日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
第47回日本植物生理学会年会講演要旨集
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  • 池内 昌彦, 石塚 智和, 松本 浩二, 矢野 史子, 片山 光徳, 小林 真理
    p. S078
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
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    光合成生物においてレドックスセンシングは、さまざまな環境変化やストレスに応答して光合成などの機能順化に欠かせないしくみである。われわれはシアノバクテリアのゲノム機能解析、マイクロアレイ解析などからPrxR, SufR, IscR, Slr1161などのレドックスまたは活性酸素のセンサーを役割を明らかにしてきた。PrxRは活性酸素に応答して強力なペルオキシレドキシン遺伝子の発現を誘導するリプレッサーである。このPrxRには多くの細菌に保存された4個のシステイン残基のモチーフがあり、金属分析は亜鉛と鉄の結合を示した。これらのどのシステイン残基に変異を導入しても、鉄の結合や活性酸素の応答性が失われた。また、システイン残基の酸化還元だけでなく、鉄の酸化還元がセンシングに重要であった。このことは、PrxRの鉄システイン残基複合体が新規のレドックスセンサーの本体であることを示している。SufRは保存されたシステイン残基のモチーフをもち、鉄硫黄クラスタに固有の吸収スペクトルを示した。これらのセンサータンパク質の解析からレドックスや活性酸素などのセンシングのしくみについて議論する。
  • 小川 健一
    p. S079
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
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    多量に存在する抗酸化物質であるグルタチオン(GSH)によって,植物の生理的イベントの多くが調節されることを,われわれは最近報告してきた[Ogawa (2005) Antioxid. Redox Signal. 7: 973-981].GSHで制御されるイベントの多くは他のチオールでは制御不可能であることから,われわれはグルタチオン化(GSH分子のジスルフィド架橋を介した結合)を受けるタンパク質の機能に注目し,研究を行った.ここでは,葉緑体内でグルタチオン化を受けるタンパク質のひとつが成長と病害応答に関わること,およびそのタンパク質の機能がグルタチオン化で制御されることについて紹介する.GSH合成は光合成に強く依存することや成長や病害応答がGSHによって制御されることを考え併せると,植物の成長や病害応答は,たったひとつのタンパク質のグルタチオン化を介して光合成によって制御されると結論付けることができる.
  • 坪井 誠二
    p. S080
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
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    時間情報ホルモンであるメラトニンは松果体においてセロトニンから生合成される。セロトニンN-アセチル転移酵素(NAT)は律速酵素であり,その活性制御を通じてメラトニン合成が制御されている。NAT 活性は、cAMP を介する遺伝子レベル及びタンパク質レベルで制御されていることが明らかとなっている。しかし、実際の生理現象は複雑であり、cAMP を介する制御だけでは説明するのは困難である。以前より、NAT は SH 基修飾試薬である N-Ethylmaleimide (NEM) の添加により失活することから,NAT の活性化に SH 基の関与が示唆されていた。まず、我々は,NATのシステイン残基に注目し、NAT活性に重要なシステイン残基の同定を試みた。酸化型グルタチオン及び溶存酸素により酸化した場合 NATは失活したが,DTT または還元型グルタチオンの処理により活性は回復した。 [14C]-NEM の取り込み,及び部位特異的変異導入 NAT を用いた実験より,61及び177番目のシステインが活性に重要であることが明らかとなった。更に,このシステイン間の-SH/-S-S- 結合の変換が NAT 活性を調節していることを見出した。これらの結果より,NAT には還元型(-SH,活性型)と酸化型(-S-S-,不活性型)が存在し,これは Cys 61 と Cys 177 の間で -SH/-S-S- 結合の変換によって引き起こされており,この変換にグルタチオンが関与していることが明らかとなった。
  • 小林 正智
    p. S081
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
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    2000年12月にシロイヌナズナの全ゲノム塩基配列が解読されて以降、シロイヌナズナが持つとされる27,000遺伝子全ての機能を明らかにしようとする意欲的なプロジェクトが進んでいる。その中核となる米国の2010年プロジェクトでは、全ての遺伝子のcDNAや破壊株を提供することを目指してリソースの整備が進められてきた。その結果現在では全遺伝子に対して約7割にあたるcDNA、8割にあたる破壊株が作成済みである。このうち完全長cDNAに関しては理研GSCが作成したArabidopsis full-length cDNA (RAFL) cloneが最大のコレクションであり、世界標準のリソースとして理研BRCから全世界に配布されている。また同じく理研GSCが作成したトランスポゾンタグラインも遺伝子破壊株に対する世界の需要を満たすべく理研BRCから配布されている。このようにNBRPシロイヌナズナ/植物培養細胞・遺伝子の課題はモデル実験植物シロイヌナズナの研究において国際的に大きな貢献を果たしており、これからも植物リソース分野における日本の存在を世界に発信するべく活動したい。更にシロイヌナズナの全遺伝子機能解明の向こうに見える多様性に着目した研究に向け、シロイヌナズナの野生株や近縁種などのリソース整備にも地道に取り組みたい。
  • 明石 良
    p. S082
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
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    ミヤコグサ(Lotus japonicus)は、わが国に広く自生する一年性マメ科植物で、ゲノムサイズが小さく、ライフサイクルが短いなどの特徴からマメ科のモデル植物として利用されている。一方、ダイズ(Glycine max)は古くから重要な農業用作物として栽培され、その基礎的研究も多く蓄積されている。ミヤコグサで収集・開発されるリソースとその情報は、根粒菌との共生による収量性の改良や栄養機能性の向上等、ダイズにおける多種多様な研究の効率化を図る上で欠かせない。本事業は、基礎研究(ミヤコグサ)から応用研究(ダイズ)までを広くカバーできるリソースを提供することで、マメ科植物における研究基盤の構築を目指している。
    現在、ホームページ「Legume Base」(http://www.legumebase.agr.miyazaki-u.ac.jp)を公開しており、配布リソースを初め、ミヤコグサデータベースでは採取地の位置・気象情報の他に、宮崎県宮崎市および北海道札幌市で評価した形態データを公開し、形態データからもアクセションの検索を行うことができる。ダイズのデータベースでは採取地、アイソザイム遺伝子型、葉緑体ゲノム型、ミトコンドリアゲノム型等からアクセションの検索が可能である。本データベースの整備に伴い、配布系統の情報を検索することで、研究目的にあった系統を選択することが可能となっている。
  • 佐藤 和広
    p. S083
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
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    ビール原料や家畜の飼料として重要な穀物であるオオムギには,農業的に有用な遺伝情報が蓄積されている.また,単子葉類植物の中でイネと並んで自殖性二倍体のオオムギは遺伝学的研究が進んでいる.岡山大学資源生物科学研究所のオオムギリソースセンターでは,世界各地から収集したオオムギの在来品種や突然変異系統・同質遺伝子系統など約1万系統を保存し,そのうち約6千系統をデータベース化して内外の研究者に提供している.一方で,オオムギのゲノムサイズは約5,000Mbpと大きいため,これまでのところ42万におよぶESTを中心としたゲノム解析が進められてきた.これらのEST情報は国際コンソシアムによってGeneChipシステムが開発されるなど有効に活用されている.岡山大学では約12万クローンのcDNAを保存し,配列をデータベースに公開すると共に,完全長cDNAの作製を進めている.また,我が国のオオムギ品種に由来するBACライブラリー(6x,30万クローン)を作製して,高密度フィルター,プールDNAなどを作製して保存,提供している.一方,オオムギの形質転換は未だ容易でなく,タグラインやRNAi等の利用も難しいので,TILLINGを用いた実験系の開発を進めている.このようなゲノムリソースを利用して保存系統を管理し,有効に利用することはオオムギの多様性を捉える上で重要である.
  • 倉田 のり, 佐藤 光, 吉村 淳, 佐藤 洋一郎, 北野 英巳, 長戸 康郎
    p. S084
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
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    イネゲノム全配列が決定され、機能ゲノム研究のための種々の遺伝系統の整備も進んでいる。一方大学等では長年に亘り野生イネ系統群、染色体置換系統群、高頻度ミュータント集団など独自の系統群を収集、開発しており、今後のイネゲノム機能解析、進化、育種などの研究に不可欠の貴重な素材を持っている。これらの遺伝資源は、ナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)により、系統整備と情報公開を進めている。遺伝資源は(1)9ゲノム23種をカバーした3,000系統以上の野生イネ、(2)野生や生態型の異なるイネの染色体断片を導入した栽培イネ1,000系統におよぶ染色体置換系統シリーズなど、および(3)NMU処理突然変異体プール(5,000系統)である。NBRP開始以降に、野生イネはアメリカでのOMAP計画も進んでおり、今後野生イネ系統と染色体置換系統は、野生特異的遺伝子同定や進化・多様性研究にますます重要となってきた。またNMU処理突然変異体プールについては、別プロジェクトにおいてTILLINGによる遺伝子変異の検索を行った結果、高頻度の変異集積集団であることがわかり、全ての遺伝子の変異アレルの検出が可能であると考えられる。この変異系統は、今後の遺伝子機能、発生、生理機能研究のツールの重要な柱のひとつとなろう。NBRPイネリソースの現状と今後についてのトピックスを紹介する。
  • 荻原 保成
    p. S085
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
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    コムギは世界の最重要穀物である。種・属間の交雑親和性が高いため、近縁なエギロプス属、ライムギ属、オオムギ属などとの雑種が容易に形成される。その特性をいかして人工倍数種や染色体添加/欠失系統などの異数体系統が育成されている。雑種の染色体対合の頻度を指標にしてコムギ・エギロプス属植物のもつ核ゲノムにゲノム記号が与えられている。また、コムギ・エギロプス属すべての種の細胞質とパンコムギの核とを組み合わせた核・細胞質雑種が育成され、細胞質ゲノムの表現型に及ぼす影響を調べるとともに相互の類縁関係が推定されている。このように、近縁な植物間で体系的に核ゲノム、細胞質ゲノムの両者を特徴付けた植物種は他に類例をみない。
    コムギ属は倍数化により進化してきたことを特徴とする。各ゲノムのゲノムサイズが大きいため、これまでゲノムサイエンスには必ずしも適していないと考えられていた。しかし、DNAランドマーカーの充実、ESTクローンの蓄積、オリゴDNAマイクロアレイの作成、高分子DNA断片によるゲノムライブラリーの構築(6倍体であるパンコムギと祖先4倍体、2倍体の各ライブラリーが整備されている)により、植物に特徴的な倍数性を解析するモデル植物として期待されている。
  • 篠崎 一雄
    p. S086
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
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    シロイヌナズナ、イネなどのゲノムシークエンスの精密解読が終了し、これらのゲノム情報を基礎に植物のいろいろな生理機能、発生・分化などをシステムとして理解する新たな植物研究が始まっています。また、種々の作物のゲノム解析が急速に進んでいます。モデル植物のゲノム機能解析で得られた知識を利用して作物や樹木に応用するバイオテクノロジーへの展開が期待されています。
    シロイヌナズナでは2万6千個以上あると考えられるタンパクをコードする遺伝子以外に多くの新規機能を持ったRNA遺伝子が次々と発見されており、3万個以上あるとされる遺伝子の機能を解析するための2010プロジェクトが国際的な協力で進められています。ゲノム機能解析、発現解析のための多くの新規技術、変異体リソース、完全長cDNAなどが開発され、いわゆるOMICSをベースにしたゲノム機能研究が精力的に進められています。本講演ではシロイヌナズナ、イネを中心としたゲノム機能研究の展開と比較ゲノム研究による作物、樹木への新たな研究の将来に関して展望します。
  • 江面 浩
    p. S087
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
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    矮性トマト品種Micro-Tomは、小面積で多くの個体が栽培できる、世代時間が短い(1世代75-90日)、蛍光灯の下でも結実・採種できるなどの特性からナス科のモデル植物としてゲノム研究に使用されている。我々のグループでは、Micro-TomのEMS誘導変異体系統の整備と変異体の選抜・集積、これらのリソースの有効利用のための技術開発に取り組んでいる。現在までに、13,000種子にEMS処理を行い、3,800系統のM2種子を採取した。最終的には5,000系統以上のM2種子を獲得予定である。M2系統を栽培し、外観による変異体選抜を行っており、葉色(淡緑、濃緑)、草型(矮性、多分枝など)、果実型(球形、洋ナシ形など)、花弁の色(淡黄色)についての変異体を選抜している。また、TILLING法による変異体選抜法の開発にも取り組んでいる。さらに、将来的なTag line整備に向けたMicro-Tomの形質転換法の開発も行い、高効率で、再現性のある形質転換法を確立した。この方法は、Micro-Tomリソース整備のキーテクノロジーになると期待している。M2系統の整備は、関係機関との協力で実施しているため、各所で得られた変異体情報集積のためのオンラインデータベース作成にも取組んでいる。以上の、Micro-Tomのリソースは体制が整い次第、増殖・配布を行いたいと考えている。
  • 鳴坂 義弘, 鳴坂 真理
    p. S088
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
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    モデル植物で行われている基礎研究を作物に応用していくことは研究成果の社会還元をすすめる上で極めて重要であるとともに、シロイヌナズナのリソースや関連情報の有効活用にもつながる。我々はシロイヌナズナで蓄積されているリソースや関連情報、および技術をアブラナ科の作物に応用する道筋を作ることを目的としている。農作物ハクサイとモデル植物シロイヌナズナは同じアブラナ科植物であるが、その形状、大きさ、生活環は大きく異なる。また、ハクサイは根こぶ病、軟腐病、ウイルス病、炭そ病など多くの病害に弱く、耐病性品種の育成に向けた有用遺伝子資源の探索と、病害抵抗性機構の解明が切望されている。ハクサイに感染する病原体の多くはシロイヌナズナにも感染することができる。したがって、モデル植物シロイヌナズナと同じアブラナ科植物での比較ゲノムおよび機能ゲノム解析は、同一の病原体感染系を利用でき、モデル植物で得た知見を最大限利用できる点で極めて有効である。我々は、ハクサイESTライブラリーを作製し、独立した約2,000遺伝子を得、ESTマイクロアレイを構築した。さらに、ハクサイ完全長cDNAライブラリーを作製し、シロイヌナズナとの比較ゲノムおよび機能ゲノム解析のための遺伝子資源を確保した。本シンポジウムでは、ハクサイ研究の現状について報告する。
  • 長村 吉晃, 本山 立子, バルタザール アントニオ
    p. S089
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
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    マイクロアレイ技術(DNAマイクロアレイ、DNAチップ)は、1990年代後半に開発され、一度に数千から数万種類の遺伝子の発現状況をみることを可能にする技術であり、ゲノム機能解析のための重要なツールの1つである。
    DNAマイクロアレイ技術が開発された初期は、高価でしかも再現性に欠ける等の問題も見られたが、近年の著しい技術進展により、比較的安価に再現性の良いデータが得られるようになり、公汎に利用されるようになってきている。しかしながら、1研究室で機器を整備しアレイ解析を行うには、コスト面や稼働率の問題等の課題も残されている。生物研イネゲノムリソースセンターでは、Agilent社のマイクロアレイ解析機器を導入し、国内の研究者が比較的容易にマイクロアレイ解析ができる環境整備及び解析システムの確立を行い、オープンラボとしてアレイ解析支援を実施している。イネ22Kアレイ、アラビドプシス22K&44Kアレイ及びカイコ22Kアレイ等の解析において、2年間に約250組のサポートを実施した。本シンポジウムでは、リソースセンターで実施しているマイクロアレイ解析システム及びオープンラボについて紹介する。
  • 松井 南, 櫻井 哲也, 小田 賢司, 篠崎 一雄, 廣近 洋彦
    p. S090
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
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    完全長cDNAは、遺伝子本体であり、種々の植物での整備は、将来の農業を見据えた場合の戦略として重要なリソースである。完全長cDNAの活用法としてのひとつとして、植物の機能付加が挙げられる。機能を持ったタンパク質産生は、完全長cDNAのみが行えることである。完全長cDNAを別々に植物へ導入することで、総合的な機能的な付加を起こさせ、種々の範疇での有用形質選抜や、基礎的な形質の選抜に用いることが可能になる。特に生物内には、機能的、構造的に重複した遺伝子ファミリーが存在するため、従来の欠損型の変異体では、見出せない形質が多い。このような形質は、機能付加により見出した形質を元にしての解析が可能になる。私たちは、完全長cDNAを個々に植物内で発現させ機能付加を系統的に起こさせる遺伝子機能探索のツールとしてのシステム(フォックスハンティングシステム)を開発した。私たちはシロイヌナズナの約10,000種類の独立した完全長cDNAをシロイヌナズナへ導入したナズナFOXライン約10,000系統と、(独)農業生物資源研究所で収集した約13,000のイネ完全長cDNAをシロイヌナズナへ導入したイネFOXラインを約5,000系統作成している。これらのリソースは、形態形成、光環境、ストレス耐性といった種々の選抜を行なうことで有用遺伝子探索に用いている。研究に用いる変異体リソース整備とそれらの活用について説明する。
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