PLANT MORPHOLOGY
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21 巻, 1 号
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特集I ライフサイエンス領域における微細形態計測装置共同利用のネットワーク創設に向けて
  • 山科 正平, 大隅 正子
    2009 年 21 巻 1 号 p. 1-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/12/26
    ジャーナル フリー
    昨年度,当NPO法人 IIRS は,(財)新技術振興渡辺記念会からの助成により,『ライフサイエンス領域における可視化技術の実態と将来展望に関する調査研究』を実施した.その結果,我が国の生命科学研究の環境には大きな格差があり,形態科学研究装置の利用に困窮している研究者が非常に多いことが判明した.こうした問題を解決して微細形態科学を振興するために,微細形態科学研究装置の共同利用を推進するためのネットワークの構築を模索している.本シンポジウムは日本植物形態学会と共催のもと,生命科学の発展に有効なネットワークの創設に向けて,識者からご提言をいただき,あわせて聴衆からの声を吸収したい.
  • 濱 清
    2009 年 21 巻 1 号 p. 3-7
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/12/26
    ジャーナル フリー
    生体の機能には必ず構造と物質の裏付けがある.機能理解の手がかりとなる構造情報には次の様な特性を持つ事が求められる.1) 出来るだけ生体に近い情報であること.2) 時間,空間の高い分解能を持つこと.3) 物質及びそのダイナミクスに付いての情報を含むこと.4) 定量的であること.1) の要件には光学顕微鏡が有利であり,2)の空間分解能には電子顕微鏡が圧倒的に有利である.生体の構造と機能の動態を高い空間分解能で直接観察するのが我々世代の生物学者の夢であったが,現在では光学系と画像技術のすばらしい進歩で,光学顕微鏡によって1),2)の要件は,ほぼ満たされる時代となった.高い分解能を武器とする電子顕微鏡の分野では,超低温電子顕微鏡を用いたトモグラフイー解析によって各種の膜チャンネルなど重要な生体分子の構造と動態がサブナノメーターレベルの分解能で解明されている.3),4)の要件については分子生物学と遺伝子操作の発達が大きく道を開いた.
     1948年に研究を始めてから現在まで,上記の4要件を満たす夢を抱きながら,種々の顕微鏡を使って生体の構造,機能解明の研究を続けて来た演者の経験を述べた.
  • 鮫島 正純
    2009 年 21 巻 1 号 p. 9-10
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/12/26
    ジャーナル フリー
    電子顕微鏡の共同利用が可能になれば,潜在的な多くの需要があるに違いなく,ネットワーク構築が期待される.その場合,古いけれどまだ立派に稼動している装置を維持し続けている研究機関をどのようにネットワーク化するかが課題と思われる.議論の材料として,それに近い状況である弘前大学の現状を紹介する.弘前大学では大型分析機器を統括管理運営する「機器分析センター」が設置されているが,個々の機器は従来どおりユーザー管理であり,専任教職員は配置されていない.このような状況でも,地方大学は,ユーザーとして参加する以外に,周辺地域の研究者に対する電顕技法に関する情報の提供や,試料作成に関してそれぞれが蓄積している経験を伝えるなどの形でネットワークに関わりを持てる.そのためには綜合企画研究支援によるサポートと連携が必要であろう.
  • 米村 重信
    2009 年 21 巻 1 号 p. 11-12
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/12/26
    ジャーナル フリー
    理研発生・再生科学総合研究センター(CDB)の電子顕微鏡解析室においては,独自の研究を行いつつ,電子顕微鏡並びにその関連装置の管理,維持と,CDB内外の依頼に応じて,透過型電顕,走査型電顕それぞれの技術支援を行っている.支援の内容は電顕解析に関するコンサルティング,サンプルの固定から画像記録まですべてを行うものから,装置の使用説明のみを行うもの,また指導をして技術の習得を行わせるなど,さまざまな段階のものがある.依頼者とはCCDカメラを使って取得した画像をメールに添付することで迅速に報告,意見交換を行っている.観察対象は発生学によく使われる,線虫からマウス,培養細胞に至るまで幅広い.今後もノックアウトマウスの各臓器,ES細胞やiPS細胞から分化させた機能性細胞の解析に電子顕微鏡支援業務がますます重要な貢献をしていくと考えられるが,それに対応する人材育成に関しては,十分な展望が開けていないのが現状である.
  • 峰雪 芳宣
    2009 年 21 巻 1 号 p. 13-16
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/12/26
    ジャーナル フリー
    オーストラリアでは電子顕微鏡等の機器の共同利用ネットワークAMMRF(Australian Microscopy & Microanalysis Research Facility)が2007年から運営されている.AMMRFはオーストラリア国内の主要大学電子顕微鏡施設と国の機関が連携した組織で,オーストラリアの研究者が各種顕微鏡や顕微解析装置を使って生命科学や材料科学の研究を行うのをサポートしている.
特集II 細胞小器官のはたらきを脂質の視点で捉える
  • 片山 健太, 和田 元
    2009 年 21 巻 1 号 p. 17-28
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/12/26
    ジャーナル フリー
    細胞を構成する生体膜は脂質により膜構造を形成するが,膜脂質には多様な分子種が存在し,膜ごとに,そして時空間的に異なった組成をしている.このような膜脂質の多様性はオルガネラ,細胞,組織といったような生物の階層構造の構築にどのような役割を果たすのだろうか.「心臓の脂質 (cardio-lipin)」として発見された特徴的な二量体構造をもつリン脂質であるカルジオリピン(CL)は,多くの真正細菌,そして動植物のミトコンドリアなどに特異的に存在する.CLの機能を解析するため,注目するタンパク質の活性とCLとの関係を解析する生化学的研究,CLの生合成過程を解析する代謝学的研究,CL生合成酵素変異体の表現型を解析する逆遺伝学的研究が行われてきた.その結果,CLの減少は呼吸鎖やアポトーシス,浸透圧調節やミトコンドリア形態などに影響を与えることが明らかになったが,CLが果たす中心的な機能が解明されたとはいえない.多細胞性を生かし,より有利にCLの中心的機能に迫るため,筆者らは真核多細胞生物で初めてCL合成酵素遺伝子CLSを同定し,T-DNAが挿入されたシロイヌナズナの変異体clsの表現型やCLSの組織特異的発現などの解析から,CLの機能,そして植物におけるミトコンドリアの多様性に迫ろうとしている.この総説では,最近の研究から明らかになってきたCLの機能について紹介したい.
  • 小林 康一, 太田 啓之
    2009 年 21 巻 1 号 p. 29-39
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/12/26
    ジャーナル フリー
    多くの生物ではリン脂質を生体膜の主要構成脂質として用いているのに対し,高等植物の葉緑体やシアノバクテリアでは,ガラクトースを含む2種類の糖脂質がその膜脂質の大部分を占めている.これらのガラクト脂質はその光合成膜における豊富さから,光合成における役割が古くから示唆されてきた.近年,ガラクト脂質合成酵素が植物で相次いで同定されたことから,ガラクト脂質合成やその制御機構に関する研究が急速に発展してきた.また,遺伝学,逆遺伝学的手法によりガラクト脂質代謝に関わる変異体が次々と解析され,ガラクト脂質の光合成やストレス時における機能が明らかになってきた.光合成組織においては,ガラクト脂質はチラコイド膜形成に必須の構成要素であり,また,光合成反応におけるこれらの脂質の直接的な役割も明らかにされてきた.さらに,これらの糖脂質はプラスチド内における機能だけでなく,リン欠乏時にはプラスチド外のリン脂質の代替をすることで,膜脂質におけるリンの使用を軽減する役割を持つことも分かってきた.ここでは,植物でのガラクト脂質合成に関する近年の研究の変遷と,最近得られた新しい知見を紹介し,これらの糖脂質の植物生体膜構築における重要な役割について議論する.
  • 林 誠, 西村 幹夫
    2009 年 21 巻 1 号 p. 41-46
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/12/26
    ジャーナル フリー
    高等植物のペルオキシソームは,細胞の分化や環境変化に応じて脂質分解や光呼吸などの特定の機能を特化させるという他の生物には見られない際だった特徴を持っている.最近十数年のあいだに,植物ペルオキシソームの機能とその制御に関する研究が飛躍的に進んだ.その結果,植物ペルオキシソームはまだまだ知られざる機能を果たしていることが分かりつつある.また,ペルオキシソームタンパク質の輸送やペルオキシソームの生合成に関わる多数の遺伝子が同定されている.本稿では,植物ペルオキシソーム機能の多様性とその制御機構に関する最近の知見を紹介をする.
  • 小林 啓子, 鈴木 優志, 村中 俊哉
    2009 年 21 巻 1 号 p. 47-53
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/12/26
    ジャーナル フリー
    高等植物は細胞内の様々なコンパートメントで特徴的な生合成経路により多種多様なイソプレノイド化合物を生合成している.このことから,高等植物のイソプレノイド生合成は動物やそのほかの生物とは異なり,オルガネラ間をまたがるユニークな調節機構を持っていると考えられているが,その詳細は不明である.本稿では高等植物に特異的なイソプレノイド生合成上流域の制御機構を探る研究の動向を紹介する.
  • 鈴木 優志, 永田 典子
    2009 年 21 巻 1 号 p. 55-62
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/12/26
    ジャーナル フリー
    高等植物の雄性配偶体は,特徴的な脂質系オルガネラを有する.また,雄性配偶体を包むポーレンコートは,葯タペータム層の特徴的なオルガネラであるタペトソームとエライオプラスト内の脂質成分によって作られる.生化学的な脂質分析によって,それらのオルガネラやポーレンコートの脂質組成が明らかにされてきた.また近年,脂質生合成変異体の解析が進み,雄性配偶体やタペータム形成において脂質が重要な機能を果たすことが示されてきた.本稿では,脂質が制御する雄性配偶体形成についての最新の研究の動向を紹介する.
学会賞受賞者ミニレビュー
  • 野口 哲子
    2009 年 21 巻 1 号 p. 63-70
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/12/26
    ジャーナル フリー
    植物細胞におけるゴルジ装置の研究の歴史と現状を解説し,また,著者が主に単細胞緑藻を用いて行った研究の一端とゴルジ装置の複製に関する研究を紹介した. 植物細胞では,ゴルジ体(扁平なシスターネが5~十数個積み重なった直径1~3μmのゴルジスタック)が細胞全体に分布している. ゴルジ体は細胞周期を通してダイナミックに形態変化し,その酵素活性部位も変化する. ゴルジ装置の形態と細胞内の分布は動物(哺乳類)・植物細胞で大きく異なり,核分裂に伴う複製様式も異なる. 動物細胞では,ゴルジスタックが連結して大型のゴルジ装置を形成し,核周辺に局在している. 核分裂期に管状・小胞化して消失し,核分裂後に再構築される. 一方,植物細胞のゴルジ体は核分裂前期以前に二分裂し,核分裂期を通して消失しない. このように複製様式が異なる起因について検討した結果,核分裂に引き続く細胞壁形成の有無,及び,形態・分布における相違は関係しないと考えられた.
  • 風間 裕介, 河野 重行
    2009 年 21 巻 1 号 p. 71-77
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/12/26
    ジャーナル フリー
    雌雄異株植物ヒロハノマンテマは異型化したXY型の性染色体をもつ.ヒロハノマンテマの性染色体は核型の中で最も大きく顕微鏡で観察しやすいため,fluorescent in situ hybiridization (FISH)による性染色体の構造解析が容易である.性染色体は1対の常染色体から進化したとされる.性決定に関わる遺伝子の周囲で徐々に組換えが抑制され非組換え領域が誕生した.一方,偽常染色体領域(PAR)と呼ばれる組換えを起こす領域は減数分裂期に性染色体を対合させ,均等に分配する役割をもつ.私たちは,ヒロハノマンテマの染色体末端の反復配列の詳細な解析により,性染色体のPARの位置を明らかにした.ヒロハノマンテマの興味深い現象として,黒穂菌(Microbotryum violaceum)の感染により雌(♀)にも擬似雄蕊(♂)が伸長し,両性花のようになることが知られている.この現象を利用し,黒穂菌感染雌株を雄株(♂)のカウンターパートとすることで,Y染色体がもつ雄蕊(♂)発達促進機能(SPF)の端緒が明らかにできると考えた.私たちは,黒穂菌感染雌(♀)株において,雄蕊(♂)発達関連遺伝子の発現解析を行った.
  • 山口 貴大
    2009 年 21 巻 1 号 p. 79-85
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/12/26
    ジャーナル フリー
    被子植物の葉は,一般に向背軸の極性を持ち,光受容に適した平たい構造をしめす.一方,単子葉植物では,単面葉という,葉身が背軸面だけで構成される葉を持つ植物が多く見られる.この単面葉は,単子葉植物における葉の極性制御機構を解明するための独自の発生学的研究材料となりうるとともに,繰り返し進化や収斂進化といった,生物進化の過程で広く見られる現象の機構を明らかにするための,優れた進化学的研究材料にもなりうる.私は単面葉の発生進化機構の研究モデルとして,葉の形態が多様で,分子遺伝学的研究に適しているイグサ属植物に着目し,独自の分子遺伝学的研究基盤を整備するとともに,その発生進化機構に関し,新規な知見を得つつある.本稿では,被子植物における葉の向背軸の極性制御機構に関する最新の知見を概説するとともに,単面葉の発生進化機構に関する研究の進展状況,そして今後の研究の展望および可能性を議論したい.
原著論文
短報
日本植物形態学会第20回大会(高知)ポスター発表要旨
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