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高橋 真哉, 市川 尚斉, 近藤 陽一, 石川 明苗, 川島 美香, 廣近 洋彦, 松井 南
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903
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
フリー
FOX Hunting System(
full-length cDNA
over-e
xpresser gene-
hunting system)は、次世代型アクチベーションタギング法として開発された。その特徴の一つとしてシロイヌナズナ以外の生物の遺伝子機能解析にも利用できる事が挙げられる。これを利用して、イネ完全長cDNAをシロイヌナズナに個別に導入したイネFOXラインが作成され、未知のイネ遺伝子の機能解析が行われつつある。この方法を利用した様々なスクリーニングが行われることにより、イネ有用遺伝子が多数単離されることが期待される。
この方法によるストレス耐性遺伝子探索も可能であると予想される。紫外線(UV-B)は植物にとって有害な環境ストレスのひとつであり、作物の収量低下を引き起こす。その解決にはUV-B耐性機構の増強がひとつの手段であると考えられる。しかし植物のUV-B耐性機構については不明な点が多い。そこで本研究ではUV-B耐性に関わるイネの有用遺伝子の単離を目的としてroot bending assayによるUV-B感受性の変化したイネFOXラインスクリーニングを行う予定である。将来的には、得られた遺伝子資源を利用してUV-Bや様々なストレスに強い植物の作出が可能となると予想される。本研究は、平成17年度科学振興調整費「イネ完全長cDNAによる有用形質高速探索」によって行なわれている研究である。
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樋口 美栄子, 松井 敬子, 市川 尚斉, 近藤 陽一, 石川 明苗, 川島 美香, 廣近 洋彦, 松井 南
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904
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
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我々は、イネ完全長cDNAをシロイヌナズナにおいて過剰発現させたイネFOX(full-length cDNA overexpressor)ラインを作成し、これらのラインから有用な形質を持つ変異体を単離することによりイネにおける有用遺伝子の同定を目指している。本研究においては、植物の生育に必須である光合成反応に着目し有用遺伝子の探索を行った。クロロフィル蛍光は光合成の状態をよく反映すると考えられており,古くから多くの光合成研究に用いられてきた。そこで、クロロフィル蛍光を二次元画像として経時的に測定できるシステムを用いたスクリーニングを行っている。スクリーニングにはT2世代を用い、励起光照射によるクロロフィル蛍光のクエンチングを測定し、各ラインのクロロフィル蛍光強度の時間変化と光合成パラメーターの平均値を野生型と比較した。これまでに、1. 熱放散(NPQ)が小さい、 2. 光化学系IIの最大量子収率(Fv/Fm)が小さい、 3. 光化学系IIの実効量子収率(ΦII)が小さい、という表現型を示すラインが単離されている。また強光ストレス(2,000 µE, 1 h)後のFv/Fmを指標としたスクリーニング、蒸散能の違いを反映する葉温によるスクリーニングも同時に進行中であるのであわせて報告したい。本研究は、平成17年度科学振興調整費「イネ完全長cDNAによる有用形質高速探索」によって行なわれている研究である。
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黒田 浩文, 堀井 陽子, 市川 尚斉, 近藤 陽一, 石川 明苗, 川島 美香, 廣近 洋彦, 松井 南
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905
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
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我々は、イネ完全長cDNAをランダムにシロイヌナズナで過剰発現させたイネFOXラインを作成しており、それらの種子はT2世代で系統ごとに保存されている。現在、これらT2世代を用いて、種子の形状に異常を示すラインのスクリーニングを行なっている。種子画像データをコンピュータに取り込み、1系統ごとに画像解析することにより、種子の形、大きさ、色、優勢・劣勢の判別などを自動で測定しデータ化する試みを行なっている。具体的には、70穴プレートの1穴に各系統約30粒を入れ、スキャナーでコンピュータに取り込み、画像データを作成している。種子の形、大きさ、色の測定はWINSEEDLE (Regent Instruments INC.) によって行い、得られたデータを統計処理することにより、系統ごとの種子形状の表現型をデータベースに表記する。これまでの試験的解析により、種子サイズが大きな系統を一系統見つけている。今後大規模な解析を行なう為に、現在、画像解析からデータベース表記までの自動化を試みている。本研究は、平成17年度科学振興調整費「イネ完全長cDNAによる有用形質高速探索」によって行なわれている研究である。
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近藤 陽一, 川島 美香, 市川 尚斉, 石川 明苗, 廣近 洋彦, 松井 南
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906
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
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FOXハンティングシステムは次世代の機能獲得型変異体作出法である。この方法は遺伝子欠損型の変異体作出法とは異なり、変異体に遺伝子発現の増強による機能付加をもたらすことが期待される。我々は、シロイヌナズナにイネの完全長cDNAを導入したイネFOXラインを作成しており、作成されたラインを利用して、植物に有用形質をもたらすイネ遺伝子のスクリーニングを行っている。本発表では有用形質として元素高蓄積と色素高蓄積(Elements and Pigments)に着目し、イネFOXラインから植物の必須元素などを高蓄積する性質を持ったもの、色素を高蓄積する性質を持ったものを単離する試みを紹介する。
植物体内の元素比率を測定するため、我々は分散型蛍光X線分析装置を利用している。現在までに約3000ラインをT1世代でプレ・スクリーニングを行い、リン酸やカリウム、微量元素である鉄などを高蓄積するラインを幾つか単離している。
また植物体の色素含量は、本葉から80%メタノールにより色素を抽出し、マイクロプレートリーダーで吸光度を指標に測定している。現在までに約3000ラインをT1世代でプレ・スクリニーングを行い、UV-Bを吸収する色素などが高蓄積する変異体候補を幾つか単離している。
本研究は、平成17年度科学振興調整費「イネ完全長cDNAによる有用形質高速探索」によって行なわれている研究である。
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市川 尚斉, 中澤 美紀, 近藤 陽一, 石川 明苗, 川島 美香, 飯泉 治子, 関 原明, 藤田 美紀, 武藤 周, 篠崎 一雄, 松井 ...
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907
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
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優性突然変異を引き起こすアクチベーションタギングは、遺伝子ファミリーを形成する遺伝子群のゲノム的機能解析など、遺伝子破壊型のタギング法では表現型が現れない遺伝子の機能解析に欠かせないテクニックである。我々は次世代型アクチベーションタギング法として、約1万種の独立シロイヌナズナ完全長cDNAからなる標準化cDNAライブラリーをアグロバクテリアのバイナリーベクター上で作成した後、このバクテリアライブラリーをシロイヌナズナに花感染させることでシステマティックに形質付与を起こさせる方法として、Fox Hunting Systemを開発した。T1世代の植物を15,000ライン以上観察したところ、可視変異の起きた1,487ラインを単離した。そのうち本葉でうす緑色の変異を起こした115ラインに関して次世代植物の観察を行ったところ、59ラインが優勢もしくは半優勢にT1表現系を再現した。現在、可視表現型形が見られた様々な個体からcDNAを回収して再導入することにより本手法の有効性確認を行っているので、再導入によって表現型が現れた10ラインを紹介する。我々はこの手法を応用してイネ完全長cDNAからなるシロイヌナズナFOXラインを製作している。このラインを用いて、様々な有用形質の1次スクリーニングを行い、選抜された遺伝子をイネに再導入して有用形質獲得の確認を行う予定でいる。
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小野 道之, 日向 岳王, 中川 繭, 鎌田 博
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908
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
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遺伝子組換え植物を取り巻く状況を鑑みても、植物バイオテクノロジーに対する国民的な理解を促進することは重要である。我々は遺伝子リテラシー教育を初等・中等教育において推進する活動の中で、「蛍光タンパク質遺伝子を導入して大腸菌を光らせる教材」のようにインパクトの強い教材を用いた実験実習は教育効果が極めて高いことを経験した。そこで、理科離れを抑え、植物分野への進学を目指す生徒を増やすためにも、高等学校の授業で実施可能な新たな教材の開発を進めている。本発表では、スーパーサイエンスハイスクール等の出前授業などで実施した中から2点を紹介する。一つは「メンデルの遺伝法則を遺伝子レベルで体験する教材」。メンデルが遺伝法則の発見に用いたエンドウの突然変異の原因遺伝子について、野生型遺伝子との違いをPCRと電気泳動などを用いて観察する。もう一つは「花の形態形成を司るABCモデルを考える教材」。種々の園芸植物とシロイヌナズナのABC変異体の花を観察し、ABCモデルを構築させる。いずれも遺伝子の本質を理解する手助けとなる教材であり、遺伝子リテラシー教育への効果を期待している。
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中嶋 信美, 西沢 徹, 玉置 雅紀, 青野 光子, 久保 明弘, 佐治 光
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909
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
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除草剤耐性遺伝子組換えセイヨウアブラナ(以下GMセイヨウアブラナ)の一般環境中での生育状態の把握を行うことを目的として、関東地方の幹線道路沿いや河川敷に生育しているセイヨウアブラナ(
Brassica napus L.)やカラシナ(
Brassica juncea L.)の種子を139地点から採取した。種子を閉鎖系温室で播種し、除草剤耐性試験と除草剤耐性遺伝子の存在を調べた。その結果、鹿嶋港の5 地点および国道51号線沿いの8地点からグリホサート(商品名:ラウンドアップ)耐性GMセイヨウアブラナが検出された。これらの個体よりDNAを抽出して、グリホサート耐性遺伝子の有無を確認したところ、1地点を除くすべての個体でグリホサート耐性遺伝子が確認できた。また、鹿嶋港の1地点、国道51号線沿いの2地点及び国道124号線の1地点でグルホシネート(商品名:バスタ)耐性GMセイヨウアブラナが検出された。これらの植物ではグルホシネート耐性遺伝子が1地点を除くすべての個体において確認できた。一方、上記以外の地点から採取した種子からは除草剤耐性個体は検出されなかった。以上の結果、鹿島港、国道51号線および国道124号線沿いにはGMセイヨウアブラナが生育していたと考えられ、それらは輸入した種子が輸送中にこぼれ落ちたことに由来すると考えられる。
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河岡 明義, 菊池 彰, 島崎 高嘉, 于 翔, 渡邉 和男, 海老沼 宏安
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発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
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耐塩性遺伝子コリンオキシダーゼを導入したユーカリ(Eucalyptus camaldulensis)について、閉鎖系温室、特定網室での生育試験を行い、生物多様性環境影響評価を実施した。CaMV35Sプロモーターで制御したcodA遺伝子をMATベクターに組込み、マーカーフリー形質転換ユーカリを作出した。200mM NaCl含有培地で良好に生育して発根した3系統を材料として、閉鎖系温室と特定網室で生育試験を行った。また、導入遺伝子の存在状態、遺伝子発現の調査およびアレロパシー物質産生試験やレタス種子の発芽試験によるバイオアッセイなどの生物多様性環境影響評価を実施した。それら結果では、形質転換体と非形質転換体の間に顕著な差異は認められなかった。一方、特定網室で通常通り潅水し、16ヶ月間生育させた形質転換体と非形質転換体に対して、200mM NaCl溶液を20日間1日置きに各植物体に与えたところ、形質転換体では顕著な影響は見られなかったが、非形質転換体では著しく葉が乾燥萎縮し、形質転換体における耐塩性が安定して発揮されていることが認められた。これらの結果を踏まえ、次段階である隔離ほ場での生育評価試験を実施するための実験申請書を2005年3月に文部科学省に提出し、10月に大臣承認を得た。現在、隔離ほ場で耐塩性ユーカリ3系統各5本を生育させている。
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真野 昌二, 三輪 朋樹, 西川 周一, 三村 徹郎, 西村 幹夫
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911
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
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平成16年度に発足した特定領域研究「植物の環境適応戦略としてのオルガネラ分化」では、環境適応戦略の基盤となっているオルガネラの分化・増殖、オルガネラ間相互作用と、それに基づいた植物個体レベルの高次機能発現機構の解明を目指している。この植物オルガネラ研究の支援を目的として、植物オルガネラデータベースを作成した。本データベースへは、特定領域研究のホームページ(http://www.nibb.ac.jp/organelles/)からアクセスできる。
本データベースは、(1)可視化されたオルガネラの動態を収集したOrganellome database、(2)解析方法を収集したFunctional analysis database、 (3)トランスクリプトーム解析とプロテオーム解析データベースへのリンクから構成されている。現在、特定領域研究の班員からのデータを登録し、利用を開始している。今後、本データベースは公開し、特定領域研究の班員以外の方からもデータを提供して頂くことによりデータベース内の情報を充実させ、植物オルガネラの動態を明らかにしていくための研究ツールとして広く活用されることを期待している。なお、本データベースは情報の登録と維持を主に行い、DNAや植物の種子の配布は、直接データの提供者と連絡することとしている
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井内 聖, 小林 正智
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発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
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現在、シロイヌナズナ(
Arabidopsis thariana)は高等植物を研究する多くの研究者が実験材料としている。2000年にはゲノムプロジェクトによって
col株の全ゲノム情報が明らかにされた。シロイヌナズナには多くの野生株や近縁種が存在するが、これまでの研究は数種類の野生株(標準株;
colや
lerなど)に限って研究が進められてきた。標準株を集中的に研究することは実験結果を共有できるメリットがあるが、一方では多くの因子が未同定のまま残されていると考えられている。
私たちは野性株や近縁種がこれらの新規因子を解析することに利用可能であると考えて、野性株利用の環境整備を行うことにした。シロイヌナズナの野性株は世界各地から集められて系統維持されているが、それぞれの野性株にある情報は形態学的な情報が主なものである。そこで単離維持されていた350以上の野生株及び近縁種について分子マーカーを用いたジェノタイピングを行った。具体的には、16種類のSSLP(
Simple
Sequence
Length
Polymorphism)マーカーを用い、各系統から5個体を無作為に選んでジェノタイプを同定した。その結果、系統内でジェノタイプが一致しない個体が存在する系統が認められた。現在、得られたSSLPの情報を用いて系統樹を作製している。
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小林 正智, 安部 洋, 井内 聖, 小林 俊弘
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913
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
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理化学研究所バイオリソースセンター(理研BRC)は平成13年につくば市の南端に位置する理研筑波研究所に設立され、モデル生物のリソースに関わる事業を行っている。理研BRC実験植物開発室は平成14年度に開始されたナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)シロイヌナズナ/植物培養細胞・遺伝子の課題に参加し、シロイヌナズナをはじめとするモデル植物のリソース事業を展開している。これまでの4年間ではシロイヌナズナのゲノムリソース(完全長cDNA、タグライン)を中心に収集・保存・提供事業を進め、保存リソース数30万系統以上、提供リソース数のべ10万系統以上の実績をあげた。本事業についてはゲノムリソースと並ぶもうひとつの特徴として国際性をあげたい。利用登録した研究室の約7割、提供先の半数以上が海外となっており、国際的な知名度も顕著に高まっている。加えて理研BRCでは技術面での研究基盤整備も重視しており、平成16年度より研修事業を開始するなど特に国内の研究者にとって身近に感じられるリソースセンターとなることを目指している。今後は事業の幅をシロイヌナズナ以外のモデル植物のゲノムリソースにも広げ、植物研究の基盤整備を進めていきたい。
URL: http://www.brc.riken.jp/lab/epd/
E-mail: plant@rtc.riken.jp
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笠井 文絵, 川井 浩史, 井上 勲, 嶌田 智, 辻 彰洋, 横田 明, 河地 正伸, 平林 周一, 中山 剛, 渡辺 信
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914
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
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「藻類」は,酸素発生型の光合成を行う生物から陸上植物を除いたものと定義される.これが示すように,「藻類」は原核生物、植物、原生生物など広範な生物がもつ遺伝的要素を含んでおり,生息域も多様であり,きわめて多彩な生物的機能が期待される生物群である.藻類を用いた研究には,多くの場合,培養株が必要だが,そのためには専門化集団による体系的な収集,保存,および提供体制を構築し,研究開発を行う研究者が,研究材料となる培養株に容易にアクセスできる体制の整備が必要である.ナショナルバイオリソースプロジェクト「藻類」では,国立環境研究所が中核拠点となり,神戸大学, 筑波大学,国立科学博物館,東京大学,北海道大学の5機関がサブ機関として協力し, 日本の中核機関として藻類資源の保存と提供を行っている.本プロジェクトでは,1)各機関がそれぞれの専門性を生かした収集を行い,それらの培養株を微細藻類については中核機関である国立環境研究所微生物系統保存施設に,大型海藻はサブ機関である神戸大学内海域環境教育研究センターに集約保存し,長期保存法を開発することによって,安定供給できる体制を作ること,2)各機関に分散する培養株情報を情報中核機関をとおして一元的に発信し,研究者が培養株情報を利用しやすい体制を整備することを目的としている.本演題では,実施体制や保存株の紹介を行う.
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遠藤 隆, 那須田 周平, 河原 太八, 安井 康夫, 笹隈 哲夫, 笹沼 恒男, 辻本 壽, 田中 裕之, 持田 恵一, 川浦 香奈子, ...
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発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
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コムギは世界の最重要穀物である。種・属間の交雑親和性が高いため、近縁なエギロプス属、ライムギ属、オオムギ属などとの雑種が容易に形成される。その特性をいかして人工倍数種や染色体添加/欠失系統などの異数体系統が育成されている。雑種の染色体対合の頻度を指標にしてコムギ・エギロプス属植物のもつ核ゲノムにゲノム記号が与えられている。また、コムギ・エギロプス属すべての種の細胞質とパンコムギの核とを組み合わせた核・細胞質雑種が育成され、細胞質ゲノムの表現型に及ぼす影響を調べるとともに相互の類縁関係が推定されている。このように、近縁な植物間で体系的に核ゲノム、細胞質ゲノムの両者を特徴付けた植物種は他に類例をみない。
コムギ属は倍数化により進化してきたことを特徴とする。各ゲノムのゲノムサイズが大きいため、これまでゲノムサイエンスには必ずしも適していないと考えられていた。しかし、DNAランドマーカーの充実、ESTクローンの蓄積、オリゴDNAマイクロアレイの作成、高分子DNA断片によるゲノムライブラリーの構築(6倍体であるパンコムギと祖先4倍体、2倍体の各ライブラリーが整備されている)により、植物に特徴的な倍数性を解析するモデル植物として期待されている。
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倉田 のり, 佐藤 光, 吉村 淳, 佐藤 洋一郎, 北野 英巳, 長戸 康郎
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発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
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イネゲノム解析の終了に伴い、今後機能ゲノム、比較ゲノム研究のための種々の遺伝系統やツールがますます必要となっている。大学・研究機関等では長年に亘り独自の系統収集、開発を行い、野生イネ系統群、染色体置換系統群、高頻度ミュータント集団などを収集、開発している。これらの遺伝資源は、その系統整備、特性解析、情報公開をナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)により進めている。遺伝資源は(1)9ゲノム23種をカバーした3,000系統以上の野生イネ、東南アジアの在来イネ4000系統以上、(2)異なる遺伝型染色体断片を導入した2,000系統以上の染色体置換系統など、(3)NMU処理突然変異体プールなどである。野生イネ系統や染色体置換系統は、比較ゲノム研究、野生特異的遺伝子同定や進化・多様性研究にますます重要となっている。またNMU処理突然変異体プールは、農水省プロジェクトとタイアップしてTILLINGによる遺伝子変異の検索を行った結果、高頻度の変異を集積していることが明らかになってきた。このプールを用いると、全ての遺伝子の変異アレルの検出が可能であると考えられる。これまでの挿入変異系統などでは、全遺伝子をカバーすることは困難であるが、このNMU誘起突然変異集団ではそれが可能となり、今後の遺伝子機能研究の重要な資源となると期待される。NBRPイネリソースの現状と今後について紹介する。
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仁田坂 英二, 飯田 滋, 星野 敦, 小野 道之
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発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
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アサガオ(
Ipomoea nilまたは
Pharbitis nil)は、古典遺伝学、生理学的研究において膨大な知見を集積している我が国独自のモデル植物である。江戸時代後期に起源する、花や葉の色や模様、形態に関する多様な突然変異体が保存されており、近年の研究によって、これらの多くは両末端が共通な一連のトランスポゾン(
Tpn1ファミリー)によって誘発されているということが明らかになってきた。そのため、遺伝子クローニングのためにも、突然変異体は貴重な遺伝子資源である。また少数の個体に由来する自殖性植物であるため、ゲノムが非常に均一であることも、突然変異体をもちいた遺伝学的解析や生理学的解析に明確な結果を与える材料である。現在、アサガオのEST、連鎖地図、形質転換法などが整備・開発されつつあり、突然変異体とこれらの技術や情報をあわせて得られる成果は、今後多くの基礎・応用分野の植物科学において重要度を増していくと考えられる。本プロジェクトの目的は、近縁種を含むアサガオの突然変異体や、形質転換体を収集・保存し、特性を調査した上で、国内外の研究者に提供し、アサガオおよび近縁の植物のゲノムや遺伝子の解析、新しい品種の開発に寄与することにある。またリソースとしての質を高め、突然変異系統の特性調査に関わる、原因遺伝子の分子マーカーや連鎖地図の作成、ESTクローンの収集・保存・提供も行っている。
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増田 優, 落合 利紀, 近藤 勝彦
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発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
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広義キク属は,100属1000種以上の多様な分類群が東アジアを中心にユーラシア大陸全体に分布する植物相多様化モデル植物である.また,遺伝,進化メカニズムの研究において,野生染色体倍数モデルとして顕著である.そして,農学的,育種学的研究,病理学的研究,短日植物としての生理学的研究,有用成分についての医学,薬学的研究など,幅広い分野の研究材料として応用,利用されている.しかし,いまだ資源植物として,未研究,未開発,未利用の種も多く存在する.本事業では,これら広義キク属の既存系統の保存と提供体制の充実,遺伝的多様性の継続的収集,新規系統の確立と育成,関連情報の整備などを進めている.現在,東アジア地域の日本,中国,ロシアに産する広義キク属野生種の収集および,様々な方法による系統保全,維持増殖を行っており,日本産種の基礎ならびに応用科学研究分野への分譲を行っている.また,中国・ロシア産原種は同国とのMTAによる当施設外への遺伝子資源の持ち出し制限のため,遺伝子は雑種によってのみ提供を行っているが,需要は高い.これら提供植物の利用価値を高める遺伝的特性評価として,ITS解析などを用いた系統解析,FISH,GISH法による細胞遺伝学的特性評価,DNA多型を利用した分子マーカーの開発,評価などを進めるとともに,様々な遺伝的特性のデータベース化に取り組んでいる.
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佐藤 和広, 武田 和義
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発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
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オオムギは醸造,食用,飼料などに利用される重要な作物であり,野生種や栽培種の多様な遺伝資源が保存されている.また,栽培オオムギは二倍体で突然変異系統を中心に豊富な実験系統が開発されてきた.コムギを含むムギ類のモデル植物ともなっているオオムギでは,最近,BACライブラリーや大量のESTなどが開発され,cDNAを中心としたゲノム解析が進められている.岡山大学資源生物科学研究所では独自に収集,開発したオオムギ系統,BACライブラリー,cDNAクローンの保存と提供を本プロジェクトによって行っている.また,BACクローンを効率的に選抜するためのフィルター、PCR用プールDNAを開発して提供している.また,これらのゲノムリソースに関連する研究として,cDNAの配列情報に基づく高密度転写産物地図、そのコムギへの利用、GeneChipアレイの開発などを行ってきた.国内外の研究者にバイオリソースを提供することによって,オオムギおよび近縁の植物のゲノムや遺伝子の解析,新しい品種の開発に寄与することが本プロジェクトの目的である.また,本プロジェクトによって開発されたオオムギ初の完全長cDNAクローンの配布および配列の公開も予定している.
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バルタザール アントニオ, 白田 和人, 宮尾 安藝雄, 新野 孝男, 河瀬 眞琴, 佐藤 豊三, 峰澤 満, 長村 吉晃, 奥野 員敏
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発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
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遺伝資源及びバイオリソースは、産業(農林水産業、医療、食品等)への直接的及び間接的利用、地球環境保全や改善のための利用等において、さらには生命科学研究推進のツールとして非常に重要な役割を持っている。農業生物資源ジーンバンク(NIAS GeneBank)は、農林水産省所管の研究機関でこれまで探索、収集、特性評価した遺伝資源、研究や育種目的に使用されてきた品種、系統等を統括的に保存・管理するとともに、研究利用を目的としてこれらの貴重な遺伝資源を国内外の研究者に提供している。さらに、当研究所では、近年のイネゲノム研究プロジェクトにおいて開発・作出してきたイネEST や完全長cDNAクローン、Tos17突然変異系統、イネ遺伝解析材料(戻し交雑自殖系統、染色体部分置換系統、半数体倍加系統群)等の研究材料についてもゲノムリソースセンターから提供を行っている。これら多様な研究材料は、今後の生命科学研究の進展や育種研究に少なからず寄与するものと考えている。研究材料の検索及び入手は、下記サイトから可能である。
農業生物資源ジーンバンク(NIAS GeneBank):http://www.gene.affrc.go.jp/
ゲノムリソースセンター:http://www.rgrc.dna.affrc.go.jp/
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明石 良
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921
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
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ミヤコグサ(
Lotus japonicus)は、わが国に広く自生する一年性マメ科植物で、ゲノムサイズが小さく、ライフサイクルが短いなどの特徴からマメ科のモデル植物として利用されている。一方、ダイズ(
Glycine max)は古くから重要な農業用作物として栽培され、その基礎的研究も多く蓄積されている。ミヤコグサで収集・開発されるリソースとその情報は、根粒菌との共生による収量性の改良や栄養機能性の向上等、ダイズにおける多種多様な研究の効率化を図る上で欠かせない。本事業は、基礎研究(ミヤコグサ)から応用研究(ダイズ)までを広くカバーできるリソースを提供することで、マメ科植物における研究基盤の構築を目指している。
現在、ホームページ「Legume Base」(http://www.legumebase.agr.miyazaki-u.ac.jp)を公開しており、配布リソースを初め、ミヤコグサデータベースでは採取地の位置・気象情報の他に、宮崎県宮崎市および北海道札幌市で評価した形態データを公開し、形態データからもアクセションの検索を行うことができる。ダイズのデータベースでは採取地、アイソザイム遺伝子型、葉緑体ゲノム型、ミトコンドリアゲノム型等からアクセションの検索が可能である。本データベースの整備に伴い、配布系統の情報を検索することで、研究目的にあった系統を選択することが可能となっている。
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和田 正三
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A1
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
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効率良く光合成を行うことは植物にとって必須条件である。そのため、藻類から種子植物に至る広い範囲の植物群において、葉緑体は光条件に依存して細胞内を移動する、いわゆる光定位運動が観察される。弱光下では、光をより効率良く吸収するために細胞表面に集まり、強光下では、葉緑体の光傷害を避けるために、細胞の側壁に移動する。我々はこの現象を長年研究してきており、本講演では葉緑体運動を仲介する光受容体と、葉緑体の運動機構について紹介したい。
種子植物の葉緑体運動には青色光が有効で、光受容体はフォトトロピンである。一方隠花植物は青色光に加えて、赤色光も同時に利用する場合が多く、ホウライシダでは、フォトトロピンに加えてフィトクロムとフォトトロピンが融合したキメラ光受容体フィトクロム3が赤色光受容体として働いている。その結果白色光を非常に効率良く吸収することが出来る。葉緑体光定位運動に働く光受容体は、植物群によって多様である。
葉緑体移動には主にアクチン繊維が使用されているが、微小管を使っている場合もあり、どの細胞骨格を使用するかは、植物群によって異なっている。講演ではその多様性に付いても言及したい。最近我々は、移動中の葉緑体には、葉緑体の移動方向前部に細く短いアクチン繊維が重合、脱重合を繰り返していることを発見した。この現象に関与するchup1タンパク質についても紹介したい。
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森田(寺尾) 美代
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A2
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
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植物が環境からの刺激に応答し成長方向の制御を行う屈性反応は、重要な適応戦略の一つである。我々は、高等植物の重力屈性の分子機構について、シロイヌナズナ花茎を用いた分子遺伝学的な研究を進めてきた。花茎・胚軸においては、内皮細胞に含まれるアミロプラストが重力方向に移動することで、重力を感受する。重力屈性異常変異体
shoot gravitropism (sgr)2、sgr3および
zig/sgr4変異体の花茎ではアミロプラストの沈降が見られない。これらの変異体の原因遺伝子は液胞へのメンブレントラフィック、あるいは液胞膜上で機能すると考えられるものであったことから、植物細胞の特徴的な多機能オルガネラである液胞が、重力感受という高次機能と関係することを示した。また、内皮細胞におけるアミロプラスト及び液胞膜の生細胞イメージングにより、アミロプラストの重力方向への移動には、内皮細胞の体積のほとんどを占める液胞膜動態が密接に関係することを明らかにした。このような重力感受を可能にする液胞膜動態およびメンブレントラフィックを支える分子ネットワークの理解を目指して、現在液胞膜上のホスホリパーゼA1様SGR2、Qb-SNARE ZIG/SGR4/VTI11を中心に遺伝学的な研究を進めている。その研究結果もあわせて報告したい。
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南原 英司
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A3
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
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アブシジン酸(ABA)は種子登熟・休眠と発芽・乾燥ストレス等に対する植物の適応反応のシグナル物質である。演者はABAの種子における代謝と応答性のメカニズムを理解するためにシロイヌナズナを用いて遺伝学的研究を行ってきた。ジベレリン生合成を阻害するウニコナゾールを用いてウニコナゾール耐性発芽を示す突然変異株の選抜を行い、ABA非感受性の
abi3変異株を分離した。
abi3変異株種子は種子登熟後期に顕著な異常を示し、その種子は耐乾燥性の獲得・種子貯蔵物質の蓄積・種子休眠の誘導が正常に起こらなかった。この変異株の解析から、種子登熟後期の事象は継続的な発生プログラムの中に割り込まれた形でプログラムされていること、
ABI3は種子登熟後期の生物時間を規定するヘテロクロニック遺伝子としての機能を有する事を提唱した。この仮説を検証するためにランダムに収集した種子登熟期と発芽期の分子マーカーの発現解析から、一群の遺伝子発現を活性化する事と共に別の遺伝子群の発現を抑制する二面的な機能を示した。一方、種子におけるABA代謝調節の研究からABAの主要な代謝酵素であるABA 8’水酸化酵素が
CYP707A遺伝子にコードされていること、また、シロイヌナズナの4つの
CYP707A遺伝子の中で
CYP707A2は種子発芽に先立つABAの不活性化に重要である事が明らかとなった。
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半場 祐子, 柴坂 三根夫, 林 泰行, 早川 孝彦, 笠毛 邦宏, 寺島 一郎, 且原 真木
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A4
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
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アクアポリンが葉の内部での二酸化炭素拡散を促進するかどうかを検証するため、オオムギアクアポリンHvPIP2;1を過剰発現させた形質転換イネの葉を用いてCO
2拡散に対する葉の内部コンダクタンス(
gi)、光合成速度および葉の内部形態を調べた。
giはインタクトの葉を用いて、ガス交換と炭素安定同位体比の同時測定によって推定した。HvPIP2;1の抗体によって検出されたアクアポリンのレベル(Aq-anti-HvPIP2;1)がもっとも高かった葉は野生型と比較すると
giが40%増加していた。同時に、CO
2同化速度と気孔コンダクタンスもそれぞれ14%および27%増加していた。また、Aq-anti- HvPIP2;1が高かった葉は葉肉細胞のサイズが減少し、表皮や葉肉細胞の細胞壁が厚くなっており、乾燥ストレスを受けた場合に生じる形態となっていることが示された。これらの結果から、アクアポリンには葉の内部での二酸化炭素拡散を促進する役割があること、またアクアポリン増加は葉の水分状態に影響を与え、二次的な葉の形態変化を引き起こす可能性があることが示された。
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井澤 毅, 中川 仁, 根本 泰江, 矢野 昌裕
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S001
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
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4) 長日植物シロイヌナズナの最近の解析により、光周性花芽形成の分子機構はかなり明らかになった感がある。’60年代に生理学的解析から提唱された、光信号と概日時計の相互作用が基盤となり日長を認識するという「外的符号モデル」が、分子レベルでも大筋において正しかったことが明らかとなった一方、光信号の作用機作が、
FKF1によるCDF1タンパク質、
CRY2(PHYA) によるCOタンパク質といった、光受容体を介したキーとなる転写因子の安定性の制御が二重に存在するという機構は、我々の予想をはるかに超える知見であった。また、短日植物イネにおいては、
Hd1(
COオーソログ)による
Hd3a(
FTオーソログ)の転写制御が逆転しているという比較的単純な絵が見えてきた反面、Hd1タンパク質の安定性の制御がCOと同様な制御機構では説明できないことも明らかとなってきている。また、
Ehd1といったシロイヌナズナのゲノムにはオーソログを同定できない因子がイネの開花の制御に重要な役割を示し、また、その発現が、光信号や概日時計で制御されることが明らかになりつつある。どうやら、高等植物の光周性反応は、我々の予想をはるかに超えて多様なようである。本発表では、シロイヌナズナの花を咲かせることができた花咲爺さんが、イネの花も咲かせることができるのかについて、最近の我々の解析を中心に紹介したい。
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今泉 貴登, Kay Steve A.
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S002
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
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日長変化が多くの植物の開花時期に影響を与えることは古くから知られている。しかしそれがどのような機構を介して制御されているのかは不明であった。最近、シロイヌナズナやイネなどのモデル植物を用いた分子遺伝学的解析から花成に関わる日長測定機構の実体が明らかになり始めた。
シロイヌナズナにおいては長日条件特異的な日中の
CONSTANS (
CO)遺伝子の発現が日長測定において重要であることが示唆されている。日中に発現したCOタンパク質は花成誘導遺伝子である
FLOWERING LOCUS T (
FT)の発現を誘導する。FTタンパク質は茎頂においてタンパク質相互作用を介して花成誘導に関わることが示されている。この光周性花成機構における重要な疑問の1つとして、長日特異的な日中の
CO発現がどのように制御されているのかということが挙げられる。私達は発現が概日時計により制御されているFLAVIN-BINDING, KELCH REPEAT, F-BOX 1 (FKF1) タンパク質が長日条件下における日中の
CO遺伝子の発現制御に関与することを示した。さらにその分子機構の一端としてFKF1タンパク質が
CO遺伝子の転写抑制因子タンパク質の安定性を制御することを明らかにした。本講演では
CO遺伝子の発現制御に関するFKF1タンパク質の機能について今までの知見及び今後の課題を含めて紹介したい。
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新沼 協, 藤原 すみれ, 小田 篤, 田島 武臣, Calvino Martin, 大越 友里, 吉田 理一郎, 中道 範人, 水野 猛, ...
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S003
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
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生物における多くの生理応答が概日時計の制御を受けていることが、最近の研究により明らかにされている。植物では、概日時計が短期的な生理応答(葉の上下運動の日周性)ばかりではなく、長期的な生理応答(光周期依存型の花成制御)にも深く関わっていることが、ここ10年の分子遺伝学的研究により明らかにされてきた。
我々は、概日時計が複数の異なる生理応答をどのような分子機構により制御しているのかを明らかにするため、「光周期依存型の花成制御過程」と「葉の上下運動の日周性」が変化した変異体の解析を行っている。現在までに得られている知見を紹介し、「光周性花成」と「植物器官運動」における概日時計の役割について考察する。
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小野 公代, 菊地 理絵, 樋口 洋平, 佐々木 隆太, 澤谷 尚, 仁田坂 英二, 星野 敦, 飯田 滋, 鎌田 博, 小野 道之
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S004
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
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短日性花成誘導のモデル植物として優れた特徴を持つアサガオを用いて、光周期の感受から花成誘起に至る光周性花成誘導機構に関与する遺伝子群(
PHYs, CRY1s, ELF3, ELF4, CCA1, TOC1, PRRs, CDFs, LUX, ZTL, FKF1, GI, CO, FT等)の相同遺伝子を単離し、発現解析及び機能解析を行った。アサガオ品種ムラサキは播種後7日目の芽生えの段階でも一回の短日処理で花成が誘導できる事から、1回の短日処理における、光受容体の役割、生物時計の関与、GI-CO-FT経路の保存性の有無について調査し、シロイヌナズナやイネなどで提唱されているモデルとの相違を考察する。また、花成誘導能力の異なる品種や野生系統(キダチ、テンダン、ネパール、アフリカ)を用いた比較解析を行い、アサガオの光周性花成誘導における各因子の重要性を考察する。
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鈴木 光宏, 山口 暢俊, 渡辺 秀明, 森下 貴史, 松山 善亮, 米田 好文
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S005
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
フリー
シロイヌナズナの花芽分化誘導過程は4つの促進経路と、これらの促進経路を統御する過程で構成されており、その全体像が明らかにされつつある。一方で、花芽分化誘導過程に関与する既知の遺伝子ネットワーク以外にも、花芽分化誘導に影響を与える遺伝子が存在する可能性がある。このような新たな可能性を検討するために、シロイヌナズナ
PROTODERMAL FACTOR2 (
PDF2) 遺伝子に着目した。
PDF2遺伝子はHD-GL2型遺伝子で、茎頂分裂組織のL1層で発現し、表皮系の分化・維持に関与している。一方で
PDF2遺伝子の過剰発現体は花芽分化誘導遅延の表現型を示す。この知見は、過剰発現した
PDF2が花芽分化誘導を抑制しており、
PDF2が表皮系の分化・維持だけではなく、花芽分化誘導の過程においても機能することを意味する。そこで
PDF2過剰発現体を用いて、花芽分化誘導遅延表現型について分子遺伝学的に解析した。その結果、
PDF2の過剰発現による花芽分化誘導遅延は、統御過程の
FTより上流での制御が示唆された。また、
PDF2の過剰発現を介した、あるいは、
PDF2のように花芽分化誘導過程に影響を及ぼす因子を探索するために、
PDF2過剰発現体種子に対して突然変異源処理を行い、花芽分化誘導遅延の表現型が回復する突然変異体の単離を試みた。本発表では
PDF2過剰発現体の花芽分化誘導遅延表現型の詳細な解析と、
PDF2遺伝子と既知の花芽分化誘導経路との関わりを検討する。
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阿部 光知, 大門 靖史, 山本 純子, 山口 礼子, 池田 陽子, 野田口 理孝, 荒木 崇
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S006
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
フリー
光周期による花成制御過程は、これまでの生理学的研究の成果から、葉でおこる光周期の感受から花成刺激の産生までの過程と、茎頂分裂組織でおこる花芽分化誘導の過程の二つに大別される。この二つの過程は、遠く離れた組織でおこるイベントであることから、二つの過程を結びつける物質として“長距離花成シグナル(フロリゲン)”が想定されてきた。しかしながら、その実体は謎のまま、長きにわたり取り残されてきた感がある。シロイヌナズナにおいて様々な花成制御経路の統合に関わる
FLOWERING LOCUS T (
FT)遺伝子は、強力な花成促進因子である。これまでの研究から
FT遺伝子の転写は、花成誘導条件である長日条件下において子葉ならびに本葉で誘導されることが知られている。われわれは、新たに
FTの機能的パートナーである
FD遺伝子を同定し、FTタンパク質とFDタンパク質が茎頂分裂組織で相互作用することによって、花芽分裂組織遺伝子群の転写が促進され、花芽分化が誘導されることを見いだした。また、接木実験によって、
FT遺伝子による花成促進効果が接木面を介して伝達されうることも示した。これらの結果は、
FT遺伝子産物が長距離花成シグナルの実体もしくは重要な一因子であることを示唆するものであると考えている。本講演では、
FT遺伝子の解析を通して長距離花成シグナルに関する現時点での理解と今後の展望について議論する予定である。
Abe et al. (2005) Science 309: 1052-1056.
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佐藤 和広
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S007
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
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単子葉類植物の中でイネと並んで自殖性二倍体のオオムギは遺伝学的研究が進んでいる.一方で,オオムギのゲノムサイズは約5,000Mbpと大きいため,ESTを中心として解析が進められ,2005年11月現在,約42万のオオムEST配列が公的データベースに公開されている.オオムギでは米国および我が国でそれぞれ一つずつのBACライブラリーが開発されており,米国を中心にゲノムの遺伝子領域を推定する作業が進められている.また,我が国ではオオムギの完全長解析が大規模に行われている.これらの解析に基づいて,今後オオムギでは部分的なゲノムの配列解析が進むものと予想される.しかし,オオムギの形質転換は未だ容易でなく,単離した遺伝子の確認や遺伝子ノックアウトを作出することも困難である.岡山大学では非冗長の3’ESTから作製した3,000のESTマーカーを遺伝地図上に位置づけると共に,コムギにオオムギの染色体断片を導入した系統群を用いてESTマーカーの染色体上の物理的な位置を決定する作業も進んでいる.オオムギでは農業的に重要な形質の単離と選抜技術の開発が重要な研究テーマとなっており,岡山大学では染色体組換置換系統を開発して,農業的に重要な遺伝子を大規模に単離する準備を進めている.このような作業を効率よく行うためにはゲノム全体を網羅したマーカー選抜が必要であり,現在そのシステム開発を精力的に進めている.
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小松田 隆夫
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S008
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
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作物改良のためにはその栽培起源や来歴を詳しく知ることが重要である。オオムギにおいてカギとなる形質として小穂非脱落性、六条性、裸性、春まき性等があげられる。成熟種子の非脱落化は収穫能率向上をもたらし、六条性は粒数を格段に増加させ、裸性は穀粒の食用を容易にし、春まき性獲得は栽培地域の拡大に役立った。これら栽培化関連形質の遺伝子の多くはコードする遺伝子産物が不明であるが、単純な1因子遺伝をすることが前世紀の優れた研究によって明らかにされ、連鎖地図上に位置づけられているため、今日そのポジショナルクローニングはひとつのチャレンジといえよう。実験のための重要な共通的リソースとしては先ず数千のオオムギESTが連鎖地図上にマップされており、この情報を利用すれば任意の交配集団でも目的遺伝子の連鎖地図を迅速に作製することが出来る。また数十万のオオムギEST配列が公開されており、オオムギとイネとのゲノム相同性を利用して遺伝子に強連鎖するマーカーを高密度化する事ができる。一方AFLPマーカー開発は事前の配列情報を必要とせず、ESTマーカーを補完する事が出来る。BACライブラリーは3つのオオムギ品種で作製されていて、目的遺伝子を挟み込む物理地図の作製に役立つ。対象形質を正確に評価して分離個体の遺伝子型を正確にスコアすることがクローニングの成否の決め手になる。シンポジウムでは小穂非脱落化遺伝子と六条性遺伝子の成果を報告したい。
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堀 清純
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S009
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
フリー
赤かび病はコムギやオオムギなどのムギ類における最重要病害の1つであり、収量を低下させるだけでなく、人畜に有害なデオキシニバレノールなどのかび毒を生じさせる。これまでに、赤かび病に対する免疫的な抵抗性を示す遺伝子は報告されておらず、赤かび病による被害を軽減するためには量的抵抗性を強化した品種の育成が重要であると考えられている。武田・部田(1989)は、大量の供試材料を制御環境下で検定できる「切り穂検定法」を開発し、オオムギ遺伝資源4,957系統の中から高度の抵抗性を示す23系統を選抜した。武田・呉(1996)は抵抗性程度の異なる6系統間でダイアレル交配(総当たり交配)を行い、赤かび病抵抗性には効果の小さな複数の遺伝子座(QTL)が関与していると推定した。そこで、抵抗性QTLの座乗位置を明らかにするために、ダイアレル交配から複数の組換え自殖(RI)集団を育成し、連鎖地図を構築して赤かび病抵抗性のQTLを検出した。また、各RI系統の条性、穂密度などの形態形質および出穂期などの生理形質と赤かび病抵抗性の関係を調査した。解析の結果、条性や開閉花性の遺伝子座近傍にQTLが見出され、これらの形態形質が抵抗性に影響を与えている可能性が示唆された。現在、抵抗性と形態形質の関係を明らかにするために、検出したQTLを持つ準同質遺伝子座系統を育成中である。
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且原 真木, 杉本 学
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S010
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
フリー
乾燥、塩ストレス、低温などの水関連ストレスに対してオオムギはイネ科作物の中では高い耐性をもつ。その機構を分子レベルで理解するために、私たちはオオムギの水チャネル・アクアポリンおよび耐塩性に関連する遺伝子の解析を進めてきた。
アクアポリンは生体膜上に存在して水輸送機を担う膜タンパクである。私たちはオオムギがもつ11種類の原形質膜型アクアポリン(PIP)について解析を進めた。塩ストレス(NaCl)や浸透ストレス(マニトール)環境下での発現を解析し、一部のPIPについては定量的な解析も行った。主要なPIPであるHvPIP2;1については抗体を作成してタンパクレベルでの発現解析も行った。またアフリカツメガエル卵母細胞を用いた機能発現系を用いてHvPIP2;1タンパクの水輸送活性を確認した。HvPIP2;1は塩ストレスで発現が抑制されるが、オオムギの他のPIPの中には常に低レベルの恒常的発現を示すものもあった。形質転換イネの実験から、耐塩性機構にHvPIP2;1が関わっていることが示された。一方、塩ストレス抵抗性オオムギ根cDNAをEST解析して冗長性のないESTカタログを構築した。対象としてオオムギBarke根cDNAライブラリーを同様に解析して比較したところ、塩ストレス抵抗性オオムギで特異的な遺伝子が高発現し、これら遺伝子の多くが機能未同定遺伝子であることが明らかとなった。
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黒田 久夫
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S011
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
フリー
2(E)-ノネナールは、ビールを保存した時に生ずるカードボード臭(老化臭の一種)の原因物質であると考えられている。我々は、オオムギの脂質酸化酵素に着目して、2(E)-ノネナールの生成系を解析し、リポキシゲナーゼ-1、脂肪酸ヒドロペルオキシドリアーゼ(HPL)と3Z:2Eイソメラーゼの3種の酵素が関与することを明らかにした。このカスケード系では、麦芽に由来するリノール酸が、リノール酸9-ヒドロペルオキシド(9-HPOD)に変換され、9-HPODは3(Z)-ノネナールに分解し、最終的に3(Z)-ノネナールは2(E)-ノネナールに異性化される。9-HPOD を分解するHPLと3Z:2Eイソメラーゼは、単子葉植物では知られていなく、新規の酵素であった。HPLは、シトクロームP450のCYP74サブファミリーに属するが、オオムギでは9-HPODを分解するHPLはクローニングされていない。そこで、in silicoスクリーニングにより候補ESTを探索し、完全長cDNAをクローニングした。我々はこの遺伝子をHvHPL2と名付けたが、組換え蛋白質は9-HPODとリノール酸13-ヒドロペルオキシドを分解する活性を有し、CYP74Cに分類されることが分かった。HvHPL2が同定されたことにより、HvHPL2活性変異体を利用し、ビール老化に対して抑制効果のあるオオムギの育種が可能になると期待している。
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馬 建鋒
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S012
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
フリー
オオムギは古くから世界で広く栽培され、その過程で様々なストレスに対する耐性機構を発達させてきた。本講演ではオオムギのミネラル耐性についてアルミニウム毒性ストレスと鉄欠乏ストレスに対する耐性機構を例に紹介する。オオムギは一般的にアルミニウム耐性が弱いとされているが、品種によってアルミニウム耐性が大きく異なっている。その耐性の差は根からクエン酸の分泌能に起因する。またクエン酸の分泌量に関与する遺伝子のマッピングを行った結果、アルミニウム耐性に関与する遺伝子と同じく、染色体4Hに座乗し、SSRマーカーHVM3,Bmag353とBmac310と連鎖していた。一方、オオムギは不溶性の鉄を獲得するために根から鉄キレート物質であるムギネ酸を分泌し、鉄―ムギネ酸錯体のまま輸送するという巧みな機構を持っている。我々は鉄ームギネ酸錯体の輸送に関与する遺伝子(HvYS1)を単離した。この遺伝子は主に根に発現し、鉄欠乏によって強く誘導される。In situ hybridizationを行った結果、この遺伝子のmRNAは根の表皮細胞に局在していることが明らかとなった。さらに、免疫染色した結果、HvYS1は表皮細胞の細胞膜に局在していた。酵母の鉄吸収欠損株による相補性実験およびアフリカツメガエルの卵細胞による電気生理学的な実験を行った結果、HvYS1が鉄―ムギネ酸錯体に特異的なトランスポーターであることが示された。
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鹿内 利治
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S013
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
フリー
光は光合成に必須であるが、過剰な光エネルギーの受容は活性酸素の生成を介して光合成装置を破壊する。光の過剰は単純に光強度に依存するのではなく、低温、乾燥などのストレス下では比較的弱光でも光は過剰となる。植物はこの光の過剰をチラコイドルーメンのpHをモニターすることで感知し、過剰エネルギーを熱に変えて捨てている。このルーメンの酸性化はATP合成にも深く関わるので、過剰エネルギー散逸の調節メカニズムは単純ではない。我々は分子遺伝学の導入により、この熱散逸の誘導に光化学系 I サイクリック電子伝達が関わることを示した。本シンポジウムでは、不明な部分が多く残される調節メカニズムや調節に関わる分子の実体について、最近の知見をもとに考察したい。
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岩井 優和, 高橋 新一郎, 皆川 純
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S014
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
フリー
植物プランクトンは、特に海洋において全CO
2固定量の約半分をまかなうなど、その一次生産は地球温暖化の進行に重大な影響を及ぼす.また逆に地球温暖化の進行がその生理生態に及ぼす影響も大きいと考えられる.我々は,緑藻の光合成系の光環境適応機構をモデルに,環境変動が植物プランクトンの生理機能に与える影響の研究を進めている.植物プランクトンは,高等植物と同等の光合成装置を有し,また過剰な光環境にはNPQの発動によって対応するなど,基本的な仕組みはほとんど違わない.しかし,
Chlamydomonas reinhardtiiの蛍光挙動の解析から,CO
2が不足する際にはステート遷移による比較的遅いNPQが誘導され,強光下では,qEクエンチングによる速いNPQが誘導されることが明らかとなるなど、NPQのほとんどをステート遷移に頼らない高等植物とは大きく異なることがわかってきた.一方,南極ドライバレーの塩湖にて単離された
Chlamydomonasでは,生育培地中にNaClが高濃度存在すると,ステート遷移が抑制されることがわかった.最近明らかになった,ステート遷移で単量体LHCIIが果たしているユニークな役割も含め,植物プランクトンにおける光環境適応能力についての最新の知見を報告する.(本研究の一部は,地球環境研究総合推進費によるものである).
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矢守 航, 野口 航, 寺島 一郎
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S015
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
フリー
植物は移動することができないので、生育環境に合うように、形態学的・生理学的特性を変化させ、効率良く資源を獲得している。多くの植物が、生育温度に応じて光合成速度の最適温度を変化させるのは、その一例である。この現象は「光合成系の温度馴化」と呼ばれ、遺伝子発現の変化を伴う数々の生理学的反応が同時に起こる複雑な過程である。
我々は、光合成速度の最適温度が変化する一連のメカニズムを明らかにするために、栽培温度の異なるホウレンソウ葉を用いて、生理生態学的・生化学的な研究を行っている。これまでに、光合成速度の最適温度が変化するとき、1)光合成速度を律速する2つの部分反応[RuBPカルボキシレーション反応とRuBP再生産反応(=電子伝達反応)]のバランスが変化すること、2)高温におけるRubisco活性化率の温度依存性が変化すること、3)Rubisco kinetics特性そのものが温度馴化することを示した。また、二次元電気泳動解析の結果、Rubisco kinetics特性の温度馴化においては、Rubisco small subunitが重要なkeyを握っていることを示した。本講演では、これらの研究結果をふまえて、光合成系の温度馴化メカニズムについて議論する。
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牧野 周
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S016
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
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ここでは、Rubisco効率の改善に伴う高等植物の光合成能力向上の可能性について議論する。自然界におけるRubiscoのCO
2とO
2のspecificity(τ)や比活性の変異は大きい。もし自然界に優れたRubiscoの遺伝資源が存在するなら、Rubisco置換によって高等植物の光合成能力の改善が可能であることを示唆する。しかし、高等植物におけるRubiscoのτはもっとも高く、そのτと比活性の間には負の相関がある。高等植物間におけるτの変異は数%程度と非常に小さく、光合成に大きな差を与えるほどのものではない。一方、比活性には1.5倍程度の変異があり、この差は光合成速度に反映する。コムギの遺伝解析による結果からRubiscoの比活性の差は葉緑体コードの遺伝子
rbcLにあることが示された。しかしながら、異種間hybrid Rubiscoは高い活性を保持しないので、核コードの
rbcS遺伝子置換も必須である。Rubiscoタンパク量の増強は
rbcS遺伝子の補強のみによって可能である。しかし、アンチセンス遺伝子導入によるRubiscoタンパク質量の抑制系統も含めて、Rubiscoの量とその活性化状態には負の相関関係があり、Rubisco量増強のみによる光合成能力の向上はむつかしい。
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田茂井 政宏, 青山 泰子, 平松 由衣, 松川 郁子, 作山 治美, 藪田 行哲, 重岡 成
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S017
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
フリー
植物は、光合成により大気中のCO
2を固定してデンプンに変換するまでに多くのプロセスを含む。植物の炭素代謝はソース能力、シンク能力および転流能力のバランスによって成り立っている。その中でも、植物の光合成炭素代謝おいおび生産性向上を目指すには、光合成能(CO
2固定)を制御することが最も重要であると考えられる。
カルビン回路を構成する酵素の中で、FBPase、SBPase、GAPDH、PRKの活性は光還元力により厳密に制御を受けることから、回路の制御に重要であると考えられる。特に、FBPaseとSBPaseは他のカルビン回路構成酵素に比べて活性が低く、アンチセンス植物を用いた解析からも律速因子であることが示唆されている。さらに、PRKおよび GAPDHはCP12とよばれる小タンパク質を介した解離会合によっても調節されている。従って、これら酵素タンパク質はカルビン回路を含むソース・シンク器官の炭素代謝を制御する上で非常に重要であると考えられる。
そこで、これら遺伝子を導入した形質転換植物およびラン藻を用いて光合成能およびソース・シンク器官の炭素代謝へ及ぼす影響を検討した。さらに、光合成増大および生育促進に関連する因子を網羅的に解析した。これらの結果から、カルビン回路の制御によりCO
2固定能および生産性の向上を目指すためには何が重要であるのかを今後の展望も交えて議論したい。
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堀口 清華, 吉村(川崎) 智美, 新崎 由紀, 加藤 秀起, 山本 宏, 鹿内 利治, 牧野 周, 加藤 晃, 三宅 親弘, 富澤 健一
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S018
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
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我々は地球温暖化の主要因であるCO
2の削減を植物に担わせるため、その光合成能の強化を目標としている。A/Ci理論に基づくと、C3植物の光合成は低CO
2下ではRubiscoカルボキシラーゼ反応に関わる要因(Rubisco量、活性、活性化率、RubiscoへのCO
2の拡散効率)により、高CO
2下ではRuBP再生に関わる要因(電子伝達反応、カルビンサイクル酵素活性、リン酸回収効率)により制御される。これらの光合成制御要因の改良は、CO
2固定能の増強にいたると考えられる。本研究では光合成制御機構の分子レベルでの解明および新規の光合成制御因子探索を目的として、低または高CO
2分圧下で光合成に異常をもつシロイヌナズナ変異株の単離を、クロロフィル蛍光解析によるPSII量子収率(Φ (PSII))の評価から行った。
その結果、得られた変異株は次の4つに分類された:1、低CO
2下、野生株に比べてΦ (PSII)が大きい;2、両CO
2下、野生株に比べてΦ (PSII)が小さくCO
2依存性を示さない;3、低CO
2下、野生株に比べてΦ (PSII)が小さい;4、光合成の誘導が遅れる。このような変異体が得られたことは、本スクリーニング法が光合成制御因子の獲得に有効であることを示唆している。これらの変異株の生理・生化学的、分子遺伝学的解析は光合成制御機構の解明に貢献し、高CO
2固定を行う植物の創生を実現させると考える。
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林 隆久
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S019
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
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セルロースは、地球上の二酸化炭素の持続的かつ生物的シンクとして最大のものであり、その大半は森林に存在する。しかしながら、地球上の森林は既に成熟期に達しており、光合成による炭素固定の収支はプラスマイナスゼロとなっている。地球規模で計画的に森林の再生と保全を行うとともに、炭素固定能の高い樹木、成長の早い樹木の植林が望まれている。
シンク機能を高めるには2つの方策が考えられる。ひとつは、セルロースの生合成そのものを活性化させることである。ここでは、セルロース合成酵素の基質であるUDP-グルコースの合成を触媒するシュクロース合成酵素(UDP + Sucrose = UDP-glucose + Fructose)の発現について紹介する。
もうひとつの方策は、樹木の成長速度を早くして、トータルとしてのセルロース生産量を高めるものである。植物の成長は、細胞壁によってコントロールされているため、「ゆるみ」を構成的に誘導すれば樹木の成長が促進されることになる。グルカナーゼをポプラで構成発現させることにより、セルロースミクロフィブリル間を架橋しているキシログルカンを特異的に分解し、細胞壁にゆるみをもたらせた研究について述べる。
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寺島 一郎, 曽根 恒星, 野口 航
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S020
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
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森林が成立するのは,放射乾燥度(λ,降水量を全部蒸発させるのに必要なエネルギーに対する純放射量の比)が1よりも小さく,植物が水を確保できる土地である。λが1以上の土地には灌木の疎林や草原が成立している。草原の純生産量は森林にひけをとらない。しかし,バイオマスはすぐに分解してしまう。一方,λが1以上の土地に乾燥耐性の強い樹木を植えると,純生産量の飛躍的な増大は期待できないが,適切な管理下では純生産量の大部分をバイオマスとして貯えることが可能である(寺島,2004)。
一方,地球環境変化は森林のCO
2吸収に大きな影響をおよぼす。大気CO
2濃度の上昇による純生産の変化は,光合成生産に,成長や貯蔵器官の肥大がいかに追随するかに依存している。われわれは樹木の光合成生産と枝の成長との関係を調べてきた。その結果,枝の成長は光合成生産だけではなくその枝の成長活性にも強く依存していることが明らかになった(Sone et al. 2005)。すなわち,枝の成長は光合成産物の需要と供給によって決定されている。同等の光合成生産を行う枝の間でも,枝成長の優先度に依存して成長には大きな差が生じる。今後は,枝における光合成産物の需要を決定する仕組みを探り,シンク能制御への途を開きたい。
寺島一郎 (2004) 植物と環境.甲山隆司ら著 植物生態学 pp.1-41, 朝倉書店
Sone et al. (2005)
Tree Physiology 25: 39-48.
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松林 嘉克, 小川 真理, 山本 珠代, 坂神 洋次
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S021
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
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PSKは,細胞培養液中に見出された5アミノ酸分泌型ペプチドであり,
in vitroにおける細胞増殖促進や仮道管分化促進,不定胚形成促進などの生理活性を示すが,種々の生理学的解析から,PSKはmitogenや分化因子として特異的に機能するというよりはむしろ,細胞の何らかの基本的なポテンシャルを高め,多面的な生理効果を示している可能性が高い.PSK前駆体遺伝子は,シロイヌナズナに5種類存在しており,培養細胞のみならず植物体全体でかなりのレベルで発現していることから,植物個体の成長過程にも何らかの役割を担っていると考えられる.演者らは,これまでにニンジン培養細胞をモデルとした解析により,PSKは細胞膜に局在するLRR-RKの一種であるPSKR1に結合することを明らかにしてきた.現在そのシロイヌナズナにおけるオルソログ
AtPSKR1の解析を通して,PSKの植物個体レベルにおける機能の解明を目指している.AtPSKR1はPSKに対し7.7 nM の結合定数を示し,やはり培養細胞だけでなく植物体全体で発現している.また,
AtPSKR1遺伝子の破壊株では,膜画分のPSK結合活性が顕著に低下していることが確かめられた.本シンポジウムでは,この遺伝子破壊株の表現型から推定されるPSKの本質的機能について考察したい.
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賀来 華江, 渋谷 直人
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S022
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
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我々はこれまで特定のキチン断片がイネの細胞に強いエリシター活性を持ち、さまざまな生体防御応答を引き起こすことを明らかにしてきた(N. Shibuya & E. Minami(2001)
Physiol. Mol. Plant Pathol.)。この防御応答には、糖の構造と重合度を厳密に識別する受容体様タンパク質の存在が想定され、
125I標識したキチンオリゴ糖を用いる親和性標識実験の結果からイネ原形質膜にはこのエリシターに対する高親和性結合タンパク質があることを発見した(Y. Ito
et al. (1997)
Plant J.)。このキチンオリゴ糖エリシター結合タンパク質(
Chitin
Elicitor-
Binding
Protein:CEBiP)はキチンオリゴ糖を固定化したカラムにより精製し、その部分アミノ酸配列情報に基づいて遺伝子をクローニングした。RNAiを利用した
CEBiPノックダウン系統の形質転換細胞ではキチンオリゴ糖エリシターによる活性酸素誘導や種々の遺伝子発現誘導が大幅に抑制され、CEBiPが実際にエリシター認識・シグナル伝達の鍵となる分子であることが証明された。一方、CEBiPはアミノ酸配列から予測される構造からは、単独で細胞内へのシグナル伝達を行うのではなく、別の何らかのパートナー分子と複合体を形成してシグナル伝達を行っている可能性が推定された。こうした分子に関しては現在その探索を進めている。
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下里 裕子, 磯貝 彰, 高山 誠司
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S023
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
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アブラナ科植物の自家不和合性は、1座位の
S複対立遺伝子により支配され、花粉と雌ずいが同一のS遺伝子を共有する場合に不和合となる。これまでに、
S遺伝子が花粉表層に局在する塩基性小型蛋白質SP11と柱頭細胞膜上に局在する受容体キナーゼSRKをコードすること、両者間の相互作用の
S遺伝子特異性が自他識別反応の基本となっていることを明らかにしてきた。さらに、変異株の解析より、膜アンカー型細胞質キナーゼMLPKが自家不和合性の情報伝達に関与することを明らかにしてきた。しかし、SP11-SRK間相互作用とそれに続くSRK活性化機構を始め、及びMLPKの情報伝達における役割など、自他識別反応の初期段階において、ついても未解明な点はが多く残されている多い。
最近我々は、柱頭細胞膜上のSP11結合部位をアフィニティー精製し、SRKとキナーゼ領域を欠く膜局在型truncated SRKが高親和性受容部位を構成していることを明らかにした。またまた、タバコ培養細胞を用いた発現実験により、SRKの細胞膜局在性がSP11受容活性に必須であることを見出した。さらにMLPKが自他識別情報の情報伝達系で機能する上でも、MLPKの細胞膜局在性が重要であることを見出した。生化学的および分子生物学的解析を通じて明らかになってきた自家不和合性の自他識別機構研究の現状を紹介する。
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上口(田中) 美弥子, 芦苅 基行, 松岡 信
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S024
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
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近年の分子遺伝学的手法を用いた研究により、ジベレリン (GA) シグナル伝達を担ういくつかの因子が同定されてきた。その中でも、DELLAタンパク質は、GAシグナル伝達の抑制因子として働いている重要な転写因子様タンパク質で、DELLAタンパク質が26Sプロテアソームを介して分解されることにより、GA応答がおきると考えられている。最近、我々は、GA非感受性の極矮性イネ、
gid1変異体を見いだし、その原因遺伝子を単離した。
GID1は、ホルモン感受性リパーゼ (HSL) に類似した未知のタンパク質をコードしており、GID1-GFPの局在性から、核で機能することが予想された。本タンパク質が細胞内受容体である可能性を検討するために、大腸菌でGST-GID1を作製し、そのGA結合能を測定した。その結果、GST-GID1は活性型GAと結合し、不活性型GAとは結合しなかった。また、最も高い結合活性を示したGA
4に対しては、10
-7M程度の解離定数を示し、この値はイネのシュート伸長に対するGA反応性とほぼ匹敵する濃度であった。さらに、GID1タンパク質にGAが結合すると、イネのDELLAタンパク質であるSLR1との結合能力が生じることが酵母のtwo-hybrid系を用いた実験により明らかとなった。以上のことから、GID1は、イネにおける可溶性のGA受容体であると結論した。
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中嶋 正敏, 朴 昇弦, 高師 義幸, 金 永千, 鈴木 浩之, 大久保 杏子, 山口 五十麿
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S025
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
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植物の生長制御において、ジベレリン(GA)は多岐にわたり様々な生理作用を示すことが知られており、そのシグナル伝達に関わる因子についても近年、急速に明らかにされつつある。一方、GAの受容体については長年、特定されない状況が続きシグナル伝達経路の解明を阻む要因の一つとなっていた。これまで我々は、アズキの胚軸中にGA結合性を示す可溶性タンパク質(GBP)を検出し、その性状解析からこれをGAの受容体候補と定めて大規模な精製を展開してきた。またこの途上、GAの代謝に関わる酵素GA 2-oxidase (GA2ox)との関連性が浮上し、GBPとGA2oxの性状比較も行ったが、現在までに得ている結果からはGBP画分中に含まれる主要な活性成分がGA2oxとは異なる感触を得ている。この状況下において本年度、GAに対し応答せず、著しく矮性を示すイネ変異体の解析から
Gibberellin Insensitive Dwarf1 (
GID1)遺伝子がGA受容体をコードすることが明らかにされた。先述のGBP、GA2oxと比較してGID1の性状には、各種GAリガンドに対する選択性や、分子質量など類似する点が少なからず伺える。それらについて、本発表では特にGAとの結合性に着目しながら論じる予定である。
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瀬戸 秀春, 木下 俊則
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S026
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
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植物ホルモン・ブラシノステロイド(BR)の情報伝達に関与するBRI1は、1つの膜貫通領域をはさんで、N末側の細胞外に25個のロイシンリッチリピート(LRR)と21番目と22番目LRRの間に70個のアミノ酸からなるアイランド領域(ID)、C末端の細胞内にSer/Thrキナーゼ領域をもつ受容体型キナーゼである。これまでの研究で、BRI1はBRの受容に不可欠であることが示されたが、両因子が直接結合する証拠は得られなかった。我々は、光反応基であるフェニルジアジリンと検出基であるビオチンで二重修飾した非放射性の光アフィニティープローブbiotin-tagged photoaffinity castasterone(BPCS)を合成、BPCSをプローブとした光アフィニティーラベル法により、BRI1がBRの受容体であり、BRはBRI1細胞外の94個のアミノ酸からなるID-LRR22領域に直接結合することを明らかにした [Kinoshita et al. (2005) Nature 410, 167-171]。タンパク質の特異的な化学修飾法の一つである光アフィニティーラベル法は,光照射によって光アフィニティープローブ(リガンドの誘導体)に生じた高反応基で標的タンパク質を不可逆的に補足、リガンドの結合部位近傍にマーカーをつける手法であり、標的タンパク質の同定やリガンド結合部位の解析に有用である。本講演では、光アフィニティーラベル法の成功例として、BRとBRI1の結合機構の解析研究を紹介し、その他の植物ホルモンの受容体機構の解析における本法の適用の可能性を考えてみる。
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増田 真二
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S027
発行日: 2006年
公開日: 2006/12/27
会議録・要旨集
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AppAは紅色細菌における光合成関連遺伝子の転写を青色光依存的に制御する光受容体である。AppAのC末端領域には光合成遺伝子特異的な転写リプレッサーPpsRが結合する領域が存在しており、受容した青色光シグナルを下流の因子へ伝達する機能を担うと考えられる。N末端領域には一分子のフラビン(FAD)が非共有結合しており、青色光シグナルの受容に働く。BLUFドメインと名付けられたこのN末端領域は、転写因子PpsRと競合的にC末端領域と相互作用すると考えられている。このようにAppAで受容された光情報は直接転写因子へ伝達される。この点が他の光受容体を介した情報伝達機構には見られない大きな特徴である。
AppAが光を吸収すると色素自体の大きな構造変化は起こらず、周辺アミノ酸との水素結合ネットワークが変化することでシグナル状態が形成される。フラビン近傍の水素結合の変化はN末端領域の特定のβシート構造の変化を引き起こすこともわかってきた。このβシートの光依存的コンフォメーション変化が、下流の転写因子へシグナルとして伝わると考えられる。本講演では、光シグナルの受容から遺伝子発現制御に至るAppAの光シグナル伝達機構を、他のグループによる研究成果もまじえて議論する。
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