産業界や大学を取り巻く環境は過去10年間の間に大きく変質したように感じられる。企業は、自社の人材育成がままならず、人材養成を受け持つ大学を始めとする教育機関も改革を迫られている。21世紀にわが国が生き延びていくには、人材の教育と技術開発しかない。本稿では、教育先進国・米国の事例を参照しながら、キャリア教育の基盤となるものをいま一度探り、その上で、学校から社会への移行を目指す真の職業指導・キャリア教育の方策を考える。パーソンズの職業指導の方策やホランドが分析したパーソナリティ・環境と職業興味の関係は周知の通りであるが、職業指導にせよ職業興味検査にせよ、極めて多くの個人情報とこれまで積み重ねてきた膨大な研究業績のもとに構築されたことを認識すべきである。この意味で、意義や目的を考慮せず安易に行われる各種の職務適性テストやキャリアカウンセリングに警鐘を鳴らしておく。一方、経済団体や各省庁が提案する「求められる人材像」について種々検証してみると、皮肉な言い方となるが、多くは基礎学力があることを前提に議論されたものであり、国内外に通用する教養や品格が基盤にあっての提言であると考えておいた方が良い。基礎学力や倫理・品格についての議論が少ないからである。結局、キャリア教育の基盤をなすものは、(1)自分の得意分野や性格を知る、(2)将来身をおくことになる産業や職業の動向を知る、(3)自己分析し自問自答した上で意思決定する、(4)職業に就いてからは生涯にわたり自己実現に向けて努力するという一連の論理に戻ることになる。まさにパーソンズの職業指導の原点である。こうした結論に基き、学校から社会へのスムーズな移行を目指すため職業指導・キャリア教育の骨格を示すことにする。
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