年報政治学
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70 巻, 2 号
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《特集》
  • ―「新自由主義―権威主義」 への対抗政治構想
    山崎 望
    2019 年 70 巻 2 号 p. 2_13-2_35
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/12/21
    ジャーナル フリー

    新自由主義と権威主義的ポピュリズムに対して、現在、自由民主主義は有効性と正統性の二つの側面で、危機に直面している。第1章で自由民主主義の危機について論じる。第2章では、成熟社会論を手掛かりに、自由民主主義の有効性と正統性が危機に陥った転回点である 「長い60年代」 の変動を論じる。第3章では、「個人の解放」 と 「直接性の噴出」 という観点からこの変動を把握する。

     第4章では、この変動から発展した四つの主要な構想、すなわち①新自由主義②権威主義的ポピュリズム③ケアの倫理・共同性論④ラディカルデモクラシー論の思想的配置を論じる。それを通じて、これらの四つの構想が自由民主主義への対抗構想という点では共通性を持ち、同時に、相互に対立している点を明らかにする。

     第5章では、現代日本の待機児童問題の事例に言及し、新自由主義と権威主義的ポピュリズムに対抗する、ケアの倫理・共同性論とラディカルデモクラシー論の節合を論じる。これらを通じて現代の自由民主主義に対する四つの対抗構想の源泉として 「長い60年代」 を捉え直すと同時に、そこから危機を脱する成熟社会論の刷新を模索する。

  • ―成熟の理論としての闘技デモクラシー論
    乙部 延剛
    2019 年 70 巻 2 号 p. 2_36-2_57
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/12/21
    ジャーナル フリー

    「エートスの陶冶」 は、90年代以降、闘技デモクラシー論を中心に盛んに主張されてきた。だが、この言葉が何を指すかについては、十分に検討されてきたとはいえない。実際、エートスの概念の曖昧さや主観性を批判し、より政治的かつ具体的な規範的処方箋の提出を求める意見もある。こうした状況に対し、本稿は (1) 「エートスの陶冶」 が一定の輪郭と政治的含意を有したものであることを示すとともに、 (2) 批判者とは逆に、「エートスの陶冶」 を具体的処方箋から切り離す方向で活用すべきであると論じる。すなわち、まずコノリー、ホワイト、タリーら闘技デモクラシー論が論じるエートス概念について、それがフーコーの影響下にあって、個人態度と同時代診断を結びつけたものであり、一定の輪郭と政治的な含意を有したものであると明らかにする。次に、これらのエートス概念について、道徳主義および循環の問題を指摘し、解消策を探る。具体的にはホーニッグの 「公共的なモノ」 論および 「人民の預言」 論を参照しつつ、観察者としての理論家の役割に、エートス論が示唆する成熟の可能性を見出す。かかる観察者は処方箋の提示にかえて、政治社会の揺らぎや不調和の特定を中心的課題とするのである。

  • ―イギリスのEU離脱をめぐる政治社会
    今井 貴子
    2019 年 70 巻 2 号 p. 2_58-2_83
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/12/21
    ジャーナル フリー

    欧州連合 (EU) からの離脱を決した2016年国民投票後、イギリスは妥協を排除するような 「情動的分極化」 に陥っているといわれている。それは階級的亀裂や排外主義は後景に退くとさえ論じられた 「成熟社会」 への劇的な掣肘であったといえよう。本稿は、イギリスがどのようにしてこの危機的状況に直面するにいたったのかを、二大政党と有権者との関係の変遷から考察する。まず離脱支持派とは、既存の政党政治から 「疎隔された人々」 の連合であることを示す。異なる階級を横断する有権者連合が、社会の一極となるまで膨れ上がったのには、閉鎖志向の権威主義と都市中心主義のエリート政治家への鋭い反発が触媒として働いたことがある。その上で本稿が着目するのは、「疎隔された人々」 を構成する相当数の労働者階級が、現代化した労働党に幻滅し選挙のたびに棄権を続けていたことである。彼らの消極的投票行動が離脱支持という積極的な態度表明へと転じたのはなぜか。本稿は労働党政権の再分配策によるフィードバック効果と、それに対するキャメロン政権下で実施された緊縮財政とその影響が現れたタイミングを検討し、経済的困窮に起因する疎隔意識が強まったことが人々を離脱支持へと向かわせた可能性を考察した。

  • ―政策の比較分析から検討する
    古賀 光生
    2019 年 70 巻 2 号 p. 2_84-2_108
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/12/21
    ジャーナル フリー

    本稿は、西欧における右翼ポピュリスト政党の 「文化的な」 争点への態度を検討する。ノリスとイングルハートによる有力な先行研究 (Pippa Norris and Inglehart 2019) は、「権威主義的なポピュリスト」 の支持拡大は、脱物質主義的な価値観の主流化に対する物質主義者を中心とした 「文化的な反動」 が原因であるとする。そのような理解に従えば、右翼ポピュリスト政党は、同性婚への反対や女性の社会進出への否定的な態度など、「文化的な反動」 にふさわしい主張をしていると考えるのが妥当である。しかし、先行研究は、一部の右翼ポピュリスト政党が必ずしもこうした立場にはないことを指摘している。そこで本稿は、西欧の六つの右翼ポピュリスト政党の文化的な争点への態度について、比較マニフェスト分析を用いて、その 「反動的」 な態度を検討する。分析の結果は、これらの党は、移民への態度などで 「権威主義的」 姿勢を示すものの、社会的な争点については、他の政党類型と比べて、特段 「反動的」 とは呼べないことが明らかになった。こうした知見は、必ずしも直ちに先行研究に修正を強いるものではないものの、現状の議論の枠組みに対して、一定の回答すべき 「謎 (puzzle)」 を提示するものである。

  • 稗田 健志
    2019 年 70 巻 2 号 p. 2_109-2_142
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/12/21
    ジャーナル フリー

    本稿は、ポピュリスト政党の有権者レベルでの支持構造の特質を浮き彫りにすることを目的とする。この目的を達するため、本稿は左派ポピュリスト政党の支持基盤と右派のそれとを比較するというアプローチを採る。具体的には、欧州社会調査第7波 (2014‒2015年) のデータを用い、西欧12ヵ国を対象に、有権者個人レベルの特性がどのように右派ポピュリスト政党あるいは左派ポピュリスト政党支持に結びついているのかをマルチレベル・ロジスティック回帰分析を用いて探った。分析結果は、回答者の職業階層上の垂直的次元の位置のみならず、水平的次元も左右のポピュリスト政党への支持に影響していることを明らかにした。すなわち、教師や看護師といった社会文化専門職において最も左派ポピュリスト政党の支持が高くなるのに対し、右派ポピュリスト政党の支持はこの職業階層で最も低く、ブルーカラー労働者層で最も高い。加えて、本稿の回帰分析の結果は、政治エリートへの不信が高いほど左右のポピュリスト政党への支持は高まるが、回答者の欧州懐疑主義の程度は右派ポピュリスト政党への支持にのみ影響することを示した。

  • 宇野 重規
    2019 年 70 巻 2 号 p. 2_143-2_163
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/12/21
    ジャーナル フリー

    本稿は日本独自の成熟社会論の起源を一九七五年に見出し、その主要な理論家として経済学者の村上泰亮に着目する。世界的に高度経済成長が終わりを迎えつつあるなか、英国のデニス・ガボールの 『成熟社会』 やローマ・クラブによる 『成長の限界』 の議論が日本に紹介されるが、やがて日本でも独自の成熟社会論の展開が見られるようになる。とくに村上泰亮は、産業化後の 「豊かな社会」 への対応という世界共通の課題に、欧米モデルからの転換という日本独自の課題を重ねて捉えた点に特徴がある。村上はこの時期の日本社会の転換を、個人主義の台頭による伝統的な集団主義の変質として捉え、それに基づく新たな公私ルールの確立を目指した。そのような問題意識を本格的に展開したのが村上の産業社会論であり、ここで村上は混合経済の必然性、多元主義、特に文化の領域の一定の自立性を強調する社会理論を構築した。そのような問題意識の上に村上は、日本における保守回帰を予測し、さらに 「イエ」 社会を基軸とする独特の日本文化論を展開した。政治・経済・文化の関係を総合的に把握しようとした村上の理論的営為は、今日なお重要な示唆を我々に与えてくれる。

《公募論文》
  • ―第二次国連ソマリア活動 (UNOSOMⅡ) 参加と外務省
    庄司 貴由
    2019 年 70 巻 2 号 p. 2_164-2_185
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/12/21
    ジャーナル フリー

    これまで宮澤政権期のPKO政策をめぐっては、カンボジア派遣の事例に研究上の関心が寄せられてきた。ところが、実現こそされなかったものの、日本政府、とくに外務省内ではソマリア派遣の検討も同時に進められていた。そこで本論は、ソマリアでの国連平和維持活動 (PKO) 参加などに着目し、外務省がどのような検討を行い、いかに模索したのかを明らかにする。

     まず、航空輸送をめぐる試行錯誤に触れ、その帰結としての世界食糧計画 (WFP) との共同空輸が残した問題点を浮き彫りにする。次に、政府調査団が指摘した情勢認識や人的貢献案を論じていく。最後に、外務省の関係省庁、首相官邸との交渉プロセスを、国連事務総長訪日なども交えながら解明する。そして結論では、外務省の説得が合意形成どころか、調整機能の停滞や深刻な対立を招いたこと、その一方でソマリアPKO派遣構想自体には、後の日本が直面する諸課題が凝縮されていたことを明らかにする。

  • 板山 真弓
    2019 年 70 巻 2 号 p. 2_186-2_207
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/12/21
    ジャーナル フリー

    1978年の 「日米防衛協力のための指針」 策定は、従来、秘密裡になされていた共同計画策定が公式化された、日米安全保障関係史上、画期的な出来事だと位置づけられる。本論文では、この 「指針」 策定をもたらす契機となった米国側のイニシアチブ、すなわち公式化要請の背景には、従来見逃されてきた、米国の国内政治要因があったのではないかとの仮説を提示する。具体的には、米=タイ間の秘密裡の共同計画が米軍の越権により策定された等と議会で問題視されたことを受け、日本との同様のそれについても批判を受けるのではないかと危惧されたことが背景にあったとする。他方、 「指針」 策定作業においては、この米国側の要請を受けた日本側が 「指針」 の基礎となる文書を起草する等、イニシアチブを取ることとなった。これは、日本の国内政治上の理由より、共同計画策定が秘密裡に実施されるようになったとの歴史的経緯より、公式化を実現する上では、日本側が自らの問題を解決すること、すなわち、日本国内において共同計画策定に関する政治的なコンセンサスを形成することが最も重要な課題であったことに由来する。

  • ―アウトサイダー層に着目した理論構築と法人税率のパネルデータ分析
    鈴木 淳平
    2019 年 70 巻 2 号 p. 2_208-2_232
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/12/21
    ジャーナル フリー

    比較政治学において、グローバル化が経済政策をめぐる政党間の差異 (=党派政治) を弱めるという立場とグローバル化が党派政治を強めるという立場の間で長年論争が繰り広げられてきた。本稿は、これらの議論を架橋することを目的として理論構築を行う。その理論は、グローバル化は労働者内部のアウトサイダー層の規模という要因を介して党派政治と曲線的な関係にある、ということを主張する。グローバル化は労働者の中にアウトサイダー層を生み出すが、そのアウトサイダー層の規模によって左派政党の政策選好が変化する。すなわち左派政党の政策選好はアウトサイダー層が小規模の時には市場介入的となり、中規模の時には市場親和的となり、大規模な時にはふたたび市場介入的となると予想される。一方で右派政党の政策選好はアウトサイダー層の規模に左右されないと考えられる。本稿は1981年から2016年までのOECD加盟諸国の法定法人税率のパネルデータを分析することでこの予想を検証する。その結果、この予想を支持する結果が得られた。このことから、党派政治はグローバル化によって最初は弱体化するものの、のちには強大化に転じる可能性が示唆される。

  • ―西欧における極右政党の主流化に関する比較分析
    譚 天
    2019 年 70 巻 2 号 p. 2_233-2_263
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/12/21
    ジャーナル フリー

    2000年代以降、一部の急進右翼ポピュリスト政党 (以下、「極右政党」) が政権入りや閣外協力の形で 「主流化」 を果たしたことが、西欧の政党間競争のメカニズムを根本的に変化させつつある。本稿は西欧主要国における極右政党を考察対象として、その主流化の成否を規定する政治的環境を定量的手法と定性的手法を統合して解明しようとするものである。まず、本稿では極右政党を含むニッチ政党の主流化に関する2つの重要な分析枠組み、すなわち 「包摂=穏健化理論」 と 「政党戦略モデル」 を概観し、それぞれの問題点を説明した。そして、連立政権の形成に影響を与え得る政治的環境について5つの仮説を立てて検証した。結局のところ、既に一大勢力を誇るようになった極右政党が直面する 「抑圧的な政治的環境」 こそ、極右政党の主流化を決める鍵であることが示された。極右政党の主流化自体が相対的に新しい現象であるがゆえに、事例数や使用可能なデータの量の不足は否めない。実証分析の手段が物理的に制約されていることから、国際比較的な視点からの考察は極めて難しいが、本稿はこの困難を克服するための最初の一歩である。

  • 上條 諒貴
    2019 年 70 巻 2 号 p. 2_264-2_288
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/12/21
    ジャーナル フリー

    本稿は、議院内閣制における 「内閣改造」 を、外部の政治状況の変化に応じた首相の人事権の戦略的行使と捉え、それが首相の地位維持にいかに資するかという観点から分析するものである。

     まず、数理モデルを用いて、現政権 (首相) への有権者からの支持が低下すると、大臣職を与えることによって首相からの政策的距離が遠い議員の支持を取り付けることが困難になり、首相は地位維持に必要な党内支持を獲得できる可能性に賭けて自らに政策的に近い議員を大臣に任命するようになるという仮説を導く。

     その後、「東京大学谷口研究室・朝日新聞共同調査」 および第一次安倍政権以降の日本の大臣人事データを用いた計量分析によってこの仮説を検証する。首相からの政策距離と内閣支持の交差項を含んだロジスティック回帰分析の結果、内閣支持が低下すると、経済政策に関する政策的距離が首相に近い議員の方が有意に大臣に任命されやすくなることが示される。

  • 田村 哲樹
    2019 年 70 巻 2 号 p. 2_289-2_311
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/12/21
    ジャーナル フリー

    現代民主主義理論には、様々な理論潮流が存在する。しかし、そうした様々な試みも、「自由民主主義」 を前提とし、その深化ないし徹底化を目指すという点では共通しているのではないだろうか。このような疑問に対して、本稿は、現代民主主義理論と自由民主主義との関係を再検討し、両者の関係が 「自由民主主義の深化・徹底化」 にとどまるものではないことを明らかにしようとする。その際、本稿は、自由民主主義における 「自由(リベラル)」 の多義性に注目する。すなわち、本稿は自由民主主義の 「自由 (リベラル)」 には少なくとも、資本主義、競争的な政党システム、公私二元論、そして立憲主義の4つの意味があり、かつ、それぞれの意味での 「自由 (リベラル)」 を乗り越えようとする現代民主主義理論が存在することを明らかにする。

  • ―理論と制度的指針の検討
    大庭 大
    2019 年 70 巻 2 号 p. 2_312-2_335
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/12/21
    ジャーナル フリー

    本稿は、純粋手続き的正義の理論に焦点を当て、その理論的意義を明らかにするとともに、制度的考察までを射程に含む分配的正義の有力なアプローチとしてこれを提示することを目指す。純粋手続き的正義のアプローチがロールズ理論の体系において一貫性をもつことの論証を通じて、その理論的擁護可能性を示したのち、純粋手続き的正義のアプローチが制度・政策のパタン指定性について独自の視点を提供し、制度的構想を導く指針ともなりうることを示す。より細かくは、まず1 ~ 2節で、純粋手続き的正義について、ロールズの議論を分析・整理することでその特徴の精確な見取り図を提示する。純粋手続き的正義の異なる類型をみたのち、原理適用段階における正義の指令を統べるアプローチとして、準純粋手続き的正義の社会過程説を特定する。そのうえで3節では、パタン指定という論点を中心にロールズ的な純粋手続き的正義の分配制度上の含意を論じる。4節では純粋手続き的正義の非ロールズ的構想について検討する。

  • ―そのプロセスの類型化は可能か
    戸田 香
    2019 年 70 巻 2 号 p. 2_336-2_360
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/12/21
    ジャーナル フリー

    本稿は事業終了のプロセスを明らかにすることを目的とする。成熟社会を迎え、中央、地方政府ともに財政規律の保持が求められるにもかかわらず、政策終了に着目した研究はほとんど行われてこなかった。研究の絶対数が少ない中でも、終了の阻害或いは促進要因を解明しようとした研究が大半を占め、終了の過程についてはほとんど注目されていない。本稿では終了のプロセスを定性的手法を用いて解明し、民主的な事業の終わり方はいかなるものかを検討する。観察対象を都道府県営ダム事業とし、5県で終了した全計22事例の終了の経緯を観察することで実態を明らかにし、その理由を比較分析で説明することを試みる。その結果、終了プロセスはヴァリエーションに富んでいたことがわかり、終了主導者との関係も指摘される。また終了が政治的アジェンダにあがると紛争が発生するという一般的なイメージとは異なり、実際は短期間で政府内関係者のみで終了していた事例が半数程度を占めていたことも明らかにされる。

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