谷本学校 毒性質問箱
Online ISSN : 2436-5114
2011 巻, 13 号
選択された号の論文の27件中1~27を表示しています
はじめに
〈特集1〉レギュラトリーサイエンス
  • 川上 浩司
    原稿種別: その他
    2011 年 2011 巻 13 号 p. 1-7
    発行日: 2011/09/15
    公開日: 2024/01/15
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    1.医薬品分野におけるレギュラトリーサイエンスの振興の重要性

     狭義のレギュラトリーサイエンスという言葉は、日本語で規制科学と訳されることからもわかるように、環境衛生や食品衛生領域の化学物質の安全基準の数値を設定するための科学、あるいは医薬品の安全性のうち非臨床試験に関する薬理学といったところに限定されてきた印象がある。ところが、臨床の現場で用いられる医療用品は、古典的な医薬品、低分子化合物に限らず生物製剤(バイオテクノロジー製剤)、医療機器1)と多様であり、それぞれの特徴を考えた開発手法、前臨床研究、臨床試験、市販後調査の方法が存在する。従って、医療用品のレギュラトリーサイエンスに関しては、研究開発から承認後の実際の臨床の現場での使用に至るまでの各段階において手当てがなされていくべきなのである。すなわち、医薬品、食品、環境物質など、人体などに影響がある物質の適正かつ安全な使用のために、その基準値、安全性・有効性の評価、対応、上位では行政施策やシステムのあり方について、実験室での研究(ウェット研究)や社会学的研究・疫学研究(ドライ研究)、臨床研究を通じて検討し、また行政施策や社会に対して研究成果や考察を情報発信していくことが重要である。

  • 宮田 満
    原稿種別: その他
    2011 年 2011 巻 13 号 p. 8-10
    発行日: 2011/09/15
    公開日: 2024/01/15
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     レギュラトリーサイエンスという言葉は、和製英語であることは皆さんもご存知だろう。1987年に国立衛生試験所(現在の国立医薬品食品衛生研究所)名誉所長内山充氏が提唱した科学研究の概念である。当時は、1)レギュラトリーサイエンスの目的を新技術、新生産物の品質、有用性、そして安全性を評価して、国民生活と調和させることとし、2)従来の科学研究とは価値尺度を異にして、科学の最新の成果を活用した正確な予測による適正な評価を目指す、3)また、レギュラトリーサイエンスは集団における科学的ルール作りに反映され、行政とそれを支える研究者の使命であると、提唱された。

  • 猪 好孝
    原稿種別: その他
    2011 年 2011 巻 13 号 p. 11-19
    発行日: 2011/09/15
    公開日: 2024/01/15
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    はじめに

    「レギュラトリーサイエンス」という言葉は多様性を持って使用される。齊尾武郎氏は「レギュラトリーサイエンス・ウォーズ-概念の混乱と科学論者の迷走-」という論文(Clin Eval 38(1)2010)を発表し、その混迷さを伝えている1)。本邦ではレギュラトリーサイエンスという言葉を、「規制科学」と翻訳する場合が多い。このことからレギュラトリーサイエンスとの言葉を聞くと、多くの人がGLP試験そのものをイメージする。また「調和科学」や「評価科学」と翻訳される場合がある。実際、レギュラトリーサイエンスという言葉は、多様性に富んだ使われ方がされているようである。齊尾氏の論文には、「レギュラトリーサイエンスという言葉が米国で初めて使用されたのは、1985年のWeinbergの論文であるが、その13年前に彼が発表した「trans-science」という言葉と近縁の概念であろう」と述べられている。また同氏は、「元米国環境保護局(Environmental Protection Agency:EPA)のスタッフA. Alan Moghissiにより1985年に設立されたInstitute for Regulatory Science(RSI)のウェブサイトの記載を見ると、「regulatory scienceという言葉の語源ははっきりしないが、1970年代に、その頃新設されたEPAが、科学的情報が乏しい、もしくは欠如した状況下で判断を行わなければいけなかった時期のことだろう。」と述べている。

     米国では、1970年代は、サリドマイド事件を皮切りに急速に医薬品に関する審査体制が高まってきた時代である。そしてその結果、米国食品医薬品局(FDA)は1978年に世界で初めてGLPを制定した。1979年には経済開発協力機構(OECD)がGLPを制定し、EPAはOECD GLPを採用した。FDA GLPと異なり、OECD GLPは医薬品を含む全ての化学物質の安全性評価に利用されるように作成されている。FDA GLPとOECD GLPの最大の違いは、①OECD GLPは「GLP原則」であり、GLP条文中にはそれを運用するための詳細が記載されていないこと、②FDA GLP下では、試験方法の設定そのものが試験責任者の責任範囲下におかれるが、OECD GLP下では試験方法の詳細が試験法ガイドライン(Test Guideline;TG)として制定されていることである。

     レギュラトリーサイエンスという言葉が最初に生まれた1980年代は、OECDにおけるTGが作られていく過程にあった。同じ被験物質を使用し、各国で毒性試験等を実施した。そしてその結果を持ち寄り、その被験物質の毒性評価を行うのに最適な試験方法を構築していった。各国で同じような試験結果が得られれば何も問題ない。しかし、そうはならなかった。このようなTG作成のための試験に対してGLPを適用することには無理があるし、また、試験結果の違いというものが、試験方法のどの部分の違いに起因して発生しているのかでさえ振り返ることができなかったであろう。そして、その結果EPAは、「科学的学的情報が乏しい、もしくは欠如した状況下で判断を行わなければいけなかった」と述べたのであろう。現在、最先端技術に対してレギュラトリーサイエンスという言葉が使用されるようになってきた。本章では、レギュラトリーサイエンスをめぐる最近の世界の動向について記載する。

〈特集2〉データベース活用法
  • 小島 史照
    原稿種別: その他
    2011 年 2011 巻 13 号 p. 20-54
    発行日: 2011/09/15
    公開日: 2024/01/15
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    はじめに

     著者は、入社して18年間一貫して、情報の収集と解析、データベースの構築と運用、情報共有の促進などの仕事に従事し、情報調査の専門家であるインフォプロとして、医薬品の研究開発の推進に携わってきた。しかし、毒性研究に関してのバックグラウンドは乏しく、毒性研究の現場でどのような情報の収集に困っているのか十分に把握してはいなかった。一昨年から安全性研究所に異動し、研究員とのディスカッションから毒性情報収集の課題について見えてきたものがある。今回の執筆にあたり、毒性研究員としての視点では不十分な部分もあるが、情報の収集に関するインフォプロの広い視点にたって、有益な情報をご紹介したい。

     インフォプロの世界においても、毒性情報は、最も入手しづらい情報のひとつである。その最も大きな要因は毒性に特化した文献データベースが存在しないことである。その一方で、化合物の毒性、安全性に関する情報源は多岐に渡り、Web上の有益な無料サイトだけでも数十存在する。これらの多様な情報源から有効な情報を引き出すには、それぞれの情報源の特徴と検索手法を十分に理解しなければ情報収集は困難を極める。また、医薬品の毒性情報はネガティブな情報であり、一般的に好んで公開される情報ではないことも入手しづらいひとつの要因である。

     本稿では、1.で、毒性情報を得るための情報源の概略、情報収集におけるインフォプロと研究員との違い、研究員に求められる調査スキルなど、研究員が情報収集するうえでの基本について説明する。2. 3.では、毒性研究員が最も利用する頻度が高い、文献情報と承認申請情報について、データベースの特徴、調査ストラテジー立案の基本を紹介するとともに、具体的な事例を紹介し、情報の収集及び活用ノウハウを説明する。4.では、弊社の安全性研究所における調査の実際を紹介し、現在、取り組んでいる、過去の社内外の情報活用を促進するナレッジマネジメントに関して、著者の考えと今後について紹介する。

〈特集3〉ファーマコビジランス
  • 佐藤 淳子
    原稿種別: その他
    2011 年 2011 巻 13 号 p. 55
    発行日: 2011/09/15
    公開日: 2024/01/15
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     第34回日本トキシコロジー学会学術年会より開始された医薬品のファーマコビジランスに関する議論も今回で4回目を迎える。第36回同年会からは非臨床と臨床の連携に着目し、具体的な開発終結品目を例に、非臨床担当者・臨床開発担当者が一堂に会し、各々の専門的見地から活発な議論を行う場となってきている。過去には、一度、臨床まで開発が進むと非臨床担当者には当該開発品目の情報はあまり伝わることがなかったという話も耳にしていた。確かに、非臨床試験結果報告書に記載されている内容は報告書を読めば分かるかもしれないが、報告書にはありとあらゆる事が記載されているわけではない。実際に、非臨床的検討を日々行っているものだから気付ける点もあるだろうし、逆に、臨床的知識を有しているからこそ気が付ける非臨床成績におけるヒントもあるかもしれない。種々の専門性を有する者が活発な議論を交わしていくことは、より効率的かつ安全な医薬品開発・市販後安全対策に必須であり、そのような土壌を築き上げることは急務と言えよう。国内には数多くの学会が存在しているが、非臨床担当者と臨床担当者が一緒に通り一遍ではない議論を行う場はなかなかないのが実情である。そのような中、このような議論が継続出来ていることは画期的である。

  • 熊谷 雄治
    原稿種別: その他
    2011 年 2011 巻 13 号 p. 56-59
    発行日: 2011/09/15
    公開日: 2024/01/15
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     日々の臨床現場において薬剤性肝障害(DILI, drug induced liver injury)は高頻度で遭遇する有害反応であり、場合によっては生命へ危険が及ぶ、見逃してはならない反応である。DILIの検出のために使用されているマーカーの代表的なものは、AST、ALTといったトランスアミナーゼであり、臨床的に最も使用されており、信頼性の高いものであるが、特異性に欠ける部分など問題点も存在している。たとえば、早期の臨床試験において対象となる被験者は主に健康人である。元々健康で疾患を持たない被験者に対し薬物を投与する際には安全性の確保がきわめて重要であり、何らかの障害が発生した場合には、不可逆的変化になる前に発見することが求められる。しかし早期段階の試験におけるAST、ALTの変動は非特異的と考えられるものが多く、DILIの早期発見のためのマーカーとして必ずしも満足できるものではない。本稿ではこれらについて2010年日本トキシコロジー学会学術年会シンポジウムで発表した内容を再構成して述べる。

  • Stewart Geary, M.D.
    原稿種別: other
    2011 年 2011 巻 13 号 p. 60-61
    発行日: 2011/09/15
    公開日: 2024/01/15
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     The pharmacovigilance symposium at the 37th annual meeting of the Japanese Society of Toxicology was a collaborative effort of the Pharmacovigilance Working Group (PVWG) and the Japanese Association of Pharmaceutical Medicine (JAPhMed) with key advice and contributions from expert colleagues from the PMDA and academia in addition to scientists and physicians from industry. The symposium follows a tradition established by the PVWG of mechanismbased examination of real examples of safety issues encountered by medical products in order to improve our knowledge of the predictability and preventability of adverse reactions with the ultimate goal of improving patient safety and the drug development process. The principles we try to follow are first to have clinical and non-clinical safety experts jointly evaluate safety data, increasing the communication and knowledge sharing between physicians and preclinical toxicologists. Second, we hope to increase the publication and open discussion of concrete examples of adverse reactions and safety issues. I believe that everyone involved in the process of drug development benefits when we can learn from examples of the investigation of adverse reactions from across the industry and that we have some ethical responsibilities to share safety data where possible because of the heavy responsibility we bear for engaging animals and people as experimental subjects in the process of drug discovery and development. Finally, we hope to encourage this sharing of expertise and concrete examples internationally because in today’s pharmaceutical industry a new chemical entity discovered in Japan could go on to pivotal clinical trials in the US and EU and ultimately be marketed in all countries from China to Brazil; drug safety issues can be newly discovered at any point in this international process.

  • 大古田 治
    原稿種別: その他
    2011 年 2011 巻 13 号 p. 62-72
    発行日: 2011/09/15
    公開日: 2024/01/15
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     本稿内容は論文化(Kenne K et al. 20081)、Kindmark A et al. 20082)、Andersson U et al. 20093)、Keisu M and Andersson TB. 20104)等)されており、これら論文をまとめ報告したものである。詳細は原著を参照されたい。

     

    要約

     キシメラガトランは経口直接的トロンビン阻害剤 として開発された化合物で、ヨーロッパで市販され、新たな適応症での開発が進んでいた。12日間までの短期投与臨床試験では肝障害はみられていないが、35日間を超える長期投与臨床試験において、肝酵素値上昇が観察された(正常上限(ULN)の3倍を超えるALT値上昇の頻度は7.9%)。総ビリルビン値上昇頻度は対照薬と比べ同程度であったが、ULN の3倍を超えるALT値上昇がみられ、かつULNの2倍を超える総ビリルビン値上昇頻度は、キシメラガトラン群で0.5%、対照群で0.1%であった。発熱や発疹のような過敏症を示唆する症状の発現頻度は低く、キシメラガトラン群と対照群との間に差はみられなかった。キシメラガトランの市場撤退並びに開発プログラム終結は、35日間投与後の安全性デー タに起因した。この試験では、一人の被験者に重篤な肝障害がみられ、定期的な肝機能検査を実施してもリスク軽減の可能性は低いことが示された。非臨床毒性試験ではキシメラガトランの肝障害はみられず、ヒト由来細胞を用いた試験でも肝障害メカニズムの同定には至らなかった。ファーマコゲノミクス研究において、免疫系を介した肝障害を示唆する 主要組織適合遺伝子複合体抗原(MHC)との関連が認められた。すなわち、ALT値上昇とMHCアレル(DRB1*07 及びDQA1*02)との間に関連性が認められた。キシメラガトラン投与によりALT値が上昇する患者元来の素因及び投与後に変動するバイオマーカーをシステムバイオロジー手法を用いて検索し、3-ヒドロキシ酪酸、ピルビン酸、コロニー刺激因子1 受容体(CSF1R)、Gc-グロブリン、L-グルタミン酸、プロテインS及びアラニンなどを同定した。ピルビン酸及びCSF1R について、ヒト由来細胞を用いたin vitro系に供し、キシメラガトランに起因する肝障害機序を検討した。

     本結果は、idiosyncratic 薬物誘発性肝障害機序解明の手掛かりとなり、システムバイオロジー手法の導入は未知の毒性機序解明の新たな仮説を立てるための有効な手段と考えられた。

  • William M. Bracken Ph.D.
    原稿種別: other
    2011 年 2011 巻 13 号 p. 73-81
    発行日: 2011/09/15
    公開日: 2024/01/15
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     A major assumption when evaluating the toxicity of drugs or other chemicals is that the findings in animals predict what will happen in humans. This assumption has been in place for many years and more specifically the philosophy for evaluating the safety of drugs in animals before giving them to humans’ dates prior to the 1930s although this was voluntary as there were no laws in place to mandate this review. Following the death of many patients taking elixir of sulfanilamide contaminated with ethylene glycol, Leake (1929) suggested that competitive pressures and a general excitement for discovering new remedies resulted in an urgency where a “reliable scientific” evaluation of new drugs was often overlooked1). His proposal was to standardize the evaluation prior to initiating dosing in humans to include the following assessments:

    • Minimal lethal dose

    • Influence on isolated organs systems

    • Mechanism of general systemic effects

    • Fate in body and rate of destruction or elimination

    • Acute and prolonged dosing

    • Define therapeutic index

     From “general systemic studies” Leake proposed to evaluate “blood constituents, circulatory and respiratory activity, central nervous system and muscular response, glandular and alimentary action, kidney and sexual function and general metabolism”.

  • 丹 求, 菅井 象一郎, 永田 健
    原稿種別: その他
    2011 年 2011 巻 13 号 p. 82-106
    発行日: 2011/09/15
    公開日: 2024/01/15
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    はじめに

     肝障害は頻度の高い副作用であり、重篤な肝障害は医薬品の販売や開発の中止の最大の要因の一つとなっている。そのため、肝障害あるいは肝障害を疑わせる事象に適切に対応することは、医薬品のリスクマネジメントにおいて非常に重要である。

     一方、臨床における肝障害をはじめとする副作用には、毒性試験ガイドラインで求められるスタンダードな非臨床毒性試験で予測できないものが依然として多い。また、臨床試験-非臨床毒性試験間では、観察される事象に不一致もしばしばみられる。このような事象の一つに血中トランスアミナーゼ活性の上昇がある。

     トランスアミナーゼは肝障害のマーカー酵素として古くから測定され、特異体質性肝障害のリスク評価においても鋭敏なマーカーの一つとされている。しかしながら、非臨床毒性試験においては血中トランスアミナーゼ活性のみが軽度に上昇し肝機能障害を示唆する病理組織学的変化が認められないことがある。臨床試験においても、血中トランスアミナーゼ活性のみが軽度に上昇するものの他の肝機能検査に異常がみられない状況にしばしば遭遇する。また、血中トランスアミナーゼ活性は、特に臨床試験において食事条件、運動などの環境要因で変動することも報告されている。さらに、一部の糖代謝/脂質代謝改善薬では、その薬理作用に関連して、臨床あるいは非臨床において血中トランスアミナーゼ活性が肝障害とは異なるメカニズムで上昇することも知られている1)。これらのことは血中トランスアミナーゼ活性を指標とした肝障害のリスク評価を困難なものにしており、非臨床あるいは臨床試験において血中トランスアミナーゼ活性のみが軽度に上昇するような状況においては肝障害のリスクを様々な角度から評価する必要がある。

     以上の背景を踏まえ本稿では、血中トランスアミナーゼ活性の軽度上昇が認められた3つの開発化合物(Compound A、B及びC)について臨床及び非臨床試験のデータを紹介する。これらの開発化合物はいずれも糖代謝あるいは脂質代謝改善を適応として開発されたものであり、臨床試験及び非臨床毒性試験において肝機能障害を示唆する明らかな所見は認められなかった。また、その開発過程においては、ヒトの肝障害リスク評価のための非臨床におけるメカニズム検討と、臨床、非臨床、安全性情報の各部門間で慎重な議論が繰り返された。メカニズム検討の結果、これらの開発化合物の血中トランスアミナーゼ活性上昇作用は肝機能障害に起因する可能性は極めて低く、その薬理作用に関連する可能性が高いことが示された。

     これら3つの化合物は、後にそれぞれ別個の理由で開発が中止されたが*1、臨床・非臨床部門の連携によるリスクマネジメントの一例として、血中トランスアミナーゼ活性上昇に関するわれわれの検討内容を紹介する。

  • 築館 一男
    原稿種別: その他
    2011 年 2011 巻 13 号 p. 107
    発行日: 2011/09/15
    公開日: 2024/01/15
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     第36回日本トキシコロジー学会(JSOT)学術年会(2009年)の「ファーマコビジランス」シンポジウムにおいて、非臨床と臨床の連携によりヒトでのリスクを低減させることを目的に、安全性上の理由から開発を終結した実例を取り上げ、本邦初の“非臨床・臨床ジョイントディスカッション”がスタートした。その発表においては、非臨床と臨床の担当者が双方のデータを十分にディスカッションし、相互理解を深めることが極めて重要であることが議論された。また、ヒトでのリスクを評価・予測するための毒性メカニズムの解明ならびにポテンシャルリスクを臨床で適切にモニターするためのバイオマーカーの重要性が指摘された。シンポジウム終了後のアンケート調査では、ジョイントディスカッションの継続、開発終結事例の情報収集・解析のシステム化及び情報の共有化などの要望が多かった。

  • 日本製薬医学会[JAPhMed] , 安全性評価研究会/PV分科会
    原稿種別: その他
    2011 年 2011 巻 13 号 p. 108-114
    発行日: 2011/09/15
    公開日: 2024/01/15
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     医薬品のライフサイクルを通して、ヒトでのリスク低減化を考えて行く上で、サイエンスに基づき、非臨床と臨床がコミュニケーションできるようになることが重要である。

     昨年、ICHE2F/DSUR1)がステップ4に達し国内通知化も近い中、市販前からの医薬品リスクマネジメントにおいて、非臨床もヒトでのリスク低減化に貢献することがより一層求められている。

     新たな潮流の中、第37回日本トキシコロジー学会学術年会は「トキシコロジー:人の健康と安全への貢献」をテーマに、1000人以上の参加者を集めて開催された。

     多くの関係者の多大なご尽力と製薬企業の英断により、安全性の理由で開発が終結した化合物や生物製剤を具体事例として用いた本邦初の“非臨床・臨床ジョイントディスカッション(JD);シンポジウム「ファーマコビジランス」”が実現し2年目となる本会では、特に薬剤性肝障害(DILI)に焦点を絞り、副作用発現メカニズムへ言及したディスカッションとなった。

     製薬企業にとって開発品に関する具体事例は機密情報であるが、それらの安全性情報は「ヒトでの副作用リスク低減化へのチャレンジ」を推進する上で極めて有用かつ貴重な情報であり、共有化のためのシステム構築に向けて、非臨床及び臨床安全性の専門家が緊密に連携しサイエンスに基づくJDを継続し、医薬品のリスク低減化、安全性の確保のための問題を提起し、解決法を提示することを目指している。

     ここでは、シンポジウム「ファーマコビジランス」終了後に実施したアンケート結果を紹介するとともに、総合討論を振り返り、今後、シンポジウム「ファーマコビジランス」において取り組むべき課題についてとりまとめた。

  • 今村 恭子
    原稿種別: その他
    2011 年 2011 巻 13 号 p. 115
    発行日: 2011/09/15
    公開日: 2024/01/15
    解説誌・一般情報誌 フリー

     有効で安全な医薬品の開発に向けた非臨床開発と臨床医学の専門家のフォーラム作りをめざして、安全性評価研究会ファーマコビジランス分科会と一般財団法人日本製薬医学会のメンバーが合同で活動するようになって約4年となる。この間、日本トキシコロジー学会でのシンポジウムを始め、安全性に関する勉強会や情報交換を通して互いの切磋琢磨を心がけてきた。2010年の沖縄でのシンポジウムでは、前年に引き続いての開発中止品目の事例研究発表に加えて、臨床薬理の現場におけるDILIへの取り組みや、海外の非営利研究機関であるHESIにおける国際共同プロジェクトも紹介することができたことは、プログラムの一段の成長を思わせるものであった。

〈オムニブラー〉
  • 榊原 啓之, 小柳 顯陽, 青島 良輝, 鈴木 敬明, 木村 昌由美, 下位 香代子
    原稿種別: その他
    2011 年 2011 巻 13 号 p. 116-123
    発行日: 2011/09/15
    公開日: 2024/01/15
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    はじめに

     われわれヒトやげっ歯類等の生物体内には、広く“体内時計”が存在しており、ミクロな現象(例えば、遺伝子発現)からマクロな現象(例えば、活動量や心拍数)まで、多くの生命現象が約24時間周期のリズム、いわゆる“概日リズム”を持つことが知られている。一方、毒性試験や機能性評価試験で用いられるマウスやラット等のげっ歯類は、明暗サイクルや温度、湿度等の室内環境が厳密に制御された施設内にて飼育されており、12時間周期の明暗サイクルは、通常、人間社会に合わせて、明期が日中(例えば8:00~20:00)に設定される場合が多い。そして様々な試験が明期に実施されている。これは、試験の評価が夜行性のげっ歯類にとっての睡眠期に実施されていることを示している。本稿では、明期と暗期におけるマウスの体内リズムの違いを、最近の知見を中心に紹介するとともに、外界からの刺激(化学物質の侵入やストレス)に対する応答が、睡眠期と覚醒期とで異なる可能性について論じる。

  • 香月 康宏, 押村 光雄
    原稿種別: その他
    2011 年 2011 巻 13 号 p. 124-126
    発行日: 2011/09/15
    公開日: 2024/01/15
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    はじめに

     トランスジェニック技術は、遺伝子を破壊または導入し、その表現型を解析することにより、遺伝子がどのような機能を持つかを知る上で非常に重要な技術となっている。しかし、クローン化DNA断片を使用するこれまでのトランスジェニック技術では、細菌人工染色体(BAC)を用いても導入可能なDNAは通常100kbが限界であり1)、哺乳動物の遺伝子としては珍しくない1Mb、あるいはそれを超える大きさを持つ遺伝子や遺伝子クラスターの導入は不可能であった。哺乳動物の遺伝子は制御領域も含めると数百kb以上に及ぶことが多く、それらの全てを含むDNA領域を導入できないため、遺伝子本来の発現を量的・質的に本来の生理的発現パターンに再現できなかった。これらの問題を解決するために、巨大なヒト遺伝子、複数のヒト遺伝子を比較的安定な形で導入可能である微小核細胞融合法(Microcell-Mediated Chromosome Transfer; MMCT)を用いて2)、単一ヒト染色体あるいはその断片をマウス胚性幹(ES)細胞へ導入し、そのES細胞からキメラマウスを作製することにより、10Mb以上の機能的なヒト染色体断片を保持するマウスの作製、子孫への伝播が可能となった3)。これによりin vivoでのヒト遺伝子の機能解析と巨大なヒト遺伝子を保持する「ヒト型」モデル動物の作製が可能となった。さらに最近では動物個体で安定に維持できるヒト人工染色体(human artificial chromosome; HAC)の開発により4,5)、遺伝子機能を明らかにするためのツールが整ってきた。本稿ではヒト染色体導入マウスの作製方法、ヒトCYP3A遺伝子クラスター導入マウスの医薬品開発への利用の可能性について紹介する。

  • 永尾 雅哉
    原稿種別: その他
    2011 年 2011 巻 13 号 p. 127-132
    発行日: 2011/09/15
    公開日: 2024/01/15
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    はじめに

     エリスロポエチン(erythropoietin, EPO)は赤血球造血因子であり1)、腎性貧血患者の貧血治療薬として、大成功を収めたバイオ新薬である。EPOは主として赤血球前駆細胞であるcolony forming-unit erythroid(CFU-E)に作用し、その増殖・分化・生存促進因子として機能することで、赤血球量を調節する。EPOは胎児では肝臓で、成体では腎臓で産生され、骨髄中に存在する前述の赤血球前駆細胞に作用する。EPOの主要な産生制御因子は低酸素である。即ち、大量の出血や酸素の薄い高地において酸素不足に陥ると、末梢への酸素供給が低下するため、EPOを発現させて、酸素を運ぶ赤血球量を増やそうとする機構が働く。このEPOの腎臓での低酸素誘導は後で述べるように一過的であり、必要以上に赤血球を作り続け、血管に血球が詰まることがないように制御されている。ところがスポーツ界ではEPO投与により、運動に際して利用できる酸素量を増やすことで、目に見えてパフォーマンスが上昇するため、ドーピング薬として使う場合があり、下手をすると赤血球が増えすぎて、血管につまり、心筋梗塞により命を落とすことになる。なお、後述のようにEPOは神経栄養因子、血管形成促進因子としても機能し、それに応じた組織でも産生され、目的に応じた発現制御を受ける。

     さて、EPOは糖タンパク質であり、糖鎖末端のシアル酸が血中安定性、in vivoでの活性に重要な働きをするため、組換え体EPOを生産するにあたり動物培養細胞を用いる必要がある。なお、糖鎖はヘテロジェニティーがあるため、組換え体の品質管理には苦労を要する。

     本稿ではEPO遺伝子のクローニングに始まり、組換え体の生産、EPOの新機能、改変型EPOの生産など、EPOをめぐる一連の研究の進展について概説する。また後半ではEPOの低酸素依存的発現に関わるHypoxia-inducible factor(HIF)について、簡単に触れることにする。

     なお、EPOに関しては良い総説、書籍があるので、興味をお持ちの方はそちらをご覧頂きたい1-3)。また本稿では概要を把握して頂くことを目的としているため、参考文献には日本語の総説や、オリジナル論文よりも最近の総説を記載したケースがあることをご了解頂きたい。

  • 桃井 道子
    原稿種別: その他
    2011 年 2011 巻 13 号 p. 133-137
    発行日: 2011/09/15
    公開日: 2024/01/15
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     近年、動物愛護の観点から薬物の安全性評価はできるだけ動物を削減する方向に進んでおり、代替法として培養細胞を用いて評価するin vitro試験のニーズが高まっている。培養細胞を使用することにより、処理できるサンプル数が大幅に増え、新薬開発プロセスの早い段階での評価が可能というメリットもある。その半面、正確性・信頼性の高いアッセイ手法を用い、正しくデータ解析を行わなければ、生体内での事象と乖離した結果を与える恐れがある。またin vitro試験では特定のバイオマーカーを指標として細胞毒性を評価するため、単一のアッセイ手法では総合的な細胞毒性評価が難しい。

     本稿では、発光技術を用いた正確性・信頼性の高いin vitro試験法と、複数のバイオマーカーを組み合わせた毒性評価例を紹介する。

〈毒性質問箱〉
  • 高橋 道人, 牧 栄二, 竹藤 順子, 川村 祐司, 宮内 慎, 小田部 耕二, 孫谷 弘明
    原稿種別: その他
    2011 年 2011 巻 13 号 p. 142-157
    発行日: 2011/09/15
    公開日: 2024/01/15
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    はじめに

     げっ歯類であるマウス及びラットは、非臨床試験において最も身近で高頻度に使用されている動物である。すなわち、一般毒性試験、生殖発生毒性試験、遺伝毒性試験、がん原性試験、安全性薬理試験など、多くの被験物質の安全性評価においてマウス及びラットを用いる試験計画が立案され、その試験結果はヒトにおける安全性予測に活用されている。本稿では、日常余り気を留めないで使用されているマウス・ラットに焦点を当て、日常感じている疑問にWistar Hannover系ラットなどの最新の話題を交え、「マウス・ラット試験の諸問題」と題してQ&A形式で取りまとめた。

〈活動記録〉
編集後記
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