年報政治学
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67 巻, 2 号
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〔特集〕 政党研究のフロンティア
  • ―空間的政治制度の始点を考える―
    清水 唯一朗
    2016 年 67 巻 2 号 p. 2_13-2_36
    発行日: 2016年
    公開日: 2019/12/10
    ジャーナル フリー

    日本の選挙区制度は, 1889年の小選挙区制にはじまり, 大→小→中→大→中選挙区制と転変を経て, 今日, 小選挙区比例代表並立制に到達している。 他方, 個別の選挙区割りは, 明治以来, 相応の連続性をもって現代に維持されている。選挙区を空間的な政治制度として捉え, その歴史的展開を論じることは日本の選挙制度を理解する上で欠かせない作業となろう。よって本稿では, 選挙区を空間的政治制度として捉える第一歩としてその始点となる1889年の選挙区がどのような考えのもとでどう線引きされたのかを, 当時の議論から明らかにする。そこでは内閣, 内務省, 府県知事だけが策定に関与した結果, 選挙事務の実施という行政的な側面と, 選挙を安定的に運営すべく旧藩域を極力維持する方法が取られた。とりわけ旧秩序の継承と小選挙区の選択は選挙に対する地方名望家の影響力を残し, その後の立憲政治の展開に大きな制約を与えることとなった。

  • ―カリフォルニア州のプライマリー改革の事例研究―
    西川 賢
    2016 年 67 巻 2 号 p. 2_37-2_55
    発行日: 2016年
    公開日: 2019/12/10
    ジャーナル フリー

    アメリカ合衆国の 「プライマリー」 (「予備選挙」) は多様で, 同じ州でも時代ごとに形態が異なる。なぜ, プライマリーの形態は変化するのか。この疑問に, 選挙制度改革を 「特定の政策要求者集団が他の政策要求者集団に対して優位に立つために自らの影響下にある政治家を操作して行わせるもの」 とみる立場から説明が試みられた。だが, 先行研究で決定的事例に位置づけられるカリフォルニア州ですら, 政策要求者集団が改革を規定する原因であったかどうか再検討の余地がある。本論文ではカリフォルニア州の事例を再度取り上げ, 過程追跡の手法を用いて (1) 多重立候補制度の禁止, (2) ブランケット・プライマリー導入, (3) ブランケット・プライマリー提訴, (4) TTVG導入を 「結果」 と捉え, 先行研究による説明の妥当性について追検証を試みた。その結果, 政策要求者集団の影響はいずれの事例内観察においても左程顕著ではなく, プライマリー形態の変更を促す必要条件であったとは考えにくいのではないかという知見を得た。

  • 岡﨑 晴輝
    2016 年 67 巻 2 号 p. 2_56-2_77
    発行日: 2016年
    公開日: 2019/12/10
    ジャーナル フリー

    日本の政治学では, ジョヴァンニ・サルトーリの類型論が支配的地位を占めてきた。しかし, サルトーリの類型論は, 少なくとも原型のままでは有用性を喪失している。1988年から94年の 「政治改革」 以降, 政党システム=選挙制度をめぐる争点は<政権選択可能な二大政党制=小選挙区制か, 民意反映可能な穏健多党制=比例代表制か>へと移っている。ところが, サルトーリの類型論は二大政党制と穏健多党制の相違を過小評価しているため, この問いに答えることができない。我々に必要なのは, このギャップを埋めるため, サルトーリの類型論を修正することである (第4節の表3を参照)。この修正類型論を採用すれば, 政党システムをより構造的に分類できるようになるであろう。のみならず, 穏健多党制を多極共存型・連立交渉型・二大連合型に下位類型化することで, 政権選択可能かつ民意反映可能な政党システム, すなわち穏健多党制 (二大連合型) を特定することができるようになるであろう。

  • ―H. ケルゼンの民主政論を手がかりに―
    網谷 龍介
    2016 年 67 巻 2 号 p. 2_78-2_98
    発行日: 2016年
    公開日: 2019/12/10
    ジャーナル フリー

    本論文は, 議会制デモクラシーをめぐるわれわれの理解について, 歴史的な視点から再検討を行うものである。現在, 民主政の経験的研究においては, 「競争」 を鍵となるメカニズムとするのが通例である。本論文はこのような想定を相対化し, 「競争」 ではなく政党による社会の 「統合」 と, そのような政党が多数決を行うためにうみ出す 「妥協」 が, 20世紀ヨーロッパの議会制民主主義の核となるメカニズムであった可能性を指摘する。具体的には, まずオーストリアの国法学者ケルゼン (H. Kelsen) の民主政論が検討され, 20世紀政党デモクラシーの理論的存立構造の一つのモデルが提示される。そして, 彼の議論が単なる理論にとどまらず同時代の現実の政治制度や政党における議論にも対応物を持つことが明らかにされる。現状分析に持つ含意としては, 制度のみでは担保できない社会的 「統合」 のような諸条件に民主政の機能が依存していることが示唆される。

  • ―内閣総理大臣による選挙期間中の候補者訪問―
    藤村 直史
    2016 年 67 巻 2 号 p. 2_99-2_119
    発行日: 2016年
    公開日: 2019/12/10
    ジャーナル フリー

    政党は, 政治資金, 政府・議会・党の役職, 選挙区への利益誘導など, 所属議員の当選に資する複数の資源をもっている。本稿は, 政党資源として, 党首の選挙期間中の候補者訪問に焦点を当て, 政党執行部が党の議席を増加させるために, どのように党内の資源を所属議員に配分するのかを検討する。日本の参議院議員選挙における内閣総理大臣の候補者訪問の分析から, 政党執行部は, 制度や文脈に応じて議席を増大させられるように資源を配分していることを明らかにする。より具体的には, 政党執行部は, 政党投票に依存している候補者や, 当落線上にある候補者に対して, より頻繁に総理大臣を訪問させていることを示す。本稿の知見は, 制度や文脈のもとで, 政党が合理的な選挙戦略を採用し, かつ総理大臣の人気が所属候補者を当選に導く重要な資源であることを提示する。

  • ―健康保険法改正問題の事例分析―
    奥 健太郎
    2016 年 67 巻 2 号 p. 2_120-2_143
    発行日: 2016年
    公開日: 2019/12/10
    ジャーナル フリー

    近年, 筆者は自民党政権の政策決定手続きの特徴とされる 「事前審査制」 の通説を修正する説, すなわち事前審査制が自民党結党直後の1955年から始まったとする見解を発表した。このことを前提とすると, 自民党政務調査会は, 結党直後から事前審査の中心機関として, 与党内部ならびに政府与党間を調整する役割を果たしていたと考えられる。そこで本稿は, 1956年の健康保険法改正問題を事例として, 当時の政調会が果たした役割を分析した。

     結論としては, 結党直後の政調会が平時であれば政策調整機関として, 政府与党間, 与党内部で政策を具体的に調整する機能を持っていたこと, その一方で事態が政局化すると政調会の果たす役割は限定的であったことが明らかになった。

  • ―ギリシアの急進左派連合とスペインのポデモスから―
    中島 晶子
    2016 年 67 巻 2 号 p. 2_144-2_162
    発行日: 2016年
    公開日: 2019/12/10
    ジャーナル フリー

    ポピュリズムはデモクラシーにとって必ずしも害悪ではなく, 主流政党が取り上げない争点を取り上げ, デモクラシーを活性化させる側面もある。また, 排外主義的な右翼ポピュリズムに対抗できる左翼ポピュリズムこそ必要であるとする立場もある。本論は, 左翼ポピュリスト政党としてギリシアの急進左派連合とスペインのポデモスをとりあげ, デモクラシーへの影響について検討する。両党の成長と国内政治の変容プロセスをたどり, ポピュリズムの類型やパフォーマンスから, 左翼ポピュリズムの課題を考察する。両党は, 反緊縮を訴えて社会運動のエネルギーを議会政治に取り込み, 多くの若者らを政治に参加させて勢いにのった。しかし, 議会多数派を目指す段階でトップダウンの集権組織に転換して, 運動との連携は薄れ, 当初の主張も変化させていった。ポピュリズムに内在する 「人民」 の同質性と多元性との緊張関係や, 社会運動と議会政治との連携方法が課題である。成長するポピュリズムの類型は国内条件により規定されており, 欧州議会の影響力が弱い現状では, 左翼ポピュリズムが右翼ポピュリズムに対抗する図式とはならない。また, 右翼ポピュリズムのように, 想像可能な物語を示すことができない点も弱みである。

  • ―サーベイ実験による長期的党派性の条件付け効果の検証―
    善教 将大
    2016 年 67 巻 2 号 p. 2_163-2_184
    発行日: 2016年
    公開日: 2019/12/10
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は, 政党支持の規定性, 具体的には長期的党派性の投票行動に対する影響を検証することである。政党支持の規定性は, これまで多くの研究者が議論してきた安定性とは対照的に, ほとんどその妥当性に関する検証作業が行われていない。本稿では実験的手法を用いて, 行動意欲とは異なる長期的党派性は, 政党ラベルや候補者要因が投票行動に与える効果をどの程度条件付けるのかを分析することで, 政党支持の規定性の検証を試みる。大阪市および近畿圏在住の有権者を対象とするサーベイ実験の結果, 長期的党派性は政党ラベルの因果効果を常に高めるわけではないことが明らかとなった。この知見は, 政党支持は規定的であるという通説的見解に疑義を投げかけるものであると同時に, 有権者における政党支持の 「揺らぎ」 を示唆するものでもある。

  • ―白票を含む分割投票の規定要因について―
    舟木 律子
    2016 年 67 巻 2 号 p. 2_185-2_207
    発行日: 2016年
    公開日: 2019/12/10
    ジャーナル フリー

    ボリビアでは1997年選挙より, 小選挙区比例代表併用制が導入された。同制度で有権者は, 同時に投票する2票のうちの1票を, 大統領と上院議員・下院比例区議員を選出し, もう1票を, 下院小選挙区議員を選出するために投じる。制度導入以降これまでに5回の選挙が実施され, 2票の投票先が異なる政党またはいずれかが白票となる分割投票が, 特に3回目の選挙以降の全ての回できわめて顕著にみられた。本稿はこのように, ボリビアの混合型選挙で確認される, 白票も含む分割投票の規定要因を明らかにする試みである。選挙区レベルのアグリゲートデータを用いた重回帰分析の結果, 制度導入後2回目までの選挙では, 候補者要因のみが影響を与えていたが, 2005年の社会主義運動党の躍進後, とりわけ2009年選挙後は, 候補者要因に加えて, 有権者の投票に対する有効性感覚が減退した結果として, 小選挙区での白票が顕著となったことを明らかとした。

〔公募論文〕
  • ―アメリカ初等中等教育改革をめぐる「社会的学習」の交錯―
    坂部 真理
    2016 年 67 巻 2 号 p. 2_208-2_236
    発行日: 2016年
    公開日: 2019/12/10
    ジャーナル フリー

    近年, 先進諸国では国民の知的水準を企業・国家の経済競争力の源と位置付け, 国民の学力向上を明示的に政策目標とする諸改革が追求されてきた。

     第一に本稿は, P. ホールの社会的学習論の視点からアメリカの初等中等教育改革を分析し, 子どもの 「学力」 の規定因, およびその向上策をめぐる政策アイディア (「政策パラダイム」) の歴史的変容過程を検討する。

     第二に本稿は, 同国の制度構造と社会的学習の関係について理論的考察を行う。1990年代以降アメリカでは, 連邦・州レベルで新たな政策パラダイムに基づく教育制度改革が実施されてきた。しかし, 新制度の執行を担う地方・教育現場では, 学力低下の原因に関する異なるパラダイムに依拠し, 多様な制度的機会を利用して, 新制度を別個の目標のために 「転用」 するという動きも現れた。本稿は, こうした制度 「転用」 の例として学校財政制度訴訟に注目し, 制度改革の実施後, その執行・運用をめぐって展開された諸アクター間の紛争を分析する。この分析を通じて, 本稿は, 社会的学習に基づく制度発展を (断続平衡としてではなく), 制度形成者―執行者間の紛争と相互作用の中から漸進的に進行する過程として再構築する。

  • ―なぜ保険者入院事前審査制度は導入されなかったのか―
    三谷 宗一郎
    2016 年 67 巻 2 号 p. 2_237-2_260
    発行日: 2016年
    公開日: 2019/12/10
    ジャーナル フリー

    毎年1兆円規模で増加する医療費を適正化するという観点から, 1990年代以降, 保険者機能の強化が盛んに論じられてきた。しかし保険者が医療機関に働きかける対外的機能はほとんど強化されず, その原因は 「利益」 や 「制度」 にあると指摘されてきた。これに対し本稿は, 非公表の内部報告書を含む資料調査と元厚生官僚へのインタビューを行い, 戦前日本の公的医療保険で運用されていた入院承認制度をめぐる改革論議を過程追跡した。その結果, 入院承認制度は戦時下の行政事務簡素化の一環で運用停止となったこと, 戦後厚生官僚は1980年代まで入院承認制度の再導入を企図してきたこと, ところが1990年代に教訓導出を通じてアイディアが根本的に変容したため1994年を境に検討されなくなったことが明らかになった。以上から1994年以降, 入院承認制度の再導入というアイディアを有するアクターが医療政策のアリーナに不在となったため, 対外的機能が強化されてこなかったことを示した。

  • ―独立青年同盟の結成と排撃―
    堀内 慎一郎
    2016 年 67 巻 2 号 p. 2_261-2_284
    発行日: 2016年
    公開日: 2019/12/10
    ジャーナル フリー

    本稿では, 1949年に結成され, 当時の労働運動や日本社会党において激しい左右対立を引き起こした, 独立青年同盟の結成過程, 組織規模や組織論, イデオロギー等, その実態について調査分析を行った。その結果, 独青は, 当初目指された社青同結成が左右対立により頓挫したため, 総同盟右派や国鉄民同等の民同右派と社会党右派の青年が結成したものであったが, 社会党内での十分な協力関係構築に失敗したこともあって, 総同盟左派や産別民同主流, 社会党青年部によって排撃されたこと, 同時に 「左を叩いて, 右を切る」 という左派の労働戦線再編の戦略や, GHQ労働課の思惑もあって, 独青をめぐる対立が労働運動と社会党全体の左右対立に発展し, 左派優位の確立, 右派の主導権喪失の原因となったことが分かった。一方, 独青は短期間で排撃されたが, 独青に結集した青年の中から同盟指導者が多数輩出されており, 分析結果から, 独青の結成と排撃の過程で形成された組織間および人的関係性は, 今日も連合や民進党において解消されていない, 「総評―社会党ブロック」 と 「同盟―民社党ブロック」 という, ブロック対立の萌芽ともいえるものであったことが明らかになった。

  • ―麦芽税廃止論争との関連性を中心に―
    板倉 孝信
    2016 年 67 巻 2 号 p. 2_285-2_311
    発行日: 2016年
    公開日: 2019/12/10
    ジャーナル フリー

    本稿は政治・社会史的なアプローチから, 英国の所得税廃止論争の再検討を試みたものである。1815年にナポレオン戦争が終結すると, 翌16年には英国議会で戦時所得税の存廃をめぐる激しい論争が展開された。これに際して, 所得税廃止を要求する大規模な請願運動が行われた結果, 与党トーリーが多数を占める下院で, 政府提出の所得税延長法案は否決された。本稿では, 従来看過されてきた他税種との関連性を重視することで, 先行研究とは異なる角度から所得税廃止論争を分析した。まず筆者は, この論争が所得税延長への反対だけでなく, 対仏戦争中に強化された多くの戦時増税への不満から生じた点に着目した。その上で, 請願運動における言説を分析し, 戦争中から蓄積されてきた納税者の不満が, 終戦後に一挙に表面化する過程を追跡した。さらに筆者は, 所得税廃止を主張する富裕層と麦芽税廃止を主張する中間層以下が, 減税要求に関して緊密に連携した点に注目した。その上で, 以前は別々に展開されてきた両者の請願運動が融合したため, 減税要求が激化したことを指摘した。

  • ―冷戦変容期における同盟の基盤―
    長 史隆
    2016 年 67 巻 2 号 p. 2_312-2_333
    発行日: 2016年
    公開日: 2019/12/10
    ジャーナル フリー

    1972年のニクソン大統領による訪中・訪ソ, および翌年1月のベトナム和平協定の成立により, 日米両国を取り巻く国際環境は劇的に変化し, そのなかで日米は, 両国関係をいかに位置づけるべきかという問いに直面した。日米関係は一時的に動揺を見せたものの, 1970年代半ばにかけて改善に向かう。その過程で, 両国政府が強調したのが, 「価値観の共有」 であった。本稿の目的は, その要因を明らかにすることにある。米国は 「価値観の共有」 を掲げ, 冷戦対立の緩和とグローバルな政治・経済情勢の混迷のなか, 西側同盟の結束を図るため尽力した。一方の日本も, 国際秩序の変容を受けて自国の対外政策のあり方を模索するなかで, 米国をはじめとする価値観を共有する西側先進諸国との協調路線を鮮明にした。そして日米両国は, 「価値観の共有」 を同盟関係の基盤の一つとして理解するようになった。それは両国が, 軍事的意義にとどまらない, 日米同盟関係のもつ重層性への認識を深めたことの帰結であった。そのことは, 冷戦終結を経てもなお日米同盟関係が命脈を保ち続けている所以を考察するにあたっても, 重要な示唆を与えうるであろう。

  • ―H・J・ モーゲンソー, R・アロン, 永井陽之助, 高坂正堯を対象として―
    宮下 豊
    2016 年 67 巻 2 号 p. 2_334-2_355
    発行日: 2016年
    公開日: 2019/12/10
    ジャーナル フリー

    本稿は, H・J・モーゲンソー, R・アロン, 永井陽之助, 高坂正堯における慎慮の意味内容として次の2点を提起する。第1に, 「結果の考慮」 に置き換えられる目的合理的な理解ではなく, 国家が利用可能な手段に即して追求する目的を定義することによる〈穏和〉な政策であり, それは力の均衡や外交を擁護することに関連する。第2に, 行動の自由を確保するために, 法的思考および道義的思考を退け, 状況の認識において徹頭徹尾具体的たろうとすることである。さらに, 慎慮のリアリストの思考様式に基づき, 状況認識が具体的であるための前提条件として次の2点を指摘する。第1に, 米国や日本等, 実在する国家について客観的条件に基づいた個性を重視して, 他国から類推しないことである。第2に, 状況が動態的・可変的である故に, 日々の出来事をフォローしてその影響に注意を払うとともに, 核兵器の開発に象徴される現代の革命的な変化を重視することである。こうした具体的な状況認識を重視したことが, 彼らがゲームの理論を含めて単純な見方を退ける一方, 政治を 「わざ」 と喝破してそれに固有の思考法・判断基準を強調したことが理解されるべきと論ずる。

  • ―ステークホルダー・デモクラシーの規範的正当化―
    松尾 隆佑
    2016 年 67 巻 2 号 p. 2_356-2_375
    発行日: 2016年
    公開日: 2019/12/10
    ジャーナル フリー

    集合的自己決定としてのデモクラシーには, 決定の主体たるべきデモスの境界画定という根本的な決定を民主的に行うことの困難が伴う。本稿では, こうした 「境界問題」 を解決する指針として, 決定の影響を被る者によってデモスを構成するべきとする 「被影響利害原理」 が有力であることを論じ, この原理に基づく 「グローバル・ステークホルダー・デモクラシー (GSD) 」 の構想を検討することで, 新たな民主的秩序化の可能性を示す。被影響利害原理の解釈は, 1) 影響の意味, 2) 影響の不確定性, 3) 影響を被る者への発言力の配分, などをめぐって多様でありうるが, GSDは, 諸個人の自律を脅かすような影響を蓋然的にもたらす国家的・非国家的な公共権力を, 等しい発言力を認められたステークホルダー間の熟議により統御すべきとする立場である。被影響利害原理に基づく場合にもデモスの境界をめぐる争いは避けられず, GSDが主権国家秩序に取って代わりうるわけでもないが, その制度化は従来の法的デモスに加えて, 機能的・多元的なデモスを通じた集合的自己決定の回路を新たに整備するものであり, より適正な境界画定を導く構想として規範的に擁護しうる。

〔学界展望〕
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