科学・技術研究
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6 巻, 2 号
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巻頭言
特集
原著
  • 数種貝類におけるセレン分布
    甲斐 徳久, 井上 高教, 永井 毅
    2017 年 6 巻 2 号 p. 103-106
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/01/06
    ジャーナル フリー
    貝類非可食部由来のセレンの有効利用の可能性を明らかにするため、数種の二枚貝および巻貝の非可食部のひとつとして中腸腺および全筋肉におけるそれぞれのセレン分布を明らかにし、それらの水銀分布と関連づけて検討した。その結果、本研究に供したすべての魚類における中腸腺の両レベルは当該の全筋肉のそれらより有意に高く、低酸化状態のセレン化学種が両組織に優位に存在した。また、水産物の安全指針としての水銀に対するセレンのモル比は該当する全筋肉のそれと比較してほとんど同じか幾分高く、中腸腺は一般に摂食されないが、きわめて安全な組織であることが示唆された。しかしながら、水銀のような重金属は全筋肉と比較して中腸腺により高く蓄積する傾向を示しており、結果として、本研究では生物学的に有効なSe(VI) 化学種のモル分率の減少が中腸腺に観察された。これらの知見から、セレンの有効利用は既報の数種魚類の場合と異なり、貝類中腸腺からは期待されないことが示唆された。
  • 寺島 健彦, 山崎 美咲, 吉田 真夕, 陽東 藍, 渡辺 裕美, 九島 祥弘, 衛藤 英男, 横越 英彦
    2017 年 6 巻 2 号 p. 107-110
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/01/06
    ジャーナル フリー
    緑茶特有のアミノ酸であるテアニン( グルタミルエチルアミド)には脳内神経伝達物質を変動させ、記憶・学習能の改善や、ヒト試験ではアルファ波の放出作用を有することなどを明らかにしてきた。テアニンをはじめとした茶葉に含まれる有効成分を効率よく抽出することが、期待される。茶葉を亜臨界水抽出することにより、テアニンは環状テアニンとして抽出される。そこで、テアニンと環状テアニンとの生理機能を比較するために神経伝達物質の面から調べた。環状テアニンは腸管から吸収され,脳内神経伝達物質に影響を及ぼす可能性が示唆されたので、脳線条体切片からのドーパミン放出を調べた結果、テアニンよりもその作用の強いことが示唆された。テアニンよりも呈味性の強いことから、今後の食品開発への利用が期待される。
  • 島内 俊彦, 藤田 大地, 南保 英孝, 木村 春彦
    2017 年 6 巻 2 号 p. 111-120
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/01/06
    ジャーナル フリー
    近年、食の多様化が進んでおり、国民の食生活にも変化が現れている。そのような中、若年層、特に大学生の食生活の乱れが問題になっている。本研究では、欠食や偏食の問題が指摘されている大学生の食生活を支援する方法を提案するものである。大学食堂を運営する生協組合から提供頂いた、ミールプリペイドカードを利用している学生の購買履歴を使用し、学生の食品購買パターンを分析した。対象顧客数2458人の内訳は男性1591人、女性867人である。まず食品数461項目の組み合わせに着目したクラスタリングにはk-meansを用い、22の食品クラスタを生成した。次に顧客のクラスタリングにはPLSAを用い、8の顧客クラスタを生成した。これら2種類のクラスタに対し、ベイジアンネットワークによる因子関係の可視化と、クラスタリングにより抽出された特徴により、食生活に課題を抱える顧客クラスタを検出し、具体的な食生活支援の提案を行った。
  • 水本 巌, 小熊 博, 由井 四海, 山本 桂一郎
    2017 年 6 巻 2 号 p. 121-124
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/01/06
    ジャーナル フリー
    定電流間断充電と短パルス大放電電流を組み合わせて、多機能型劣化鉛蓄電池回復機を開発した。本機は、劣化鉛蓄電池回復機能、定電流・定電圧充電機能、定電流放電機能を備えた多機能型鉛蓄電池回復機である。本機をシリアルケーブルでパソコンに接続することによりインターネットを介して、電流電圧モニタ、遠隔制御、制御プログラムの変更が可能である。そのため蓄電設備に本機を組み込むと、現地に赴かなくても劣化鉛蓄電池の再生・放電試験が可能である。実際に通勤用軽四自動車で4年間使用したエンジン始動用鉛蓄電池について、CCA値および放電時間を同型の新品電池同様に再生した。再生する電池については、エンジン始動用であれば製造時から5年以内、ディープサイクル型の中古電池であれば8年以内の電池が望ましい。
  • 二宮 隆次, 小野 浩幸, 野田 博行
    2017 年 6 巻 2 号 p. 125-130
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/01/06
    ジャーナル フリー
    2002年から2010年までの8年6か月間に発刊された新聞記事から、年代別の産学連携活動の内容を読み取るために、分析対象記事に発刊年度の見出しを付して出現パターンの似通った語を探索し、さらに対応分析を行い活動の特徴についてテキストマイニング手法を用い分析した。その結果、①2002年度から2004年度のグループ(黎明期)、②2005年度から2007年度グループ(発展期)、③2008年度から2010年度のグループ(停滞期)の3グループに分類されることがわかった。黎明期では、産学連携の語群は主な活動の語に隣接し、大学、共同研究、教授、特許などの語と近接していることから活発に活動されていることが推測された。また、インキュベーション活動は、主な活動の語群から隔離していたが、施設入居のほか、運営の語が確認され、前向きな活動の実施が推測された。発展期では、インキュベーション活動は主な活動の語群内部に組み込まれ、起業家育成などが活発化していたと推測される。また、産学連携は主な活動の語群に隣接し、学生、製品、特許などの語が増えていることが見て取れた。さらに、ベンチャーキャピタルには、株式、公開、上場、キャピタル、銀行などがグループ化され活発化していたことが推測された。停滞期になると産学連携の語群は、主な活動の内部に組み込まれ、製品や商品開発活動が実施されていたが、インキュベーション活動やベンチャーキャピタルの活動はグループの語数が減少し、新たな起業活動や投資活動は停滞していたものと推測された。以上の結果は、政府による政策やグローバルな経済環境の変動などと一致し、わが国における産学連携活動は、これらに大きく影響していることが明らかになった。
  • 坂本 馨子, 脇田 和晃, 大角 義浩, 武井 孝行, 吉田 昌弘
    2017 年 6 巻 2 号 p. 131-134
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/01/06
    ジャーナル フリー
    現在、消費者のニーズに合わせて様々なエマルション化粧品が商品化されている。エマルションとは、水と油のような互いに溶解しない2種類の液体の一方が連続相となり、他方が微細な多数の液滴となって連続相中に分散した系のことである。低エネルギー乳化法の一つであるD相乳化法では、合成界面活性剤が一般的に用いられている。しかし、化粧品は直接肌に接触するため、天然界面活性剤の方が好まれる傾向にある。そこで本研究では、D相乳化法によるエマルションの調製に天然界面活性剤であるサーファクチンナトリウムが適用できるか調査することを第一の目的とした。さらに、エマルションを物理的に安定化させるために、液滴界面をゲル被膜で覆ったエマルションゲルの調製を第二の目的とした。D相中にサーファクチンナトリウムを添加した条件では、O/Dゲルを形成でき、微細なO/Wエマルションを調製することができた。また、その微細な油滴を、アルギン酸膜、アルギン酸プロピレングリコールエステル/キトサン複合膜(皮膜1)、またはアルギン酸プロピレングリコールエステル/グリコールキトサン複合膜(皮膜2)で被覆することを試みた結果、皮膜1および2により油滴を覆うことができた。さらに、皮膜2で覆ったエマルションの方が、皮膜1で覆ったものよりも安定性が高いことが明らかとなった。
  • 吉岡 啓夢, 森 力宏, 百田 潤二, 大角 義浩, 武井 孝行, 吉田 昌弘
    2017 年 6 巻 2 号 p. 135-138
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/01/06
    ジャーナル フリー
    有機-無機ナノ複合材料は、無機ナノ粒子および有機ポリマー両方の長所を取り込み、短所を可能な限り排除した材料である。無機ナノ粒子の特性が組み込まれたナノ複合材料は、塗料、光学デバイスおよび薬物担体など多岐に渡って利用されている。しかし無機ナノ粒子は、有機モノマーとの親和性が低いため、凝集体となり、有機ポリマーマトリックス中への分散が困難である。そこで有機ポリマーマトリックス中での無機ナノ粒子の分散性を向上させるため、シランカップリング剤を用いた無機ナノ粒子の表面コーティングに着目した。本研究では、無機ナノ粒子として酸化チタン(TiO2)を選択した。またシランカップリング剤としてビニルトリエトキシシラン(VTES)、モノマーとしてメタクリル酸エチル(EMA)およびメタクリル酸(MA)を選択し、粒子の調製を行い、その特性評価を行った。FT-IR測定結果およびTG-DTA測定結果より、TiO2粒子表面が有機ポリマーでコーティングできており、そのコーティング率が9.2 %であることがわかった。TEM観察結果から、有機ポリマーでコーティングしたTiO2粒子に約5 nmのポリマー層を付与することができた。粒度分布測定結果から、TiO2粒子を有機ポリマーでコーティングすることで、平均粒子径を著しく小さくすることができた。
短報
  • 棚瀬 繁雄
    2017 年 6 巻 2 号 p. 139-142
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/01/06
    ジャーナル フリー
    スチロール瓶を使って実用電池に近い形状の塩化亜鉛型の空気乾電池を製作し、特性を調べた。この電池の形状は単2型の電池に近く、0.9 Vの放電終止電圧における容量が0.5 Ahで、同形のマンガン乾電池より軽量であることが分かった。電池の解体が可能で、電池の組み立てから、放電、解体、観察、分別、処分に至る一連の学習に使えることが分かった。放電時の電圧を自動で測定するシステムと組み合わせることで、工業高等専門学校や理工系の大学の学生実験に使えることが分かった。
技術報告
  • 次世代へ伝えたい「和食;日本人の伝統的な食文化」の担い手として
    川島 浩一, 重野 勝利, 松原 史尚, 関口 理希, 赤間 未行, 伊藤 智博, 立花 和宏
    2017 年 6 巻 2 号 p. 143-148
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/01/06
    ジャーナル フリー
    鋳物羽釜は、禅と茶の湯の精神を受け継ぎ、日本の食文化になくてはならない米を、美味しく炊き続けて800年ものあいだ生き残ってきた調理器具だ。そこで筆者らは、あえて鋳造品の鋳肌にこだわり、1合炊きの鋳鉄製羽釜に挑戦した。古来の鑪(たたら)溶解の流れをくむキューポラ溶湯と、新開発低臭気・低不良砂を使用したシェルモールドとを組み合わせることで、最少肉厚3 mm の鋳鉄製羽釜・竈(かまど)の鋳造に成功した。1合のご飯が固形燃料1つで炊き上がる。この羽釜が、素材の味わいを活かす、日本人の伝統的な食文化の新たな担い手となることを願っている。
資料
  • 年功制の縮小と年俸制の拡大(1991~2016)
    荻原 祐二
    2017 年 6 巻 2 号 p. 149-158
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/01/06
    ジャーナル フリー
    本稿では、近年の日本における成果主義制度導入状況の経時的変化を分析した。個人の短期的で顕在的な成果・業績に基づいて評価・処遇を行う成果主義制度が、1990年代から日本において導入されてきた。しかし、成果主義制度導入の近年の状況と、その変化の境界条件・調整要因(職層や企業規模)、そして成果主義制度を構成する制度間の経時的変化の違いは十分に明らかでなかった。日本における企業活動の歴史と現状を客観的に把握し、経営・経済制度と相互に影響を与え合っている人々の心理・行動の変化を理解するためにも、これら3点を含めて成果主義制度導入状況の経時的な変化を明らかにする必要がある。そこで本稿では、日本生産性本部と厚生労働省が、1991年から2016年まで継続して実施している2つの大規模な調査を用いて分析を行った。その結果、2つの調査で一貫して、1996年から2016年にかけて、年齢や勤続年数に基づいて評価・処遇を行う年功制を導入している企業の割合は低下していた。さらに、1991年から2014年にかけて、労働者の短期的な業績に応じて賃金を年単位で設定する年俸制を導入している企業の割合及び適用労働者の割合は増加していた。年功制の低下と年俸制の増加は、職層と企業規模に関わらず、広範囲の企業及び労働者において見られた。よって、ここ約30年で成果主義制度は、様々な企業の多様な労働者を対象にして、より広範に導入されるようになっていることが明らかとなった。一方で、企業規模が大きいほど、年功制の導入率の低下が大きく、年俸制の導入率の増加が大きかった。また、管理職において年俸制の導入率の増加が大きかった。さらに、年功制の導入率は1990年代から2010年代まで直線的に減少し続けている一方で、年俸制の導入率は1990年代から2005年頃までは増加し続けているが、2005年頃以降は単調な増加傾向を示していなかった。
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