芦田恵之助は日本の「書くこと」の教育を代表する教育実践者である。彼の随意選題による綴方指導は、「随意か課題か」、「作文か綴方か」といった国語教育史上の重要な論争に大きな影響を与えた。ただし、芦田の関心は綴方そのものにあったのではなく、「陶冶」や「教科」優位の近代教育をのりこえるための方法にこそあった。本稿では、芦田恵之助の綴方教育の理念に含まれる訓育的側面に焦点を当て、彼の「近代教育批判」を現代的な課題と結びつけながら再考している。
議論はまず、芦田の綴方教育の理論的特性(第一節)と、教育史における意味の把握(第二節)からなされた。そして、芦田が禅の思想のもつ訓育的側面を教育へと援用することによって、近代教育を乗り越えるべくいかに綴方教育を構想したのかを確認し(第三節)、その限界を見出した(第四節)。
議論を経ることによって、国語科作文教育における訓育的教授は、次の学習指導上の目的及び省察の下で行われることが望ましいという結論が導かれた。すなわち、「書くこと」の教育は、絶え間ない世界認識の更新を学習者自らが行える能力を保証するものとして組織されること。そして、その認識のあり方が「教化」に傾倒していないかが、反省されなくてはならないこと、である。
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