職員が手づくりのメンテナンスを実践する取組みであるが,このようなメンテナンスサイクルの体制構築は容易ではない.筆者が人口6万人規模の市役所の制約条件に配慮しながら,調査と分析によってどのように直営施工を実践したのかについて示す.

  • 保田 敬一, 古木 守靖, 石川 博基
    2020 年 76 巻 1 号 p. 66-83
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/08/20
    ジャーナル フリー

     国土交通省はインフラシステム海外展開行動計画 2019を推進しているが,競合国に比べて日本の建設にかかるコストが高い等の指摘を当該国から頻繁にうけている.建設にかかる諸経費などを削減する努力はもちろん必要であるが,設計に関して途上国での条件設定に食い違いがあるなどの指摘もある.そこで本研究では,インフラシステム海外展開における競合国の一つである中国を対象にして,中国の途上国での設計例を抽出し,日本のそれと比較することで,日本の設計におけるコスト削減につながるような方策を検討することを目指す.具体的にはカンボジアでの中国施工橋梁を併設する日本施工橋梁と比較し,設計条件の設定方法,設計の考え方,維持管理面を考慮したLCC比較などから考察する.

  • 小林 亘, 大原 美保
    2020 年 76 巻 1 号 p. 84-97
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/20
    ジャーナル フリー

     地下街等において水害に対して適切に浸水防止や避難を行うには,降雨や水位等の状況を把握することが必要となる.本研究では地下街等の施設管理者の水防活動を調査し,必要な情報を入手するための情報システムの役割と課題を整理した.その結果,限られたエリアを多角的に把握したい施設管理者のリクワイヤメントに対して,自らの観測設備の情報を公平に広域的に提供する行政のシステムでは適合しないという課題が確認された.このため,統合的な水防情報システム「エリアレイン」を開発して,2018年8月から横浜駅西口の事業者等を利用者とする実証試験を開始した.「エリアレイン」は,対象エリアの情報を自動的に収集し,危険度の判定,情報の要約,関係者への通知,可視化を行う.利用者による有用性の評価は,浸水,水位,降雨,潮位の順であった.

  • 羽鳥 剛史, 大竹 勇太朗, 森脇 亮
    2020 年 76 巻 1 号 p. 98-112
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/20
    ジャーナル フリー

     現在,水防災意識社会の実現に向けて,洪水時の避難行動に結びつく洪水ハザードマップの作成・改良が求められている.本研究では,洪水災害に関する住民理解を促進し自主的な避難判断を導く上で,想定最大規模の水害を想定した現行のハザードマップの課題を検討する.その上で,その課題の克服を目指して,地域におけるゾーン毎の水害条件を明記した「ゾーン別ハザードマップ」を提案・開発し,愛媛県西予市野村地区の住民を対象として,その提示効果を検証した.その結果,ゾーン別ハザードマップの閲覧を通じて,洪水災害の条件に関する理解度が高まる効果が確認された.一方,洪水時の避難判断に関しては,ハザードマップ閲覧による直接的な効果は確認されなかったが,洪水災害への理解を介して間接的な効果を持ち得る可能性が示された.

  • 田中 亮輔, 冨岡 健一, 中村 和男, 筒井 勝治
    2020 年 76 巻 1 号 p. 113-123
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/20
    ジャーナル フリー

     ラオスでナムニアップ1水力発電所の建設を進めてきた.ラオスではインドシナ戦争時に,莫大な量の爆弾が投下され,その多くが今も不発弾として残され,現地住民が,不発弾の犠牲になることがしばしばある.また,大規模なダム建設や現地住民の移転を伴う水力発電プロジェクトでは,その建設工事を安全に進めるために,適切な不発弾の調査および除去が求められる.調査と除去の方法に関しては,ラオス政府機関が必要最低限の技術基準を定めているが,それ以外に建設契約や調査地点の特徴に応じた調査や除去の方法を設定する必要がある.本稿では,NNP1の建設工事をとおして実践した不発弾の調査と除去のプロセスについて論じ,ラオスにおける不発弾処理の実行可能な方法について提案する.

  • 松隈 俊佑, 福林 良典, 木村 亮
    2020 年 76 巻 1 号 p. 124-136
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/20
    ジャーナル フリー

     日本の草の根無償支援は,途上国の遠隔地で人間の基本的ニーズを満たすための個別の要請に応えることができ,事業形成から実施まで短期間で行われる点で重要なODAの一つである.一案件の事業費は1,000万円以下で,日本大使館を通じて現地業者等により学校や病院の建設が多く行われる.一方,それらへアクセスするための小規模道路の整備は要請も多いが,既往の事業実施体制では延長のある道路の複雑な詳細設計や,工期内に所定の品質で完成させる施工監理が困難なため,実施件数は少ない.

     本稿では,途上国での小規模道路整備の技術と経験を有する日本の国際NGOが詳細設計と施工監理をすることで実現した草の根無償の道路整備事例を示す.草の根無償を活用し,途上国の遠隔地でも地域社会の生命線である生活道路の整備を実現する方法を提案する.

和文報告
  • 西 喜士, 皆川 勝, 五艘 隆志
    2020 年 76 巻 1 号 p. 43-51
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/20
    ジャーナル フリー

     設計積算ミスによる入札中止などの手続は多くの地方自治体で発生しており,これにより本来整備されるべき公共施設の整備が遅れるなど住民サービスに多大な影響を及ぼし社会問題となっている.加えて,設計積算ミスは職員のモチベーションの低下につながる.設計積算ミスの防止に対して,各地方自治体は,地方自治体内部に委員会等を設置し検討しているが,確固たる原因分析モデルや防止対策等を構築できていないのが実情である.特に,この問題を学術的に研究している事例は見受けられない.

     本論文では,第一筆者の勤務している地方自治体における設計積算ミス多発事態の原因を分析し,近年において設計積算ミスが社会問題となった理由等を分析する.

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