PLANT MORPHOLOGY
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31 巻, 1 号
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表紙
特集
  • 豊岡 公徳, 大隅 正子
    2019 年31 巻1 号 p. 1-2
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー

    蛍光イメージングなど特定分子を可視化するための様々な光学顕微鏡技術が発展した現在でも,電子顕微鏡でしか捉えることができない多様な生命現象がある.日本植物学会 第 82回大会において,日本植物形態学会および特定認定非営利法人綜合画像研究支援との共催のもとで,単細胞藻類から樹木までの多様な生物材料を対象とし,様々な電子顕微鏡技術を駆使して微細構造レベルの解析を行なっている演者の方々が講演し,その解析例を紹介後,それらを踏まえて現状の形態学の課題とそれを解決する方法について議論するシンポジウムを開催した.

  • 加藤 翔太, 篠村 知子
    原稿種別: 研究論文
    2019 年31 巻1 号 p. 3-9
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー

    鞭毛を持ち水中を遊泳する藻類の多くは至適な光環境下で生育するための光走性や光驚動等の光運動反応と呼ばれる応答を示す.微細藻類の中では緑藻とクロムアルベオラータ,そしてエクスカベートに属する光独立栄養性のユーグレナ(Euglenophyta)が三次元方向の光走性を示すことが知られている.多くの場合光走性を示す藻類は「eyespot(眼点)」と呼ばれる器官を有する.「眼点」という名称がついているものの実際の光受容体は眼点の近傍の鞭毛や細胞膜に局在する.眼点はカロテノイドを高濃度に集積した顆粒の集合体であり,鞭毛もしくは鞭毛の運動面の近傍に形成される.この狭義の眼点と実際の光受容体によって藻類の光受容器官である「eyespot apparatus(EA)」が構成される.真核藻類の光走性やEAは分類群ごとに独自に獲得されたと考えられ,眼点の形成位置や形態,特性も系統によって大きく異なる.Euglenophytaは眼点や光走性の研究における主要なモデル生物の一つとして古くから解析されてきたが,実はこの藻類の光走性における眼点の役割についての議論は未だ結論が出ていない.本総説では微細藻類の眼点構造やEuglenophytaの光運動反応に関わる細胞構造について概説すると共に,Euglena gracilis の光走性における眼点の機能の解明に向けた筆者らの取り組みを簡単に紹介する.

  • 関田 諭子, 堀口 健雄, 奥田 一雄
    原稿種別: 研究論文
    2019 年31 巻1 号 p. 11-18
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー

    渦鞭毛藻の遊走細胞はアンフィエスマと呼ぶ特有の細胞外被をもつ.アンフィエスマは原形質膜と原形質膜を裏打ちする多数の扁平なアンフィエスマ小胞(av)とその下側に配列する微小管からなる.有殻渦鞭毛藻では,avの内部に板状構造(鎧板)を含む.鎧板のパターン(形・数・配列)は種によって決まっており,属および種を分類するための重要な形質の一つである.渦鞭毛藻の細胞外被は細胞の周縁部全体に平面的に拡がっているため,超薄切片法による細胞断面の観察だけでは細胞外被の全体構造や詳細な形成過程を明らかにすることは困難である.本稿では,有殻渦鞭毛藻 Scrippsiella hexapraecingula を用い,フリーズフラクチャーレプリカ法により観察した平面的なavの発達と超薄切片法による細胞断面像と併せて渦鞭毛藻の細胞外被の形成過程の全貌を示す.さらに,高圧処理を用いた研究によって,渦鞭毛藻類の表層微小管と鎧板パターンの関係について示す. 本種の遊走細胞は細胞外被を脱ぎ捨てて不動化し,その不動細胞の中で形成される新しい遊走細胞はavを再生する.不動細胞はavの元になる小胞を形成し始め,小胞同士は一定の領域内で融合してavに発達する.avが発達する領域は鎧板のパターンと一致する.鎧板は泳ぎ出た後で形成される.一方,細胞を高圧処理することによって微小管を破壊すると,その細胞から泳ぎ出た遊走細胞の鎧板パターンは顕著に変異する.

  • 大田 修平, 河野 重行
    原稿種別: 研究論文
    2019 年31 巻1 号 p. 19-23
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー

    植物や藻類のカロテノイドは光合成のアンテナ色素や抗酸化作用などの役割をもつことで知られている.単細胞緑藻の一種であるヘマトコッカスはβカロテンを前駆体としてアスタキサンチンと呼ばれる赤いカロテノイドを産生し細胞内に蓄積する.最近の研究によりこのアスタキサンチンは油滴に含まれ,βカロテンやルテインなどのカロテノイドと異なり葉緑体の外側に存在していることが明らかになった.このことからアスタキサンチンは葉緑体に局在するカロテノイドとは本質的に異なる機能を有することが示唆される.タイムラプスイメージング解析を行うと,油滴に含まれるアスタキサンチンは光に応答して細胞内を能動的に移動し,強光を遮断している現象が見られた.ハイパースペクトルカメラやフリーズフラクチャーレプリカ法によるイメージング解析の結果,ヘマトコッカスはアスタキサンチンを用いて光の強弱に対する巧妙な適応戦略を発達させ,強光を回避していることが明らかになった.

  • 佐藤 繭子, 若崎 眞由美, 後藤 友美, 豊岡 公徳
    原稿種別: 研究論文
    2019 年31 巻1 号 p. 25-29
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー

    電子顕微鏡の試料固定には,大きく分けて化学固定法と凍結固定法がある.凍結固定法の利点として,化学固定法で起こる物質の流出や変形を防げること,生命現象を高い時間分解能で固定できること,免疫金染色法での抗原の保持が良いことなどが挙げられる.凍結固定法にはいくつかの方法があるが,大きな細胞をもつ植物試料には高圧凍結法が適している.我々はこれまでに,シロイヌナズナ,タバコの各種組織・培養細胞の他,単細胞藻類などについて高圧凍結/凍結置換法で電子顕微鏡解析を行ってきた.これまでに得られた技術的知見や課題について,実例を挙げて紹介する.

  • 福田 真子, 熊丸 敏博
    原稿種別: 研究論文
    2019 年31 巻1 号 p. 31-35
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー

    コメにはデンプンのみならず,約7~8%の貯蔵タンパク質が含まれている.コメ貯蔵タンパク質は溶媒溶解性の違いによってグルテリン,プロラミン,グロブリンの3種類に分類され,これらは澱粉性胚乳に存在する2種のプロテインボディ(PB)に蓄積されている.グルテリンとグロブリンは液胞由来のII型プロテインボディ(PBII)に,一方プロラミンは小胞体由来のI型プロテインボディ(PBI)にそれぞれ蓄積されている.コメ貯蔵タンパク質は日本酒の醸造特性やコメの製パン特性等に大きく寄与することから,貯蔵タンパク質の合成,輸送,蓄積に関わる因子の機能解明は,新たな加工特性を有したコメの開発につながり,ひいてはコメの需要拡大に貢献できると期待される. 我々はこれまでに,イネ胚乳細胞内におけるグルテリンの合成・輸送・蓄積に関わる因子を複数同定し,解析してきた.組織学的解析結果をもとに,グルテリンの細胞内輸送機構についての知見を紹介する.

学会賞受賞者ミニレビュー
  • 野崎 久義
    原稿種別: 研究論文
    2019 年31 巻1 号 p. 37-45
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー

    生殖を繰り返して形態が変化し,また同じステージに戻る「ライフサイクル」は生物の基本的で興味深い特性である.筆者が淡水産緑藻を研究材料にした理由は,これらは培養が容易でライフサイクルの研究が実験室で可能だったからである.本稿では筆者がこれまでに継続してきた淡水産藻類のライフサイクルと微細なかたちに関する研究内容を紹介する.前世紀に著者が実施した数多くの群体性ボルボックス目を対象とした光学顕微鏡レベルのライフサイクルの研究成果は,その後に我々が形態・遺伝子・ゲノムデータを用いて実施した系統解析,性特異的遺伝子および多細胞化の研究を触発し,礎となった.一方,単細胞性緑藻 Carteria,灰色藻 CyanophoraGlaucocystis の電子顕微鏡を用いて我々が明らかにした細胞の3次元立体微細構造は,新たな「微細なかたち」であり,それぞれの属における種レベルの分類に大きく貢献した.最近のフィールド調査で採取された群体性ボルボックス目の「ミッシングリンク藻類」はライフサイクルで非常に興味深い形態的特性を示したので,淡水藻類の形態と多様性に関する分野の今後の発展には更なるフィールド調査が期待される.

  • 藤浪 理恵子
    原稿種別: 研究論文
    2019 年31 巻1 号 p. 47-52
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー

    維管束植物の根頂端分裂組織(RAM)の構造は,種子植物でみられる開放型や閉鎖型,シダ植物大葉類の1つの頂端細胞をもつものなど,多様性に富む.根の多様性がどのように獲得されてきたのか,根の進化過程を解明するために,現生の維管束植物で原始的なグループと考えられているシダ植物小葉類のRAM構造を明らかにすることとした.小葉類はイワヒバ科,ミズニラ科,ヒカゲノカズラ科から構成され,それらのRAMは4つの構造に分けられることが示唆された.ヒカゲノカズラ科は2タイプのRAM構造をもち,1つは始原細胞群が中央で共通し,被子植物の開放型に似た構造をもつタイプ(type I),2つ目は原表皮の始原細胞群が1細胞層で,その他の組織の始原細胞群と区別されるタイプ(type II)であった.ミズニラ科はtype IIと似たRAM構造であるが,原表皮と根冠の始原細胞群が共通する点でtype IIと区別された(type III).そして,イワヒバ科のRAMは1つの頂端細胞をもつことから頂端細胞型とした.細胞分裂動態解析から,type Iのヒカゲノカズラは種子植物の静止中心(quiescent center, QC)の分裂動態によく似たQC様領域をもつことが明らかとなった.一方,type II, type III, 頂端細胞型のRAMにはQC様領域はなく,真葉類とは異なる特徴を示した.小葉類のRAM構造は多様に進化しており,真葉類との比較が可能であると推測される.本稿では,維管束植物の根の形態進化について,現生の小葉類のRAM構造と分裂動態から議論する.

  • 坂本 卓也
    原稿種別: 研究論文
    2019 年31 巻1 号 p. 53-59
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー

    ホウ素(元素記号:B)は植物の必須微量栄養元素であり,細胞壁のペクチン質多糖ラムノガラクツロナンンII (RG-II)間の架橋を介して細胞伸長に寄与する.一方,他の必須栄養元素と同様に,過剰に存在するとホウ素は毒性を示し,成育阻害をもたらすことで種子収量の低下を招く.これまでに,ホウ素過剰時におこる様々な植物の生理的変化については多くの研究により記述されてきたが,ホウ素が毒性を発現する分子機構についてはほとんど分かっていなかった.そこで,著者はホウ素過剰時に著しい根の生育抑制と異常な根端形態を示すシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)のホウ素過剰超感受性変異体を用いて,ホウ素毒性耐性に必須な新規分子として染色体タンパク質複合体コンデンシンIIと能動的タンパク質分解を担う複合体26Sプロテアソームを同定した.これら分子のホウ素過剰時における機構解析により,ホウ素毒性の新たな側面としてDNA損傷誘導を見出すとともに,ホウ素過剰によるDNA損傷発生およびその抑制の分子機構について幾つかの知見を得ることができた.本稿ではこれらについて紹介する.

日本植物形態学会第30回大会(広島)ポスター発表要旨
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