ラテンアメリカ・レポート
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35 巻, 2 号
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論稿
  • 上谷 直克
    2019 年 35 巻 2 号 p. 1-25
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/07
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    今年V-Dem(Varieties of Democracy)研究所から発行された年報Democracy Report 2018: Democracy for All?によると、ここ約10年の世界の民主政の様態は、概して「独裁化(autocratization)」傾向を示しているという。もちろん、普通選挙の実施に限れば、常態化している国もみられるため、この場合の「独裁化」は、普通選挙以外の側面、つまり、表現および結社の自由や法の下の平等に関してのものである。現代社会で最も正当とみなしうる政治体制は自由民主主義体制であり、それは慣例的に「自由」を省略して単に「民主主義体制」と呼ばれるが、皮肉にも現在、世界の多様な民主制が概してダメージを被っているのは、まさにこの省略されがちな「自由」の部分なのである。同時期のラテンアメリカ諸国での民主政をみてみると、ここでも選挙民主主義の点では安定した様相をみせているが、自由民主主義指標の変化でみると、ブラジル、ドミニカ共和国、エクアドル、ニカラグア、ベネズエラの国々でその数値の低下がみられた。しかし,世界的な傾向とは若干異なり,これらの国では「自由」の中でも,執政権に対する司法や立法権からの制約の低下が著しかった。本稿では、上記の世界的傾向や近年のラテンアメリカ地域での傾向をV-Demデータを使ってみたところ低下がみられた、ベネズエラを除いた上記4カ国の最近の政治状況について端的に報告する。

  • 古賀 優子
    2019 年 35 巻 2 号 p. 26-40
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/07
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    2018年コロンビア大統領選挙は、FARCとの和平合意後に実施された最初の大統領選挙であった。当初は和平合意履行の是非が争点になるのではないかとみられていたが、実際は和平よりも急進左派の是非にたどり着いた。これまでみられなかった左派の躍進はコロンビアにあって注目すべき現象であったが、左派候補が勝利するには至らなかった。

    その背景には、歴史的に急進的な政治を好まない国民の意識が挙げられる。また、既成政党の組織票が力を失う一方で、SNSはまだ十分な影響力を獲得していない。今回の大統領選挙の背景には、このような政治の変化があったのではないか。政党離れは進行しており、右派・左派に関わらず、カリスマのある候補が出現すれば、将来的に大統領選挙で勝利する可能性もあると考えられる。

  • 豊田 紳
    2019 年 35 巻 2 号 p. 41-54
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/07
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    2018年のメキシコ大統領選挙と連邦議会選挙で左派の政治家アンドレス=マヌエル・ロペス=オブラドールと彼を擁立した「国民再生運動」が大勝した。大統領を輩出する政党(連合)が同時に議会の過半を占めるという事態はメキシコが2000年に民主化して以来、初のことである。そこで本稿は、①選挙結果を概観した上で、②ロペス=オブラドール政権の政策課題をまとめ、③最後に選挙制度改革と国民再生運動の党組織の問題を考察して、ロペス=オブラドール政権の今後について筆者なりの見通しを与えてみたい。

  • 内山 直子
    2019 年 35 巻 2 号 p. 55-69
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/07
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    本論文では、2017年7月に開始された北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉過程と2018年11月30日に合意文書に署名された米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の合意内容およびその影響について、メキシコ自動車産業を中心に考察する。メキシコでは、2012年以降、自動車関連産業を中心に日系企業の進出が相次ぎ、その後5年間で進出企業数が2倍に増えた。しかし2016年以降はその伸びが鈍化し、トランプ政権以降は様子見の様相を呈していた。そのようななか、2018年8月末に公表されたUSMCAの合意内容は、NAFTA消滅は回避されたものの、自動車分野においてメキシコ側が譲歩し、米国の要求がほぼそのまま実現されたかたちとなった。その背景には何があったのか、また、今後のメキシコ自動車産業におけるUSMCAをめぐる議論について、各種現地報道および2018年8月の現地調査の結果も踏まえて検討する。

  • 北野 浩一
    2019 年 35 巻 2 号 p. 70-83
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/07
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    チリでは2000年代以降近隣国からの移民が拡大していたが、2017年からは首都サンティアゴにおいてハイチとベネズエラからの移民の急増が大きな社会現象となっている。移民のプル要因としては、所得面と治安面で出身国とチリとの格差が拡大していることがあげられる。移民に対して極端な排斥の動きが出ている国もあるが、チリでは高齢化する労働力を補い成長の原動力と位置づける意見が政府から出され、違法滞在者の取り締まりを強化する一方、合法的な受け入れ体制が整備され始めている。労働力不足が顕在化している今のうちに、移民の同化政策をすることが肝要である。

現地調査報告
  • 清水 達也
    2019 年 35 巻 2 号 p. 84-94
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/07
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    地域研究者にとって現地調査は、もっともワクワクする研究活動である。現地の研究者を訪問して、最新の研究成果について学んだり、自分の研究成果について議論したりできる。政府や企業など幅広い人々と話をし、工場や農場を実際にみることで、新しい事実を発見したり、仮説を検証したりできる。研究関心に対する好奇心を大いに満たしてくれる現地調査は、研究活動のハイライトのひとつともいえる。

    しかし同時に、もっとも難しい活動でもある。現地調査がうまくいくかどうかは、アポイントメントの取り付けなど準備にかける努力だけでなく、よい出会いがあるかなど運による部分も大きい。アポイントメントがとれたとしても、適切な質問は準備できたか、面会場所まで時間どおりにたどり着けるか、相手は来るか、十分な時間をとってもらえるかなど、心配の種は尽きない。たとえ話が聞けたとしても、思いどおりの成果が得られるとは限らない。

    筆者は3年ほど前から、ブラジル中西部の穀物生産者について研究をしている。同国における生産量は2000年代に入ってから大きく伸び、今や米国と並んで世界最大級の穀物生産・輸出国となった。その担い手となるのが、数百から数千ヘクタールの規模で生産する家族経営体や、数万ヘクタールを超える規模を有する企業経営体である。

    本稿では、筆者がブラジル中西部の大規模農業経営体に関する研究活動をどのように進めたかについて、現地調査の過程を追いながら説明する。

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