PLANT MORPHOLOGY
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34 巻, 1 号
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表紙
特集 光によって拓く植物細胞内の真の構造機能
  • 植村 知博, 吉田 大和
    原稿種別: 総説
    2022 年 34 巻 1 号 p. 1-3
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    超解像イメージング,1 分子光計測,タンパク質結晶構造解析といった,「光」を使って細胞内の構造を解き明かす技術が目覚ましい進展を見せている.これらの解析技術は植物科学研究に大きな変革をもたらしており,植物細胞内において機能を生み出す構造の実態が明らかになり始めている.今回,最先端のナノレベル構造可視化技術を活用する研究者が集い,これら新技術の原理的基盤や技術的な側面,実際の研究例を紹介するとともに,今後の課題について議論する場として,日本植物形態学会との共催のもとで日本植物学会第85 回大会シンポジウム「光によって拓く植物細胞内の真の構造機能」を開催した.

  • 伊藤 容子
    原稿種別: 総説
    2022 年 34 巻 1 号 p. 5-13
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    真核生物の分泌輸送経路において,小胞体から出発した積み荷は最初にゴルジ体へと運ばれる.この際の小胞体- ゴルジ体間輸送に関わる膜区画の形態や時空間的ダイナミクスは,ゴルジ体そのものの構造の違いのため,生物種や細胞種によって一見大きく異なっている.しかし,植物細胞での解析から得られた結果を他の生物と突き合わせることで,見た目の違いはあっても真核生物全体に共通した性質・役割を持つ区画の存在が浮かんでくる.本稿では,小胞体とゴルジ体の境界ではたらく膜構造について,植物での知見を中心に紹介しながら他の生物種と比較し,相違点・共通点を考察する.

  • 武田 - 神谷 紀子, 後藤 友美, 佐藤 繭子, 豊岡 公徳
    原稿種別: 総説
    2022 年 34 巻 1 号 p. 15-23
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    光 - 電子相関顕微鏡法 (CLEM) は, 同一試料・同一箇所を光学顕微鏡(光顕)と電子顕微鏡(電顕)を用いて観察し, 両顕微鏡により得られた像の相関を得る解析法である. 試料調製に様々な工夫を施すことにより, 蛍光標識した細胞内小器官(オルガネラ)の蛍光像を光顕で撮像し, その同一撮影箇所を走査電顕または透過電顕で観察することにより,精細な微細構造の取得が可能となる. 植物試料を用いてCLEM 解析する場合, 組織や培養細胞はガラス基板に非接着で細胞が大きいため, 動物組織・接着細胞と同様なCLEM 解析は困難である. そこで, 超薄切片を用いた連続切片撮像電顕法(アレイトモグラフィー法)とCLEM を組み合わせ, 植物細胞内における蛍光標識したオルガネラを同定し, 3 次元 (3D) 再構築を目指した. 特に近年, 四酸化オスミウム (Os) 固定とエポキシ樹脂包埋に耐性を持つ蛍光タンパク質(Os エポキシ耐性蛍光タンパク質)が報告されており, これらの蛍光タグの植物試料への応用を試みた. 本稿では, Os エポキシ耐性蛍光タンパク質標識したオルガネラをCLEM 解析するための試料調製法, 相関像を得るための工夫などを紹介するとともに, アレイトモグラフィー法を組み合わせた3D 相関解析法を紹介する.

  • 宮代 大輔
    原稿種別: 総説
    2022 年 34 巻 1 号 p. 25-27
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    ライブセルイメージングは細胞内で起こる様々な現象を分子レベルで観察するための有力な方法であるが,光学顕微鏡の空間分解能の点で制約があるためナノスケールの微細構造を観察するには大きな困難が伴う.これを克服するために,これまでいくつかの超解像光学顕微鏡法が開発されてきたが,それらを用いても高速な現象を顕微鏡像として時間軸を含めた3 次元空間の中で捉えるまでには至っていない.本研究では高速と超解像を両立した多色同時観察の顕微鏡システムを開発した.SCLIM2 と名付けたこの顕微鏡システムは主に倒立顕微鏡,圧電素子駆動の対物レンズ,スピニングディスク型共焦点スキャナー,波長分光器,冷却I.I.,高速CMOS カメラ,などから構成される.これを用いて1 光子精度の蛍光顕微鏡像を撮影し,それを基に新規に開発した像復元計算を行うことで実際の生細胞観察の中で高速超解像観察を実現することに成功した.この新規の計算アルゴリズムは4 次元(3 次元空間と時間)で行われ,誤差評価に基づく確率計算と顕微鏡固有の点像分布関数を使った光学系のボケの逆演算を根拠としている.結果として分解能検証実験では71 nm を分解できたことが確認され,また生細胞中での4 次元の動的現象を100 nm以下の空間分解能で観察することに成功した.

  • 奥田 哲弘
    原稿種別: 総説
    2022 年 34 巻 1 号 p. 29-36
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    植物は,数多くの分泌性ペプチドや細胞膜受容体タンパク質を介した細胞間シグナル伝達を通じて,その発生,成長,生理を制御する.シロイヌナズナでは,1000 を超える遺伝子が分泌性ペプチドと推定され,受容体様キナーゼも約600 を数える.しかし,そのなかで受容体- リガンドの組み合わせが同定され,その分子作用機序が明らかにされているものは多くない.近年,X 線結晶構造解析を用いて,植物の受容体- リガンド複合体のタンパク質立体構造が複数決定されている.これにより,どのように受容体タンパク質がペプチドリガンドを結合するのかが分子レベルで明らかにされつつある.そして,Leucine-rich repeats (LRR) ドメインを細胞外領域にもつ受容体(LRR 受容体)が,低分子の直鎖状ペプチドリガンドを認識して細胞内へとシグナルを伝えるためには, LRR 受容体が,高度に保存されたペプチド認識モチーフを介してペプチドリガンドのC 末端と相互作用することが必須であると考えられてきた.しかし最近,GASSHO 1 (GSO1) 受容体と,そのリガンドとなるCasparian strip integrity factor 2 (CIF2) ペプチドの共結晶構造を明らかにしたことで,新たなペプチド認識様式が見出された.本稿では,X 線結晶構造解析を用いて明らかとなったLRR 受容体のペプチド認識とシグナル伝達の作用機序について紹介する.

  • 田中 尚人, 吉田 大和
    原稿種別: 総説
    2022 年 34 巻 1 号 p. 37-45
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    原核生物と真核生物を分ける重要な細胞構造の違いとして,生体膜に囲まれた複数種類のオルガネラの有無が挙げられる.こうしたオルガネラの存在によって,真核生物は単一の細胞内区画しか持たないバクテリアと比べて極めて高度な細胞機能を実現し,ヒトや植物を含むさまざまな高次構造を備えた種が出現するに至った.多数の種類のオルガネラを正しく機能させるためには,数多くの遺伝子とその産物が適切に働く必要があるが,その分子的な仕組みの多くは未だ完全に明らかになったとは言い難い.特に可視光でも見ることが出来る葉緑体を除き,多くのオルガネラはそのままでは明瞭に観察することが出来ないため,例え特定の遺伝子機能を阻害したとしても組織染色を行わない限りオルガネラ動態に異常が生じていることを把握することすら難しい.我々はオルガネラの分裂増殖を制御する仕組みを理解するため,1つの細胞に細胞核・ミトコンドリア・葉緑体・ペルオキシソームなどのオルガネラを各1つずつのみ保持する極めて単純な真核生物であるシゾンを用いて,迅速に遺伝子機能解析を行うことを可能にする新たな分子生物学プラットフォームの構築を目指した.確立したCRISPR ゲノム編集を基盤とした新ツール“シゾン・カッター”を用いることによって,ゲノム配列を自由に改変しつつ,細胞核,ミトコンドリア,葉緑体,ペルオキシソームといったオルガネラの4 色蛍光可視化を同時に実現することが可能となり,オルガネラを制御する真の分子機構の解明へ向けた道筋が拓かれた.

学会賞受賞者ミニレビュー
  • 坂本 勇貴
    原稿種別: 総説
    2022 年 34 巻 1 号 p. 47-52
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    動物細胞の多くが球形や楕円体形の細胞核を持つのに対して,陸上植物の細胞の核は球形や楕円体形だけではなく紡錘形や棒形など様々な形態を示す.動物細胞の核の形態は核ラミナを形成するラミンタンパク質により制御されているが,植物にはラミンのオルソログが保存されておらず,植物の核形態を制御する核ラミナ因子は不明であった. 著者はシロイヌナズナから生化学的に調製した粗核ラミナ画分のプロテオーム解析を行い,CROWDED NUCLEI (CRWN) タンパク質を発見した.遺伝子破壊株の表現型解析と詳細な細胞内局在解析から,CRWNs が植物核形態の制御に重要な役割を果たす植物核ラミナ構成タンパク質であることを明らかにした.また,CRWNs が多くの環境応答遺伝子の発現制御に関わることを見出し,特に銅ストレス応答に関与するCA 遺伝子クラスターの核内配置を制御することでCA 遺伝子の発現を調節し,植物の銅耐性獲得に寄与することを明らかにした.

  • ドル 有生, 古賀 皓之, 塚谷 裕一
    原稿種別: 総説
    2022 年 34 巻 1 号 p. 53-62
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    植物のガス交換を担う気孔は,陸上植物誕生以来,その暮らしに非常に重要な役割を果たしてきた.気孔を構成する孔辺細胞は,気孔幹細胞メリステモイドの非対称分裂とそれに続く分化からなる,シンプルな発生過程によって形成される.2000 年代以降,この過程はモデル植物のシロイヌナズナにおいて詳しく研究され,SPEECHLESS,MUTE,FAMA といった鍵転写因子のはたらきを筆頭にして,その分子基盤が細部にいたるまで解明されている. 一方で植物全体を見渡すと,分裂の向きや回数といったメリステモイドのふるまいが種によって様々であることをはじめとして,気孔の発生過程は実に多様であることに気づく.この多様性は古くから形態学的に記載されてきたが,それが生まれる分子基盤や生態学的意義については不明のままであった.近年になって,モデル植物における知見の蓄積と,非モデル植物を扱う研究技術の発達により,気孔発生過程の多様化の仕組みを解き明かす,生態進化発生生物学 (eco-evo-devo) 研究がはじめて可能になった.特異な気孔形態を示すイネ科植物における研究,および我々が進めてきたオオバコ科アワゴケ属の植物における気孔発生様式の多様性の研究はその一例である.本稿では,陸上植物における気孔の発生過程と形態の多様性を俯瞰するとともに,最新の研究の実例を紹介しながら,気孔発生の多様化の仕組みを探る研究の展望を議論する.

  • 佐藤 良勝, 宇野 何岸, 杉本 渚
    原稿種別: 総説
    2022 年 34 巻 1 号 p. 63-67
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    DNA 蛍光検出技術は生命科学研究のあらゆる場面で用いられ,DNA 染色色素は今もなお強力なツールである.蛍光ライブイメージング分野においてもDNA 染色は欠かせない手法として,多くの研究者が細胞周期解析,細胞核やオルガネラDNA の動態解析,および核内制御因子の機能解析などにDNA 蛍光色素を用いている.本稿では,従来の優れたDNA 染色色素の長所をさらに伸ばし,短所を克服した新規DNA 染色色素の開発と植物細胞染色への有用性について述べる.

  • 元村 一基, 丸山 大輔
    原稿種別: 総説
    2022 年 34 巻 1 号 p. 69-76
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    花粉管は卵細胞へと精細胞を輸送する被子植物の生殖組織である.これまで,伸長する花粉管の中で先端に存在する細胞核が,花粉管の伸長や胚珠への方向制御をつかさどると考えられてきた.しかし今回,我々のグループはこうした常識を覆し,花粉管において細胞核が先端側に無くとも,胚珠へとたどり着く能力を保持していることを明らかにした.本総説ではこの発見を含む,花粉管の方向制御に関する近年の話題を中心にして,花粉管の細胞生物学における今後の研究展開の可能性について論じる.

日本植物形態学会第33回大会(東京・オンライン)ポスター発表要旨
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