日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
第47回日本植物生理学会年会講演要旨集
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  • 内田 英伸, 竹村 美保, 中谷内 修, 大山 莞爾
    p. 702
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
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    石油植物ユーフォルビア(Euphorbia tirucalli)の樹液ラテックスは植物ステロールなどの二次代謝産物を多量に含む。この植物の8813クローンのEST解析などにより、メバロン酸経路上の関係遺伝子cDNAクローンを20以上クローニングした。さらに、ユーフォルビア節間シュート切片を0.02mg/lチジアズロン入りLS培地上、その後、ホルモンフリーLS培地上にて継代培養することにより、不定芽の誘導、不定芽からのシュート伸長促進が可能であることを示し、また、ユーフォルビア培養細胞に対してG418・ハイグロマイシンが有効な選抜薬剤であることを明らかにして来た。本研究ではファイトステロール含量の増加したユーフォルビアのトランスジェニック植物を作出することを目指し、スクアレンシンターゼ・スクアレンエポキシダーゼの各遺伝子の過剰発現コンストラクト、並びに、ベータアミリンシンターゼRNAiのコンストラクトのアグロバクテリウムによる導入を行っている。現在、得られた形質転換体候補についてRT-PCRによる遺伝子転写産物の検出を試みている。(本研究の一部は経済産業省の「生物機能活用型循環産業システムプログラム」の一環として、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)より委託をうけて実施したものである)。
  • 井上 悠子, 森安 裕二
    p. 703
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
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    植物は、外部からの栄養獲得が閉ざされた際に、自らの構成成分の一部を分解して必要な代謝物を獲得する。この分解には自食作用を含む様々なメカニズムが関与していると考えられる。タバコ培養細胞をショ糖飢餓条件下に置くとタンパク質やリン脂質の正味の分解が誘導される。タンパク質分解は、自食作用を阻害する3-メチルアデニン(3-MA)によって阻害されるので、主に自食作用がショ糖飢餓条件下におけるタンパク質分解に寄与していると考えられる。それに対して、リン脂質分解は3-MAに影響されないので、自食作用はリン脂質分解にほとんど寄与していないと考えられた。
    本研究では、リン脂質分解と自食作用との関連をさらに詳しく調べた。ショ糖飢餓条件下に置かれたタバコ培養細胞からリン脂質関連物質を抽出し、薄層クロマトグラフィーで解析した。その過程で、ショ糖飢餓に応答してダイナミックに減少するホスファチジルコリンとは反対に、量が増加するスポットを見出した。3-MAはホスファチジルコリンの減少に影響を与えなかったが、これらのスポットは3-MAを培地に加えることで、増加が阻害された。このことは、リン脂質分解の初発段階は自食作用と異なるメカニズムに因るものであるが、リン脂質分解中間体のさらなる分解には自食作用が関わっていることを示唆している。現在、これらの未知のスポットの同定および局在について解析を進めている。
  • 吉本 尚子, 渡部(高橋) 晶子, 片岡 達彦, 中村 有美子, 斉藤 和季, 高橋 秀樹
    p. 704
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
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    SULTR1;1とSULTR1;2は硫黄欠乏条件においてシロイヌナズナの根の表皮および皮層で共発現する高親和型硫酸イオントランスポーターである。15 μMの硫酸イオンを硫黄源とする低硫酸イオン条件では、sultr1;1 sultr1;2二重変異体は硫酸イオンを吸収できず、生育が激しく阻害された。二重変異体の生育が1.5 mMの硫酸イオン条件で改善することから、SULTR1;1、SULTR1;2以外に硫黄十分条件における硫酸イオン吸収に寄与する低親和型トランスポーターが存在することが示唆された。そこでシロイヌナズナの12種の硫酸イオントランスポーター遺伝子全てについてレポーター遺伝子を用いた発現解析を行い、根の内皮及び篩部で発現するSULTR3;4を同定した。SULTR3;4を発現させた酵母の硫酸イオン吸収速度は、細胞外の硫酸イオン濃度に比例して少なくとも1 mMまで直線的に増加した。また、sultr1;1 sultr1;2二重変異体の根では、SULTR3;4のmRNA蓄積量が顕著に増加した。以上の結果から、SULTR3;4は低親和型の硫酸イオン吸収に関与し、SULTR1;1、SULTR1;2による高親和型の硫酸イオン吸収を補う役割を果たすことが予想された。
  • 片岡 達彦, 林 尚美, 井上 恵理, 斉藤 和季, 高橋 秀樹
    p. 705
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
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    シロイヌナズナのゲノムにコードされる全タンパクのうち、約4割は膜貫通ドメインを有する。その中には、物質輸送を直接あるいは間接的に制御する膜タンパクが多く含まれていると予測されているが、機能は未だに明らかにされていない。本研究では、硫黄同化に関わる機能未知の膜タンパク質の機能解析を行った。硫黄欠乏ストレス処理を行ったシロイヌナズナの根を用いたマイクロアレイ解析後、ARAMEMNONデータベース(http://aramemnon.botanik.uni-koeln.de./)を用いた検索を行うことにより、硫黄欠乏ストレスによって発現が誘導され、膜貫通領域を有するタンパク質を抽出し、解析を行った。特に、硫酸イオントランスポーター(SULTR)との共発現系を構築した酵母において、硫酸イオンの吸収活性に顕著な変化を引き起こした候補遺伝子については、ノックアウト及び過剰発現形質転換植物を用いて、機能解析を行った。
  • 石川 伸二, 箕浦 亙, 伊藤 由佳, 大竹 憲邦, 大山 卓爾, 末吉 邦
    p. 706
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
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    植物における硝酸イオン吸収は、根細胞膜上の硝酸トランスポーター(NRT)によって行われると考えられている。我々は、以前の大会において、抗体を用いた実験によりオオムギ高親和性NRT(HvNRT2)タンパク質が細胞膜に存在すること、HvNRT2はタンパク質レベルで活性制御されていることが強く示唆されると報告した。HvNRT2のタンパク質レベルでの活性制御機構に関しては、タンパク質リン酸化の可能性が指摘されている。HvNRT2タンパク質のC末端領域は、細胞質側に露出しており、この領域にはタンパク質リン酸化酵素の基質となりうる、セリン、スレオニン残基が存在する。今回、我々はHvNRT2タンパク質C末端領域のin vitroリン酸化の可能性について調査したので、報告する。
    大腸菌に発現させたHvNRT2タンパク質を基質に用いて32Pの取り込み活性の有無を調査した。また、無窒素条件下で1週間生育したオオムギ幼植物、および10mM硝酸塩を供与した幼植物それぞれの根から、可溶性画分を調整し、それぞれを粗酵素液として用いた。その結果、HvNRT2タンパク質C末端断片は、オオムギ根の可溶性画分によってカルシウムイオンに強く依存してin vitroでリン酸化された。また、このリン酸化活性は硝酸塩による誘導性を示した。
  • 福田 篤徳, 中村 敦子, 田中 喜之
    p. 707
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
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    液胞膜(Na+, K+)/H+アンチポーターは、2種類のH+ポンプ(V-ATPaseとV-PPase)によって形成された液胞膜を介したpH勾配をエネルギー源として利用し、細胞質に存在するNa+やK+を液胞内に輸送する対向輸送体である。作物の中で耐塩性が高いとされるオオムギでは、根から単離した液胞膜小胞における2種類のH+ポンプ活性やNa+/H+アンチポート活性は、根を高濃度のNaCl処理することによって上昇した。また、これらの活性は、植物ホルモンであるABAや2,4-D処理によっても上昇した。当研究室では、既にオオムギから液胞膜Na+/H+アンチポーター遺伝子を1種類( HvNHX1)、V-ATPase触媒サブユニット遺伝子を1種類( HvVHA-A)、V-PPase遺伝子を2種類( HVP1 HVP10)単離している。これらの遺伝子は、根において高濃度のNaClやマンニトール(高浸透圧)処理によって異なった発現変化を示すが、 HVP1 HvNHX1は同じ様な発現変化を示した。さらに、 HVP1は、ABAや2,4-D処理によっても発現が上昇し、その発現量は HvVHA-A HVP10よりもはるかに大きく、 HvNHX1と同じ様な発現変化を示した。以上のことは、オオムギにおける環境応答において、 HVP1 HvNHX1と協調して重要な働きをしている可能性を示唆している。
  • 神谷 岳洋, 赤堀 太朗, 前島 正義
    p. 708
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
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    Cation/H+対向輸送体(CAX)は、プロトン勾配を利用してCa2+やCd2+、Mn2+を輸送する。これまでに、酵母やラン藻、シロイヌナズナ、緑豆、トウモロコシなどから単離されている。しかし、単子葉のモデル植物であるイネCAX(OsCAX)の解析はなされていない。また、遺伝子ファミリー内の機能分担についての情報はない。
    始めに、ゲノムおよびEST情報を基に、イネに含まれるすべてのCAX(5個)を単離した。アミノ酸配列を基に系統樹を描くと、OsCAX1aとOsCAX1b、OsCAX1cはCa2+を輸送すると推測されるType IAに、OsCAX2とOsCAX3は重金属を輸送すると推測されるType IBに分類された。次に、リアルタイムPCRにより組織別発現量の絶対定量を行い、分子種間の発現量を比較した。OsCAX1aは、ほぼすべての組織において最も多く発現していたが、OsCAX1bとOsCAX1cの発現量は低く、限られた組織でのみ発現していた。OsCAX2とOsCAX3は、ほぼすべての組織で発現していた。最後に、Ca2+およびMn2+感受性酵母において異種発現を行い、イオン輸送機能を解析した。OsCAX2以外はCa2+耐性を示し、OsCAX1aとOsCAX3はMn2+耐性も示した。以上の事から、OsCAX1aはイネにおける主要なCa2+/H+対向輸送体であることが示された。
  • 大内 雄矢, 神谷 岳洋, 芦刈 基行, 前島 正義
    p. 709
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
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    Cation/H+対向輸送体(CAX)は膜を挟んで形成されたプロトン濃度勾配を利用して二価の陽イオンを輸送する能動輸送体である。イネには、5つのCAX(OsCAX1a、OsCAX1b、OsCAX1c、OsCAX2、OsCAX3)が存在する。植物のCAXはアミノ酸配列を基に系統樹を描くと2つのサブファミリーに分かれる。OsCAX3は重金属を輸送すると推測されるサブファミリー(Type IB)に属するが、その生理的役割は不明である。また、他の植物種においてもType IBに属する分子の役割はあまり分かっていない。
    これまでに、OsCAX3が植物体全体で発現していること、Ca2+、Mn2+感受性酵母変異株を相補することを明らかにした。本研究ではさらなる詳細な発現部位の同定を、プロモーターGUS形質転換体を用いて行った。OsCAX3は、胚盤上皮細胞、アリューロン層、中心柱、根端、頂端、維管束、トライコム等で発現していた。特に、根端や頂端で強い発現が見られた。また、細胞内局在部位を同定するため、GFPとの融合タンパク質(GFP-OsCAX3)をイネカルスのプロトプラストで一過的に発現させたところ、細胞質中を動く直径0.5 μm程度のドット状のオルガネラで蛍光が観察された。現在、詳細な細胞内局在部位の同定を行っており、その結果についても報告する予定である。
  • 瀬上 紹嗣, 中西 洋一, 前島 正義
    p. 710
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
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    H+-ピロホスファターゼ(H+-PPase)はピロリン酸の加水分解を利用してプロトンを輸送するプロトンポンプである。液胞の酸性化を担うI型はよく知られているが、35%程度の相同性しか持たないII型については、GFP融合タンパクによる解析からゴルジ体局在が報告されている(FEBS Lett. 488:29-33, 2001)が,生理的な役割は不明である。本研究ではA.thalianaのII型H+-PPaseであるAtVHP2;1 (AVP2)に焦点をあて、内在性AtVHP2;1の基礎データ収集を目的とした。免疫ブロット法により組織別蓄積量、培養ステージでの蓄積量を解析した。総膜中のII型H+-PPase絶対量はI型酵素の0.5%以下であることが明らかとなった。また、ショ糖密度勾配遠心法によりAtVHP2;1の細胞内局在を分析した。Mg2+の有無によりオルガネラ特異的な密度変化を起こすことを利用し,より詳細な検討を行ったところAtVHP2;1の分布は、トランスゴルジのRGP1、PVC/TGNマーカーであるAtVSR1/AtELP、また液胞膜、細胞膜、ERの各種マーカーとは一致しなかった。完全な一致を見せたマーカーがないので特定には至らなかったが、存在量の少なさも考慮すると、AtVHP2;1はearly endosome等の小型オルガネラの酸性化に寄与していると推定される。
  • 岩崎 郁子, 小八重 善裕, 中西 洋一, 前島 正義, 真崎 聡, 北川 良親
    p. 711
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
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    生物界には多様なK+チャネルが存在し,機能も多様である。イネにおけるK+チャネルの役割を理解する目的で,「ひでこもち」、「ひとめぼれ」および「日本晴」の3品種から得られた共通の遺伝子(ROK,rice outwardly rectifying K+ channel)について、その発現解析を行なった。ROKは外向き整流性を示すグループに入る。これまでにリアルタイムPCR法を用いて発現量を比較したところ、2品種いずれも出穂期の約10日前の方が5日前よりも約5-10倍高いことがわかっており、出穂期の約10日前は冷温感受性期に相当するといわれる。
    ROKタンパク質の細胞内膜局在を確かめるために主にROK発現酵母を用いて検討した。酵母の総膜画分をショ糖密度勾配遠心により分画し、主なオルガネラマーカーを指標として(PM Pma1, VM Vam3, ER Kar2, Golgi IDPase)解析を行った。その結果、ROKタンパク質は主としてERに局在しており、液胞膜や細胞膜には分布していないことが示された。また、シロイヌナズナの培養細胞を用いたROKのGFP融合タンパク質の局在性もER局在を示唆するものであった。
  • 金子 智之, 岩渕 功誠, 菊山 宗弘
    p. 712
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
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    植物は風雨や接触、重力などのさまざまな機械刺激に応答する。また電気生理学的モデル植物であるシャジクモ類においては、刺激受容の際に Cl-チャネルの活性化による受容器電位が発生するということが知られている。我々はこれまでの研究から、受容器電位発生の最初の過程は、機械刺激感受性の Ca2+ チャンネルの活性化であることを明らかにした。しかし、機械刺激を受容したチャネルの活性化が膜の変形によって起こるのか、もしくは伸展によって起こるのかについてはわかっていなかった。そこで今回これらのことを明らかにすべく、エクオリンを顕微注射したシャジクモ類節間細胞に原形質分離と原形質復帰とを行い、これらの処理に伴う原形質膜の伸展と細胞内 Ca2+ 濃度変化の関係を調べた。その結果、原形質分離と原形質復帰の両方の処理で細胞内 Ca2+ 濃度が上昇するが、それぞれの細胞内 Ca2+ 濃度変化のパターンが異なることを確認した。これらのことは、機械刺激感受性チャンネルの活性化を引き起こすものは、膜の変形であるよりはむしろ膜の伸展 (stretch) である可能性を示唆している。
  • 紙本 宜久, 寺坂 和祥, 濱本 正文, 矢崎 一史
    p. 713
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
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    近年、ABCタンパク質は生体異物の排出のみならず多岐にわたる生理学的機能に複雑に関与していることが知られるようになってきた。モデル植物であるシロイヌナズナにおいては、約130種類のABCタンパク質が存在するとされるが、その中でも特にPGP (P-glycoprotein)サブファミリーのメンバーがオーキシン輸送に関与することが見出され、近年非常に注目を浴びている。我々は最近、22個存在するPGPの内AtPGP4が根の表皮細胞で特異的に発現し、根における求基的なオーキシン輸送に関与していることを証明した。シロイヌナズナのPGPメンバーは互いに高いアミノ酸相同性を示すペアとして存在する傾向があり、AtPGP4に対しては79%のアミノ酸相同性を示すAtPGP21が存在するが、その機能解析はこれまで行われてこなかった。そこで本研究では、AtPGP21遺伝子の機能を明らかにするために、まず northern解析とプロモーターGUSレポーターを用いた発現解析を行った。その結果、AtPGP21遺伝子はAtPGP4とは異なったホルモン応答を示すこと、また根と茎の両方において強い発現を示すことが明らかとなった。現在、RNAiによるノックダウン植物の解析と、Sf9を用いた異種間発現系の確立を行っているところである。
  • 杉山 暁史, 士反 伸和, 佐藤 修正, 田畑 哲之, 矢崎 一史
    p. 714
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
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    ABC(ATP-Binding Cassette)蛋白質はバクテリアからヒトまで幅広く分布し、スーパーファミリーを形成する。近年、根粒形成過程におけるミヤコグサcDNAアレイ解析結果が報告されたが、そこから根粒形成の初期過程で発現上昇を示すPDR(Pleiotropic Drug Resistance)型ABC蛋白質遺伝子LjPDR12を見出した。
    このPDR蛋白質は、病原応答を示すAtPDR12とのアミノ酸相同性が68%、また抗菌性のジテルペン化合物スクラレオール輸送に関与するタバコ属のNpABC1や、ウキクサのSpTUR2との相同性はそれぞれ70%、65%と高いことから、植物-微生物間相互作用への関与が示唆された。
    ミヤコグサの実生を用いて、植物ホルモンを含む種々の化合物への発現応答を解析したところ、LjPDR12はメチルジャスモン酸によって発現が著しく上昇した。その発現応答の経時変化を調べた結果、LjPDR12は3時間後には最大の約10倍程度まで発現が上昇し、そのレベルは48時間まで継続した。一方、サリチル酸に対してLjPDR12は、処理後3時間で10倍程度の一過的な発現上昇が認められた。しかし、アブシシン酸によって発現の低下が認められた。
    現在、地上部にメチルジャスモン酸を投与した時の根におけるLjPDR12の発現変動を調べる一方、RNAi植物の作出を試みている。
  • 増田 寛志, 小林 高範, 石丸 泰寛, 高橋 美智子, 中西 啓二, 吉原 利一, 高岩 文雄, 森 敏, 西澤 直子
    p. 715
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
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    世界人口のうち約10億人が鉄欠乏性貧血症であると言われており、特にアジアで深刻な問題となっている。そこで、種子における鉄含有量を高めたイネ(高鉄米)を創製すれば、鉄欠乏性貧血症の改善に大きく貢献すると考えられる。すでに我々は、イネの胚乳に鉄貯蔵タンパク質であるフェリチンを高発現させ、種子における鉄含有量を最大で約3倍に増加させることに成功した。しかし、フェリチンの発現をさらに強化させても種子の鉄含有量はあまり増加しなかった。これは植物体内に充分な鉄がないためであり、鉄の吸収や転流を強化しない限り、これ以上鉄含有量を増加できないと考えられた。そこで本研究では、ダイズフェリチン遺伝子SoyferH2と共に、イネ科植物の鉄獲得機構において重要なムギネ酸類の生合成に関わるオオムギの遺伝子、HvNAS1、HvNAATA,BおよびIDS3をイネに導入することにより、イネの鉄吸収・転流能力を向上させ、より鉄含有量の高い高鉄米を創製することを試みた。SoyferH2は、2.3kGluB1とGlb1の二種のイネ胚乳特異的発現プロモーターを用いて発現させた。さらに、将来の実用化を念頭におき、選抜マーカーを外すことが可能な大容量マーカーフリーベクターを用いた。現在、102系統のT0形質転換体が得られたので、今後、T1種子中のフェリチンの発現と鉄含有量について測定した結果を報告する予定である。
  • 田中 真幸, 高野 順平, 藤原 徹
    p. 716
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
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    NIPはMajor Intrinsic ProteinsのうちNodulin 26に相同な一群のタンパク質で、植物に固有である。NIPは水だけでなく、グリセロールなどの電荷をもたない低分子化合物のチャンネルであることが示されてきている。植物はホウ素をホウ酸として吸収するが、ホウ酸は中性水溶液中では電荷を持たない分子として存在しており、NIPによって輸送される可能性が考えられる。これまでに、マイクロアレイによる解析によってNIP遺伝子のうちの一つがホウ素欠乏条件で強く発現誘導されること等を報告してきた。現在、複数のNIP遺伝子について、ホウ酸の輸送能について酵母を用いた発現系を用いた解析を進めるとともに、シロイヌナズナの遺伝子破壊株の成長やホウ素の輸送についての実験を進めており、本発表ではこれらの研究の最新の結果を報告する。これまでに、ホウ素欠乏で発現誘導を受ける遺伝子だけでなく、発現誘導を受けないNIP遺伝子についても、遺伝子破壊変異株を用いた解析によって、植物個体におけるホウ素輸送に何らかの役割を持っていることを明らかにしている。
  • 気多 澄江, 山木 昭平, 山田 邦夫, 白武 勝裕
    p. 717
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
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    バラ科果樹は糖アルコールの一種であるソルビトールを主要な転流糖とする。糖アルコール輸送体は配列から2つのグループに分類される。リンゴ、オオバコなどのソルビトール輸送体、セロリのマンニトールの輸送体が属するグループ(Group I)は比較的解析が進んでおり、細胞膜への局在が示されている。一方、アイスプラント(McITR)やシロイヌナズナ(AtITR)のミオイノシトール輸送体が属するグループ(Group II)の情報は少ない。McITRは植物では初めて液胞膜への局在が示されたことから、液胞への糖蓄積機能、特に果実液胞への糖蓄積に関わる分子として興味深い。そこで本研究ではバラ科果樹からGroup IIの輸送体ホモログを単離し解析を行った。セイヨウナシから2種類のMcITRホモログ(PcITR1PcITR2)をクローニングした。器官別の遺伝子発現を調べた結果、PcITR1は葉以外の器官で高くPcITR2は葉で顕著に高かった。酵母発現系を用いPcITR1の糖輸送活性の測定を試みたが、明確な結果は得られなかった。PcITR1の細胞内局在を調べたところ, McITRとは異なり細胞膜に局在した。アイスプラントのMcITRの結果からGroup IIの輸送体は液胞膜局在であると考えられていたが、今回の結果からGroup IIにも細胞膜局在の糖輸送体が存在することが明らかとなった。
  • 吉川 那々子, 長崎 順子, 谷口 光隆, 富田 佑輔, 川崎 通夫, 三宅 博, 杉山 達夫
    p. 718
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
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    プラスチド内包膜に存在する2-オキソグルタル酸(2-OG)/リンゴ酸輸送体(OMT)とジカルボン酸輸送体(DCT)は協調して機能していると考えられている.すなわち,TCA回路や光呼吸経路で生じた2-OGをプラスチド内のGS/GOGAT回路に受け渡すとともに,生じたGluのサイトソルへの排出を行っており,OMT/DCT輸送系は炭素代謝と窒素代謝を仲介する重要な役割をもつとされてきた.しかし,シロイヌナズナOMT遺伝子破壊株より単離した葉緑体を用いたin vitro解析の結果では,DCT単独でも十分な2-OG/Glu交換輸送が行われており,OMT/DCT共輸送系の必要性に疑問が生じていた.OMT遺伝子破壊株では野生株に比べて若干の生育遅延が見られている.そこで,葉中の代謝産物含量を測定したところ,2-OGおよびクエン酸含量が野生株に比べて高かった.アミノ酸においては,Glu,Asp,Ala,Serなどが低下している一方,Glnが増大していた.したがって,遺伝子破壊株では葉緑体への2-OG取り込みが低下しており,GS/GOGAT回路が十分に機能せず,以降のアミノ酸合成が抑制されているため生育遅延がおきていることが示唆され,生体中でのOMTの重要性が明らかとなった.また,遺伝子破壊株を強光に曝すと,野生株に比べて有意にΦIIおよびFv/Fmの低下が見られた.この光阻害がOMTを介した還元力輸送あるいは光呼吸とどのように関連しているかについても報告したい.
  • 柴坂 三根夫, 且原 真木
    p. 719
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
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    アクアポリンファミリータンパク質分子の立体構造はアクアポリンとグリセロポリンを含め約10の分子種について調べられていて、基質輸送は分子の中心を貫く孔を通して行われることと、その孔の内部構造と基質の関係についても詳細な報告がある。しかし、タンパク質の外側に向いた部位にも活性調節に関する部分が示唆されていて、基質が通る孔とタンパク質の骨格構造の関係を明らかにすることは重要なことである。
    大腸菌のグリセロポリン分子は基質との共存条件の異なる立体構造がデータベースに登録されている。そこで、本研究ではデータベースからグリセロポリンの立体構造を取得し、タンパク質の骨格構造が基質の共存によってどのように異なるのかを計算機上で詳細に検討した。
    結果、グリセロールの有無の違いは膜貫通へリックスの傾きにほとんど影響がなく、1度以下の違いであることが分かった。しかし、一部の膜貫通へリックスのひねり角は条件によって変動がみられた。特に第6膜貫通へリックスは外側のグリセロールの有無によってひねり角が変化し、穴の中のグリセロールの有無によってN末側にも構造変化を起こしていることが分かった。
  • 桜井 淳子, 水谷 政博, 石川 文義, 村井 麻理, 上村 松生, 前島 正義
    p. 720
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
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    アクアポリンは植物の水輸送を担う膜タンパク質である。我々はすでにイネゲノムデータベースより33種類のアクアポリン遺伝子を同定し、それら遺伝子の器官特異的な発現パターンから、各アクアポリン分子種が特定の器官で重要な役割を担う可能性を示した。本発表ではさらに、個々のアクアポリン機能を解明するため、イネ植物体で発現量の多いOsPIP2;1, OsTIP1;1, OsTIP2;1等の分子種を個別に認識するペプチド抗体を用いて、器官・組織レベルでの発現解析を行った。また個々のアクアポリンの水透過活性についても報告する。
    mRNAレベルでの解析結果と同様、タンパクレベルでもOsPIP2;1, OsTIP1;1は葉身・根の両方で発現し、OsTIP2;1は根のみで発現していた。また根の横断切片に対し各アクアポリン抗体を反応させたところ、内皮、表皮、外皮、維管束、皮層等での局在が確認されたが、分子種によって局在パターンが異なることが明らかとなった。また9種類のアクアポリンを個別に発現させた酵母から膜小胞を調製し、光散乱法にて水透過活性を検討したところ、OsPIP2;1, 2;2, 2;3, 2;4, 2;5およびOsTIP1;1, 2;1は明瞭な水透過活性を持つのに対し、OsPIP1;1, 1;2はほとんど水透過活性を示さなかった。これらの結果から各アクアポリン分子種の機能について考察する。
  • 桑形 恒男, 村井 麻理, 櫻井 淳子
    p. 721
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
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    植物細胞は、成熟するにつれて液胞を大きく発達させ、代謝の場として重要な細胞質は細胞膜と液胞膜に挟まれた構造となる。植物は、1) 蒸散で失われた水を根からすみやかに供給することによって水バランスを保ち、2) 伸長部位の細胞に水を送り込むことによって成長している。さらに、3)乾燥ストレス下では、細胞脱水を防ぐとともに、細胞質浸透圧の急変を避けることも必要になる。これらの相反する要求を満たすために、細胞膜と液胞膜の水透過率調節は重要であり、両方の膜に発現する水チャネルがその役割を果たしているものと想定される。そこで、細胞膜と液胞膜の水チャネルの役割を明確にするため、内外の浸透圧差によるプロトプラストの膨張・収縮を再現する理論モデルを用いた解析をおこなった。その結果、1)細胞膜の水透過率Pf1と液胞膜の水透過率Pf2を両者ともに高くすることによって、細胞の生長(膨張)と、細胞間の水輸送を最も促進することができる。2)乾燥条件下では、Pf1とPf2を両者ともに低くすることによって、細胞全体からの脱水を効果的に抑制することができる。ただし、細胞質からの急激な脱水を最も抑制することができるのは、Pf1を低くPf2を高くした場合である。3)液胞の小さな(細胞容積の50%以下)細胞では、細胞膜の水透過率Pf1のみが重要で、液胞膜の水透過率Pf2の大小は重要でないことなどが示された。
  • 片岡 秀夫, 村本 拓也, 大和 勝幸, 河内 孝之
    p. 722
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
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    フィトクロムは植物が持つ主要な光受容体である。本研究では下等植物におけるフィトクロムの機能、性質について知見を得ることを目的とし、苔類ゼニゴケ(Marchantia polymorpha)を用いてフィトクロムと光形態形成の解析を行った。ゼニゴケは地球上に存在する生物の中でも最初に陸上に上がった生物であると考えられ、生活環の大半が半数体であることおよび非常に単純な体制を持つことからモデル植物として優れている。本研究ではESTデータベースおよびゼニゴケPACゲノムライブラリーを用いてゼニゴケフィトクロム遺伝子(MpPHY)を同定した。MpPHY遺伝子は植物の持つ典型的なフィトクロム同様、4つのエキソンおよび3つのイントロンから構成されており、イントロンの挿入位置は保存されていた。また、高等植物のフィトクロムと異なり、シングルコピーであり1分子種しか存在していないことをゲノミックサザン解析により明らかとした。さらに、大腸菌を宿主とした機能的なMpPHYの発現、および相同組み換えによるMpPHY遺伝子ターゲッティングを試み、MpPHYの機能解析を行った。また、ゼニゴケでは通常の蛍光灯での培養条件下では生殖成長に移行しないことが知られていたが、遠赤色光照射によって生殖生長への移行が速やかに行われることを見出した。現在、生殖生長への移行とMpPHYとの関連について解析を進めている。
  • 山本 渥史, 岩田 達也, 徳富 哲, 神取 秀樹
    p. 723
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
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    フォトトロピンは植物の青色光センサーであり、発色団としてフラビンモノヌクレオチド(FMN)を持っている。FMNが光を受容すると、FMNと近傍のシステインとが共有結合を形成する。これに誘起されてLOVドメインの構造が変化し、セリン/スレオニンキナーゼドメインが活性化されることで、植物の光屈性や葉緑体光定位運動・気孔の開口のような生理作用を制御していると考えられている。
    フォトトロピンは水溶性タンパク質であり、したがってLOVドメインの構造変化はその水和状態に影響を受けると考えられる。最近、我々のグループは、タンパク質の水和状態がPhy3LOV2の光誘起構造変化に対して著しく影響を与えることを、赤外分光法によって見出したので報告する。α-へリックスやβ-シートといった二次構造の構造変化は水和量に依存し、さらに、中間体S390の減衰にもまた水和量依存性が存在した。これらの結果から、Phy3LOV2の光誘起構造変化には水和水分子が不可欠であることは明らかであり、水和水分子が構造変化のためのタンパク質の揺らぎを引き起こしていると考えられる。また今回の結果から、我々はタンパク質一分子あたりに水和している水分子の数を見積もることを試みた。発表では水和水分子の数とPhy3LOV2の構造変化および時定数との関係を中心に、LOVドメインの構造変化に対する水和水分子の重要性を議論したい。
  • 坪井 秀憲, 和田 正三
    p. 724
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
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    植物の光屈性反応は一般的に青色光によって誘導され、その光受容体はフォトトロピンである。多くのシダ植物の原糸体細胞では青色光だけでなく赤色光も光屈性に有効である。ホウライシダでは赤色光による光屈性反応は、フィトクロムの色素団結合部位とフォトトロピンが融合したキメラ光受容体フィトクロム3によって制御されている。我々は最近ホウライシダの胞子発芽時に最初に出現する仮根が負の光屈性を示すことを発見し解析を行った。寒天培地上に播かれた胞子に赤色光を一方向から照射し、発芽を誘導すると、仮根が出現する部位はランダムなのに対して発芽後4日目の仮根は光源とは反対方向に伸長しているものが多く見られた。そこで微光束照射による詳細な解析を行った。暗順応させた原糸体の先端部分40μmの片側に赤色微光束を照射すると仮根細胞の先端は光照射部位と反対方向へ屈曲した。フィトクロム3遺伝子の変異体であるrap変異体に同様な光照射を行った結果、仮根細胞の負の光屈性が失われていた。このことは原糸体細胞で正の光屈性の光受容体であるフィトクロム3が仮根では負の光屈性の光受容体として使われていることを示している。
  • 小塚 俊明, 松下 智直, 岡 義人, 長谷 あきら
    p. 725
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    フィトクロムB(phyB)は、植物の生理機能や形態形成制御に大きく関与しており、植物の光環境応答にとって重要なシグナルである。しかしながら、phyBシグナル伝達の分子メカニズムの多くは明らかになっていない。そこで、我々は新たなphyBシグナル伝達因子の発見と、その分子機構解明を目的として研究を進めている。
    phyBタンパク質は、光受容を担うN末領域と、二量体化を担うC末領域とに大きく分けられる。我々は、これまでの解析からphyB-N末領域はシグナル発信領域であることを明らかにしてきた。このphyB-N末領域のみを発現する形質転換シロイヌナズナにEMS変異源処理し、phyBシグナルに異常が見られる変異体スクリーニングを行った。これまでに、phyB N-terminal domain signaling (pns) としてpns1pns2pns3を単離、報告したのに加え (Matsusita, et al., 2005, 植物生理学会) 、新たに劣性変異としてpns4pns5を単離した。これらは、弱赤色光下において胚軸伸長が徒長し、且つ近赤外光下において正常な胚軸伸長が認められることから、pns4pns5変異体原因遺伝子はphyBシグナル下流で機能すると考えられる。これらpns変異体原因遺伝子はマッピングが進められており、今回生理学的解析と併せて報告する。
  • 清田 誠一郎, 謝 先芝, 高野 誠
    p. 726
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    Phyotochromeは、植物の赤(R)/遠赤色(FR)光の受容体で、成長、分化や代謝制御の光応答において重要な役割を担っている。イネでは、phyA,phyB,PhyCの3つが遺伝子ファミリーを形成している。それぞれのphytochrmeの特異的な役割を解明するため、イネphyA,phyB,phyBC,phyAC,phyABC突然変異体を用いて、microarryによる解析を行った。
    野生型(日本晴)および突然変異体の暗所芽生えに、RまたはFR光を短時間照射し、30分後および4時間後の植物から、mRNAを単離しmicroarray解析に用いた。それぞれの光照射を行わなかった対照と比べ、2倍以上の発現変化示した遺伝子をphytochromeで制御を受けている遺伝子の候補とした。それらは、光照射後の発現パターンのクラスター解析から、早期誘導、後期誘導、早期抑制、後期抑制の4グループに分類できた。早期誘導グループに含まれる遺伝子の多くは、phyAC突然変異体で、R、FR光共に、発現が見られなかった。突然変異体での発現の比較から、イネでは、R、FR光共にphyAが主要な光受容体であることが確認された。
  • 清水 久代, 七夕 高也, 謝 先芝, 稲垣 言要, 高野 誠, 篠村 知子
    p. 727
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    植物の根にフィトクロムが存在することは報告されているが、その生理作用は光屈性以外にはあまり知られていない。私たちはイネのフィトクロム欠損変異体を用いて根の光形態形成におけるフィトクロム作用を調べたので報告する。
    野生株イネ(Nipponbare)を1/2濃度のMS培地(ゲランガム0.2%)に播種し暗所で7日間生育させた場合、種子根はほぼ重力方向に8cm以上伸長した。一方、連続白色光照射下では、発芽誘導から2日後、種子根が約2cmに達したところでコイル状に屈曲し、伸長を停止した。この反応は窒素濃度に依存し、窒素濃度が0.1mMより低い濃度では見られず、0.1~10mMでは窒素濃度が高くなるにつれて高頻度で見られた。この反応は暗所で発芽誘導させてから48~72時間目に光を照射した場合に最も効果的に引き起こされた。フィトクロム欠損変異体を使った単色光照射実験、ウエスタンブロッティングによる根のフィトクロムタンパク質の検出、および光の局所的な照射実験の結果から、種子根に存在するフィトクロム分子が光を受容して種子根の伸長抑制の生理反応を調節することがわかった。フィトクロム分子種の根の光形態形成における役割分担様式の特徴を考察する。
    本研究は、農水省プロジェクトIP1006の委託を受けて実施した。
  • 石川 亮, 篠村 知子, 七夕 高也, 清水 久代, 稲垣 言要, 高野 誠, 島本 功
    p. 728
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    我々はイネの開花機構を明らかにするため、短日植物に見られる光中断による花成遅延現象を利用した研究を展開している。イネに対して暗期の中央で白色光による光中断処理を一度行った場合、開花のスイッチとされるHd3a遺伝子の急激な発現抑制が観察された。また、フィトクロム欠損変異体を用いた解析から光中断においてフィトクロムBがHd3a遺伝子の発現調節に関係していることが示唆された(Ishikawa et al. 2005)。本発表ではイネの開花におけるフィトクロムの作用を明らかにすることを目的とし、光中断時における光源の波長を限定した実験を行なった。その結果、光中断によるHd3aの発現低下と開花遅延は赤色光によって確認されたが、遠赤色光では確認されなかった。さらに1952年にBorthwickらによって発見された光中断における、光可逆的開花反応にはフィトクロムBとHd3aが関与していることを見出した。これらの実験からHd3a遺伝子の発現様式を明らかにし、フィトクロムBからのシグナルがHd3aの転写制御機構を調節していることについて考察したい。
  • 宇佐見 健, 松下 智直, 望月 伸悦, 鈴木 友美, 長谷 あきら
    p. 729
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    植物の主要な赤色光受容体であるフィトクロムB(phyB)は発色団を結合するN末端ドメインからシグナルを発信し、C末端ドメインは二量体化や核移行に関与する(Matsushita et al. 2003)。phyBのC末端ドメインはシグナル発信には直接関与しないものの、yeast two-hybrid等の結果から、phyBはこのドメインを介して青色光受容体であるクリプトクロムと物理的に相互作用する可能性が考えられる。我々はphyBのC末端ドメインを過剰発現する形質転換植物の表現型を詳細に解析し、これらの植物では青色光に対する応答が強まっていることを見出した(宇佐見他、日本植物生理学会2005年度年会)。
    本研究では様々な光受容体の突然変異体背景にphyBのC末端ドメインを過剰発現させ、その表現型を観察した。その結果、phyBのC末端ドメインは主にクリプトクロム1のシグナルを増強していることが示唆された。しかし、免疫共沈降による解析からは、phyBのC末端ドメインとクリプトクロム1が物理的に相互作用していることを示す結果は得られなかった。phyBのC末端ドメインは核内に恒常的に局在し、顆粒状の構造体を形成するが、現在我々は細胞内局在や核内構造体形成能を変化させた改変C末端ドメインを発現する形質転換植物を作製し、phyBのC末端ドメインの機能についてさらなる解析を行っている。
  • 廣瀬 文昭, 島田 浩章, 高野 誠
    p. 730
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    私たちはイネの光応答反応の解明の一環として、青色光受容体・クリプトクロムの機能解析を進めている。私たちは今までにイネから3種類のクリプトクロム遺伝子(OsCRY1a, OsCRY1b, OsCRY2)を単離し、発現解析を行なってきた。今回はイネの光形態形成反応におけるクリプトクロムの機能解析の結果を報告する。イネのクリプトクロムの生理機能を調べるために、OsCRY1a, OsCRY1b, OsCRY2それぞれの遺伝子を過剰発現させた形質転換イネを作製した。OsCRY1a, OsCRY1b, OsCRY2遺伝子を過剰発現させた形質転換イネを8日間白色光下で生育させたところ、いずれの過剰発現体も日本晴(WT)に比べて葉鞘と葉身の長さが短くなっていた。そこで、葉鞘と葉身の長さに影響を与える光質を調べるために、様々な光質(青色光・赤色光・遠赤色光)の下で過剰発現体を生育させ、対照(日本晴)と比較した。
  • 井上 晋一郎, 木下 俊則, 島崎 研一郎
    p. 731
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    インゲンマメは青色光に応答して葉面を光源に向ける。この運動には、葉身の根元にある葉枕が重要な役割を果たしている。これまでに、葉枕を構成する運動細胞において細胞膜H+-ATPaseが青色光で不活性化され、それにより運動細胞の膨圧が低下し、葉の運動が誘導されることが分かっている。しかし、この反応の駆動力を形成するH+-ATPaseの生化学的解析はほとんど行われていない。また、この反応を引き起こす青色光受容体も不明である。本研究では、葉枕を用いて葉の運動の初期過程における、H+-ATPaseとphototropinの機能に関して生化学的に解析した。暗黒下ではphototropinは脱リン酸化状態で、H+-ATPaseはリン酸化状態で存在していた。そこに30秒の青色光パルスを照射すると、phototropinがリン酸化され、続いてH+-ATPaseが徐々に脱リン酸化された。また、両者のリン酸化と脱リン酸化は同じ青色光強度依存性を示した。さらに、葉枕にSer/Thrキナーゼ阻害剤K-252aとフラビン結合性蛋白質阻害剤DPIを処理すると、phototropinのリン酸化とH+-ATPaseの脱リン酸化が同程度に阻害された。以上の結果は、phototropinがH+-ATPaseの上流で青色光受容体として機能し、C末端の脱リン酸化によりH+-ATPaseの活性を低下させていることを示している。
  • 武宮 淳史, 木下 俊則, 淺沼 三和子, 島崎 研一郎
    p. 732
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    青色光受容体であるフォトトロピンは細胞膜H+-ATPaseの活性化をおこない、気孔開口を誘導する。しかしながら、フォトトロピンからH+-ATPaseに至る情報伝達については不明である。本研究では、孔辺細胞青色光情報伝達におけるプロテインホスファターゼ1(PP1)の関与を報告する。脱リン酸化活性を欠いたPP1触媒サブユニット変異体やPP1特異的阻害性タンパク質であるインヒビター2をソラマメ孔辺細胞に一過的に発現させると、青色光に依存した気孔開口が阻害された。一方、これらを発現する細胞では、H+-ATPaseの活性化剤であるフシコクシンに依存した気孔開口は正常にみられた。また、膜透過性のPP1阻害剤であるトートマイシンを処理した表皮や孔辺細胞プロトプラストでは、青色光に依存した気孔開口や気孔開口の駆動力となるH+放出が阻害された。さらに、トートマイシンを添加した孔辺細胞プロトプラストでは、青色光によるフォトトロピンの自己リン酸化は影響を受けず、H+-ATPaseの活性化に必要なこの酵素のリン酸化が特異的に阻害された。これらの結果は、PP1が孔辺細胞青色光情報伝達においてフォトトロピンの下流、かつH+-ATPaseの上流でポジティブなレギュレーターとして機能していることを示している。
  • 橋本 美海, 祢宜 淳太郎, Young Jared, Schroeder Julian, 射場 厚
    p. 733
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    CO2は濃度依存的に気孔の開閉を誘導する環境因子であり、低CO2条件下では気孔は開口し、蒸散量が上昇し、葉面温度が低下する。このような植物のCO2感知のメカニズムを調べるために、現在、CO2濃度依存的な葉温変化に異常をきたすシロイヌナズナ突然変異体のスクリーニングを行っている。ht 1(high leaf temperature mutant 1) は、低CO2条件下で高温を示す変異株として単離され、CO2濃度変化に伴う気孔の応答性が低下していることが確認された。このHT1原因遺伝子はタンパクキナーゼをコードしており、葉において孔辺細胞特異的な発現をしていた。ht 1 には2つのアリルが存在するが、変異体の表現型の強さと変異型タンパクにおけるキナーゼ活性の強さには相関がみられた。また、キナーゼ活性の欠損を引き起こす改変HT1遺伝子を過剰発現させた形質転換植物は、ht 1 と同様CO2応答性が低下していた。このことはHT1キナーゼの活性が植物におけるCO2応答と密接に関わっていることを示唆している。さらに、ht 1変異体においてABAに対する応答性を調べたところ、野生株とほぼ同様の応答性を示したことから、HT1キナーゼはABAシグナルとは独立したCO2シグナル経路上の因子であることが示唆される。光シグナルとの関わりについても議論する予定である。
  • Jabeen Riffat, 山田 小須弥, 長谷川 剛, 南 栄一, 繁森 英幸, 長谷川 宏司
    p. 734
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    近年、光屈性反応はこれまで広く信じられてきたオーキシンの光側組織から影側組織への横移動に伴う影側組織での成長促進ではなく、光屈性刺激によって誘導される光屈性制御物質が光側組織で生成された結果、光側組織の成長が抑制されて屈曲するというBruinsma-Hasegawa説が提唱され、数々の証拠が提示されてきた。トウモロコシ幼葉鞘からは光屈性制御物質としてDIMBOA及びMBOAが既に単離・同定されている。これまでの研究から、幼葉鞘に光屈性刺激(青色光の連続照射)を加えるとDIMBOAの前駆体であるDIMBOA-GlcからDIMBOAへの変換を触媒するβ-グルコシダーゼの活性が光側組織で一過的に上昇し、その結果DIMBOA及びMBOAが増加すること、更に光エネルギー量に依存してβ-グルコシダーゼ遺伝子の発現が一過的に誘導されること等が明らかにされた。また、β-グルコシダーゼ阻害剤の前処理により、光屈性反応は光側組織での成長抑制の減少に起因して低下することも確認した。現在、光屈性反応に伴う光側・影側組織でのβ-グルコシダーゼ遺伝子の発現解析、並びに活性酸素の動態について、更にβ-グルコシダーゼ阻害剤の前処理による光側・影側組織でのDIMBOA及びMBOAの動態について解析を進めている。得られた結果を基に、光屈性刺激に伴う光側組織での成長抑制のメカニズムについて考察する。
  • 宮脇 奈那, 熊谷 智明, 高木 慎吾
    p. 735
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    ホウレンソウ葉肉細胞に青色強光(460 nm, 50 μmol/m2 sec)を照射すると、30分以内に葉緑体の逃避運動が誘発された。葉緑体は光の方向に対して垂直な面から平行な面へと、速度約1 μm/minで移動した。この葉緑体逃避運動に対するアクトミオシン系阻害剤の効果を調べた。アクチン脱重合剤cytochalasin B(100 μM)は逃避運動を可逆的に阻害した。逃避運動はミオシン阻害剤BDM(2,3-butanedion monoxime)によっても可逆的に阻害され、その効果はBDM濃度依存的(0-100 mM)であった。BDMによる阻害がアクチン繊維の破壊によるものではないことを、蛍光ファロイジン染色により確認した。次に、逃避運動の際にアクチン構築に変化が見られるかを調べた。作用光照射前の細胞では、葉緑体を囲むような細いアクチン繊維束が見られたのに対し、青色強光照射下では、細胞内を横切るような太い直線的なアクチン繊維束が観察できるようになった。一方、赤色強光(660 nm, 30 μmol/m2 sec)では葉緑体逃避運動は誘発されず、アクチン構築の顕著な変化も見られなかった。本研究結果から、ホウレンソウ葉肉細胞ではアクチンとミオシンの両者が葉緑体運動において不可欠な働きを担っていることが示唆された。
  • 望月 堂照, 齋藤 由貴子, 竹中 展宏, 恩田 弥生, 豊島 喜則
    p. 736
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    Arabidopsis thaliana のPEPの6種のσ因子の遺伝子(SIG1SIG6)は核にコードされている。本研究では特異的な光誘導転写挙動を示すSIG5の青色光誘導転写の応答時間と光強度依存性を野生株(WT)とクリプトクロム(CRY)二重機能欠損体(cry1/2)について調べ、SIG1およびSIG2の場合と比較した。
    24時間暗順応したWTとcry1/2に1~50μmol/m2sの青色光を照射し、SIG1SIG2SIG5のmRNA 蓄積量を定量PCRによって求めた。WTではSIG1SIG5について30分程度の誘導時間と2μmol/m2s程度の強度閾値を持つ青色光誘導が観測された。90分後のmRNA蓄積量はSIG1では2μmol/m2sで一定値に達し、50μ mol/m2sまで光強度を上げても変化しなかったが、SIG5では2~10μmol/m2sでは一定でそれ以上では光強度とともに増加する二段階の光強度依存性を示した。また、cry1/2では、SIG5は青色光誘導がほぼ完全に消失したが、SIG1は野生株の1/3の青色光誘導を示した。これらの結果より、SIG5の青色光誘導にはCRYを介する弱光応答と強光応答の2経路が存在すること、SIG1ではCRY以外の経路も存在することが明らかになった。SIG2の青色光転写誘導は非常に低く、また、120分程度の長い誘導時間を必要とした。
  • 高橋 亮太, 鈴木 博行, 岡島 公司, 中村 寛夫, 池内 昌彦, 野口 巧
    p. 737
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    好熱性ラン藻Thermosynechococcus elongatus由来のフラビン結合蛋白質PixDは、走光性に関与する青色光受容BLUF蛋白質である。最近明らかにされたPixDのX線結晶構造によると、光誘起反応において大きな構造変化を示すことが知られているフラビンのC4=O基の近傍には、Gln50及びTyr8が存在し、C4=Oへの水素結合ネットワークを形成している。しかし、その水素結合ネットワークの光反応への関与やPixDの機能における役割は不明である。そこで本研究では、Tyr側鎖を選択的に同位体置換したPixDを用い、その光誘起フーリエ変換赤外(FTIR)差スペクトルを測定することによって、Tyr8の反応機構への関与について調べた。
    Tyrの水酸基が結合する4位の炭素を13C同位体置換した[4-13C-Tyr]PixDについて、光誘起FTIR差スペクトルを測定した。非置換PixDのスペクトルとの二重差スペクトルには、1275−1225cm-1の領域に、チロシン側鎖のC-O伸縮及びCOH変角振動由来のピークが観測され、Tyr8の構造がフラビンの光反応により変化することが示された。これらのピークの位置及び強度を、理論計算によって解析した結果、Tyr8の水酸基はGln50のC=O基と水素結合を形成しており、フラビンの光反応によってその水素結合強度が増すことが示された。このことは、フラビンのC4=OからGln50、Tyr8へと続く水素結合ネットワークが、PixDのシグナル伝達機構において重要な役割を果たしていることを示唆している。
  • 片山 光徳, 池内 昌彦
    p. 738
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    シアノバクテリアは光環境の変化に応じて大きく遺伝子発現パターンを変化させることが知られる。これには光刺激に応じて転写を制御する何らかの機構が関与していることが示唆される。我々はシアノバクテリアの遺伝子発現に光応答性を付与する因子を特定するため、発現レベルが明暗変化に応じて変動する転写因子の遺伝子破壊株においてDNAマイクロアレイ解析を行い、遺伝子発現の光応答性に影響を与えるものを探索した。その結果slr0701(phoU-homolog)およびsll1594 (ndhR)の破壊により一群の遺伝子発現の光応答性が減弱されることが分かった。slr0701の発現は暗明移行により低下するが、その破壊によりrbcオペロン、リボソームタンパク質遺伝子、rpoA等を含む57遺伝子の暗明移行に伴う発現誘導の割合が低下した。その一方dnaJを含む10遺伝子の発現抑制の割合が低下した。sll1594の発現は暗明移行により増加するが、その破壊によりリボソームタンパク質遺伝子を含む4遺伝子の暗明移行に伴う発現誘導の割合が低下した。そしてtrxM, nblAを含む22遺伝子の発現抑制の割合が低下した。これより、slr0701産物およびSll1594産物は主として暗所から明所へ移行した際の遺伝子発現の促進因子および抑制因子として働いていることが示唆された。
  • 平井 正良, 雨木 若慶
    p. 739
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    異なる単色光が茎伸長に及ぼす影響を明らかにすることを目的に以下の実験を行った.ヒマワリ,トマト,レタスの実生を,発光ダイオードを用いた青色および赤色の単色光と白色蛍光灯下で栽培し,下から数えて第1から第3節間について,節間長およびそれぞれの節間の表皮細胞の長さ,数を計測した.その結果,ヒマワリは青色光で,トマト,レタスは赤色光で節間伸長が最も促進された.3種とも節間伸長が大きい単色光下において細胞の伸長および数の増加がみられたが,青色光下のヒマワリと赤色光下のトマトの第一節間は細胞数の増加,第3節間は細胞伸長が節間伸長の主な要因であった.一方,赤色光下のレタスの第1節間は細胞伸長,第3節間は細胞数の増加が茎伸長の要因であった.つまり,光質による茎伸長の制御は細胞伸長と細胞分裂が光質により異なることが原因となっており,これらの変化の方向は植物種により,また同じ植物種であっても節間の位置により異なることが明らかとなった.
  • 岡澤 敦司, 和田 悠, Trakulnaleamsai Chitra, 福崎 英一郎, 小林 昭雄
    p. 740
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    我々は,光合成を行わない植物における光シグナル伝達経路が,光合成植物のものとどの程度異なっているかを明らかにすることで,植物の光シグナル伝達に関して新しい知見を得ることを目的として研究を行っている.これまでに,全寄生植物ヤセウツボ(Orobanche minor)のフィトクロムA遺伝子について解析を行ってきた.今回は,ヤセウツボ中での光受容体の機能について基礎的な知見を得るために,本植物の赤色/遠赤色光応答について解析した.ヤセウツボの発芽は赤色光によって阻害され,遠赤色光によってこの阻害効果が打ち消されるというフィトクロム応答を示した.また,胚軸の伸長は白色光および遠赤色光による抑制を受けたが,赤色光ではこの抑制が観察されなかった.さらに,白色光および遠赤色光によって,アントシアニン内生量が増加したのに対し,赤色光ではこの増加が観察されなかった.これらの結果は,ヤセウツボでは茎の伸長過程における高照射赤色光応答が欠落していることを示唆した.以上より,ヤセウツボが赤色/遠赤色光に対し,シロイヌナズナをはじめとする光合成植物と異なる応答を示すことが明らかとなった.
  • 田中 慎一郎, 長谷 あきら
    p. 741
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    植物は避陰反応と呼ばれる機構を持ち、自らが他の植物の陰になったことを認識し、その陰から逃れようとする。この避陰反応機構にはフィトクロムが関与していることが知られている。我々はフィトクロムによるEnd-of-day Far-red処理とオーキシン添加の両方に応答してレポーター遺伝子の発現が上昇するプロモータートラップ系統を単離し、その光応答様式について解析した (Tanaka et al. 2002 PCP 43, 1171-)。その結果、子葉のフィトクロムが胚軸における遺伝子発現を、オーキシンを介して制御していることが明らかになった。このシグナル伝達機構の分子メカニズムを解明する目的で、単離されたプロモータートラップ系統の一つを突然変異処理して得られた集団をスクリーニングし、レポーター遺伝子の発現が異常となったreg1およびrig1変異体を単離した。これらの変異体においては、暗所で生育させた場合、胚軸伸長が親株のプロモータートラップ系統と比較して抑制される表現型を示した。しかしながら、reg1ではGUS遺伝子の発現は野生型よりも低く、rig1では高かった。このうちGUS発現の上昇するrig1系統においては、End-of-day Far-red反応に関しても胚軸伸長に異常が見られた。
  • 七條 千津子, 高橋 美貴, 永利 友佳理, 鶴見 誠二, 田中 修, 橋本 徹
    p. 742
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    発芽後地上に出た芽生えは、フックを開いて胚軸を立ち上げ、子葉を展開して光合成を始める。この双子葉植物の緑化過程は、光シグナルによって開始される。我々は、トマトを含む7種の芽生えにおいて、緑化過程の初期に光がフック形成を促進してフックを巻き込ませるステップがあることを見出している。このような現象は今まで見過ごされて来た。芽生えが地上に出ると、フックは不要であると暗黙裏に理解されてきたようである。
    光によるトマト芽生えのフック巻き込み反応に関して我々が得ている知見は、1)光受容体はフィトクロムであり、赤色光(R)と遠赤色光(FR)のいずれもフックを巻き込ませる。FRの光受容体はphyAである。2)フィトクロムPfrによるフックを巻き込みにはオーキシンが必要である。3)エチレン及びジベレリンはフックを開く作用を持つが、Pfrはフック部でのエチレン生成を抑える、などである。これらの結果に加え、最近我々は、種皮の存在が光によるフック巻き込みをさらに増強することを見出した。子葉が種皮で覆われたまま地上に出た芽生えは、種皮を脱ぐまでフックを巻き込ませるからである。まるで光を避けるように、再び地中に潜り込むようにフックを巻き込ませる光の作用をその生理的意味も含めて考察する。
  • 松崎 潤, 益守 眞也, 丹下 健
    p. 743
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    伸長を停止し肥大成長中の木本茎について、重力屈性は知られているが、光屈性による能動的な屈曲は報告されていない。木本茎の光屈性による能動的な屈曲の存在と、その屈曲機構について検討した。人為的に茎を傾斜させたミズナラ1年生実生苗に、植物育成用蛍光灯を側方から茎の傾斜面に垂直に照射する処理区と、茎の傾斜面に平行に照射する処理区を設けた。垂直照射区では光屈性の作用方向が重力屈性や重力の作用方向と直交するため、光屈性による反応を分離して解析できる。垂直照射区の1年茎が、平行照射区と比べ光源方向への有意な屈曲を示した。屈曲した部位の横断面を観察したところ、肥大成長とあて材形成が光源側に偏っていた。伸長を停止した木本茎において、重力屈性の場合と同様に、あて材などの材形成の偏りにより能動的に屈曲することで、正の光屈性を示すことが明らかになった。次に、光屈性による木本茎の能動的な屈曲に寄与する光感受部位について検討した。屋外の全天光下で、南側へ人為的に茎を傾斜させたミズナラ1年生実生苗の1年茎の東側半面、あるいは東側に着生する主軸の葉をアルミ箔で被覆して生育させたところ、対照区と比べ西側への有意な屈曲を示した。当年茎の東側半面や、東側に着生する側枝の茎や葉を被覆した処理区では、茎の有意な屈曲は見られなかった。木本茎自体と主軸に着生する葉が光刺激の感受に寄与していることを示している。
  • 田副 雄士, 野口 航, 寺島 一郎
    p. 744
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    C4植物はRubiscoの周りにCO2を濃縮できるので、強光や乾燥環境下でも高い光合成能を維持できる。一方で、弱光下ではC4光合成の能力が十分に発揮されず、効率の良い光合成を行なう事ができない。弱光下におけるC4植物の光合成効率を調べるために、C4植物(Amaranthus cruentus,NAD-MEタイプ)の葉を用いて、CO2の漏れ率(CO2 leakiness: 維管束鞘細胞から漏れたCO2/PEPCによって固定されたCO2)と、in vivoのC4光合成酵素活性の光依存性を調べた。
    200 μmol photon m-2 s-1以上の強い光を照射した時、CO2の漏れ率は0.3でほぼ一定であった。一方で、200 μmol photon m-2 s-1以下の光照射では、光が弱くなるとともに漏れ率が増大し、80 μmol photon m-2 s-1の光強度におけるCO2の漏れ率は0.45であった。Rubiscoの活性化率の光依存性を調べると、CO2の漏れと良い対応関係を示し、200 μmol photon m-2 s-1以下の光強度で活性化率が低下した。これらの結果は、弱光下におけるCO2の漏れの増加は、Rubiscoの活性化率の低下が主な原因である事を示唆している。今後、PEPCの活性化状態とPPDKの活性化率を測定する事により、これらのC4光合成酵素活性が、どの程度CO2の漏れ率に影響しているかを調べる。
  • 五百城 幹英, 中嶋 信美, 玉置 雅紀, 馳澤 盛一郎, 近藤 矩朗
    p. 745
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    太陽光に含まれるB領域紫外線(UVB)はシクロブタン型ピリミジン二量体(CPD)を主とするDNA損傷を引き起こし、その結果植物の生育を阻害すると考えられている。したがって、CPD光回復酵素によるCPDの速やかな修復は、植物のUVB耐性を決定づける生理学的に重要な要因である。キュウリCPD光回復酵素遺伝子(CsPHR)の転写は光により誘導されることが示されおり、これは地上に到達するUVB量に応じた光回復酵素活性の上昇をもたらす環境適応機構であると考えられる。本研究ではCsPHRの光依存的発現機構の解明を目的とした。CsPHRの発現がどの波長の光で誘導されるのかを検証するために単色光照射実験を行った結果、CsPHRの転写は310nm付近の波長をもつUVBにより最も効率良く誘導されることが明らかになった。さらに、CsPHRプロモーター(2.5kbp)をβ-glucuronidase遺伝子(GUS)につないでシロイヌナズナに導入した組換え体に対して単色光照射を行った。その結果、シロイヌナズナ組換え体においてもCsPHRプロモーターは310nm付近の波長をもつUVBにより最も効率良く活性化された。これらの結果から、CsPHRの転写誘導にはUVBを特異的に受容する機構が関与していると考えられた。今回は、プロモーターデリーション実験によるUVB応答性プロモーター領域の同定についても報告する。
  • 長谷 純宏, Trung Khuat Huu, 松永 司, 田中 淳
    p. 746
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    我々は、植物の紫外線防御機構を解明するため、UV-Bに対して感受性および耐性を示すシロイヌナズナの変異体を選抜してきた。uvi4 (ultraviolet-B insensitive 4) 変異体はUV-B照射下での生育量が野生型に比べて最大2倍以上であり、紫外線に超耐性を示す。紫外線感受性を左右する主な要因として知られる DNA 損傷の修復能ならびに紫外線吸収物質の含量については、野生型との差が見られなかった。uvi4の胚軸では野生型よりも核内倍加が1回多く進むこと、葉においては核内倍加が野生型よりもやや早く開始され、またその進行が速いことがわかった。UVI4は機能未知の塩基性タンパクをコードしており、分裂活性の高い組織で強く発現していた。これらの結果から、UVI4は核内倍加サイクルの進行を負に制御する因子であり、UVI4遺伝子の変異により倍数性が上昇することが、uvi4変異体のUV-Bに対する超耐性の原因であることが示唆された。
  • 高橋 真哉, 坂本 綾子, 清水 喜久雄, 田中 淳
    p. 747
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    DNA損傷乗り越え複製(TLS)は、様々なDNA変異原に対する曝露によって生じるDNA損傷の影響を回避するために、生物が備えている機構の一つである。我々はこれまでに、酵母の誤りがちな損傷乗り越え複製(error-prone TLS)に関わるREV1遺伝子のシロイヌナズナにおけるホモログであるAtREV1遺伝子を同定した。AtREV1遺伝子破壊系統(rev1)は、UV-BやDNA架橋剤に対して感受性を示すことから、植物にも他の生物同様error-prone TLSが存在し、様々なDNA損傷の回避に関与している可能性が示唆されている。
    今回さらに詳細な研究を行うために、大腸菌タンパク質過剰発現系を用いてAtREV1組み換えタンパク質を調整し、ポリメラーゼ活性の検出を試みた。AtREV1タンパク質はアフィニティカラム及びイオン交換カラムにて精製し、得られた精製タンパク質を用いてprimer extension法による塩基挿入活性の測定を行った。その結果、AtREV1タンパク質は、鋳型DNAの塩基にかかわらずプライマー末端にシトシンを挿入した。鋳型DNAのグアニンに対しては、チミンを挿入する活性も見られた。また、弱いながらも正確な塩基の挿入も観察された。これらの結果から、AtREV1タンパク質はシチジルトランスフェラーゼ活性をもつ“忠実度の低い”DNAポリメラーゼであることが明らかとなった。
  • 中村 崇, 山崎 秀雄
    p. 748
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    造礁サンゴは刺胞動物のサンゴと共生藻類との共生体である。サンゴ礁の浅海域に生息するサンゴはめまぐるしく変化する光環境にさらされている。例えば、波面による集光効果によって水底に届く光量は不均一となり、瞬間的に9000μmol photons m-2s-1に達することが示唆されている。近年、サンゴ共生藻の光阻害が造礁サンゴの白化現象(共生関係の崩壊)を引き起こす要因である事が示された。本研究では、波による集光効果がサンゴ共生藻の光合成に及ぼす作用を検討するため、浅海域の優占サンゴ種であるコユビミドリイシAcropora digitiferaを対象とし、光強度を振幅させた場合の影響を調べた。積算光量を光飽和レベルより高くした状態(500μmol photons m-2s-1)にて振幅光暴露(3秒間の強光;1300μmol photons m-2s-1/7秒間の弱光;155 μmol photons m-2s-1の繰り返し)を1時間おこなった結果、振幅光量のグループでは、等積算光量を無振幅に与えた続けたグループに比べて光阻害の緩和が見られた。さらに、高水温条件下(28, 30, 32, 34℃)で同様の効果を比較したところ、すべての温度域で光阻害の低減が認められた。以上の結果より光の揺らぎが浅海域(特に細波が起こりやすい環境であるサンゴ礁池やタイドプールなど)に生息するサンゴの共生藻に対して光ストレス低減効果を持つことが示唆された。
  • 竹田 恵美, 津田 貴子, 瀧藤 尊子, 榎本 千乃
    p. 749
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    培養細胞ながら高い光合成活性を有し,無糖培地中で光合成のみによって継続的に増殖するシロイヌナズナ光独立栄養培養細胞を確立し,強光順化過程における光合成機能と葉緑体色素-タンパク質複合体の変化について調べた。シロイヌナズナ培養細胞を強光(200 μmol photons m-2 s-1)あるいは弱光(50 μmol photons m-2 s-1)下で培養し,クロロフィル蛍光を測定するとともに葉緑体色素組成を分析した。その結果,強光下で育てた細胞(HL細胞)は弱光下で育てた細胞(LL細胞)に比べて,強光下での高い非光化学的クエンチング係数と高いPSIIの量子収率,また高いCarotenoids/Chl比,高いキサントフィルサイクル色素含量を示す等,陽葉と類似した性質を有していた。さらに暗処理または強光ストレス処理(1000 μphotons m -2 s -1,30min)直後に細胞からチラコイド膜を調製し,色素-タンパク複合体組成を調べた。その結果,強光ストレス処理後はLL,HLいずれの細胞においてもLHCIIでゼアキサンチンの割合が増加し,特にHL細胞ではLHCIIタンパク質当たりのキサントフィル含量が増加していた。タンパク質組成ではHL細胞でLhcb3/Lhcb1比の増加が認められた。以上の結果より,培養細胞においても緑葉と同様の強光適順化反応が認められたことから,シロイヌナズナ光独立栄養培養細胞は細胞レベルでの光環境適応機構のモデルとなり得ると考えられた。
  • 桂 ひとみ, 辻 容子, 竹田 恵美
    p. 750
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    強光ストレス緩和機構の一つとしてカロテノイド色素を多く蓄積し、過剰なエネルギーを熱として散逸する機構が知られている。ペチュニア光独立栄養培養細胞を材料に葉緑体色素の分析を行った結果から、光強度によって集光性色素-タンパク質のLHCII に会合するカロテノイドの数及び組成に変化が生じていることを明らかとした。ここでは、その中でもメジャーLHCII、マイナーLHCIIそれぞれに結合している色素の変化も含め、植物体緑葉と培養細胞の強光適応機構を比較した。
    植物体及び培養細胞においては、強光条件で育てたものをHL とし、弱光条件で育てたものをLL として、光合成機能及び各色素―タンパク質複合体の色素組成を分析した。
    その結果、光合成電子伝達速度はHL、LL ともに緑葉で培養細胞より全体的に高く、非光化学的クエンチングは培養細胞の方が緑葉に比べて高かった。
    色素分析ではLHCII当たりのカロテノイドは緑葉でルテインが多いのに対し、培養細胞ではビオラキサンチンが多いという結果が得られたことから、緑葉でルテインが結合していた部位に培養細胞ではビオラキサンチンが結合しているのではないかと考えられる。LHCIでは、緑葉と培養細胞でルテインの量に差はなかったが、培養細胞のHL ではゼアキサンチンが多かったことから、培養細胞では強光培養により、さらにゼアキサンチンがLHCIに付加することが示唆される。
  • 伊藤 隆, 伊藤 裕介, 圓山 恭之進, 平津 圭一郎, 高木 優, 篠崎 一雄, 篠崎 和子
    p. 751
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    我々はこれまで、シロイヌナズナの乾燥、塩、低温応答性遺伝子の発現調節に関わる転写因子DREB1をコードする遺伝子群を単離して、機能を明らかにした。さらにイネのDREB1タイプの遺伝子としてOsDREB1を同定し、イネにおいてもDREB1システムが存在し、ストレス誘導性遺伝子の発現を調節していることを示した。
    本研究ではDREB1E/Fに高い相同性を持つOsDREB1Fの機能を、シロイヌナズナとイネを用いて解析した。多くのOsDREB1タイプの遺伝子が主に低温によって誘導されるのに対し、OsDREB1Fの発現は接触ストレスによって強く一過的に誘導された。OsDREB1Fを過剰発現させたシロイヌナズナでは、DREB1E/Fの過剰発現体と類似した下流遺伝子の発現上昇が見られた。これにより、シロイヌナズナ中ではOsDREB1FDREB1E/Fと似た機能を持つことが示された。
    また、OsDREB1Fを過剰発現させたイネを用いてマイクロアレイ解析を行った結果、野生株に比べ発現量が変化する遺伝子が多数存在することを確認した。一方、RNA干渉によって作製されたOsDREB1Fが機能的に欠損したイネでは、野生型に比べて成長の促進が見られた。今回の結果から、OsDREB1Fがイネの生育制御に関与している可能性が示唆された。現在、RNA干渉によって作製された機能欠損体について下流遺伝子の解析を行っている。
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