谷本学校 毒性質問箱
Online ISSN : 2436-5114
2016 巻, 18 号
谷本学校 毒性質問箱
選択された号の論文の18件中1~18を表示しています
はじめに
レクチャー1 心血管系安全性評価
  • 葛西 智恵子
    原稿種別: その他
    2016 年 2016 巻 18 号 p. 1-2
    発行日: 2016/09/28
    公開日: 2022/12/26
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     単一な作用のみを有する化合物を見出すのはなかなか困難である。多くの化合物の作用は一つとは限らず、いろいろな作用を有している。それぞれの作用を見極め、適切な目的で適切な量を用いると極めて有効に作用する。しかしながら好ましくない作用が発現してしまうこともある。1980年代後半から1990年代前半、欧米では非循環器系薬である抗アレルギー薬、抗生物質等で致死性不整脈(Torsade de Pointes:TdP)が頻発した。これにより、多数の医薬品が市場から撤退、あるいは開発中止となった。致死性不整脈の発現には、心筋のKチャネル阻害に基づくQT延長作用が大きく関与しており、QT延長作用の評価は医薬品開発において不可欠のものとなった。ただし、QT延長作用そのものは別段悪い作用ではない。III型抗不整脈薬は活動電位持続時間を延長させ、その結果、心筋の有効不応期が延長することにより抗不整脈作用を発現する。QT延長が問題になったのは、抗不整脈薬ではなく、非循環器系薬で作用が見られたこと、致死性不整脈につながったことによる。非循環器系薬にとっては、まさに好ましくない作用である。

  • 諫田 泰成, 関野 祐子
    原稿種別: その他
    2016 年 2016 巻 18 号 p. 3-7
    発行日: 2016/09/28
    公開日: 2022/12/26
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      医薬品の非臨床における安全性評価は、これまで実験動物などを用いて行われてきたが、ヒトiPS (induced pluripotent stem)細胞の登場により、今まで入手が困難だったヒト細胞の利用が可能となった。創薬プロセスの早い段階で医薬品候補化合物の安全性や有効性などについてヒトiPS細胞を用いてスクリーニングできれば、創薬の効率化や成功確率の向上、安全性の確保などまさに創薬プロセスの変革が実現できる。

     JiCSA(Japan iPS Cardiac Safety Assessment) は、ヒトiPS細胞由来心筋細胞を用いる安全性評価法の研究を行い、細胞シート標本を利用した標準プロトコルを開発し検証を行ってきた。さらに米国FDA/HESI(Food and Drug Administration/Health and Environmental Sciences Institute)によるコンソーシアムCiPA(Comprehensive in vitro Proarrhythmia Assay)とプロトコルなどの情報を共有することにより国際標準化を推進している。

     本稿では、ヒトiPS細胞由来心筋細胞を用いた安全性薬理試験系の開発および国際標準化に向けた動きを概説する。また、国際ブラインド試験などの動向やICH(International Conference on Harmonisation of Technical Requirements for Registration of Pharmaceuticals for Human Use)ガイドライン改訂への展望について紹介したい。これにより今後、ヒトiPS細胞を用いた心臓安全性評価の早期実現が期待される。

  • 鶴留 一也
    原稿種別: その他
    2016 年 2016 巻 18 号 p. 8-16
    発行日: 2016/09/28
    公開日: 2022/12/26
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     創薬現場における薬物の安全性を確認する作業において、致死性の高い不整脈の発生を防ぐ目的で行われる心機能に対する安全性評価は重要な役割を担っている。様々な薬効を持つ化合物が、致死性の高い不整脈を誘発することが分かってきたためだ(表1)。実際に一旦発売された薬物においても、催不整脈効果が判明したため撤回された例が挙げられている。

     特に致死性の高い不整脈であるTdP(Torsades de Pointes)の誘発を未然に防ぐため、催不整脈効果の予知性のある試験方法が求められた。TdPの誘発には心電図におけるQT波間隔の延長が強い相関を示すことが分かり1)、さらにQT間隔延長に対しては心筋に発現するカリウムチャネルの一種であるhERG(human ether-a-go-go-related gene)チャネルの機能低下が影響を及ぼすことが示されてきた2-4)

     こういった背景から、2005年にはICH(International Conference on Harmonization of Technical Requirements for Registration of Pharmaceuticals for Human Use)においてQT間隔延長の非臨床評価(S7B)やQT/QTc間隔延長と催不整脈作用の臨床的評価(E14)といったガイドラインが定められ、それらを基に現在まで臨床前のhERG電流への抑制的効果や、臨床試験時のQT間隔延長効果などを調べる安全性評価試験が創薬の現場で行われている。

  • 岡田 純一
    原稿種別: その他
    2016 年 2016 巻 18 号 p. 17-25
    発行日: 2016/09/28
    公開日: 2022/12/26
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     医薬品開発の際には、胃腸薬から抗がん剤に至るまであらゆる薬物において、心臓に与える副作用、すなわち心毒性を評価することが不可欠である。特にTorsade de Pointes(TdP)は致死性不整脈に発展する可能性のある危険な不整脈であり、薬物のTdP発生リスクに与える影響を評価することがICH(International Conference on Harmonisation of Technical Requirements for Registration of Pharmaceuticals for Human Use、日米EU医薬品規制調和国際会議)-S7Bガイドラインにより義務付けられている。TdPは一般に心筋細胞の細胞膜にあるイオンチャネルの一つであるIKr(hERG)チャネルを通過する電流が阻害されることによって細胞に発生する早期後脱分極(early afterdepolarization: EAD)が原因と考えられている。IKr チャネル阻害は活動電位持続時間(action potential duration: APD)の延長をもたらすため、ICHガイドラインではIKr チャネル抑制試験・動物実験と併せて、健康なボランティアに対して被験薬を投与し、心電図上でAPD に対応する指標であるQT間隔延長の有無を正確に測定する「thorough QT/QTc試験」を心毒性評価法として採用している。しかし、thorough QT/QTc 試験は非常に高コストであり、またQT間隔を延長する薬物の中にもTdP発生リスクを上昇させない薬物が存在することから、false positiveが多いことが問題点として指摘されている。すなわち、本来は大きな効果が期待される新薬の開発が誤った判定により中断されるということであり、これは巨額の費用を要する新薬開発の成功率を低下させ製薬企業の経営を圧迫するだけでなく、画期的な新薬が医療現場に提供されない社会的損失という点でも問題である。そのため、より高精度で安価な心毒性評価法の開発が切望されている。これらの背景を踏まえて、日米欧の規制当局は次のガイドライン改訂に向けて、薬物による複数のチャネルの抑制効果を測定し、in silicoモデルを用いて統合することにより不整脈発生リスクを評価する基本方針を示している1)図1に我々の考えるin silico心毒性評価法の概要を示す。まず細胞実験のデータに基づき正常な心筋細胞のイオンチャネルのモデル化を行うことが必要である。すでにいくつものヒト心筋細胞モデルが提案されている2-5)。正常細胞に対する薬物の影響はパッチクランプ法等により実験的に求める。実験結果に基づき正常状態を模擬した心筋細胞モデルに対して薬物の影響に対応するモデル改変やパラメータ変更を行うことにより仮想的な投薬を再現し、その反応を観測することにより薬物の毒性予測を行う。薬物がチャネルに与える影響は多種多様であり、予測の結果はin vivoin vitroのデータと比較検証を行いモデルの精度を高めていく作業も持続的に行っていく必要がある。このようにin silicoモデルは細胞実験(in vitro)と臨床試験(in vivo)を合理的に結びつける架橋の役割を果たしていることが分かる。In silicoモデルの利用には様々な利点がある。まず実験や臨床試験と異なり、ノイズ、実験環境、実験機器、実験手技、個体差の影響を基本的には含まず、誰が計算を行っても同じ結果を得ることができる。また、結果の分析が容易であり、薬物と作用の関係を合理的に解釈することが可能である。また動物実験のように動物の生命を犠牲にすることもない。さらにヒトのin silicoモデルを用いれば、臨床試験のようにヒトの健康に悪影響が出ないような低濃度での応答のみから薬物の評価を行う必要もなく、基準濃度の数百倍の濃度における影響を予測することも可能である。

     心毒性評価へのシミュレーションの導入は欧米で特にヨーロッパ連合(EU)では、EU-Heartと呼ばれるコンソーシアムにオックスフォード大学6)を中心とした有力大学、製薬企業が加わり、EUの予算も投下されて薬物性不整脈のin silico予測のための研究が行われたが、未だに成功していない(preDiCT プロジェクト7))。またこれらの研究のほとんどは単一細胞モデルのAPD延長を指標としたものに留まっていた。

     我々は有限要素法に基づく心臓興奮伝播解析と細胞実験を組み合わせた薬物のスクリーニングシステムを世界に先駆けて開発した8)。本報告では、このシステムについて基礎的段階から分かり易く解説することを目的とする。薬物が心筋細胞に与える影響をパッチクランプ法により6種のイオン電流(IKr、INa、ICa、IKs、IK1、Ito)に関して実験的に測定し、阻害の程度をDose-inhibition curveにより近似する。 Dose-inhibition curveに従って心臓シミュレータの各節点に配置した2,200万個を超える細胞モデルにおいて各イオン電流を抑制することにより、仮想的な「投薬」を行なうことが可能になる(図2)。薬物の濃度を段階的に増加させ、QT間隔の変化のみならず不整脈が発生するか否かにより各薬物の不整脈発生リスクを評価した。三次元心臓シミュレータを用いてTdPの発生を再現し、薬物の評価を行なったのは世界初の成果である。不整脈は、心臓の複雑な組織構造の中において細胞間の相互作用によって生じる心臓全体の異常な活動である。我々の開発した三次元心臓シミュレータでは、単一細胞モデルでは 評価することのできない細胞の走行分布や心臓内での細胞の電気的性質の場所による差異の影響を考慮することが可能であり、本研究でも心毒性評価における細胞の電気的性質の場所による差異の重要性を強調している。

  • 星合 清隆, 中根 史行, 秋江 靖樹
    原稿種別: その他
    2016 年 2016 巻 18 号 p. 26-29
    発行日: 2016/09/28
    公開日: 2022/12/26
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     薬物が心臓の機能に及ぼす影響について評価する際には、カテーテル法や超音波検査法といった手法を用いて測定が行われている。カテーテル法は、観血的な測定法であるため血管内にカテーテルを入れる必要がある。一方、超音波検査法では、生体に超音波をあて、その反射やドップラー効果・反響・透過の状況を確認する非観血的な測定法であるため、カテーテル法に比べ侵襲が少ない。そのため、動物への負担を軽減した心機能の反復測定が可能で、毒性試験へ組み込んで長期投与中の経時的な心機能変化を測定することができる。また、心臓の大きさや壁の厚さといった形態的な評価ができる他、心臓の壁や弁の動き、心臓内の血流情報を評価することも可能である。さらに、非侵襲的検査であるため臨床でも広く利用されており、ヒトの臨床試験で得られたデータを非臨床試験においても同じ測定方法で得られたデータと比較することが可能である。

     本稿では、薬物投与時の超音波検査法とカテーテル法のデータの比較、モデル動物作製時の心臓の壁や弁の動き並びに心機能の変化など、超音波検査法を用いて測定した動物のデータを紹介し、心臓超音波検査法による薬物安全性評価の有用性について考察する。

  • 蓑毛 博文
    原稿種別: その他
    2016 年 2016 巻 18 号 p. 30-37
    発行日: 2016/09/28
    公開日: 2022/12/26
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     臨床における心毒性を非臨床試験で予測するためには、心筋傷害に対して特異的かつ敏感なバイオマーカー(BM)が必要であるが、BMに求められる要件は臨床と非臨床で異なる1)。臨床では、病態を早期に診断できることが求められるため主に感度が優先され、また、治療過程をモニタリングできることも必要である。一方、非臨床試験では比較的高用量が投与されることとも関連して特異性が優先され、また、計画的に投与後一定の頻度で検査を行うため、半減期が長く、傷害後も長期間に亘って検出できるBMが求められる。臨床で使用されているBMを非臨床試験へ適用させるには、対象のBMが実験動物においてもヒトと同様の挙動を示すことが前提であるため、予め病態モデル動物等を用いてそれを検証しなければならない。さらに、BMの検出にはRadio Immuno Assay(RIA)やEnzyme-Linked Immuno Sorbent Assay(ELISA)などの免疫学的測定法が多く使用されており、実験動物に対する交差性がないため使用できないものもある。この場合、該当動物種に交差性を有する抗体を用いた測定方法のバリデーションが必須となる。心毒性BMの多くは、心臓以外の骨格筋にも広く分布しており、拘束や投与などの実験操作自体の影響を受けやすい。また、げっ歯類での同一個体からの頻回採血では採血量および採血間隔に制限があるため、それらを考慮した試験デザインが必要である。このように、臨床心毒性BMを非臨床試験に適用する際には、そのBMの感度、特異性、半減期に関する情報は重要となる。Wallaceらの報告1)では、Myoglobin(Mb)やHeart type fatty acid binding protein(H-FABP)は、分子量が14,000~17,800と小さく、心筋傷害後1~4時間で血中濃度が上昇し、1日で正常状態へ戻る。また、古典的な心毒性BMとして使用されてきたMB isoenzyme of creatine kinase (CK-MB)は、分子量が86,000とやや大きく、心筋傷害後3~12時間後に血中濃度が上昇し、2~3日後には正常状態へ戻るとされている。一方で、分子量が135,000と大きいLactate dehydrogenase(LDH)は、心筋傷害後に血中濃度が上昇するまで10時間を要し、10~14日後に正常状態に戻る。このように、これまで使用されてきた心毒性BMは、感度と持続性が両立しておらず、傷害早期に血中濃度が上昇するBMは消失期間が短く、一方で消失期間が長いBMは傷害後の血中濃度上昇までに時間を要した。しかし、今日、臨床で繁用されているBMである心筋トロポニンTおよびI (cTnTおよびcTnI)は、分子量がそれぞれ37,000 および22,000と小さく、心筋傷害後3~12時間後に血中濃度が上昇し始めるが、高値状態は5~14日間持続し、傷害後早期に検出できる感度と持続性を両立している。このような背景から、臨床では心疾患の評価にcTnTおよびcTnIが標準的に使用されており、非臨床試験においても近年cTnTとcTnIは使用され始めている。また、各種実験動物においてヒトと同様の心筋傷害に対する高い特異性も確認されている。いくつかの文献2,3)では、心筋傷害誘発物質を投与した心筋傷害モデルで血中のcTnTおよびcTnI値と心筋の病理組織学的変化との関連性を評価し、cTnTおよびcTnIの変化は心筋壊死を反映していることが報告されている。しかし、心筋傷害の誘発に使用されている物質は少数であり、今後も様々なタイプの誘発物質による心筋傷害モデルを用いた評価が必要となってくる。2011年にFDAのBiomarker Qualification Review Team4)によってこれらに関する多くの文献が調査され、ラットとイヌにおいてはcTnTおよびcTnI の有用性が報告された。一方で、サルについては文献数が少ないため、有用性は評価されていなかった。 しかし、Review Teamの報告書4)にはいくつかのサルに関する文献が引用され、2009年の我々の報告5)から、cTnTおよびcTnIはカニクイザルの心筋傷害に感度・特異性が高く、薬剤誘発性心筋傷害の検出に有用であり、その有用性はラットやイヌと同様であると考察されている。本稿では、我々が実施したカニクイザルにおけるcTnTおよびcTnIの検討から得た知見を基にその有用性を詳述し、さらに近年は新たな測定方法も開発されているため、非臨床におけるcTnTおよびcTnI測定の今後の展開についても提案したい。

  • 熊谷 雄治
    原稿種別: その他
    2016 年 2016 巻 18 号 p. 38-40
    発行日: 2016/09/28
    公開日: 2022/12/26
    解説誌・一般情報誌 フリー

     薬物療法の上で心血管系に関する有害反応は患者の予後に直接関連するものから、短期的には明らかでないが長期的にみた予後に影響を及ぼすものまで幅広く、患者の状態に応じた薬剤選択の上で極めて重要な問題である。新薬開発においても、心臓安全性は重要視されているが、現在のところ、その興味の多くは致死性不整脈に関連したQT延長に関するものである。QT延長に関してはICH(International Conference on Harmonisation of Technical Requirements for Registration of Pharmaceuticals for Human Use) S7Bで非臨床試験、E14で臨床試験について記載されており、これらのガイドラインに従った開発が行われてきた。このアプローチに対して毀誉褒貶(きよほうへん)はあるものの、一定の成果を挙げてきたことは評価されている。現在、新たなパラダイムに基づいた安全性評価の枠組みが提唱されており、要求される非臨床試験の種類も大きく変わると思われる。その一方で、薬理作用としての心筋障害等は毒性試験から予想することがある程度可能であり、ヒトへの外挿性は高いものと思われる。またこれ以外にも、心拍、血圧、自律神経系への作用は、おそらく患者の長期的な予後に関連すると思われ、この点についても非臨床試験の段階から注意を要する。

     非臨床試験の所見は臨床試験を計画する上で極めて重要であるが、その情報源となる治験薬概要書の記載は当該分野の専門家が事実を淡々と述べているものに過ぎず、臨床家にとっては理解が難しいことが多く、ある意味、通訳が必要な程度である。そのためか、製薬企業で安全性情報を担当している医師すら、概要書の毒性部分は重要視していないということをある研究会で見聞きし驚愕したことがある。本稿ではこれらの点をふまえ、臨床試験において担当医師が非臨床試験のどのような部分に注目しているか、どのような情報を必要としているかについても触れる。

レクチャー2 中枢神経系安全性評価
  • 宮脇 出
    原稿種別: その他
    2016 年 2016 巻 18 号 p. 41-45
    発行日: 2016/09/28
    公開日: 2022/12/26
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     医薬品候補化合物に関しては、平成13年にICH S7Aとして安全性薬理ガイドラインが作成され、生命維持に必要な器官(中枢神経系、循環器系、呼吸系)の機能に対する影響を評価するために、安全性薬理コアバッテリー(中枢、循環、呼吸)試験のGLP下での実施が要求されるようになった。当ガイドラインにおける中枢神経系の安全性評価は少なくとも運動量、行動変化、協調性、感覚/運動反射反応、体温について検討するよう記載されており、検査方法の例としてFOB(functional observational battery)やIrwin法が取り上げられている。一方、毒性試験法ガイドラインには中枢神経系の安全性評価に特化した記載はなく、主には一般状態観察で明らかな行動異常を捉えることで中枢神経系の影響を予測する。最終的には他の器官・臓器と同様に病理組織学的検査で器質的な影響を捉えている。

     このように毒性試験や安全性薬理試験のガイドラインは整備されてきたものの、中枢影響評価に関しては依然そのヒトへの外挿の難しさといった面で課題が残っている。本特集では株式会社LSIメディエンスの廣中直行先生が行動薬理評価のヒトへの外挿性について、またファイザーの堀井郁夫先生には現状の中枢神経系副作用予測方法、特にFOBの問題点と将来展望について独自の切り口で詳しく論じられている。ここでは、これら中枢神経系副作用の課題について簡単に触れた後、近年特に注目すべき痙攣毒性と薬物依存性について個人的な見解も含めて言及した。

  • 廣中 直行
    原稿種別: その他
    2016 年 2016 巻 18 号 p. 46-54
    発行日: 2016/09/28
    公開日: 2022/12/26
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     医薬品開発における動物実験は、新しい化合物のヒトでの安全性と有効性を予測するために行われる。ここでは動物実験の結果をいかにヒトに外挿するかが課題である。外挿性という問題について、安全性評価や薬物動態の分野では、ハイスループットトキシコロジー(HTP-Tox)やin silicoにおけるシミュレーションなど新しい技法が開発され、一種のパラダイムシフトが起こりつつある1)。また循環器系、呼吸器系、泌尿器系などの身体系では、臨床の問題から動物のモデル実験へ、動物のモデル実験から臨床の問題へというシームレスな外挿が実現され、創薬に貢献しているように思われる。

     他の身体系と比べると、対象が脳と行動の場合、外挿は容易ではない。たとえば、統合失調症のグルタミン酸仮説は現在有力な仮説であり、これを実証する動物実験は数多いが2)、この仮説に基づいた薬剤は未だに上市されていない。また、アルツハイマー病に目を向けると、10万件とも言われる基礎研究の報告がありながら、根治治療に有効な治療薬の成功には至っていない。

     安全性評価に目を転じてみても、脳と行動に関する外挿の難しさが感じられる。たとえば、抗インフルエンザ薬オセルタミビルに関連した異常行動は3)、動物実験では予見されていなかった。もちろん、こうした事象はそもそも稀であり、投薬との因果関係も立証されていない。非臨床段階でこれを予見するのは無理のように思えるが、一般社会での話題の大きさから考えると、事情に精通していない人々からは動物実験の有用性に対する疑問が出てくるのではないかという懸念も感じられる。

     脳と行動に関する外挿が難しいことにはそれなりの理由がある。実験動物の脳とヒトの脳は構造も機能も大きく異なっている。霊長類は齧歯類よりもヒトに近いとはいえ、サルの脳とヒトの脳の間には大きな隔たりがある。実験環境での動物の行動もヒトの日常生活の行動とは違う。しかし、外挿の難しさという問題が中枢神経系作用薬の開発を消極的にしているとすれば望ましくない。現在、新規医薬品開発イノベーションに向けて産学官が連携を強化する体制が整えられており、動物実験からヒトへのトランスレーショナルリサーチに多大な関心が寄せられている。非臨床の行動評価について考えるにあたって、本稿ではまず行動薬理学のこれまでの歩みを概観し、次に薬効評価と安全性評価の問題を取り上げ、脳と行動における外挿について考えてみたい。

  • 堀井 郁夫
    原稿種別: その他
    2016 年 2016 巻 18 号 p. 55-63
    発行日: 2016/09/28
    公開日: 2022/12/26
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     医薬品の薬理試験において、薬効薬理と安全性薬理の間には用いる試験系および目的に違いがある。 安全性薬理試験は、生体の正常な機能に対して薬物が有害な作用を引き起こさないか否かについて正常動物を用いて調べることを目的としており、特定の疾患に対して薬物が何らかの治療効果を有するか否かをいわゆる病態モデルを用いて調べる薬効薬理とは大きく異なる。中枢神経系の薬理試験においても然りである。また、適用疾患によって安全性評価の目的と適用概念が異なってくる。例えば、急性脳溢血を適用としてNMDA拮抗薬を開発している場合に、薬剤によって若干の精神障害が引き起こされたとしても、それが可逆的で薬剤によって患者の命を救うことができるのであれば、開発を断念するほどの問題とはならないであろう。これに対し、同様の薬剤が軽度な脳溢血を繰り返し発症する患者への予防的使用を目的として開発されるような場合、精神障害を発症する可能性は安全性上の致命的な懸念事項となり得る。中枢神経系の安全性薬理試験は、これまで多くの場合、正常動物を用いたin vivoの試験によって評価されてきた。心血管系のような器官と違い、中枢神経機能の神経生物学的メカニズムが十分に解明されていないことから、中枢神経系の安全性を疾患モデル動物で評価することは未だに難しいのが実情である。

     このような背景と現状から中枢神経系の安全性薬理評価を捉え、今後、挑戦的展開をしていく必要がある。かつて本邦で施行されてきた“一般薬理試験ガイドライン1) ”が実質的な運用と次の展開に示唆を与えてくれるものとなると考えられる。この一般薬理試験ガイドラインでは推奨される中枢神経系の安全性薬理試験は2つのカテゴリー(AとB)に分けられている。カテゴリーAには、一般行動観察、自発運動量測定、一般麻酔作用および一般麻酔薬に対する相乗/拮抗作用、痙攣に及ぼす影響(痙攣誘発作用、痙攣誘発剤との相乗効果)、鎮痛作用ならびに体温等が含まれる。カテゴリーBには、脳波に及ぼす影響、脊髄反射、条件回避反応、運動協調性等が含まれる。原則的にはカテゴリーAに挙げられた試験は必須であり(ICHガイドラインにおけるコアバッテリーに相当)、カテゴリーBに挙げられた試験は必要に応じて実施することになっている。この考え方は、ICHでの議論を経て安全性薬理の考え方を取り込み、最終的に2001年6月にICH S7Aガイドライン2)として合意に至った。ICHガイドラインは日本の一般薬理試験ガイドラインに比べると具体性に乏しく、中枢神経系に関しては自発運動能、行動変化、協調性、感覚/運動反射反応および体温がコアバッテリー試験として挙げられ、「中枢神経系は適切に評価されなければならない」と付記されているにとどまっている。フォローアップ試験としては、行動薬理検査等が挙げられている3)

     医薬品の中枢神経系副作用を予測する方法として、 一般行動観察のアプローチとしてFOB(functional observational battery)が取り上げられている(表1)。 Irwinら4)により提唱された基本的観察基準、FOB (Gad5)の提起とHaggerty6)、Mattsson7)、Moser8)らによる改良)などの手法がICH S7Aで紹介され、その他のガイドライン(OECD、USEPA)においても種々の観点から神経毒性について言及されている。 しかしながら、未だに標準的(定型的)な手法提示には至らなく、ケース・バイ・ケース的なアプローチに主体を置いている感がある。この背景には、中枢神経系副作用の予測法としてのFOBの提起があったにも関わらず、得られた結果と実際のヒトへの外挿性との間にギャップがある点が挙げられている。 すなわち、FIH(first in human)/IND(investigational new drug application)時に必要とされる安全性薬理の項目の一環である中枢神経系への影響をみる手法が、当該化合物のFIH/INDを開始するための安全性を担保するに値しているかという事にある。問題点として挙げられる点として(1)ヒトでの簡素な神経学的検査と類似している手法ではあるが、問題因子の同定・リスク回避の検出力に欠ける(2)主観的かつ急性的で著明な作用のみの検出等があり、ヒトでの中枢神経系副作用の検出力について理解をしておく必要がある(図1)。

     FOBはリスクの同定のためには有用であるが、創薬時からFIH/IND開始までに(時として臨床試験に並行して)より有用な中枢神経系副作用を検知するフォローアップ試験としてのツールを導入する事が必要となっている(表2)。その対象として、視覚障害、認知機能障害、精神障害、依存性などが挙げられ、それに対応した試験法がケース・バイ・ケースに導入されているのが現状である。フォローアップ試験法の詳細については参考文献9-24)およびその例の概略図(図21~4)を参照されたい。

     本稿では、FOBの基本的な立ち位置・問題点、挑戦事項について提示すると共に、いくつかの事例検討からの問題点を紹介し、中枢神経系安全性薬理試験の将来の展望について言及する。

レクチャー3 遺伝毒性・がん原性評価
  • 濵田 修一, 米澤 豊, 川村 祐司, 甲田 章, 朝比奈 政利, 有江 裕子 , 西山 義広, 田中 直子, 南谷 賢一郎
    原稿種別: その他
    2016 年 2016 巻 18 号 p. 64-70
    発行日: 2016/09/28
    公開日: 2022/12/26
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     毒性質問箱17号(サイエンティスト社、2015年)において「一般毒性試験における遺伝毒性評価:組込み試験の可能性と課題」と題した濵田先生のレクチャーを掲載した。17号のレクチャーでは、肝臓小核試験は、優れた遺伝毒性検出力を示すこと、反復投与により小核を有する肝細胞(肝小核)が蓄積すること及びその組込みが一般毒性評価に影響しないことを紹介した。すなわち、肝臓小核試験は、反復投与毒性試験における遺伝毒性指標としての意義が高く、また反復投与毒性試験に組込みが容易なことから、医薬品の安全性評価に有用であると考えられた。この肝臓小核試験へ読者の高い関心が寄せられたことから、2015年冬のセミナーにおいて、濵田先生に「4週間の反復投与毒性試験結果(肝臓小核試験及び病理組織学的検査)から肝発がん性を予測する」というタイトルで講演を頂いた。本セミナーでは、肝臓小核試験の遺伝毒性指標としての有用性に留まらず、2週あるいは4週間の反復投与毒性試験における肝臓の病理組織像と併せて評価することで、化合物の肝発がん性を予測するという画期的な提案がなされた。セミナー参加者からの反響は大きく、多数の質問・意見が寄せられたが、質疑応答の時間では十分な議論が行えなかった。

     そこで後日、濵田先生と面談し、編集企画委員会でまとめた質問・意見に対するコメントを頂いた。 濱田先生のコメントは詳細かつ多岐に渡ったため、本稿ではその内容をQ&A形式で要約して紹介する。 なお、肝臓小核試験の方法や結果の詳細については毒性質問箱17号及び公表論文1) を参照されたい。

  • 河部 真弓
    原稿種別: その他
    2016 年 2016 巻 18 号 p. 71-79
    発行日: 2016/09/28
    公開日: 2022/12/26
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     環境中には多くの化学物質が存在しており、さらに科学技術の進歩により次々に新しい医薬品、農薬、食品添加物、生活に必要な化学物質あるいは生産過程で必要な化学物質など、多種多様なものが作り出されている。我々はその多くのものの恩恵にあずかっている一方、中には発がん性を示す物質もあり、健康に多大な影響を及ぼしているのも事実である。そのような発がん物質の検索には従来より、ラットあるいはマウスといったげっ歯類を用いた長期がん原性試験が実施されてきた。このがん原性試験では、非常に多くの動物を使用し、またその結果が得られるまでには3年以上の期間と、莫大な費用を要することから、膨大な数の化学物質についての発がん性を調査するのはほぼ不可能と言っても過言ではない。

     短期で発がん性をスクリーニングする方法として、Ames試験などのin vitroでの種々の遺伝毒性試験が開発されてきたが、非遺伝毒性物質であるbutylated hydroxyanisole(BHA)に発がん性が報告1)されてから多数の非遺伝毒性物質に発がん性が証明され、in vitroの遺伝毒性試験のみで評価するのは不十分であり、発がん性の有無、あるいは標的臓器を総合的に評価するためにはin vivoでの試験法が必要不可欠とされた。そこで注目されたのが当時の名古屋市立大学医学部第一病理学教室の伊東信行教授らが開発を手掛けていた「中期発がん性試験法」である。

     発がんはイニシエーションおよびプロモーションの過程を経て起こるとされている。この「中期発がん性試験法」はその仮説に基づいて短期間で発がん性を検索する試験法である。つまり、イニシエーションとして発がん物質を投与して発がん標的臓器の細胞に変異細胞を形成させ、次にプロモーションとして変異した細胞が増殖して前がん病変が形成される。 その病変の程度を指標として発がん性の有無を評価するのがこの「中期発がん性試験法」である。

     「中期発がん性試験法」には、肝臓、皮膚、甲状腺、胃、大腸、腎臓、膀胱あるいは乳腺を標的臓器とするモデル2-16)、あるいはこれらの臓器を含めた多臓器を標的とするモデル17,18)が開発されてきた。このうち、肝臓および多臓器を標的とする試験法は、1997年に行われた第4回日・米・EU医薬品規制調和国際会議(ICH)の中で、長期がん原性試験の代替法として推奨され、その後、1999年厚生省医薬安全局審査管理課長通知として「医薬品のがん原性試験に関するガイドラインの改正について」が発出され「がん原性検出のためのin vivo追加試験」として明記されるに至っている。さらに、この中期発がん性試験と同じく「トランスジェニックマウスを用いた短期発がん性試験法」も代替法として認められている。今回は300以上もの化学物質の検索データを持つ「中期肝発がん性試験」、ガイドラインにも明記されている「中期多臓器発がん性試験」、また近年、経皮剤開発に必要不可欠となってきた「中期皮膚発がん性試験」、さらにトランスジェニックマウスと中期発がん性試験法を組み合わせた「超短期皮膚発がん性試験」について紹介する。

後進へ伝えたいこと
  • 牧 栄二
    原稿種別: その他
    2016 年 2016 巻 18 号 p. 80-82
    発行日: 2016/09/28
    公開日: 2022/12/26
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     医薬品安全性試験コンサルタントの牧です。私が現在行っています医薬品の安全性試験のコンサルティングは、受託試験施設であります(財)食品農医薬品安全性評価センターのセンター長を退任しました後に始めたもので、7年が経過しています。私が現在専門分野としています免疫毒性とアレルギーは、大学時代に配属されました研究室のテーマが現在に至っています。長い人生の途中、いくらでも宗旨替えをする機会はあった筈です。しかし、幸運にも、大学院を卒業後、最初に入社しました製薬会社の主要開発医薬品がステロイド剤や非ステロイド性抗炎症剤であり、その開発に携わることになり、私の力量を発揮する場所がそこに準備されていたわけです。その様に環境にも恵まれ、益々免疫学の分野・研究に興味が湧き、自分自身の博士論文の研究テーマも「抗ラット肺ウサギ血清によるラット過敏性肺臓炎モデルの開発」を選び、時間の掛かる研究を行ったものです。ヒトにおける過敏性肺臓炎は、当時もそうですが今も治療薬として唯一効果を示す薬物はステロイド剤で、他に有効な薬物がないことから、治療薬開発のためにも病態モデルの作製が必要と考え、ヒトの病態に類似したモデル動物の作製に努力し、多くの被験薬物を調べました。しかし、弱いながら効果を示す薬物はあるものの、治療薬としてステロイド剤に勝るものを見つけることはできませんでした。

  • 吉田 武美
    原稿種別: その他
    2016 年 2016 巻 18 号 p. 83-89
    発行日: 2016/09/28
    公開日: 2022/12/26
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     安全性評価研究会編集企画委員会より、毒性質問箱への執筆依頼を受けました。いささか重い課題ですが、ここまでの教育・研究の流れや学会活動等の関わりで経験したこと、感じたことを振り返りながら、「伝えたいこと」としての任を果たします。

     安全性評価研究会の会員諸氏は、毒性研究の中心的役割を果たしており、また、数多くの先達が指導者として本研究会の毒性の研究・技術を伝えてきています。このことが、本研究会の大きな発展につながり、毒性を語り、安全性を確保することにつながっていることを誇りとするとともに後進の育成を忘れてはならないことは言うまでもありません。

     本研究会の根源的な理念と目的は、医薬品開発や化学物質の応用開発において、これらの物質のヒトや動物の生体、時に生態系にもたらす好ましくない毒性という負の側面を解明し、そして安全性確保のための方策を見出していくことであろう。そのために従来型の毒性学に留まることなく、進化する幅広い科学技術の成果を取り入れ、開発化合物や化学物質の毒性をいかに効率よく、感度良く、精度よく見つけ出し、安全性を担保して、毒性を科学していく心を忘れることなく、実践していかなくてならないでしょう。その過程ではまた、研究者・技術者としての職業上のディレンマに陥ることもあるでしょう。 そのとき、研究者・技術者としての倫理や社会の倫理を問いつつ、自身の人生観や社会観さらには世界観も含めて判断することがあるかも知れません。そのようなことに対応できる自分作りを持続的に進めていくことが現代に生きる我々の社会的責任であろうと思っています。科学や技術は誰のために、何のためにあるのかを常に考えておくべきでしょう。

     2015年は大村 智先生とW.キャンベル先生のイベルメクチン、中国トゥ・ヨウヨウ氏のアルテミシニンの感染症治療薬の発見や開発にノーベル生理学・医学賞が授与されました。医薬品開発における毒性・安全性を担保する部門の研究者・技術者にとっても、薬が世に出るまでの長い道のりを考えると、感慨無量であったことでしょう。まさに実学の地位が高く評価されたことになるかと思います。

     口幅ったいことも書くことがあるかも知れませんが、多くは反省からの伝えたいことになるでしょう。

  • 中山 邦夫
    原稿種別: その他
    2016 年 2016 巻 18 号 p. 90-94
    発行日: 2016/09/28
    公開日: 2022/12/26
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     私は社会人になって以来、組織の一員として過ごしてきました。その間、沢山の先輩からご指導をいただき、人の大切さを体験してきました。人の育成なくしては、企業や組織の未来はないでしょう。人は宝です。 単なる材料ではなくて、財産であり“人財”です。安全性評価研究会は「谷本学校」という愛称があり、教育の場としての顔を持っています。この趣旨に沿い、少しでも、後進の方に役立つことを願い、私の体験をもとに人財育成について述べることにします。

毒性質問箱
  • 葛西 智恵子 , 宅見 あすか, 土居 正文, 伊東 志野, 原田 聡子, 宮田 英典, 重見 亮太, 西山 義広, 竹藤 順子, 宮内 慎
    原稿種別: その他
    2016 年 2016 巻 18 号 p. 95-106
    発行日: 2016/09/28
    公開日: 2022/12/26
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     被験物質の望ましくない薬力学的特性を特定し、その用量(濃度)反応関係を特徴付け、毒性試験や臨床試験で認められた被験物質の有害な薬力学的作用の機序を検討することを目的として、安全性薬理試験ガイドラインICH S7Aが施行された。特に心血管系では、臨床の致死性不整脈の発生リスク評価に主眼をおいたICH S7Bガイドラインも施行され、その後は致死性不整脈あるいはQT延長リスクなどで市場から撤退する医薬品はほとんどなくなり、大きな成果を上げたと言えよう。しかしながら従来の評価法はQT延長リスクに主眼が置かれており、より催不整脈作用のリスク評価に特化した評価系が望まれている。CiPA (Comprehensive in vitro Proarrhythmia Assay)の活動でもヒトiPS細胞由来分化心筋細胞を用いた評価系やin silicoモデルの活用など新しい提案がなされているが、実際にはどのような試験系でリスク評価されるのだろうか。本稿では催不整脈作用のリスク評価を中心に、最近の安全性薬理試験に関連したQ&Aを紹介する。 皆さんの理解の一助となれば幸いである。

編集後記
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