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岡島 公司, 池内 昌彦
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S028
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
フリー
フラビンを結合するBLUFドメインタンパク質は、クリプトクロム、フォトトロピンに続く第3の青色光受容体として注目されている。BLUFタンパク質は原核生物に広く分布しており、一部の真核藻類にも存在し、青色光に応答する現象に広くかかわっていることを示している。われわれは、シアノバクテリア
Synechocystis sp. PCC 6803のBLUFタンパク質SyPixD (Slr1694)が負の走光性にかかわることを示した。また、このホモログTePixD(Tll0078)を好熱性シアノバクテリア
Thermosynechococcus elongatus BP-1の遺伝子から発現し、結晶構造を明らかにした。これに引き続き、光合成細菌のBLUFタンパク質AppAとBlrBの構造も決定された。これらの構造は本質的にはよく似ており、光変換反応に必要な残基の役割も相同であると考えられる。われわれはSyPixDとTePixDの部位特異変異導入と分光解析、生化学解析を組み合わせて解析を進めており、PixDタンパク質の光反応とシグナリング過程をその分子構造から明らかにした。
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伊関 峰生
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S029
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
フリー
光活性化アデニル酸シクラーゼ(Photoactivated adenylyl cyclase, PAC)は、単細胞鞭毛藻ミドリムシ(
Euglena gracilis)の光回避反応センサーとして同定された新規フラビンタンパク質である。PACはαβのサブユニットから成るヘテロ四量体と推定され、それぞれのサブユニットにはフラビンを結合するBLUFドメイン(F1, F2)とアデニル酸シクラーゼ触媒ドメイン(C1, C2)が交互に2箇所ずつ存在する。ミドリムシから精製されたPACのアデニル酸シクラーゼ活性は光照射によって顕著に増大する。PACの光活性化は照射光量依存的であり、その波長依存性は紫外~青色域にピークを持ち、典型的なフラビンによる吸収を反映したものである。これらはミドリムシ光回避反応の生理学的データとも良く符合する。BLUFドメインの一方(F2)を含む部分タンパク質を大腸菌で発現させると、フラビンを結合した状態で回収可能であり、それに青色光を照射すると、他のBLUFタンパク質でよく知られた吸収スペクトルの長波長シフトが観察される。このことから、PACにおいても光活性化の初期過程はAppAやPixD等、バクテリアのBLUFタンパク質と類似のものであると考えられる。
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徳富 哲
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S030
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
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青色光受容体の一つフォトトロピン(phot)は、光屈性の光受容体として見つけられが、その後、葉緑体光定位運動、気孔開口光制御などの光合成活性の最適化に関わる機能の光受容体でもあることも明らかになった。N-末端側に、FMNを結合した発色団ドメインを二つ(LOV1とLOV2)、C-末端側にセリン/スレオニンキナーゼドメインをもつ。LOVドメインはPASドメインのサブファミリーで、Light-Oxygen-Voltageのsensingに関与するPASドメインと言う意味で付けられた。青色光はLOVドメインのFMNに吸収され、励起3重項状態を経て、ドメイン内に保存されたシステインと光付加物を形成する。同光反応がタンパク質部分の2次構造変化などを引き起こし、何らかの過程を経てキナーゼ活性が制御されると考えられる。シロイヌナズナにはphot1とphot2の2種類が存在し、各々が異なる光感受性をもち、上記生理反応を制御している。phot2キナーゼ活性光制御に於いては、LOV2が光制御スイッチ、LOV1が光感受性のアテネーターとして働いている。さらに最近シロイヌナズナには、N-末端側からLOVドメイン、F-ボックス、Kelchリピートをもつ、3種類のLOVタンパク質、ZTL、LKP2、FKF1、が見つけられた。これらは、ユビキチン-プロテアソームタンパク質分解系を経て、ターゲットタンパク質を分解することにより、花成誘導などの制御をしていると考えられている。
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Hideki Kandori
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S031
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
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Archaeal rhodopsins convert light into energy or signal. Bacteriorhodopsin (BR) and halorhodopsin (HR) are light-driven proton and chloride pumps, respectively. Sensory rhodopsin (sR) and phoborhodopsin (pR) are light sensors for positive and negative phototaxis, respectively. BR is one of the best understood membrane proteins, and the proton-pump mechanism has been extensively studied. We previously showed that replacement of a single amino acid converts BR into a chloride pump like HR. This suggested the mechanism of light-driven ion pumps. By means of infrared spectroscopy of internal water molecules, we have revealed another key element of light-driven proton pump. sR and pR form a complex with their transducer proteins in dark, and light-induced protein structural changes weaken the interaction. Interestingly, sR and pR pump protons in the absence of transducer. It is likely that various functions in archaeal rhodopsins emerge from common structural basis and fine tuning of active centers.
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松下 智直
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S032
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
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植物の主要な光情報受容体であるフィトクロムB(phyB)のポリペプチドは、発色団を結合し光受容に働くN末端領域と、二量体化に働くC末端領域の二つのドメインから成る。C末端領域にはキナーゼドメインやPASドメインなどシグナル伝達に関与すると思われるモチーフが存在するために、これまで長い間、phyB分子はC末端領域からシグナルを伝達すると信じられてきた。しかしながら、我々の最近の研究により、phyBがC末端領域からではなくN末端領域からシグナルを伝達することが明確に示され、フィトクロム分子の構造と機能に対するこれまでの考え方を改める必要が生じた。フィトクロム分子のN末端領域にはシグナル伝達や遺伝子発現制御に関与するような目立ったモチーフは存在せず、そのシグナル伝達機構は全く不明である。そこで我々は、遺伝学的解析を行い、phyB N末端領域内でシグナル発信に直接関与するアミノ酸残基の同定を試みた。その結果我々は、phyB分子の光受容能に全く影響を与えることなくシグナル伝達能のみを失わせるミスセンス変異を7個同定し、それらは興味深いことにN末端領域内の比較的小さな領域にホットスポットを形成した。この領域は、一部のバクテリオフィトクロムにおいて、タンパク質間相互作用に関与すると考えられるPASドメインとして認識されていることから、phyB分子がこの領域を介して下流因子と相互作用し、シグナルを伝達する可能性が示唆された。
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吉原 静恵
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S033
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
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フィトクロムは植物の様々な光応答に関わる光受容体だが、近年ではバクテリアのゲノムからも多くのフィトクロム様遺伝子が見いだされている。フィトクロムの特徴として、保存されたGAFドメインに開環テトラピロールを共有結合し、赤色光吸収型(Pr)と遠赤色光吸収型(Pfr)の間を可逆的に変換する性質が知られている。
単細胞性シアノバクテリア
Synechocystis sp. PCC 6803は光の方向に応答した運動性(走光性)を示すが、光の方向へ向かう正の走光性にはフィトクロム様光受容体PixJ1が必至である。シアノバクテリアから単離したPixJ1タンパク質は開環テトラピロールを共有結合し、青色光吸収型(Pb型、最大吸収435 nm)と緑色光吸収型(Pg型、最大吸収535 nm)の間を可逆的に光変換する新奇の光受容体である。この性質は大腸菌を用いた赤色光を吸収する開環テトラピロールPCBとの共発現系によって再現した。PixJ1は、PCBまたはPCB様の発色団を結合し、π電子共役系をねじ曲げることによって吸収を青色光領域へシフトさせると考えられる。
GAFドメインの系統解析は、PixJ1が赤/遠赤色光吸収型のフィトクロムとは異なる枝に分類されることを示している。さらに、GAFドメインを持ち新規性のある吸収特性を示すシアノバクテリアの光受容体候補(cyanobacteriochromes)の存在が示唆された。
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沈 建仁, 内藤 久志, 古瀬 宗則, 西條 慎也, 大熊 章郎, 川上 恵典, 逸見 隆博, 神谷 信夫
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S034
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
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光化学系II(PSII)の結晶構造はこれまで演者らを含めて3つのグループから報告され、それらによりPSIIサブユニットの全体構造やほぼすべての電子伝達体の相対配置などが明らかになり、PSII機能の新しい側面が議論できるようになった。しかし、これまで報告されたPSII結晶構造の分解能は3.5A前後であり、PSII構成サブユニットの全アミノ酸残基の側鎖や水分解を直接触媒しているMnクラスターの詳細な構造を解明するにはいたっていない。演者らは好熱性ラン色細菌
Thermosynechococcus vulcanus由来PSII精製方法・結晶化条件・結晶の低温凍結条件等を改良することにより分解能3.3Aの回折データを収集し、これを用いてすでに報告したPSIIの構造モデルを改良している。本講演では、改良されたPSIIの構造に基づき、PSII反応中心における初期電化分離とそれに伴う電子伝達反応、CP47, CP43から反応中心へのエネルギー移動、βカロチンを含めた二次電子伝達反応、水分解・酸素発生反応を直接触媒しているMnクラスター等の機能について議論し、PSII結晶構造解析の現状と課題について展望する。
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伊福 健太郎, 山本 由弥子, 佐藤 文彦
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S035
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
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光化学系II複合体(PSII)のルメーン側に結合している膜表在性タンパク質群は、酸素発生系(OEC)タンパク質とも呼ばれる。そのサブユニット構成、及び、各々のタンパク質の性質は、真核生物と原核生物の酸素発生型光合成生物間で大きく異なっていることが知られてきた。そして近年、ゲノム情報と構造生物学的知見の集積、遺伝子機能解析技術の発達に伴い、OECタンパク質に関する多くの新たな知見が集積しつつある。その中で我々の研究グループは、高等植物のOECタンパク質の立体構造と分子、生理機能に関する研究を進めてきた。これまでに、高等植物(緑藻)に特徴的に存在するPsbPタンパク質の三次元立体構造を明らかにすると共に、その立体構造情報を元にした生化学的機能解析を行った。また遺伝子発現抑制植物体の解析から、シアノバクテリアと異なり高等植物では、核にコードされる2つのOECタンパク質(PsbOとPsbP)にPSIIの蓄積と活性制御が大きく依存している事を明らかにした。本シンポジウムにおける講演では、我々がこれまでに得てきている知見と集積している数多くの知見を総合し、酸素発生型光合成生物におけるOECタンパク質の立体構造と機能分化の関係を議論する。
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野口 巧
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S036
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
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最近、3つのグループより3.2−3.8Å の分解能で好熱性シアノバクテリアの光化学系IIコア蛋白質のX線結晶構造が明らかにされた。このことは、光化学系II研究が、その構造に基づいて、より分子論的に議論され得る、新たな展開期に入ったことを意味する。しかしながら、実際に光化学系IIにおける電子移動、プロトン移動、とりわけ酸素発生反応の分子メカニズムを解明するためには、X線結晶解析からの構造情報だけでは不十分であり、プロトンの位置や、水素結合構造など、より精密な分子構造と、その反応に際しての構造変化を検知できる他の分光学的手法が必要である。フーリエ変換赤外分光法(FTIR)は、そのような目的に最も適した手法である。電子伝達コファクターや、アミノ酸側鎖、蛋白質骨格に特有な赤外吸収バンドを解析することにより、それらの分子構造、すなわち、化学結合や水素結合の有無や強度を調べることができる。また、光合成蛋白質では、光反応による微少スペクトル変化を観測することにより、各コファクターの構造や反応の情報のみを抽出して得ることができる。このような、X線結晶構造に基づいた、FTIR法による光化学系II蛋白質の構造と反応メカニズムの研究を、酸素発生マンガンクラスター、クロロフィル分子(P680, Chl
D1, Chl
Z)、キノン電子受容体(Q
A, Q
B)などを例に挙げて紹介する。
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Genji Kurisu, Jiusheng Yan, Huamin Zhang, William A. Cramer
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S037
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
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The cytochrome
b6f complex mediates electron transfer between Photosystem II and Photosystem I. The electron transfer events are linked to proton translocation across the membrane. Three-dimensional structures of the
b6f complex with the quinone analogue inhibitor, TDS, have been reported at 3.0 A and 3.1 A resolutions, respectively, from
M. laminosus and
C. reinhardti. Structures of the native complex, and complex co-crystallized the quinone analogue DBMIB, have also been obtained from
M. laminosus at a resolution of 3.4 A and 3.8 A. These structural details have provided deeper insight into the pathways and mechanisms that govern electron and proton traffic across the membrane. Three novel prosthetic groups, a chlorophyll
a, a β-carotene, and a structurally unique heme, are present in the
b6f complex that are not found in the related
bc1 complex. It is hypothesized that these unique prosthetic groups can function alternatively, such as in the cyclic electron transport.
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高橋 裕一郎, 小澤 真一郎, 大西 岳人
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S038
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
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光化学系 I(系I)は系IIと同様に数多くのサブユニットとコファクターを結合する超分子複合体である。集光性クロロフィルタンパクLHCIを強く結合し、光条件に依存してLHCIIも可逆的に結合すると考えられる。また、機能としてはNADP+を還元する非循環的電子伝達とATPの生成に関わる循環的電子伝達の反応を駆動し、両者の活性の調節機能も持つことが予想されている。このように系Iは構造と機能がダイナミックに変動するが、その分子機構のほとんどは未解明である。ここでは系I複合体のサブユニット構造について紹介し、それらが段階的にアセンブリーするモデルについて提案する。このアセンブリー過程は迅速に進むため、これまでにその中間体の検出が困難であったが、それをどのように克服していくかについて議論する。また、系1複合体の分子集合を介添えする分子集合装置の単離・精製について紹介する。さらに、系1複合体の構造と動態についての今後の研究についても議論を深めたい。
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Guy T. Hanke, Yoko Kimata-Ariga, Toshiharu Hase
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S039
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
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Ferredoxin (Fd): NADPH oxidoreductase (FNR) catalyzes reduction of NADP+, in the final step of linear photosynthetic electron transport, and is also implicated in cyclic electron flow. We have identified leaf FNR isoenzymes in maize (ZmLFNR1, ZmLFNR2, ZmLFNR3) and Arabidopsis (AtLFNR1, AtLFNR2). They are differentially localized between the thylakoid membrane and stroma, particularly in maize, where ZmLFNR3 is exclusively soluble, ZmLFNR1 is only found at the thylakoid membrane and ZmLFNR2 has a dual distribution. Thylakoidal isozymes are found to associate with the cyt b6f complex. Although Fd reduction ability of LFNR isoenzymes showed no significant difference, their Fd interactions, which depend on specific salt bridges, vary in a pH dependent manner, indicating that photosynthetic status may determine the ratio of electron flux through different isoenzymes. We are currently characterizing Arabidopsis plants lacking AtLFNR1. These combined results are discussed in terms of the effect of functional differentiation of LFNRs on electron partitioning.
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皆川 純, 岩井 優和, 高橋 拓子, 高橋 裕一郎
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S040
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
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ステート遷移は,集光性アンテナタンパク質(LHCII)を光化学系II(PSII)と光化学系Iの間で再分配する光合成系の短期光環境適応機構の一つであり,NPQ現象の1つとして観察される.PSIIがより励起されると,PSIIの周辺に位置しPSIIのアンテナの一部として機能していたLHCII分子は,PSIIから脱離しPSIと結合する(ステート2).これまでこの遊動するLHCIIサブユニットの正体は明らかではなかった.我々は,生化学的取り扱いに優れ,高等植物と比較し大きなステート遷移能力を持つ緑藻クラミドモナスをステート2に固定し,PSI-LHCI/LHCII超分子複合体を精製することに成功した.超分子複合体に結合する遊動性LHCIIサブユニットは,マイナーLHCIIとして知られるCP26,CP29,そしてメジャーLHCII タイプII (LhcbM5) と同定された.マイナーLHCIIはPSIIコアとメジャーLHCIIの間に位置し,従来PSII固有の成分であるとされてきた.また,これらの3つのLHCIIサブユニットは,多数のLHCIIサブユニットの中でも進化系統的にもっともLHCIに近い.我々は,これらLHCIIサブユニットは,PSIとPSIIをシャトルされることにより,両光化学系においてメジャーLHCIIの結合部位として機能していると考えている.
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山本 和生
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S041
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
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太陽光線に含まれる紫外線(UV)は,動物・植物に致死効果を示すほかに,突然変異や発がん・老化などを誘発する。これは,UVがDNAに作用し,DNA損傷を引き起こすからである。DNA損傷としては, DNAへのUVの直接作用によるピリミジン二量体(CPD)や6-4付加体の他に,間接的に生じる活性酸素によるDNA塩基損傷などがある。CPDや6-4付加体は,DNA複製や転写を阻害することで,致死作用をあらわす。CPDや6-4付加体1個あたりの致死効果及び突然変異誘発効果はほぼ同じである。一方,生物はDNA損傷を修復する能力を持っている。修復機構としては,1)光回復,2)ヌクレオチド除去修復,3)組み換え修復,4)塩基除去修復,5)損傷乗り越え修復等に分類することが出来る。このうち,1),2),4)の修復は細胞の周期がS期以外にあるときに,3),5)はS期にDNA複製がUV損傷で阻害されたときに機能する。後者の場合,組み換え機構を利用するか,損傷乗り越え修復を利用するかを植物が選択し,損傷乗り越え修復の場合は,更に突然変異の増加を伴う。1)~5)に関わる植物の遺伝子がクローニングされ,今までの所,大腸菌,酵母,ヒトなどで調べられたと相同な配列を持つものであることが示された。従って,植物DNA損傷修復遺伝子産物による修復機構は,酵母やヒトと似たものである。
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山本 興太朗, 藤部 貴宏
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S042
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
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葉緑体で酸化ストレス耐性を示す植物はUV-B耐性になるのではないかと考え、シロイヌナズナでパラコート耐性突然変異体を単離したところ、それはオゾン高感受性突然変異
rcd1(Overmyer et al., 2000; Ahlfors et al., 2004)の対立遺伝子だった(
rcd1-2)。
rcd1-2は短期のUV-B照射に対して耐性で、凍結ストレスにも耐性が若干高かった。また、UV-B遮蔽色素やアントシアンの含有量も増加していた。葉緑体型Cu/Znスーパーオキシドジスムターゼやストロマ局在型アスコルビン酸ペルオキシダーゼのmRNAレベルが上昇していることがパラコート耐性の原因と考えられる。
RCD1は転写調節に関わると予想されるCEO1タンパク質(Belles-Boix et al., 2000)をコードしていることを考えると、RCD1は様々なストレス応答に対する構成的抑制因子であり、
rcd1ではその抑制が解除されて様々なストレス応答が起こり、上述の表現型が生ずるのだろう。
35Sプロモーターを用いて
RCD1過剰発現体を作成したところ、同株は
rcd1と野生型の間の中間的なオゾン感受性を示したが、パラコート耐性は示さず、
rcd1-2のパラコート耐性を完全に相補した。さらに、RCD1の細胞内局在性をタマネギ表皮細胞の一時的発現で観察したところ、細胞核内でパッチ状に局在することがわかった。
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田中 淳, 坂本 綾子, 高橋 真哉, 長谷 純宏
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S043
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
フリー
植物の紫外線に対する応答やその防御機構には、フラボノイド等の紫外線吸収物質や紫外線により誘発されるDNA損傷の光回復と暗修復、また二次的に生成される活性酸素を消去する酵素群等の存在が明らかにされてきているが、その全容は明らかでない。そこで我々は、新しい変異原としてイオンビームを用いて紫外線耐性能が野生型とは変化したシロイヌナズナの突然変異体を誘発し、その原因遺伝子の解析を進めている。イオンビームは、エネルギー付与の特徴から、従来では起こりにくい変異を誘発し、結果として新規突然変異体の獲得が期待される。全く新しい変異体として見出された紫外線感受性変異体
rev3とこれに関連した
rev1, rev7変異体の解析から、哺乳動物や酵母に存在する損傷乗り越え複製(TLS)機構が植物にも存在し、DNA損傷からの回復としてDNA修復以外の主要な機能を果たしていることが明らかとなった。一方、野生株よりも紫外線照射下で生長の良い突然変異体
uvi1, uvi4が作出され、その解析から、現在の野生型よりもさらに耐性を増加させる要因として、DNA修復系の制御や核内倍加が関与していることも見出された。これらの結果は、シロイヌナズナの紫外線耐性機構が想像されていたよりもはるかに複雑であり、植物の成長段階や各組織、また細胞周期などと密接に関連しており、その全容解明には今後も数多くの変異体の獲得と遺伝子の解析が必要であると言えよう。
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上田 忠正, 矢野 昌裕
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S044
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
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イネは品種により紫外線に対する抵抗性が異なる。日本型品種品種日本晴はインド型品種Kasalathに比べて強い紫外線抵抗性を示す。日本晴とKasalathの戻し交雑後代系統群を用いた量的形質遺伝子座(QTL)解析により、少なくとも3つの紫外線抵抗性に関するQTLを検出した。それらのうち最も作用の大きい第10染色体の QTL(
qUVR-10)については日本晴ホモ型の植物がKasalathホモ型よりも強い紫外線抵抗性を示す。1850個体の分離集団を用いて連鎖解析を行ったところ、
qUVR-10領域は27-kbのゲノム領域に絞り込まれ、その領域内にCPD光回復酵素遺伝子が見出された。準同質遺伝子系統(日本晴の遺伝背景をもち
qUVR-10領域がKasalathホモ型の遺 伝子型を示す植物;紫外線感受性)に日本晴由来のCPD光回復酵素遺伝子を含むゲノム断片を導入したところ、形質転換植物は日本晴と同程度の紫外線抵抗性を示した。このことから
qUVR-10はCPD光回復酵素をコードすることが分かった。日本晴とKasalathの
qUVR-10の塩基配列の比較により、アミノ酸置換を引き起こす1塩基多型が見いだされ、それが原因でKasalathのCPD光回復能力が低下していること推定された。さらに CPD光回復酵素の転写レベルを増加することにより、紫外線抵抗性が非常に強いイネを作出することができた。
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日出間 純, 熊谷 忠
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S045
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
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イネ栽培種の紫外線B(UVB)感受性は、品種間で大きく異なる。我々は、UVB感受性差異の要因を明らかにするため、UVB感受性が異なる種々の日本型・インド型イネ品種を材料に解析を行ってきた。これまでの結果をまとめる。(1)UVBによって誘発されるDNA損傷(シクロブタン型ピリミジン二量体(CPD)を修復するCPD光回復酵素の活性がUVB抵抗性品種では高く、感受性品種では低い。(2)酵素活性の違いは、酵素の構造変化による基質CPDへの結合能の変化に由来する。(3)酵素の構造変化は、CPD光回復酵素遺伝子の突然変異による、1または2カ所でのアミノ酸の変異に由来する:日本型イネ品種のCPD光回復酵素の遺伝子型は2つに大別され、UVB抵抗性を示す品種の遺伝子型は126番目のアミノ酸がGluで活性が高いのに対して、UVB感受性を示す品種は126番目がArgで活性が低い。また、インド型品種でUVB高感受性を示す品種は、126番目のアミノ酸がArgであるのに加えて、296番目のアミノ酸がHisとなり、さらに酵素活性が低下している。(4)このようなCPD光回復酵素の突然変異がUVB感受性差異を導く主要因であることを、連鎖・量的形質遺伝子座解析(QTL解析)から明らかにしてきた。本シンポジウムでは、イネ栽培種間におけるCPD光回復酵素の構造とUVB感受性差異との関係について討論する。
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関根 政実, 岩川 秀和, 原島 洋文
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S046
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
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真核生物の細胞周期制御に必須の共通因子cdc2は、植物ではAタイプcyclin-dependent kinase (CDKA)がホモログで、G1/S期と G2/M期制御に重要な役割を担っている。私たちはシロイヌナズナの
CDKA;1機能欠損変異体である
cdka-1を解析し、雄性配偶体形成を制御することを見出した。
cdka-1のホモ植物は発芽しないが、ヘテロ植物は正常に生育した。しかし、ヘテロ個体の成熟種子では、正常な種子と未発達の種子が1:1の割合で観察され、かけ合わせの結果、種子の異常は花粉が原因であることが分かった。次に、ヘテロ個体の花粉をDAPI染色後に顕微鏡で観察したところ、約半分に異常がみられた。野生型の成熟花粉には1つの栄養核と2つの精核がみられたが、ヘテロ個体では1つの栄養核と1つの精核様の核(精様核)しか認められなかった。
cdka-1の花粉には精様核が1つしかないため、生殖可能であったとしても重複受精に異常を来たすと考えられる。そこで、ヘテロ個体の自家受粉種子の胚を観察したところ、8細胞期に異常がみられ、約半分は種子の大きさが正常なものより顕著に小さく、胚乳細胞が認められなかった。これらの種子では初期胚の発生がみられたことから、
cdka-1の花粉の精様核は生殖可能で、卵核と優先的に受精することがわかった。以上の結果から、
CDKA;1は雄原細胞から精細胞の分裂に必須で、
cdka-1の花粉では受精種子の胚乳の発達が抑制されて胚が正常に発生しないことが明らかになった。
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梅田 正明, 中川 強, 河野 淳
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S047
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
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サイクリンDは主にG1/S期の移行を制御する因子であり、サイクリン依存性キナーゼ(CDK)の活性化を通してRbタンパク質をリン酸化し、S期の進行に必要な下流遺伝子群の発現を誘導する。植物には動物のサイクリンEに相当する因子が存在しないことから、G1/S期の移行は主にサイクリンD-CDK複合体により制御されていると考えられている。シロイヌナズナには10個のサイクリンD遺伝子が存在し、中でもCYCD2やCYCD3は茎頂分裂組織や葉における細胞増殖に関与することが報告されている。我々は CYCD2と近縁なCYCD4の機能解析を行ってきた。CYCD4は
CYCD4;1と
CYCD4;2の2つの遺伝子から成るが、いずれも植物細胞内でCDKAと結合して活性型キナーゼ複合体を形成している。しかし、CYCD4;2はRb結合配列をもたないなど、他のサイクリンDとは異なる特徴をもっている。
我々は、
CYCD4;1,
CYCD4;2のT-DNA挿入変異体で胚軸表皮の気孔数が減少していることを見出した。過剰発現体では逆に気孔数が顕著に増加しており、一方で分裂組織における表現型は見られなかったことから、気孔形成時の細胞分裂において特異的な機能を有していることが考えられた。詳細な解析の結果、気孔形成に伴う幹細胞の分裂に働いていることが明らかになったので報告する。
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伊藤 正樹
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S048
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
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植物細胞のG2/M期には、特徴的な微小管構造体の出現や細胞板の形成を伴う細胞質分裂など、植物に特有な現象が古くから知られている。この時期の遺伝子発現を制御する仕組みを明らかにするために、タバコ培養細胞BY2の同調培養系を用いて研究を行ってきた。これまでに、サイクリンBなどの一群の遺伝子のG2/M期特異的転写がMSAエレメントと名付けたシスエレメントにより規定されていること、また動物のMybとよく似たR1R2R3型のMybがMSAエレメントに結合して転写を制御していることを明らかにした。シロイヌナズナにはR1R2R3型のMybをコードする遺伝子が5個存在しており、それらはアミノ酸配列の類似性に基づいて3つのタイプ(A、B、およびC type)に分類することができる。現在、これらの
Myb遺伝子の破壊株を解析している。2個存在するA-type
Myb遺伝子の二重変異体の表現型や遺伝子発現の解析から、これらのMybが細胞質分裂を正に制御する転写活性化因子であることを明らかにした。またA-type Mybによる細胞質分裂の制御は主として
KNOLLE遺伝子の転写活性化を通じてなされていることを遺伝学的な相互作用の解析から明らかにした。他のタイプの
Myb遺伝子の破壊株の解析も進めており、それらの推定される機能を含め、現在考えられる植物のG2/M期特異的転写制御機構について報告したい。
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松井 南, 津本 裕子, 高橋 直紀, 黒田 浩文, 永田 典子, 山本 義治, 川島 美香, 市川 尚斉, 中澤 美紀, 山本 直樹, 島 ...
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S049
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
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植物の形態形成の特徴として、多様に種々の細胞周期を駆使していることが挙げられる。あるいは、このような多様な細胞周期が植物の形態形成を動物の形態形成と区別している仕組みであるのかもしれない。このような中で無糸核DNA複製(Endoreduplication)は、昆虫の幼生にも観察されるが、植物のほぼ全ての組織で観察される。我々は、Endoreduplicationのメカニズムを調べるためにアクティベーションタグを用いたユニークな方法を開発した。この方法を用いて変異体を約5,000個体選抜し、核相に有意な変化の現れた変異体を分離した。これらの変異体は、明所、暗所での形態と核相の変化によって2種類に大別された。グループ1の変異体は、明所、暗所の胚軸および子葉で全体的に大きな核相のシフトが見られたのに対して、グループ2では、暗所のみに核相の変化が観察された。我々は、植物のEndoreduplication制御について、光依存的制御と非依存的な制御があるという仮説を設けてこの植物のユニークな形態形成に関わる細胞周期の制御機構の解析を行なっている。
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今井 久美子, 大橋 洋平, 柘植 知彦, 吉積 毅, 松井 南, 岡 穆宏, 青山 卓史
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S050
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
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Endoreduplicationは有糸分裂をせずにDNAの複製を繰り返して細胞のploidy(倍数性)が上昇する細胞周期で、特に植物では様々な組織の発生・分化に関わっており、例えばシロイヌナズナでは成熟ロゼット葉を構成する細胞のほぼ8割で起きている。植物体ではこの現象によって上昇するploidyは組織に応じてほぼ一定の範囲内に制御されているが、動物では癌化に関連して無秩序に起こる場合が多く、主に細胞周期の異常としてそれが起こる原因についての研究が進められてきた。植物においても、通常の細胞周期からendoreduplicationへの切り替わりに関する因子を中心として解明が進んでいるが、一方でその終了に関わる因子については存在の有無についても良く分かっていなかった。我々は植物サイクリンA2がendoreduplicationの終了に関わる主要因子であり、DNA複製の繰り返しを阻害していることを確認した。植物細胞はそのタイプに応じてendoreduplicationの促進・抑制因子のバランスを調整して巧妙にploidyを制御していると考えられる。
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清水 健太郎, Purugganan Michael
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S051
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
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進化・生態ゲノム学は、分子遺伝学と野外の生態・進化研究を統合することで、生き物がなぜかくもうまく適応して生きているのかという生物学の根元的な問いに分子レベルから答えようとしている。基礎となるデータは1つの種の複数個体のゲノム情報であり、モデル生物シロイヌナズナやイネではSNPプロジェクトやリシークエンシングからのデータが蓄積している。この情報を活用するために、2つの方向性の統計的手法の開発が進められている。まず、生態学的な表現型を担う遺伝子の単離の手法である。例として、組換え近交系統と連鎖不平衡解析を利用した、生殖隔離の研究を紹介する。さらに重要なのが、自然選択を検出する手法である。これにより、ある形質が自然界での生存・繁殖に役に立つ適応であることが示せる。例として、ダーウィンが提唱した自殖適応仮説を、シロイヌナズナの
pseudoSCR1遺伝子を用いて検証した研究を紹介する。展望として、野外で個体追跡が容易だという植物の長所、実験室環境と自然環境の相違などについて触れたい。
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平野 博之, 山口 貴大, 寿崎 拓哉
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S052
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
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花の発生制御に関するABC モデルと,メリステムの維持制御に関するCLAVATAシグナル伝達系によるフィードバックループモデルは,植物発生学の金字塔の1つである.これらは,主にシロイヌナズナの分子遺伝学的研究からもたらされ,ABCモデルは真性双子葉植物にひろく適用されることが示されてきている.しかし,単子葉植物における知見はまだ少ない.一方,メリステムの維持制御に関する遺伝学的研究は,シロイヌナズナ以外の植物では一部を除いてほとんど報告例がない.
私たちの研究室では,単子葉類のモデル植物であるイネを研究材料として,発生を制御する遺伝子の機能とその進化について研究を進めている.これまでの研究から,イネの花の発生においても,基本的にはABCモデルが適用されること,
YABBY 遺伝子である
DROOPING LEAF が心皮の発生を制御していること,クラスCの遺伝子の機能が機能分化していることなどを明らかにしてきた (Yamaguchi et al. Plant Cell 16: 500-509, 2004; Yamaguchi et al. Plant Cell, in press). 一方,メリステムの維持に関しては,CLV シグナル伝達系とほとんど同じ機構がイネにおいても保存されているが,その一方で,イネに独自の制御系が存在することも示唆されている (Suzaki et al. Development 131: 5649-5657, 2004).
本シンポジウムでは,これらの知見をまとめ,進化的側面から,イネの発生を制御する遺伝子について報告したい.
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伊藤 剛
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S053
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
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イネゲノム全塩基配列決定の完了にともない、更なる実験やデータ解析の基礎情報を作成するため、全ゲノム配列を用いたアノテーションを行った。配列決定後のゲノム解析を良質のものとするには、このアノテーションは高精度でなければならないが、一方で遺伝子予測プログラムに基づくような自動アノテーションには多くの誤りが含まれることが知られている。そこでまず完全長cDNAやESTを最大限利用し、転写の証拠のある領域を中心に遺伝子を同定した。また、自動アノテーションの専門家による精査(いわゆるキュレーション)を全遺伝子に渡って短期間で大規模に行うため、ジャンボリー型のアノテーション会議(The Rice Annotation Project Meeting)を開催し、同定された遺伝子座の全てに亘って可能な限り機能情報を確定した。この結果はRAP-DBとして公開されている。このアノテーション結果に基づき、イネとシロイヌナズナの全タンパク質を用いて配列比較を行ったところ、種分岐後にそれぞれの種で特異的な遺伝子重複は多数あるものの、現在保有している機能ドメインの数や種類、さらにはタンパク質をコードしている遺伝子数は大きく違わないことが明らかになった。加えて、野生稲のBAC端配列を日本晴のゲノムと比較することにより、栽培稲では失われた遺伝子が野生稲には相当数あることも示唆されているので、このような多様性解析についても併せて報告する。
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安井 秀, 武田 和宣, 藤田 大輔, 久納 健司, 土井一行 Kazuyuki, 吉村 淳
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S054
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
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ツマグロヨコバイは東アジアの稲昨地帯における重要害虫である. イネにはこれまでに6つのツマグロヨコバイ抵抗性遺伝子が同定されているが, その耐虫性機構はいまだ解明されていない. 水稲品種DV85が示すツマグロヨコバイ抵抗性は,2つのツマグロヨコバイ抵抗性遺伝子 (
Grh2と
Grh4)に支配され,両遺伝子が存在すると強い殺虫活性を示す. 我々は,
Grh2 と
Grh4 をポジショナルクローニング法により単離し,その遺伝子機能を解明することに取り組んできた. 本シンポジウムでは,
Grh2のマップベースドクローニングの結果を示した上で, 新たに見出したツマグロヨコバイ抵抗性遺伝子に関する近似同質遺伝子系統を用いた耐虫性機構解明のための取り組みについて紹介する.
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小西 左江子, 林 少揚, 江花 薫子, 福田 善通, 井澤 毅, 佐々木 卓治, 矢野 昌裕
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S055
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
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穀物の栽培化において、種子の脱粒性の喪失は重要なステップのひとつである。我々は、日/印交雑の後代で第1染色体長腕上にQTLとして見いだされた離層形成に必須な
qSH-1遺伝子をマップベースクローニング法により単離した。
qSH-1の分離集団10388個体を用いた高精度連鎖解析を行った結果、
qSH-1の機能の差の原因となる多型を1個のSNPに特定できた。このSNP周辺に、明確なORFは存在せず、SNPから12kb離れた位置にシロイヌナズナの
REPLUMLESSと高い相同性を示すORFが予測された。相補実験の結果、上記のSNPとORFを含む約26kbの機能型アリル断片を形質転換した時のみ脱粒性が明確に相補された。また、
in situ発現解析の結果、機能型アリルをもつNILでは、穎花分化期の離層形成の直前および直後に離層形成領域で予想ORFが発現していることが分かった。一方、機能欠損型アリルをもつ品種では、このステージでの発現は見られなかった。このことから、今回同定した原因SNPが
qSH-1の発現領域に影響を与えていることが明らかとなった。次に、イネのコアコレクションを用い、
qSH-1遺伝子の原因SNPの遺伝子型を確認した。その結果、インド稲や野生イネは機能型SNPをもち、欠損型SNPは日本稲の一部でのみ検出された。また、脱粒性とSNPの遺伝子型には相関があり、イネの栽培化との関連を見出した。
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芦苅 基行, 松岡 信
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S056
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
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重要農業形質の多くは量的形質座(QTL)に支配される。複数の遺伝子座の相互作用によって決まるこれらの量的形質の解析はこれまで困難であったが、イネゲノムプロジェクトの成果に伴い、QTLの同定が可能となってきた。ジャポニカ米のコシヒカリに比べ、インディカ米のハバタキは草丈が低く、多くの子実を着ける。矮性形質と収量性に関与するQTLを同定するため、両者を交雑した雑種集団を育成しQTL解析を行い、着粒数(Grain number)に影響を与える5つのQTL 、草丈(Plant height)に影響を与える4つのQTLを見いだした。このうち、着粒数及び草丈に最も強い効果を示すGn1とPh1に着目しさらに解析を進め、最終的にGn1がサイトカイニンの分解酵素であるサイトカイニンオキシダーゼ(CKX2)を、Ph1はジベレリン合成酵素であるGA20オキシダーゼ(GA20ox2)をコードしていることが明らかになった。
イネ品種間での形質の違いを制御する遺伝子が明らかになれば、その遺伝子を育種的手法によって従来品種に導入することが可能となるため、QTL解析で得られたGn1とPh1というハバタキのQTL領域を戻し交雑によりコシヒカリに導入したところ、Gn1, Ph1だけを導入したイネではそれぞれ着粒数が増加し草丈が低くなった。さらに両者を交雑しGn1とPh1を併せ持つ系統を作出したところ、コシヒカリに比べ着粒数が約20%増加し、草丈は約18%低くなり収量が高く耐倒伏性を付与したコシヒカリを作出することができた。
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平津 圭一郎, 梅村 佳美, 高木 優
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S057
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
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全ゲノムの配列が決定され、現在ポストシークエンスにおける植物科学の課題は、個々の遺伝子の機能解析にある。特に植物では、転写因子が植物の機能調節に他の因子以上に重要な役割を果たしていることから、転写因子の機能解析が、最優先の課題となってきている。しかしながら、植物には重複遺伝子が数多く存在し、遺伝子破壊株やアンチセンス形質転換体を単離しても、表現型が現れない場合が多く、このことが転写因子の機能解析を困難なものにしてきた。そのため、我々は、転写抑制機能を利用した新規な遺伝子サイレンシング法(CRES-T)を開発した。これは、EARモチーフと名付けた10アミノ酸からなるリプレッションドメインを任意の転写因子のコード領域と融合させ転写抑制因子に機能変換したキメラリプレッサーを植物体内で発現標的遺伝子の発現をドミナントに抑制するシステムである。結果としてそのキメラリプレッサーを発現する植物体は、目的とする転写因子の欠損株(Loss-of-function allele)と同様の表現型をドミナントで示す。
ここでは、主にシロイヌナズナを中心に転写因子の機能解析におけるCRES-T法の有効性と実例について述べ、また、EARモチーフを介した転写抑制の分子機構について考察する。
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小山 知嗣, 高木 優
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S058
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
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高等植物の地上部組織を構成する葉や花器官は、分裂組織から生じた原基から成熟した器官に形作られる。一方、分裂組織の形成位置は器官の境界領域に限定されており、茎頂分裂組織は子葉の境界領域に、腋芽は茎と葉の境界領域に形成される。これまでの研究から境界領域特異的に発現する遺伝子の機能が分裂組織形成に重要な機能を持つことが明らかにされている。シロイヌナズナのCUP SHAPED COTYLEDONs (CUCs)は、胚発生期間で二つの子葉の境界領域に特異的に発現し、分裂組織の形成に必要な制御因子である。CUC1の発現は発生期間を通じて器官の境界領域に認められるが、CUC1の異所発現は子葉の向軸側表面にシュート形成を誘導し、子葉の形態異常を引き起こす。これらの知見からCUCの発現を境界領域に限定する機構は分裂組織の形成位置の制御に重要である。
私たちはキメラリプレッサーを植物内で発現させることによりその標的遺伝子の転写を抑制するCRES-Tシステムを用いた解析から、TCP転写因子が分裂組織の形成、ならびに器官形成を制御することを明らかにした。さらに、TCP転写因子がCUCの発現領域を境界領域に限定するために必要であることを明らかにした。本シンポジウムではTCP転写因子がCUCの発現領域を境界領域に限定することにより、分裂組織の形成される位置、ならびに器官の形成を制御する分子機構ついて議論する。
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大坪 憲弘, 鳴海 貴子, 間 竜太郎, 光田 展隆, 平津 圭一郎, 高木 優
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S059
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
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CRES-T法は、機能の重複した転写因子群に対しても優位に抑制効果を発揮し、高次倍数体などにおける効率的な遺伝子サイレンシングを可能にする画期的な転写因子抑制技法として期待されている。私たちは、この技法を用いた花きの形質改良を通じて、植物の簡便かつ効率的な新規形質導入・スクリーニング技法として確立することを目的に、本年度より「花きCRES-Tプロジェクト」を開始した。このプロジェクトのコンセプトは、
1.シロイヌナズナのキメラリプレッサーコンストラクトを可能な限りそのまま異種植物に適用するなど、ベクター構築や組換え体作出等の繁雑な作業を軽減する
2.多数種の花きを材料とする集中的な新規形質導入を通じて、転写因子抑制効果の期待値、植物種間差など新たな植物種に本法を適用する際に必要な情報のほか、研究材料や育種素材を多数提供する
の2点である。得られた表現型のデータは、シロイヌナズナの既存の情報等と使いやすい形でリンクしたデータベースとして公開する予定である。CRES-T法を植物形質改変へ利用する際のアプローチの仕方、従来法との使い分けなどについて、最新のデータを紹介しつつ考察する。
なお、本プロジェクトは、農林水産省の競争的資金「先端技術を活用した農林水産研究高度化事業」によるものである。
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高辻 博志, 渋谷 健市, Kapoor Meenu, 馬場 晶子, 久保 健一
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S060
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
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ペチュニアのクラスCホメオティック遺伝子
pMADS3は雄ずいおよび雌ずいに特異的に発現している。
pMADS3ゲノムDNA断片をペチュニアに再導入すると、
pMADS3サイレンシング系統に加え、数系統において内在性
pMADS3が花弁およびがく片、茎葉にエクトピック発現(ect-
pMADS3)することが見出され、新奇なエピジェネティック転写制御であると考えられた(Kapoor et al., Plant J. 43:649-661, 2005)。ect-
pMADS3表現型の発現には、
pMADS3の組織特異的発現に必要なイントロン2(4 kb)が導入遺伝子に含まれることが必須であった。また、導入遺伝子が分離して失われた後代にもect-
pMADS3表現型が表れること、相同
pMADS3座が個別に制御されていること、形質がパラミューテーション様に遺伝することなど、エピジェネティック制御に特有の性質が認められた。欠失実験等により、ect-
pMADS3表現型発現に関与する領域が
pMADS3イントロン2中の1 kbの範囲(領域II)に特定された。また、ect-
pMADS3を示す系統では、内在性
pMADS3イントロン2の領域II中のDNA配列がメチル化されていることがわかり、
pMADS3のエクトピック転写活性化との関連が示唆された。これらの結果から、
pMADS3の組織特異的転写制御に関し、通常の転写制御とエピジェネティック制御との関係について考察する。
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藤田 泰成, 藤田 美紀, 佐藤 里絵, 圓山 恭之進, 佐山 博子, モハメド パルベツ, 関 原明, 平津 圭一郎, 高木 優, 篠崎 ...
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S061
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
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bZIP型転写因子は、DNA結合に関わる塩基性アミノ酸領域と二量体形成に関わるロイシンジッパー領域の2つのサブドメインからなるbZIPモチーフをもつ転写因子である。シロイヌナズナでは、約80のbZIP型転写因子が知られており、発芽過程から栄養生長期のストレス応答、さらに花芽形成過程において、重要な生命現象をつかさどるマスター因子として注目されている。AREB1は、シロイヌナズナの乾燥・塩応答性遺伝子RD29Bのプロモーター領域に存在するシス因子であるアブシジン酸(ABA)応答配列(ABRE)に結合するbZIP型の転写因子である。本研究では、CRES-T法を用いて、遺伝子破壊株では機能欠損を反映した表現型が十分に現れないと考えられたABA誘導性のbZIP型転写因子AREB1の機能解析を行った。AREB1のgain-of-function変異体に加えて、遺伝子破壊株およびCRES-T法を用いたキメラリプレッサー発現植物をloss-of-function変異体として用い、植物体の生育、遺伝子発現、ABA感受性および乾燥耐性に関わる表現型を解析した。また、ホモログ遺伝子のキメラリプレッサー発現植物における表現型の違いについてもあわせて報告し、AREB1が乾燥耐性能の向上に関わるABAシグナル伝達系を活性化する正の制御因子であることを示した。
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出村 拓
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S062
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
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植物の1次木部組織には原生木部道管と後生木部道管の2種類の道管が存在する。いまのところ、この2種類の道管を含む個々の木部細胞の分化の制御機構はほとんど明らかになっていない。私たちはこれまでにシロイヌナズナのin vitro道管要素分化誘導過程のジーンチップ解析を行い、分化過程で発現量が大きく変動する転写因子遺伝子を多数見出した。さらに、これら転写因子遺伝子の過剰発現・RNAi発現・CRES-T法によるキメラリプレッサーの発現を含む機能解析を行った。その結果、VASCULAR-RELATED NAC-DOMAIN6 (VND6)およびVND7と名づけたNACドメインタンパク質の過剰発現によってシロイヌナズナ根とポプラ葉において様々な細胞が後生木部道管様の細胞と原生木部道管様の細胞にそれぞれ分化転換すること、VND6とVND7のCRES-Tを利用した機能改変によって後生木部道管と原生木部道管の分化がそれぞれ抑制されることが示された。現在、他の転写因子についても同様の解析を進めており、その結果も合わせて、多様な木部細胞が分化するしくみについて議論したい。
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光田 展隆, 岩瀬 哲, 関 原明, 篠崎 一雄, 高木 優
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S063
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
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植物特異的転写因子であるNACファミリーはシロイヌナズナでは100以上の遺伝子からなり、その一部は分裂組織や境界領域の形成にかかわるほかABAシグナリングにかかわるものなどが知られているが、大部分は機能未知のままである。本研究では植物特異的転写抑制化ペプチド(SRDX)をNACファミリーの転写因子のC末端に融合させたキメラリプレッサーを発現させNACファミリーの網羅的機能解析を行っている。これまでのところ子葉の融合、花成の遅延といった表現形が複数のNACキメラリプレッサー発現植物で観察されているが、このシンポジウムでは葯の開裂に影響が現れた新規転写因子NST1およびその類似遺伝子について詳細な解析結果を報告する。この表現形はNST2のキメラリプレッサー発現植物および
NST1、
NST2の二重遺伝子破壊株でも同様に観察され、この原因は内被細胞層における二次壁肥厚の欠損であることがわかった。一方
NST1または
NST2を35Sプロモーターで過剰発現させると、様々な部位で異所的な二次壁肥厚が観察された。また、
NST1、
NST2のプロモーターは葯だけでなく花茎の木部領域や果実鞘など二次壁肥厚が起きる部位で活性を持っていた。さらにもう一つのよく似た遺伝子
NST3の機能解析も含め、植物体の様々な部位における二次壁肥厚の制御機構およびその応用利用の可能性について議論する。
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齋藤 淳一
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S064
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
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現在、高等学校教育の中で遺伝子組換え食品はどのように扱われているのか?また高校生は遺伝子組換え食品についてどのように考えているか?本発表ではこれら2点について調査・集計結果を発表する。これらの結果が遺伝子組換え食品への客観的で科学的な考え方を身につける新しい教育のあり方を探る材料になれば幸いである。
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井上 陽子
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S065
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
フリー
科学技術の進歩に伴い、高校の生物の教科書には、遺伝子組換えの原理や遺伝子調節と発現のしくみ、遺伝子組換え植物作成法などが掲載され、新たな技術の医療や食糧生産等、人々のくらしへの貢献が大きく取り扱われている。一方、スーパーマーッケットでは、豆腐からスナック菓子、駄菓子に至るまで“遺伝子組換え食品ではない”旨の説明をよく見かけるように“遺伝子組換え食品や遺伝子組換え作物は危ない”と思われがちである。しかし、技術そのものは決して危険なものではなく、むしろ我々の生活を便利で豊かにする力さえ持っている。それ故、いたずらに遺伝子組換えを恐れることなくうまく生活に活かしていくことが大切であるが、その反面、生じる組換え体の管理や安全確認も怠ることのないよう注意していかなければならない。
そこで、高校生が実際に遺伝子組換え実験を体験することにより、バイオテクノロジーに対する意識が変わり、科学を身近に感じることのできる遺伝子組換え自体に強く興味や関心を持つようになった経緯と変容についてお伝えするとともに、高校現場で遺伝子組換え実験が普及し多くの人にその技術を正確に理解してもらえるよう、努めていきたい。
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中島 敬二
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S066
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
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スーパーサイエンスハイスクール(SSH)とは、子供を含めた国民の「理科離れ」に対処することを目的に、文部科学省が平成14年度から行っている施策の1つで、現在全国で82の高校が指定されている。奈良先端科学技術大学院大学は、SSH指定校の1つである私立西大和学園高校に協力しており、バイオサイエンス研究科では毎年度交代で1つの研究室がライフサイエンス分野の教育や実習を担当している。
平成16年度に私の所属する研究室に協力の要請があったが、当時は折しも複数の自治体で組換え作物の商業栽培を実質的に規制する条例案が検討されるなど、組換え植物に対する社会の反応は否定的なものが支配的であった。そこでこの機会を利用して、高校生に組換え植物の科学的な知識と社会的側面について理解を深めてもらうこととした。本活動は、(1) 奈良先端大における4回の講義と実習、及び(2)高校での自主学習とディベートによる成果発表会の2つによってなされた。
本活動は概ね成功したと考えているが、これは大学内での合意の形成、高校側の理解と熱意、そして何よりも生徒たちの積極的な取り組みがあったためであると感じた。また自主学習においては正しい情報を選別する能力が重要となるが、これにはインターネットの利用についてのきめ細かなガイダンスが必要であると感じた。
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本橋 令子
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S067
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
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私は「遺伝子組み換え食品について知ってください」(マーティン クリスバーグ編 小泉望訳、中西印刷 2004)のパンフレットを用いて、遺伝子組換え教育を担当講義に取り入れています。遺伝子組み換え技術の紹介を講義で行い、その後学生にパンフレットを読んでもらい、レポートを書いてもらっています。学年、学部によって遺伝子組み換えについての印象や意見の違いが見られ、学部や学年別の遺伝子組み換え教育の重要性を感じました。また、静岡大学の遺伝子実験施設で毎年行われている、高校生や県内高校理科教員への遺伝子組換え実験研修会についても紹介します。
さらに、理化学研究所 横浜研究所の所内一般公開において実施した遺伝子組み換え植物についてのアンケート結果についても紹介します。
全体の印象として、情報不足、偏った情報と関心の低さが目立ちます。また、最近は遺伝子組み換え作物やクローン、ヒトゲノム解析など遺伝子実験に関する用語がマスコミで取り上げられる機会も増えてきましたが、遺伝子組み換え食品や作物はマイナスイメージを受けてしまう人が多いように思われます。積極的に組み換え技術の指導を大学、研究機関で行い、人々が正しい知識を身につけ、自分なりの考えを持つきっかけになってくれればと思っています。
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小柴 共一
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S068
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
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「遺伝子」、「DNA」、「遺伝子組換え」といった言葉は、今日では生物学の専門用語ではなく新聞やテレビはもちろん日常会話でも普通に使われている。しかし、こうした言葉の意味がどれほど理解されているのだろうか。私はこの10年ほどの間、都立大学(現首都大学)で主に人文系の学生を対象に”植物の遺伝子とバイオテクノロジー”といったテーマで講義を行ってきているが、ほとんどの学生が遺伝子とDNAの区別すら説明できない。講義は、遺伝子、DNAとは何か、タンパク質がどのようにできるのか、遺伝子組換えとは何なのか、そして、人間社会にとってこの技術を使用して新しい植物を作ることの意味は、という流れで進め、最後に「遺伝子組換え」をどう思うかを聞いている。その回答の一例を下記に挙げる。本シンポジウムでは、このような学生の受け止め方もまじえながら講義を通して私の感じていることについてお話ししたい。また、高校教育において生物学(生命科学)を必修とすることの必要性を訴えたいと思う。
『組換え植物開発・利用のデメリットよりもメリットの方が大きいのではと考える。もちろんそれには慎重が不可欠ではあり、その科学の力を乱用するなどの倫理的に反した方向に進むのはあってはならない。が、私たちには人間としての道徳・理性を持っている。人間の、私達の子供たちの未来を考えた開発であるなら、それは押し進められるべきであると思う。』
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鳴坂 義弘, 飯田 秀利
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S069
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
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近年、中高生を初めとする国民の「理科離れ」が問題となっている。我が国は資源のほとんどを輸入に頼っており、科学技術の振興により豊かな国民生活や社会経済の発展を実現しなければならない。その実現に向けて、科学の正確な情報とおもしろさを教育の現場でどのように子供たちに教えていくかを、科学者と教師が一緒になって考える必要があるのではないだろうか。本シンポジウムでは、その一つの課題として本学会にも関連の深い遺伝子組換えの問題を取上げる。周知のように、遺伝子組換えは危険であるとの風潮が世の中に広まっている。この状況に対して、(1) これからの日本の農業と科学にとって、この状態を放置しておいて良いのだろうか? (2) 日本の科学者と教師は、「遺伝子とは何か、遺伝子組換えとは何か」について国民に分かりやすく説明してきただろうか? (3) 「遺伝子組換え作物は危険である」という認識がなぜ広まったのか?などの疑問が投げかけられている。したがって本シンポジウムでは、科学者と教師が一緒になって、それに答えるべく遺伝子組換えと理科教育に関する現状認識、問題点の整理、改善策などを討議する場を設け、表題について基本的な理解を深めたいと考えている。
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Jian Feng Ma
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S070
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
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A gene responsible for Si uptake has been cloned from rice, a typical Si-accumulating plant. Unexpectedly, this gene belongs to a Nod26-like major intrinsic protein (NIP) subfamily, which is predicted to have six transmembrane domains and two Asn-Pro-Ala (NPA) motif.
Lsi1 is mainly expressed in the roots and the expression is decreased by one fourth by Si supply. Interestingly,
Lsi1 is expressed in the main roots and lateral roots, but not in root hair. Further investigations show that the transport protein is localized only on the exterior side of plasma membrane of both exodermis and endodermis, where Casparian strips exist. When this gene is suppressed, the Si uptake is also reduced correspondingly. Furthermore, when the cRNA encoding
Lsi1 was injected into
Xenopus laevis oocytes, an increased transport activity for silicic acid was observed. All these evidence show that Lsi1 is a transporter for silicon in rice roots.
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Junpei Takano, Motoko Wada, Uwe Ludewig, Nicolaus von Wirén, Toru ...
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S071
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
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Boron (B) is essential in higher plants especially for cross-linking pectic polysaccharides to maintain cell wall function. Boron is often present at low concentrations in the environment and B deficiency hampers crop production in many parts of the world. It has been suggested that plant roots take up B mainly as uncharged boric acid (B(OH)
3) by passive diffusion across the lipid bilayer and putative membrane proteins. However, the molecular identity of boric acid importers and their physiological significance have not yet been uncovered
in planta. We conducted a transcriptome analysis and identified
NIP5;1, a member of the major intrinsic protein family, as a gene up-regulated in B-deficient roots of
Arabidopsis thaliana. We show that NIP5;1 is a plasma membrane boric acid channel crucial for B uptake to support plant growth under B limitation.
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Yoichiro Isohama
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S072
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
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Aquaporin (AQP) water channels facilitate the rapid movement across the plasma membrane throughout animal and plant kingdoms. A plant AQP, NtAQP has also shown to CO
2 gas permeability, enhancing photosynthesis and leaf growth, using NtAQP null tobacco. However, to elucidate the physiological role of AQPs, it would be worthwhile to identify AQP inhibitors. Hg
2+ is the most popular inhibitor for AQPs so far, and the inhibitory effects of Ag
2+ on AQP1 and Ni
+ on AQP3 have been recently reported, suggesting AQPs are sensitive to minerals. We, therefore, studied the effects of various minerals on AQP1-AQP5-mediated water and CO
2 gas transport in Xenopus oocyte expression system. We found new AQP inhibitors, Zn
2+ as an isoform-nonselective inhibitor, and Mn
2+ as an AQP4 and AQP5 selective inhibitors. Further, the mineral sensitivity of AQPs-mediated water and CO
2 gas transports were different, showing that AQP transport CO
2 gas by different mechanism from that for water.
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Uwe Ludewig, Marek Dynowski, Maria Mayer
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S073
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
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Aquaporins/Aquaglyceroporins (PIPs, TIPs, NIPs, SIPs) are channels that facilitate the diffusion of water and small, uncharged solutes. We initially observed that TIP aquaporin homologs from Arabidopsis transport ammonia and urea in addition to water. In order to investigate if this is also a property of other members of this protein family, a strategy based on molecular simulation techniques, mutational and functional analyses was applied. Based on homology to the three-dimensional structures of several aquaporins solved by X-ray crystallography, models of PIP, TIP and NIPs were constructed. Conduction of various substrates was theoretically assayed using molecular dynamics simulations on equilibrated aquaporin monomers with a constant force vector applied to the substrates. The results suggested a major importance of the putative "selectivity filter" region, and this was experimentally confirmed by exchange of corresponding residues and experimental test of solute transport. In addition, further key residues outside the selectivity filter region determine selectivity.
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Daniel M. Roberts
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S074
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
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NIPs show structural similarity to the family archetype soybean nodulin 26. Soybean nodulin 26 is the major protein of the symbiosome membrane of nitrogen fixing nodules. It confers upon the symbiosome the ability to transport water, glycerol and ammonia. It is regulated by phosphorylation of Ser262 by a symbiosome-membrane associated CDPK. Phosphorylation enhances water permeability and is regulated in a developmental fashion, as well as by osmotic signals, suggesting a potential osmoregulatory role. In addition, the C-terminal ser 262 epitope is a site for protein-protein interaction with nitrogen assimilatory enzymes, suggesting a possible metabolic "funnel" role in nitrogen fixation. Structural analysis of various other NIPs in other plant species suggest segregation into two phylogenetic subgroups, NIP I and NIP II, with different structures within the pore selectivity filter. This difference in pore architecture is reflected in distinct transport selectivity and function for NIP I and NIP II proteins.
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久堀 徹, 原 怜, 丸井 弘嗣, 松田 直美, 房田 直記, Romano Patrick, 本橋 健
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S075
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
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植物は、生命の営みの基本として太陽光の光エネルギーによって酸化還元反応を駆動し、化学エネルギーを生み出している。一方で、植物細胞内で起こる酸化還元反応は、生命活動のもっとも重要な情報伝達回路の出発点とも考えられる。事実、光合成の場である葉緑体内では、炭酸同化系の酵素が単に還元力を反応に利用しているだけではなく、個々の酵素の活性を調節する重要な因子としても用いられていることが、古くから知られている。このような酵素の多くは、酵素活性を維持するために還元剤を必要としたことで偶然に発見されたものが多い。しかし、2000年のシロイヌナズナの全ゲノムの解読以降、タンパク質間相互作用の研究(プロテオミクス)が実際的に行えるようになり、還元力の授受を行うタンパク質(群)もこのような研究の対象となった。
私達は、還元力授受のキープレイヤーであるチオレドキシンに着目し、2001年にこれと相互作用する相手のタンパク質を網羅的にリストアップする方法を発表した。この研究を端緒として、細胞内においてレドックス反応に関与するタンパク質が多数発見された。そして、当初から期待していた通り、生体内のレドックス制御のネットワークともいうべき複雑なシステムの存在が明らかになりつつある。
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Hozumi Motohashi, Takafumi Suzuki, Hiromi Okawa, Kit Tong, Masafumi Ta ...
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S076
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
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Xenobiotic and oxidative stresses provoke a common integrated response composed of two consecutive reactions. Phase I reaction and subsequent phase II reaction are transcriptionally regulated by arylhydrocarbon receptor (AhR) and Nrf2, respectively. To clarify the functional contributions of each reaction in vivo as well as the molecular mechanisms underlying the phase II reaction in particular, we generated several lines of mice with altered activities of phase I or phase II reaction and performed in vivo analysis of structure-function relationship of Keap1, an inhibitor of Nrf2. Increased AhR activity in skin caused severe dermatitis. Hepatocyte-specific Keap1 deficiency conferred increased resistance against drug toxicity. Several cysteine residues in Keap1 were found critical for sensing electrophiles derived from xenobiotic metabolites and oxidative stress. These results suggested that finely tuned regulation of phase I and phase II activities are the basis of our health and many diseases seem to be caused by their imbalance.
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太田 啓之
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S077
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
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植物はその生活環の中で様々な形で酸化ストレスを受ける危機にさらされている。酸化ストレスは、オゾン暴露や強光などの非生物的な要因に加え、病虫害等の生物学的な要因によっても容易に引き起こされる。このような酸化ストレスに対する応答において、ジャスモン酸などの膜脂質由来の酸化脂質(オキシリピン)がシグナルとして機能していると考えられている。これは酸化ストレスによって植物が損傷を受ける主要な場所の一つが膜脂質であることを考えると、極めて合理的なメカニズムであると言えよう。我々は、ジャスモン酸がオゾン暴露時において抗酸化物質代謝系の活性化を促し、オゾンストレスに対する耐性に寄与していることを明らかにした。実際、ジャスモン酸が合成できない
opr3変異体では、オゾンに対して感受性になり、抗酸化物質代謝系の活性化が抑制される。このことは、オゾンストレスに対する適応にジャスモン酸の合成が不可欠であることを示している。また、ジャスモン酸生合成の中間体である12-オキソフィトジエン酸(OPDA)が、ジャスモン酸とは異なるオキシリピンシグナルとして傷害応答に寄与していることも分かった。OPDAで特異的に誘導される遺伝子ORGはジャスモン酸では誘導されず、また、その誘導はジャスモン酸情報伝達において中心的な役割を担っているCOI1に非依存的である。本発表では、酸化ストレス時におけるオキシリピンシグナルの役割について考察する。
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