科学・技術研究
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11 巻, 1 号
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巻頭言
特集
原著
  • 齋藤 夕綺, 小野寺 良二, 宍戸 道明
    2022 年 11 巻 1 号 p. 17-22
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/28
    ジャーナル オープンアクセス
    近年、少子高齢化の進行にともない、要介護者の増加および介護従事者の負担増加が深刻化している。要介護者の自立支援と生活の質向上を図る試みのひとつとしてBrain-Computer Interface(BCI)の応用が挙げられる。そこで著者らは、脳波の集中と弛緩状態の信号を応用し、シリアル動作に特化したBCIシステムを構築した。既往研究では、従来のシステムの課題であった時間の遅れを軽減するために、新しいモータ制御手法としてサンプリング脳波信号の処理においてゲート時間と定義した新しい評価区画の考え方を導入した新システムを構築した。本研究では、さらなる応答性の改善を目指し、新システムにおける最適な駆動閾値を検証した。結果として、閾値40、50において課題成功率は68 %以上と高値を示し、従来のシステムと比較するとおよそ10 %の向上が確認された。さらに、Friedmanの検定において有意差が認められ、対応のあるt検定では閾値40、50において有意差が認められた。この結果から、閾値40、50において課題成功率が有意に向上し、随意的なモータ制御が可能であると判断できる。誤作動率は、閾値にかかわらず21~31 %を示し、Friedmanの検定においては有意差が認められなかった。一方で、閾値の増加にしたがって停止誤作動の占める割合が増加した。また、閾値60、70でモータ駆動を成功した被験者は、脳が極度の集中状態となり、Task区間の間モータが駆動し続けてしまうことや、Rest区間に移行した後もモータ停止までに時間を要した。BCIの普及促進を図るうえで安全性の担保および使用者の意図に従った機器制御は必須であるため、モータの駆動・停止において安定した制御が可能であった閾値40、50が最適な閾値であるといえる。
  • 野田 博行
    2022 年 11 巻 1 号 p. 23-28
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/28
    ジャーナル オープンアクセス
    日本酒の味を糖度(Brix値)計と酸度計、味覚センサーを用いて調べた。試料として、100点の国産日本酒を用いた。味覚値は味覚センサーを用いて、酸味、塩味、旨味、苦味雑味および渋味刺激の5先味と旨味コク、苦味および渋味の3後味を測定した。それぞれの味データを解析した結果、日本酒の味の指標として、Brix値(甘辛)、酸味値(辛さ)および旨味コク値(旨味)が適していると考えられた。この3つの指標を用いたクラスター分析により8つのクラスターに分類された。8つのクラスターをそれぞれの数値を基に、Brix値による甘辛の定義から、クラスター2と3は甘口、これ以外は辛口と判定した。また、濃淡は、酸味値を+4から–2(酸味が強いとプラス)、旨味コク値を+3から–1(旨味が強いとマイナス)で総合評価した。酸度と日本酒度による味分類を基に、辛口でプラスの場合は淡麗辛口、マイナスの場合は濃淳辛口と分類した。甘口でプラスの場合は濃淳甘口、マイナスの場合は淡麗甘口と分類した。その結果、酸度と日本酒度による分類に比べ、濃淳辛口への極端な集中はみられなかった。以上のことから、味の指標として、Brix値、酸味値および旨味コク値を用いることにより、日本酒の味を概ね4つの味に分類でき、酸度と日本酒度による分類より味の違いを見分けられる可能性が示唆された。
  • 風呂井 玲子, 来田 宣幸, 横山 敦士
    2022 年 11 巻 1 号 p. 29-35
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/28
    ジャーナル オープンアクセス
    日本の伝統的な屋根材であるこけら板は、伝統的な技法によって手仕事で生産されている。製品の選別は主に葺師に委ねられており、その選定基準は目視が主体で、定量化されていない。そこで本報では、こけら板選択時に葺師はどのような点に注意を払っているのかを明らかにするため、葺師を対象に半構造化インタビューを行った。得られた発話はテキストマイニングの手法で分析し、着眼点や評価基準を分類したところ、すべての発話から分析対象となる622の意味単位が抽出され,18のカテゴリーに集約できた。その結果、葺師の着眼点はこけら板の「形」(77.3 %)と「材色」(22.7 %)に分類され、「形」への注目度が比較的高いことが分かった。また、こけら板の部位では、施工後に表出する“小口”の状態に関する発話が比較的多くみられ、この傾向は「形」「材色」のいずれの区分にも横断的に確認できた。さらに、スギ製のこけら板に望ましい板幅は125mmを超えると否定的評価が増加する傾向が示され、葺師はスギという樹種の特性を考慮して理想的な板幅を提案したと推察できる。今回の調査によって、材質をスギに限定した場合、より狭い板幅でも施工できる可能性が示された。このことは、従来考えられていたより低齢級のスギからもこけら板を採取できることを意味し、林産資源の有効活用やこけら板の低価格化にも貢献しうると考える。
  • 横山 輝雄
    2022 年 11 巻 1 号 p. 37-41
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/28
    ジャーナル オープンアクセス
    科学と社会の関係が変化し、科学者は自分の専門領域で研究を進めるだけでなく、社会に対して積極的にかかわることが求められるようになり、「科学者の社会的責任」についても新たな視点が求められている。「科学と価値」の問題について科学哲学でなされてきた「認知的価値」と「社会的価値」についての議論,とりわけクーンやラウダンのそれを、科学技術社会論における、ラベッツの「ポスト・ノーマル・サイエンス」や、コリンズの「科学論の第三の波」の議論と関連させて、科学と社会の関係におけるタイプの違いを区別する必要がある。「不定性」がある場合、科学においても参加型が求められ非専門家の関与がなされるが、その場合社会的価値と認知的価値を区別し、専門家の暗黙知の役割に配慮することが必要である。
短報
  • 荻原 祐二
    2022 年 11 巻 1 号 p. 43-46
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/28
    ジャーナル オープンアクセス
    名前・名づけについての実証研究を進めるためには、直観や印象ではなく、エビデンスに基づいた分析・考察を行う必要があり、そのためには信頼できる名前データが不可欠となる。日本では、2005年から2021年まで継続して大規模な調査を行っている「たまひよ赤ちゃんの名前ランキング」が重要な役割を占めている。しかし、2019年から調査の方法が変更されており、サイト上では明記されていない点に注意する必要がある。特に、経時的な変化を分析する際には、対象そのものの本質的な変化なのか、調査方法の変化によるものなのか判別し、対象の本質的な変化を的確に捉えるためにも、調査方法の変化は正確に理解しておくべきである。そこで本論文では、「たまひよ赤ちゃんの名前ランキング」における調査方法の変化について説明した。2005年から2018年までの調査と比べて、2019年から2021年の調査では、調査対象が質的に広くなっており、それに伴ってサンプルサイズが大幅に増加していた。また、調査結果の公開範囲が2019年以降は限定的になっていたと同時に、得られたデータとは独立した論拠から、名前の紹介や考察が行われるようになっており、それまで可能であった定量的な分析が困難となっていた。これらの情報は、「たまひよ赤ちゃんの名前ランキング」を用いて分析・考察を行う際に有用となる。
  • DDQおよび Darco KB®による酸化的環化反応
    梅村 一之, 青山 貴春, 竹内 小晴, 高萩 大我, 岩坂 健志
    2022 年 11 巻 1 号 p. 47-51
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/28
    ジャーナル オープンアクセス
    UK-1およびAJI9561はStreptomyces sp.より単離されたサイトトキシンである。その構造は2つのベンゾオキサゾール骨格からなる特徴的なもので、マウス細胞株B16、マウス白血病細胞P388、さらにヒト子宮癌細胞HeLaなどのがん細胞に活性を示すことが報告されている。本論文では第1報のN-アシル誘導体を経由する合成に引き続き、新たにDDQ(2,3-Dichloro-5,6-dicyanobenzoquinoe)および活性炭素(Darco KB®)を用いたUK-1、AJI9561の効果的な全合成について検討したので報告する。N-アシル誘導体を経由する方法では、AJI9561合成に伴う三置換ベンゼン誘導体の縮合反応からのベンゾオキサゾール合成が23 %と低収率となってしまったが、DDQまたはDarco KB®を用いることにより対応するベンゾオキサゾールの合成収率が60 %以上と大幅に改善された。結果的に今回の改良合成法により、合成工程を短縮すると共に、AJI9561の全合成収率について、N-アシル化法で8工程:約11 %だったものが、DDQまたはDarco KB®法により6工程:約30 %と大幅に改善することができた。
  • Susumu Nakayama
    2022 年 11 巻 1 号 p. 53-58
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/28
    ジャーナル オープンアクセス
    Two types of solid-state electrochemical cells were designed and their CO2 gas-sensing characteristics were compared. One was a heterojunction-type sensor, whereas the other was a conventional homojunction-type sensor. A potassium ionic conductor was used as the solid electrolyte and lithium carbonate (Li2CO3) or potassium carbonate (K2CO3) were used as the sensing electrodes. The electromotive force (EMF) of the cell, having Li2CO3 as the electrode (heterojunction-type sensor), increased linearly with an increase in the partial pressure of CO2 gas. Similar behavior was observed in the cell using the K2CO3 electrode (homojunction-type sensor). The slopes of Nernst’s equation suggest that the two-electron reduction associated with the carbon dioxide molecules occurs on the sensing electrode. The EMF of the heterojunction-type sensor showed excellent performance, and the 90% EMF response time of this sensor at 450 °C was only a few minutes on changing the carbon dioxide partial pressure.
  • ノーマルモードとリバースモード
    氏家 誠司, 三宮 礼茄, 馬場 潤一
    2022 年 11 巻 1 号 p. 59-62
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/28
    ジャーナル オープンアクセス
    高分子ネットワークとネマチック液晶物質から構成される調光液晶複合膜(LCLCFs)の構造をLCLCFsの表面および断面の走査電子顕微鏡(SEM)観察によって調べた。LCLCFsとして、ネマチック液晶物質による光散乱現象によって白濁した初期状態をもつノーマルモード型LCLCFsとネマチック液晶物質が垂直配向を形成し、透明な初期状態をもつリバースモード型LCLCFsを用いた。ノーマルモード型LCLCFsでは、LCLCFs全体に液晶滴が偏らずに分布した構造を形成していた。一方、リバースモード型LCLCFsにおいては、ネマチック液晶物質がPET電極基材近傍に多く存在し、高分子ネットワーク-液晶層/高分子層/高分子ネットワーク-液晶層の三層構造を形成していた。リバースモード型LCLCFsでは、PET電極基材表面に垂直配向薄膜が塗布されており、この垂直配向薄膜は光ラジカル重合で生成する高分子との相溶性が低い。この性質によって、生成高分子がPET電極基材近傍を避けて成長するため、リバースモード型LCLCFsでは三層構造が形成される。また、ノーマルモード型とリバースモード型のLCLCFsの構造の違いは、ノーマルモード型LCLCFsがリバースモード型LCLCFsよりも高分子ネットワークのPET電極基材への接着量が多いことを示唆する。これは、リバースモード型LCLCFsがノーマルモード型LCLCFsよりPET電極基材から剥離しやすいことに一致する。
  • 中川 翔吾, 氏家 誠司, 那谷 雅則
    2022 年 11 巻 1 号 p. 63-66
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/28
    ジャーナル オープンアクセス
    メソゲン骨格(液晶形成原子団)を構造単位として導入したジオールとジイソシアナートとの重付加反応によって得られたポリウレタン(LCPUs)は、いずれもネマチック相を昇降温過程で示した。LCPUsと極性の強い化合物との混合によって得られる二成分液晶は、誘起スメクチックA相を昇降温過程で形成した。スメクチックA相の形成は、ファン組織の観察とX線回折測定による層周期の観測によって明らかになった。等方相からスメクチックA相への降温過程では、暗視野中にバトネが多数現れたのちにファン組織が形成された。スメクチックA相ではX線小角域に層間隔に対応する鋭い反射と、X線広角域には層内での短距離秩序を示すブロードな反射が観測された。一方、極性の小さな化合物はLCPUsと混和しにくく、混和しても二成分液晶はスメクチック相を誘起しなかったことから、LCPUsの配向性改善のためには極性の強い化合物の混合が有用であることが明らかになった。以上の結果から、比較的極性の弱いLCPUsのメソゲン基とシアノ基やニトロ基などの強い極性基をもつ化合物との相互作用を利用することによって、配向構造を制御できることが明らかになった。
技術報告
  • Yuya Minatoya, Yudai Kitagawa, Shinichi Funase, Toshihiko Shimauchi, H ...
    2022 年 11 巻 1 号 p. 67-77
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/28
    ジャーナル オープンアクセス
    Existing display systems are sometimes insufficient to display the information to be conveyed. For example, a room temperature meter displays the room temperature as a bar graph or numerical value, but the sensible temperature differs depending on the season: the same 20 degrees centigrade can be cold in summer but warm in winter. Additionally, elderly people may have a dull sense of temperature and hence not notice the room temperature even if the change is significant. A display system showing not only the temperature but also the four seasons in the year, level of comfort and color code for danger (red: dangerous, yellow: caution, green: safe) can be easier for users to understand. However, displaying various information simultaneously can overburden the users since it requires intensive and swift processing of incoming information. To address these problems, this paper considers a display system with facial expressions: information to be displayed are translated to part and condition of the face to construct a face chart. The shape, size, position, color or movement of the chart are determined by the information. Morphological visual data transmission is superior in speed, recognizability, accuracy and multiple data transmissions. For human beings, faces are the most significant clue for identifying others. Facial expressions are mainly expressed by the muscles around the eyes. Eyes often shows the emotional state of the person. This paper aims to evaluate the effect of the display system using the features of facial expression. We first examine the accuracy of facial expressions of taste and emotion and their recognition by conducting questionnaire experiments. In the next step, we evaluate the ability of facial expression in simultaneous information transmission and its impact to observers. Finally, we propose an indoor environment display system using face expression as its application. Main results are as follows: as for taste, sweetness (76.5 %) and acidity (72.8 %) had high recognition rates; as for emotion, joy (96.3 %) and surprise (76.5 %) had high recognition rates; taste and joy matching experiments showed high matching rate between sweetness and joy (94.3 %); an experiment to evaluate a Japanese sweetshop showed sufficient simultaneous information transmission result (74.8 %); an experiment for time indication showed the facial expression method had the highest impact ability. These results show the effectiveness of facial expression system.
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