国語科教育
Online ISSN : 2189-9533
Print ISSN : 0287-0479
94 巻
選択された号の論文の17件中1~17を表示しています
Ⅰ シンポジウム(要旨)
春期大会(第144回 島根大会)
Ⅱ 研究論文
  • 宇賀神 一
    2023 年 94 巻 p. 14-22
    発行日: 2023/09/30
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は、石森延男の国語教育思想を検討し、『学習指導要領 国語科編(試案)』(1947年度版)の成立過程における彼の役割を再考することである。従来の研究をとおして、「国語科編(試案)」の成立過程において石森が十分な成果を残すことができなかったことが明らかにされている。本稿では、石森が作成した国語教育の構想に関する史料の発見を起点として、同史料の位置づけや内容分析を行い、そこから石森の国語教育思想を抽出することを試みた。

    本稿では、次のことが明らかになった。第一に史料の作成時期に関して、石森が“course of study”の担当者としてその作成に携わったのと重なる時期に成立した文書であることが明らかになった。第二にその内容に関して、戦前・戦中の国語教育思潮と戦後の経験主義国語教育の思潮のあいだを埋めるような性格のものであることが明らかになった。「系統表」の各項目の内容は十分に体系化されていなかったものの、児童の経験を重視する姿勢や、社会生活を円滑に進める手段として言語を捉える射程を備えた。「国語科編(試案)」にかかわる石森の仕事は、戦後のあらたな国語科の成立を目指し、戦前・戦中の国語教育の経験を踏まえ、アメリカの言語教育思潮にも目を向けながら国語教育思想を構築して未踏の課題に取り組んだ、「国語科編(試案)」成立前夜の一場面として記憶されてよい。

  • 木村 季美子, 上田 楓, 明尾 香澄
    2023 年 94 巻 p. 23-31
    発行日: 2023/09/30
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル フリー

    本研究は、現在までの国語科教育の教材研究や読みの授業において固定的な社会規範や二元論といった枠組みが前提とされることで、抑圧され不可視化されてきたテクストの可能性を開くことを目的とし、アーノルド・ローベル「おてがみ」を取りあげる。ポスト構造主義に基づき規範や二元論を内破・脱構築するクィア批評の概念を用い、抑圧・不可視化されたテクストの可能性がどのように立ち現れるのかを、分析から明らかにするものである。

    「おてがみ」の先行研究の多くは、がまくんとかえるくんの二人の関係を友達だとする固定的な関係性の枠組みの中で行われてきたが、斉藤(2004)のようにその関係性に見られる独特の密着感への指摘もみられる。このような枠組みに入りきらない独特の違和感、つまりクィア性は先行研究において感じ取られながらも言葉にされず、見逃されてきたといえる。登場人物の「名づけ得ない関係」に着目し『ふたりはともだち』のテクスト分析と読解を行った。

    様々な社会的枠組みを攪乱しながら紡がれていく物語において、関係性を示す言葉自体を問い直し、丁寧に言語化し交流し合うことができれば、従来の概念そのものが揺さぶられ、解体・再構成される契機となるだろう。再構成した枠組みさえも問い直し続けるクィアの思弁的な実践は、国語科教育において見逃された教材可能性を開くプロセスといえる。

  • 木村 穂乃香
    2023 年 94 巻 p. 32-40
    発行日: 2023/09/30
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル フリー

    本研究では、読むことの学習で実践共同体を単位とした評価を行う際の課題を明らかにすること、そして読むことの学習における実践共同体の形成条件を明らかにすることを目的とした。

    まず、実践共同体を単位とした評価の教育的意義を検討した。その結果、社会文化的な学習の側面の発展を支援する点に意義があることを示した。

    次に、読むことの学習でこの評価を行う際の課題を2つ明らかにした。1つは、読むことの学習の社会文化的側面を、社会と読むこととの関係の中で具体化する必要があることである。もう1つは、読むことの学習の社会文化的側面の発達と個々の学習者の能力形成的側面との関連を評価に組み込むことである。

    最後に、大村はま(1968)の「読書会」実践を事例に読むことの学習における実践共同体の具体、評価方法を検討し、実践共同体の基本要素に即して形成条件をまとめた。

  • 堀口 史哲
    2023 年 94 巻 p. 41-49
    発行日: 2023/09/30
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル フリー

    本研究は、書くことを文化学習と捉え、共同推敲者という視点に着目することで、共同推敲という学習活動の実態を明らかにすることを目的とする。まず、共同推敲者に必要な資質・能力を、書き手の思考に関する研究と批判的思考に関する研究を手がかりに整理した。そして、共同推敲者が働かせる思考の実態を5つの分類に措定した。次に、実際に学習者が働かせる思考を分析するために、筆者が担任する都内私立A小学校3年生36名を対象に、2つの実践及び調査を行った。2回の調査ではどちらも共同推敲時の音声記録を中心に分析し、事前に措定した分類と照合しつつ検討した。調査の結果、2つのことが明らかとなった。1つ目は、共同推敲者が「書き手の想定する読み手」に対する意識を獲得する3つの過程で捉えることができた。2つ目は、特定の学習者の批判的思考が他の学習者に影響を与えながら広がっていく傾向を確認することができた。

Ⅲ 実践論文
  • 北川 雅浩
    2023 年 94 巻 p. 50-58
    発行日: 2023/09/30
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は、小学校3年生を対象に、話し合いの目的とプロセスの意識を高めるための有効な方法を開発することである。現在、学習や生活で話し合いが重視されているものの、話し合いのプロセスについての意識を高めるための指導法に関する研究は限定的であり、実証的な研究は見当たらない。そこで本研究では、子供たちが目的とプロセスを意識しながら話し合うことを可能とするために「プロセスカード」と呼ぶ支援ツールを開発し、話し合いを進める、話し合い後に振り返るという活動を繰り返した。話し合いの記録データを分析した結果、協同的に話し合いを展開するグループが増加したことが明らかになった。また、話し合い後には、工夫した進め方を提案する児童が多く見られた。しかし、プロセスの工夫が協議されていても、既成のカードが提示されている状況では、実際の話し合いへの影響は小さいことも確かめられた。本研究を通して、小学3年生が話し合いの目的とプロセスを意識する上で、「プロセスカード」による支援と振り返り活動に繰り返し取り組ませることは効果的な指導方法であると結論づけられる。

Ⅳ 資料
  • 宮沢 さや加, 奥泉 香
    2023 年 94 巻 p. 59-67
    発行日: 2023/09/30
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル フリー

    本稿では、国定第2期から現行版まで、小学校用国語科教科書に採録され続けてきた「浦島太郎」に焦点を当て、各時期にどのような形態で採録され、活用されてきたのかを、これまでの先行研究ではあまり通時的に検討されてこなかった挿絵や教材文の表記に着目して、その背景も含めて整理・検討している。

    当該教材は、明治期以降の書き言葉教育や言文一致、標準語教育、戦中から戦後にかけての話しことば教育や、現代における文法教育、読書教育、「伝え合う」力の育成、「我が国の言語文化」の教育と、活用のされ方に伴い採録の形態を変えてきた。本稿では、当該教材がこういった変遷に沿って、学習者が国語科教育の新たな学習内容を学ぶ度に、多くの児童に馴染みがあり、簡素なしかし多様な構成を持つ教材として繰り返し活用されてきたことを明らかにしている。

Ⅴ 書評
feedback
Top