近年,外視鏡は顕微鏡と比較して術者の疲労軽減,情報共有,教育などに有用性が示されている.今回われわれは脳血管障害手術において顕微鏡が外視鏡に移行可能かどうかを検討した.
2021年7月31日から2023年8月31日までに外視鏡を用いて直達手術が行われた脳血管障害手術 149例(クリッピングは破裂脳動脈瘤 45例,未破裂脳動脈瘤 64例,未破裂脳動脈瘤trap+bypass 1例,開頭脳内血腫除去術 14例,脳動静脈奇形 5例,STA-MCA 吻合術 10例,頚動脈内膜剝離術 9例,硬膜動静脈瘻 1例)を対象とした.
破裂脳動脈瘤,未破裂脳動脈瘤ともクリッピング術の手術時間に明らかな差を認めなかった.STA-MCA吻合術においては,術中に吻合部血栓を形成した症例は明らかに外視鏡群で少なく,また同じく外視鏡群において術後開存率は高く,手術時間は短い傾向があった.4 hands手術を行う際には,術者が左側に位置する場合は助手用モニターの位相を反転させて反時計回りに回転させる.術者が右側に位置する場合は助手用モニターの位相は反転させず反時計回りに回転させる.これにより,助手も違和感なく操作を行うことができた.
すべての術者がはじめて使用したが,いずれの術者も顕微鏡に変更することなく外視鏡のまま手術を完遂した.外視鏡は顕微鏡と比較して,術者の楽な姿勢,情報共有,4 hands手術に有用,などの利点があり,顕微鏡からの完全移行は可能であると考えられた.
前脈絡叢動脈(AchA)瘤のクリッピングは,AchAの血管径が細く,瘤壁からAchAが分岐している例があること,瘤の背側でのAchAの癒着例が多いことなどの理由から,クリッピングによる虚血性合併症のリスクが高いと考えられている.われわれはAchA動脈瘤のクリッピングの際には,AchAの血流温存を優先して瘤の一部を意図的に残し,残存部はフィブリン糊とベンシーツによるコーティング処置を行ってきたので,その治療成績と長期経過について調べた.
2007年から2018年の間に直達術を行った全AchA瘤 63例のうち,クリッピング後の残存部に対してコーティングを行い,かつ術後のADLが自立した25例を対象とした.患者背景,動脈瘤の特徴,クリッピングの手技,虚血性合併症の有無,観察期間,術後再発や出血の有無について調べた.再発の評価は3D-CTAもしくはMRAで行った.
年齢34-72(平均60)歳,女性:男性=19:6,瘤の大きさは2-7(平均4)mmで,破裂 7例,未破裂 18例であった.クリッピングはparallelクリッピングが88%であった.手術手技に伴うAchAの虚血性合併症は認めなかった.平均7.6年の経過観察期間で,AchA領域の虚血や瘤の再発や出血は認めなかった.
AchAの血流温存を優先し,ネックの一部を残存させるAchA瘤へのクリッピングは,治療効果の高い安全なクリッピングの方法である.残存部に対する少量のベンシーツとフィブリン糊のコーティングが,瘤の再発や出血の予防に有効である可能性がある.
脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血に対する治療の第一の目的は,再破裂予防である.2012年4月から2024年3月までに札幌禎心会病院で開頭術を施行した脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血連続 478例を対象とし,術後半年以内に再出血をきたした症例について,術前画像,術中所見,手術手技,術後経過を検討した.連続 478例の破裂脳動脈瘤に対して開頭術を行い,6カ月以内の再治療率は0.6%,再出血率は0.2%であった.直視下に確実に破裂点を視認し止血することで非常に低い再治療率,再出血率が得られた.
RNF213遺伝子変異は,もやもや病の主たる感受性因子であり,p.R4810K変異は,日本人の患者の8割以上に共通して認められる.HDL低下など遺伝子変異以外のリスク因子も報告されるようになったが,病態は十分に解明されていない.RNF213が細菌やウイルスなどの細胞内寄生体に対する免疫応答を担っていることが明らかとなり,もやもや病での細胞内寄生体の関与が示唆された.そこで,われわれは,ウイルスの感染既往や腸内細菌叢がもやもや病と関連するかどうか,探索的な研究を行った.その結果,HHV6ウイルスの感染率が患者で有意に低く,腸内細菌のRuminococcus gnavusの相対割合が有意に増加していることが明らかとなった.いずれも,p.R4810K変異とは独立して疾患と関連していた.HHV6は,2型炎症にかかわるIL-13とIL-5を抑制し,Ruminococcus gnavusは,それらを上昇させることが報告されている.よって,1型炎症を主体とする動脈硬化に対して,もやもや病は2型炎症を主体とする疾患である可能性が示唆された.
脳動脈瘤に対する血管内治療において,3Dプリンター技術の応用が進んでいる.瘤内塞栓術における治療の安全性や確実性の向上のためには,マイクロカテーテル(MC)のシェーピングが重要な要素の1つである.われわれは,これまでの中腔モデルとは違い,安価かつ短時間で作成可能な3Dマンドレルモールド(3DMM)を作成し,その有効性について検討した.
2021年1月から2023年12月までに済生会福岡総合病院で脳動脈瘤に対して血管内治療を行った患者のうち,画像結果をもとにMCを自身でシェーピングした10例(Manual群)と3DMMを用いた連続10例(3DMM群)を対象にした.評価項目は,治療方法,reshapeの有無,MCを動脈瘤内に留置するまでの時間,ガイドワイヤー先行でのMC留置の有無,MCの安定性,VER,手術時間,治療に伴う合併症とした.
調査の結果,両群の患者背景や動脈瘤の形状に差はなかった.reshapeの頻度は3DMM群で有意に少なく,MCを瘤内に留置するまでの時間は3DMM群で有意に短かった(11.4±3.4 vs 15.5±4.5 min,p<0.05).3DMM群のほうがガイドワイヤーによる誘導なしにMCを瘤内に留置でき,安定性も高かった(95.1±10.4 vs78.2±21.4%,p<0.05).VERや手術時間,合併症に有意差は認めなかった.
われわれの考案する3DMMを用いたMCのシェーピングは,脳動脈瘤塞栓術においてMCの瘤内への誘導を簡便にし,安全性の向上に寄与した.
脳幹部海綿状血管奇形(BCM)治療における内視鏡利用の報告は,少数の症例報告に留まっている.内視鏡は,深部でも広く明るい視野が得られることから,深部病変であるBCMに対しても有効と考え,積極的に利用してきた.
内視鏡治療を応用したBCM症例 32例(中脳 7例,橋 22例,延髄 3例)を後方視的に検討した.脳幹内部への進入ルートは,2 point methodを基本として主に近傍のsafe entry zoneを利用した.5例で経鼻術,27例で開頭術による摘出が行われた.そのうち25例で,手術corridorの確保目的に細径シリンダーが用いられた.30例(93.8%)でGTRが得られた.術後合併症は5例で認められた.術前平均KPS 62.2に対し,手術3カ月後は84.4であり,改善 26例,不変 5例,悪化 1例であった.また,1例で手術半年後に遅発性パーキンソン症候群を合併し,KPSの低下が認められた.
一般的に,BCMに対する外科治療は,顕微鏡下に行われている.本研究における内視鏡下手術の治療成績は,既報と比較して良好な神経予後を示している.内視鏡を用いることで,手術経路の最小化と水中下手術が可能となり,これにより従来にないアプローチ方法を確立することができた.内視鏡の特徴的な手術法である水中での内部観察は,残存病変や止血の確認に非常に有効であった.内視鏡の利用には欠点も存在するため,さまざまな機器の開発,機器操作法の改良を行っている.内視鏡利用は,いまだ発展途上ではあるが,BCMに対する有用性・安全性が支持された.
50代女性がくも膜下出血を発症し,両側多発後下小脳動脈(posterior inferior cerebellar artery:PICA)の動脈瘤(左に1個,右に2個)の診断となった.MRIによる血管壁イメージング(VWI)の造影効果に基づき,左側の解離が疑われる病変が破裂したものと診断した.OA-PICAバイパス術を両側に行うことを計画し,結果的には右側の遠位側の動脈瘤のみに行った.残る2個の動脈瘤はクリッピングし得た.皮弁の虚血を合併したため,植皮術を要した.多発脳動脈瘤においては,出血源の同定が困難な場合があり,造影MRIによるVWIが破裂部位の同定にときに有用である.破裂を伴う両側多発PICA動脈瘤には,綿密な手術計画に基づいてバイパス術を併用することにより直達治療が可能だが,皮弁の虚血に注意が必要である.
内頚動脈内膜剝離術において内頚動脈遠位部を十分に確保するためには,解剖学的層構造に基づいた耳下腺(parotid grand:PG)ならびに retromandibular space(RS)上方部の剝離操作が重要となる.解剖と手術操作のポイントは以下のとおりである.①大耳介神経を指標にPG下縁を同定する.②深頚筋膜(deep cervical fascia:DCF)によってコンパートメント状に覆われたPGにDCFをつけた状態で,胸鎖乳突筋(sternocleidomastoid muscle:SCM)から剝離してSCMの前縁を上方まで露出する.③RSには,表層から順にPG,DCF(前上方で顎二腹筋に到達する),脂肪組織に覆われた深頚リンパ節群,内頚静脈ならびにその分枝,舌下神経ならびに頚神経ワナ,頚動脈が存在する.このため,DCFと深頚リンパ節を覆う脂肪組織との間で剝離を進めれば,RS内にある耳下腺を損傷することなく,顎二腹筋後腹にも安全に到達できる.④早期に顎二腹筋後腹をみつけ,その直下で舌下神経や外頚動脈を同定することで,術野全体の層構造が明瞭となり,深頚リンパ節群と内頚静脈とを一塊として剝離翻転する切離ラインや深さを見極めることができる.このように,頚部軟部組織の層構造に基づいた剝離を行うことで,内頚動脈遠位部を確保するための術野展開を安全確実に再現できる.
STA-MCA anastomosisは,頭蓋内血行再建術の代表的な手術である.本手術は,頭皮を栄養する血管をdonor graftとするため,皮膚の血行障害を生じやすく,創傷治癒遅延や脱毛,血行障害が高度な場合は壊死や潰瘍形成を認めることがある.特に前頭枝,頭頂枝の2本を用いるdouble anastomosesでは,創部合併症のリスクはさらに高くなることが報告されている.われわれは,創縁に対する侵襲的な操作を極力省き,愛護的操作を徹底することで,創部合併症の予防に努めている.
手技については,①皮膚切開の最短化,②創面への熱凝固止血操作の回避,③血流を意識した縫合間隔,④術後の創部処置,といった点を意識して実施した.対象は,2017年2月から2024年9月までに上記の手術手技に則ってSTA-MCA double anastomosesを実施できた37例とした.結果は,全症例で創傷治癒遅延を認めることなく,術後7日目に全抜鉤が行えた.
当施設で行っている侵襲を抑えた皮膚切開と愛護的なSTA採取,縫合操作は,術後の創部合併症の回避に有用と考えられた.