窒素量の異なるFe-18%Cr-12%Ni 安定オーステナイト系ステンレス鋼線材の時効硬化挙動における窒素の役割を調査した。加工率および窒素量の増加にともない時効硬化量が増大し,いずれの窒素量でも800 K付近での時効処理により最も大きな硬化が得られる。さらに,強加工を加えると450~600 Kの低温時効においても硬化する。DSC解析の結果,800 Kでの時効硬化はCr2Nの粒子分散強化に起因していること,450~600 Kでは窒素の転位芯拡散に律速された発熱反応が生じていることが明らかになった。しかしながら,低温時効材では3DAPによっても窒化物やクラスターが確認されず,I-S対のような原子スケールの反応物が転位上に生成していると考えられる。
α鉄中における窒素(N)の粒界偏析挙動に及ぼす合金元素(Me)の影響を明らかにするために,Fe–1.0 at.%Me–N三元系(Me:Al,Ti,V,Cr,Mn,Nb,Mo)を対象として,Nと合金元素の粒界偏析をHillertによって提案された平行接線則を用いて熱力学的に評価した。本計算では,粒界のGibbsエネルギーにはFe–1.0 at.%Me–N三元系における液相のGibbsエネルギーを適用した。計算結果によれば,Al,Ti,V,CrあるいはNbを添加した合金ではNと合金元素の共偏析が予測されたが,一方,MnあるいはMo添加の場合には,共偏析挙動は予測されなかった。Nと合金元素との共偏析傾向は,金属窒化物の形成傾向と良い対応を示した。