谷本学校 毒性質問箱
Online ISSN : 2436-5114
2010 巻, 12 号
谷本学校 毒性質問箱
選択された号の論文の26件中1~26を表示しています
はじめに
〈特集1〉医薬品の安全性試験 教科書から学べないもの
  • 堀井 郁夫, 鈴木 睦
    原稿種別: その他
    2010 年 2010 巻 12 号 p. 1-20
    発行日: 2010/06/20
    公開日: 2024/01/30
    解説誌・一般情報誌 フリー

     医薬品開発の創薬時・臨床開発時を通して、当該化合物(薬物)の安全性評価は、常に重要懸案事項として取り上げられる。このような背景のなか、副作用の観点から医薬品承認申請における総合的安全性評価の持つ意義は大きい。総合的安全性評価には毒性学を中心とした科学のみでなく広範囲の多様性科学(薬理学、病理学、生物学、生理学、生化学、薬物動態学、分子生物学、医薬品化学など)からのアプローチが要求される。本報では承認申請時に対面する医薬品安全性評価を取り上げ、当局と申請者間の質疑応答の事例を対比させながら安全性評価の基本的な考え方、ケース・バイ・ケース的な取り組み方などについて解説を試みた。その上で毒作用発現・展開からみた毒性変化の持つ意味を鑑みたアプローチの必要性、さらには分子毒性学的アプローチの位置付けと将来的展望についても言及した。

  • 門田 利人
    原稿種別: その他
    2010 年 2010 巻 12 号 p. 21-27
    発行日: 2010/06/20
    公開日: 2024/01/30
    解説誌・一般情報誌 フリー

     無毒性量、NOAEL、ノアエルという用語を聞いたことがないという毒性研究者がいたら、間違いなくその方は毒性研究者としては「もぐり」です。認定トキシコロジストのバイブルであるキャサレット&ドールの「第7版トキシコロジー」には、4ページ(p116~119)に渡っての説明があります。

     日本の医薬品開発分野に限って言えば、この用語がICH 1で議論され始めてから20年は経ち、毒性関連の書籍やガイドラインに顔を出してから40年以上は経過しています。しかし、今でも、セミナー企画会社や業界専門書籍発行会社から、講演や執筆の依頼があります。その理由は簡単で、無毒性量を算出することがとりもなおさず毒性を判断し、医薬品の安全性を評価することと等しいからと理解しています。すなわち、無毒性量そのものを知りたいのではなく、総合的な毒性評価についての様々な疑問を解きたいという要望だと思います。そんな命題を、数時間のセミナーや数十ページの原稿で語りつくせるわけはありません。したがって、本稿の執筆についても、必ずしも積極的ではなかったのですが、製薬会社の新薬開発に携わってきた人達にとって、無毒性量をめぐる諸問題については行政(審査)側との長い長い議論(語るも涙)の歴史があり、後進の方々に少しは知っておいて欲しいという想いと、基本的な考え方や見方(少し個人的にはなるかもしれないことをお断りして)についてはお話できると思い筆をとりました。

     谷学の会員や社内の人達からよくいただく無毒性量に関する質問を中心に、本機関誌名にちなんでQ&A形式で話を進めて行きます。なお、医薬品開発における無毒性量:NOAEL(ノアエル)であることを、まず、前提として頭においていただければと思います。

  • 松平 忠弘
    原稿種別: その他
    2010 年 2010 巻 12 号 p. 28-35
    発行日: 2010/06/20
    公開日: 2024/01/30
    解説誌・一般情報誌 フリー

     安全性薬理試験では、治療用量およびそれを上回る用量の曝露でみられる被験薬の好ましくない薬理効果を検討する。低分子化合物では、①目的とする効果とは別の予想外の「オフ・ターゲット」活性を明らかにすること、②臨床あるいは非臨床試験から推察された有害事象のより深い検討、③候補薬剤が属するその治療手段に共通した有害作用の詳細な検討などがその主な目的である(Class effect)。一方、Biologicsでは標的に対する特異性が通常極めて高く、安全性薬理試験は高度に特異的な薬剤-標的相互作用および薬力学的作用の詳細な特徴付けに一層重点が置かれる。

     Biologicsに対する安全性薬理試験の考え方はICH S6ガイドラインに基本的な記載があるが、まず安全性試験コアバッテリーを検討し、その結果からその他の安全性薬理試験実施を検討する基本姿勢で、一般の化学合成品と変わりはない。ただし、biologicsの場合は、標的となる分子が明確であり、薬理作用はその標的分子を有する組織、臓器に対して発現する。従って、一般のbiologicsの毒性試験同様、その標的分子の有無あるいはその分子に対する親和性を考慮して動物種を選択する。通常、biologicsでは反応性がない動物での非特異的な作用を検討する意義には疑問がある。その分子の特性を熟慮したうえで、ケース・バイ・ケースで適切な動物種を選択して、適切な評価をすべきであろう。 なお、2006年3月イギリスでのTGN 1412の臨床試験結果を受けて、その翌年EMEAから”Guideline on requirements for first-in-human clinical trials for potential high risk medical products” というガイドラインが提示されている。ここでいう“potential high risk medical products”の定義は、作用様式および標的分子の性質が十分に解明されておらず、その薬理効果および毒性評価に適切な動物モデルがない場合と考えられる。さらに、新規作用機序または多面的な作用機構を有するような場合や免疫系に作用するもの、またagonistic効果を持つような場合もhigh riskとされている。このようなhigh riskとされる薬剤に対して、このガイドラインには、ケース・バイ・ケースでコアバッテリー以外にヒト組織を用いたin vitro試験などを追加検討することを推奨している。これは、S7Bの内容と本質的に変わりはないが、さらなる慎重さを要求したものとなっている。

     本稿では、biologicsの安全性薬理試験について、最近承認されたbiologicsの事例も示しながらまとめていきたい。

  • 千葉 克芳, 高砂 浄, 三分一所 厚司
    原稿種別: その他
    2010 年 2010 巻 12 号 p. 36-44
    発行日: 2010/06/20
    公開日: 2024/01/30
    解説誌・一般情報誌 フリー

     抗不整脈薬以外の薬物であっても、心電図のQT間隔を延長させ、特殊な多形性心室頻拍であるtorsades de pointes(TdP)を誘発し、死に至らしめる可能性のあることは周知の事実となっており、その副作用回避が新薬開発において重要視されている。実際、QT延長やTdP発生を理由に、多くの薬物が市場から撤退あるいは処方制限を余儀なくされるようになり1)、日米EU医薬品規制調和国際会議(ICH)のS7Bガイドラインに従って、ヒト用医薬品の心室再分極遅延(QT間隔延長)のリスクを評価する非臨床試験が不可欠となっている。しかしながら、S7Bガイドラインで推奨されているin vitro IKr試験(hERG電流アッセイ)および正常動物を用いたin vivo QT試験(テレメトリー心電図評価)の評価結果から、正確に薬物誘発性QT延長症候群(LQTS)の発生を予測することが困難であることが広く認識されるようになった。

     そこで、ヒトにおける薬物誘発性LQTSの発生を精度よく予測するためには、これら2つの標準的な試験以外の活用も望まれる。本稿では、最新の科学的知見に基づき我々が提案する、催不整脈性の予測に有用と考えられているフォローアップ試験およびパラメータを考慮に入れた非臨床評価ストラテジーを中心に紹介し、概説する。

  • 宮内 慎, 川村 祐司, 服部 亜樹子
    原稿種別: その他
    2010 年 2010 巻 12 号 p. 45-50
    発行日: 2010/06/20
    公開日: 2024/01/30
    解説誌・一般情報誌 フリー

     近年、医薬品の候補化合物は難水溶性化合物が多くなっている。その原因として、コンビナトリアルケミストリーによる自動合成やハイスループットスクリーニング(HTS)の導入、合成技術の向上による化合物の複雑化・高分子量化などが指摘されている1,2)。難溶性化合物は経口製剤においては吸収性の低下や投与量の増大、注射剤においては安全性の低下が課題となるため、溶解度や溶解速度を高め、溶出特性を改善する様々な試みがなされている。溶出特性を改善する方法としては、塩酸塩などの可溶性の塩の調製、プロドラッグ化、油性の基剤や界面活性剤による可溶化、微粒子化・微細化による表面積の増大、固体分散体などの非晶質化、ミセル、包接複合体などがある。これらの方法の詳細については多くの論文やレビューがあるので参照されたい3-7)

     創薬初期の段階では化合物の量が限られているため、製剤的な検討による溶出特性の改善は難しい。従って、様々な溶媒を用いることによって難溶性化合物を溶解させて試験を行うことが多い。このような溶媒としては、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide、DMSO)が代表的なものであり、難溶性の化合物を溶解し投与するには良く使用されることが知られている。しかしながら、この有機溶媒などは、比較的低用量で短期の薬理試験では使用可能であっても、高用量の被験物質を投与する必要がある毒性試験では、より高濃度または高容量の有機溶媒を用いざるを得ず、その場合には有機溶媒の影響が発現してしまい、被験物質の正しい毒性評価に影響を及ぼす可能性が大きい。その一方で、過去の使用実績が少ない溶媒を選択することは、溶媒自体が生体に与える影響を評価するための背景データが不足していることから、毒性試験で得られた所見が被験物質の影響であるかどうかを評価することが困難になるケースも想定される。

     このように被験物質となる化合物の毒性を正しく評価するためには、媒体の特性や生体への影響を理解し、化合物の反応と媒体の変化を区別することが必要となる。本稿ではQ&A方式で媒体の原則や設定の基準、媒体の影響について整理した。毒性試験を実施する際の媒体の選択の一助となれば幸いである。

  • 吉田 真由美, 勝又 孝
    原稿種別: その他
    2010 年 2010 巻 12 号 p. 51-55
    発行日: 2010/06/20
    公開日: 2024/01/30
    解説誌・一般情報誌 フリー

     医薬品開発のみならず動物実験を実施する際に、一番の関心は投与に集まる。きちんと薬効を示す用量を設定することは可能か、無毒性量が求められるか、最高用量が高すぎないかなど、心配は事欠かない事柄である。特にICHガイドラインM3(R2)の中では、最高用量の考え方が臨床試験とあわせて記載され、さらに臨床試験における初回投与量も毒性試験の無毒性量が重要であると記載された。毒性試験の投与量設定は、公比の設定方法により、非臨床試験における薬効薬理試験との間の安全域から、最終的には承認申請時の臨床用量との安全域へと、簡単に数倍あるいは数十倍に変わってしまう場合もある。このように臨床試験から承認申請に大きく影響するのが投与量の設定であるが、それ以前の問題として、投与容量、投与時間などの基本的な事柄も試験の評価をより正確に実施するには重要な問題である。

     本稿では基本的な問題から投与にまつわるQ&Aをまとめた。今後の評価に役立てば幸いである。

  • 児玉 晃孝, 小田部 耕二, 竹藤 順子
    原稿種別: その他
    2010 年 2010 巻 12 号 p. 56-57
    発行日: 2010/06/20
    公開日: 2024/01/30
    解説誌・一般情報誌 フリー

     「採血は毒性試験における臨床検査やトキシコキネティクス(TK)のために実施される必須の作業である。しかし、単に動物からの採血といっても、採血部位の違い、採血前の絶食、頻回採血による貧血など、測定値への影響因子が多岐にわたって存在していることが知られている。従って、試験責任者として試験計画を立てるとき、採血方法をどのように設定するかは、薬剤の影響を正しく評価するうえで重要な課題となっている。

     このような背景より、毒性質問箱においても基本的な採血条件について絶えることがなく議論がされ続けてきている。

     本稿では、臨床検査やTKで実施される採血に関する主なQ&Aをまとめた。

  • 宮脇 出, 南谷 賢一郎, 孫谷 弘明
    原稿種別: その他
    2010 年 2010 巻 12 号 p. 58-64
    発行日: 2010/06/20
    公開日: 2024/01/30
    解説誌・一般情報誌 フリー

     医薬品開発の安全性評価を実施するために、種々の毒性試験が実施されている。その中でも動物を用いた毒性試験は、被験物質の安全性を評価するうえで重要な位置を占める試験となり、これらの毒性試験がヒトに初めて化学品を投与する段階から始まる臨床試験や上市後の安全性を保障する基盤となる。よって、毒性試験において得られた所見が、被験物質の影響によるのか、それ以外の試験系のノイズなのかをきちんと分けて評価する必要がある。毒性試験に与えるノイズの代表的なものとして、動物へのストレスがある。試験に用いられる動物は、本来とは違う環境におかれ、被験物質を強制的に投与されたり、検査をされたりすることから、試験自体がストレスとなる。過去からこのストレスを最小限にするために、動物室の環境、馴化や実験手技などが検討されてきた。ここ数年はイヌにおけるオープンフィールドでの運動や、サル飼育舎に遊具を用いるなど動物倫理的な側面も充実してきている。しかしながら、どのような措置を講じようとも、動物にとって動物室は異空間であり、試験操作そのものはストレスであることから、ストレスの影響を拭い去ることは不可能である。そこで、毒性試験の結果を解釈するうえで、動物へのストレスが及ぼす毒性パラメータへの影響を理解することは重要である。

     本稿では、Q&A方式でストレスに関連した様々な報告をまとめ、動物実験を実施するうえで考慮すべき要因について探った。

     なお、ストレスという用語はSelye1)やChrousos2)により古くから定義されているものの実際その使われ方は非常に曖昧でストレス反応とストレス要因(ストレッサー)が混在しており、誰もが納得できるような定義はない。従って、本稿においては敢えてストレス反応とストレス要因を分けずに論述する。

  • Warren HARVEY, Naomi THOMPSON, Claire REID, Lawrence JACOB, Yoshiro SH ...
    原稿種別: other
    2010 年 2010 巻 12 号 p. 65-69
    発行日: 2010/06/20
    公開日: 2024/01/30
    解説誌・一般情報誌 フリー

     A range of social factors is known to influence immunological responses in laboratory primates. The present investigation examined the effects of two housing environments (stainless steel linked caging and modular gang cage for troupe housing) on lymphocyte subset cell counts in cynomolgus monkeys (Macaca fascicularis). The lymphocyte counts from prestudy blood samples from approximately 400 animals were evaluated. All T, B and NK cell counts were higher in animals housed in ganged enclosures compared with linked caged animals. High individual variability in lymphocyte subset counts during the prestudy phase was evident in animals from both housing environments. Therefore, the type of housing did not affect the variability. The data demonstrate that housing conditions can affect the immune response and furthermore, generally indicate enhanced immune responses for socially and environmental enrichment housed animals. This may have important implications in the management and treatment of primates for safety evaluation studies of biological test substances.

  • 菅井 象一郎, 猪 好孝
    原稿種別: その他
    2010 年 2010 巻 12 号 p. 70-85
    発行日: 2010/06/20
    公開日: 2024/01/30
    解説誌・一般情報誌 フリー

     厚生労働省のGLP(Good Laboratory Practice)省令では、最終報告書は「新薬の承認申請等を目的とするデータを収集する目的で行われる安全性に関する非臨床試験の報告書」と位置づけられる。安全性に関する非臨床試験(毒性試験や安全性薬理試験、以下、非臨床試験)では、ひとつの試験についてひとつの試験計画書(study protocol/study plan)とひとつの最終報告書(final report)が発生する。一方、医薬品の開発、治験申請および承認申請においては図1に示すように最終報告書も含めて多くのドキュメント(申請資料)が発生する。非臨床試験の最終報告書はこれらの一連の申請資料の最もベースとなる文書であり、より高次のドキュメントを作成する際の材料となるものである(図2)。すなわち、最終報告書の記載内容は、そのまま、あるいはさらに抜粋されて申請資料に取り込まれる。よって、非臨床試験のデザインやそこから得られた結果が良好なものであっても、最終報告書の記載内容に問題があったり、その内容や構成が複雑で読者(レビューアー)にとって難解(reviewer-unfriendly)なものであると、その問題は高次のドキュメントに影響する。結果的に、その問題は規制当局から思わぬ照会事項を招き、最終的に新薬開発に要する時間や労力の浪費につながることになる。

     申請資料の作成(ドキュメンテーション)におけるこのような問題を最小化するためには、個々の非臨床試験の最終報告書の内容は、(科学的)論理性や説得性とともに、レビューアーに誤解を与えないような明瞭性や他の非臨床試験の最終報告書との整合性が求められる(図2)。論理性、明瞭性および整合性の点で質が高く、”reviewer-friendly”な最終報告書は、ドキュメンテーションに要する時間や当局からの照会事項の削減にもつながり、最終的には医薬品開発の効率性を向上させることになる。

     以上のことを踏まえ、本稿では、医薬品の非臨床試験における最終報告書の特性、構成および各構成要素を作成するうえでの留意点について述べる。

  • 菅井 象一郎, 猪 好孝
    原稿種別: その他
    2010 年 2010 巻 12 号 p. 86-99
    発行日: 2010/06/20
    公開日: 2024/01/30
    解説誌・一般情報誌 フリー

     本誌の別稿では、非臨床試験の最終報告書を作成するためのライティングの基礎についてまとめた。最終報告書の質を高め、読者(レビューアー)がその内容を理解しやすい(reviewer-friendly)ものとするためには、試験責任者(Study Director: SD)のライティング能力向上とともに、SDによる文書作成をサポートするためのシステムが必要である。本項では、このシステムについて最終報告書テンプレート作成、品質保証、文書管理システムの観点からその一例を紹介する。また、医薬品の国際開発においては、最終報告書を英文で作成することが求められる。一方、日本人の英文作成能力には大きな個人差があり、帰国子女や海外留学・勤務経験者などの一部の例外を除き、初めから優れた英文最終報告書を作成することは困難である。質の高い英文最終報告書を作成するには、SDの英文作成能力向上も必要であるが、SD個人の能力に頼るだけでは十分ではない。すなわち、ネイティブスピーカーによるレビューも含め、英文最終報告書を二重三重にレビューする体制を確立できれば質の高い英文最終報告書を効率的に作成することが可能である。このような観点から、英文最終報告書の作成方法およびその留意点についても最終報告書作成のシステムとして捉え、本稿にまとめた。最後に、最終報告書作成におけるSDの育成体制について考察したい。

  • 鷹見 美穂子
    原稿種別: その他
    2010 年 2010 巻 12 号 p. 100-103
    発行日: 2010/06/20
    公開日: 2024/01/30
    解説誌・一般情報誌 フリー

     本チェックリストは、「reviewer-friendlyな最終報告書の作成」を目標とし、推奨プロセス、心構え、各記載内容のポイントをまとめました。試験責任者(SD)初心者の方は、試験計画書作成の段階からこのチェックリストを使用することで、試験開始から報告書作成までのプロセスがイメージできると思います。特に、「心構え」ではreviewerに配慮した書き方に至るための思考過程をまとめましたので、本項を報告書作成の前後で確認していただきたい。また、本チェックリストをベースに、新たなチェック項目を追加し、オリジナルなチェックリストを作成するのもよいかもしれません。

     医薬品開発が困難を極めるなか、本チェックリストが開発の効率化やSDの教育に少しでもお役に立てれば幸いです。

  • 鈴木 睦, 若松 昭秀
    原稿種別: その他
    2010 年 2010 巻 12 号 p. 104-110
    発行日: 2010/06/20
    公開日: 2024/01/30
    解説誌・一般情報誌 フリー

     ここ数年、医薬品メーカーにおける非臨床安全性試験の実施形態が大きく変化している。特に定型的なGLP試験は、一昔前までは、各医薬品メーカーは自社に安全性研究施設を持ち、試験を実施する形態が主流であった。しかし、医薬品メーカーを取り巻く様々な外部環境、内部環境の変化により、定型的なGLP試験は、医薬品開発の効率化を目的に外部委託という形態で実施されることが多くなった。この変化に伴って、メーカーで医薬品開発に携わる“研究員”が実施すべき主とする業務も変化してきている。すなわち、自らGLP試験を実施する業務から委託試験のコントロールという業務への変化である。委託試験をコントロールする業務は、“モニタリング”が主な作業となる。

  • 松島 浩
    原稿種別: その他
    2010 年 2010 巻 12 号 p. 111-115
    発行日: 2010/06/20
    公開日: 2024/01/30
    解説誌・一般情報誌 フリー

     医薬品開発において、開発中の新規化合物が前臨床段階で有効性が期待され、毒性的な問題もクリアされていれば、次は臨床開発段階へと移行する。開発候補品をヒトに初めて投与する試験、すなわちFirst in Human(FIH)試験へと移行するわけであるが、初回用量をどのように設定するか、考え出すとこれはなかなか難しい問題である。従来の方法では、動物での無毒性用量(NOAEL)の1/60や50%致死量の1/600などを目安に決めているケースが多かったのではないかと思われるが、近年は有効性などを考慮した初回用量の設定も増えているように思われる。この初回用量の考え方において、筆者はFDAやEMEAのガイダンスを参考にしながら、思うところを述べてみたいと思うが、これは筆者の個人的な見解に過ぎないことを予めご留意いただきたい。しかしながら、読者の皆様に少しでもお役に立てれば幸いである。

〈特集2〉市販前から市販後まで一貫した安全性評価
  • 日本製薬医学会 安全性評価研究会ファーマコビジランス分科会
    原稿種別: その他
    2010 年 2010 巻 12 号 p. 117
    発行日: 2010/06/20
    公開日: 2024/01/30
    解説誌・一般情報誌 フリー

     医薬品ライフサイクルマネジメントにおいては、「非臨床と臨床の連携」という観点からヒトでの副作用リスク低減化をトキシコロジスト(非臨床)と安全性担当医師(臨床)がともに考え、協議して行く場が必要である。

  • 非臨床/トキシコロジストは、安全性医師と連携して副作用データをどう読むか
    岩崎 甫
    原稿種別: その他
    2010 年 2010 巻 12 号 p. 118-119
    発行日: 2010/06/20
    公開日: 2024/01/30
    解説誌・一般情報誌 フリー

     2009年度のトキシコロジー学会の会長である岩手大学の津田修治教授は、以前私と同じ製薬会社に勤務していたことがある。いつも津田さん、津田さんと呼ばせていただいていたので、津田教授というとどうも他人行儀になってしまう。で、ここでも津田さんと呼ばせてもらおう。その当時、津田さんは非臨床部門の毒性の責任者で、私は臨床開発を担当していた。昔のことなので、詳しい経緯は忘れてしまったが、臨床開発の安全性の担当者が不在となり、この部署のまとめ役を探す必要が生じた。その時私は津田さんに、臨床開発部門に移って安全性部門を引き受けてくれないかとお願いした。当時もおそらく今も、臨床開発の経験のない方がこの部門を担当することはあまりないのではと思う。しかし、私は医薬品の安全性の評価は臨床的な観点からの判断や重篤度や頻度による分類などだけでなく、副作用が発生した時には、「なぜ?どうして?」とその発生したメカニズムを考えることが重要と考えていて、それには非臨床の立場から医薬品の卵の化合物の基礎的な情報を豊富に持っている毒性部門のスペシャリストとの共同作業が必要であろうと考えたからであった。その話しを持ちかけた時、津田さんは、「え、私は臨床的なことは判りませんよ」と予想される反応を示したけれど、何故このような話を持ちかけたかと理由を説明すると、「ふうむ、なるほどね」と理解を示してくれた。ただ、その時に岩手大学からの教職の誘いも舞い込んで、結果として大学に移ってしまったので、この話は、それで終ってしまった。その後も毒性の担当者を臨床開発に参加させようと試みたけれど、会社の合併や組織変更などがあり、実現しないまま時が過ぎていった。このように、医薬品の安全性の評価には、臨床的な眼を持っている者と、毒性の情報を咀嚼している者との共同作業が望ましい形と私は思っており、同様な考えを持っている方も少なくないのではないかと思われる。しかし現実には、そのようなシステムはどうも実際には機能していないようである。

  • 佐藤 淳子
    原稿種別: その他
    2010 年 2010 巻 12 号 p. 120-122
    発行日: 2010/06/20
    公開日: 2024/01/30
    解説誌・一般情報誌 フリー

    1. DSUR導入の経緯

     市販後においては、医薬品のより安全な使用、より適正な使用を目指し、世界で集積された安全性情報を1冊の冊子にまとめられるようになっている。いわゆる市販医薬品に関する定期的安全性最新報告(Periodic Safety Update Report、PSUR)である。PSURは、1996年に日米EU医薬品規制調和国際会議(International Conference on Harmonization of Technical Requirements for Registration of Pharmaceuticals for Human Use, ICH)において合意され、日本では、1997年3月に「市販医薬品に関する定期的安全性最新報告(PSUR)について(平成9年3月27日薬安32号)」として通知、導入されるに至っている。

     欧米においては、開発中の医薬品についても、市販後のPSURのような安全性のSummary report制度が存在しており、年1回の提出が求められている。日本においては、昨年度までは開発段階における安全性のSummary reportは存在しない状況にあったが、平成21年4月より、治験薬重篤副作用等症例定期報告書として、6ヵ月ごとに重篤副作用等症例の発現状況一覧の提出が求められるようになった。しかしながら、本邦における治験薬重篤副作用等症例定期報告書は、ラインリストのみであり、欧米において求められているSummary reportとは、記載されている内容がかなり異なっている(日本で導入された治験薬重篤副作用等症例定期報告書がこの形態となった経緯については、治験のあり方検討会の議事録等(http://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/09/s0919-8.html)を参照)。

     昨今、医薬品の開発戦略として、国際共同開発が増加している。上記のような異なる制度の下では、1つの国際共同試験において、3通りの安全性のSummary reportを作成するような非効率な作業が発生することになる。また、発現頻度の低い副作用の検出や、副作用発現のリスク因子解析など、より多くのデータ集積が有用な場合もある。このような観点から、地域別の安全性Summary reportを作成するより、1成分につき1冊の情報としてまとめた方が、作業の効率化やより適切な安全対策が図れるものと考え、2006年9月、開発段階における定期的安全性最新報告(Developmental Safety Update Report、DSUR)導入に際するconcept paperがまとめられるに至った(http://www.ich.org/LOB/media/MEDIA3302.pdf)。以後、ICHにおいて、E2Fとしてコーディングされ、DSURにかかるガイドラインが検討されてきている。

  • 築舘 一男, Stewart Geary
    原稿種別: その他
    2010 年 2010 巻 12 号 p. 123-128
    発行日: 2010/06/20
    公開日: 2024/01/30
    解説誌・一般情報誌 フリー

     医薬品開発の成功確度向上は、業界のみならず規制当局も注目する大きな課題となっている。医薬品開発の成功は、臨床における安全性と期待する薬効のバランス(リスクとベネフィット)に主に係っている。従って、医薬品開発は安全性が高く薬効に優れた化合物の創出を目指して行われる。臨床試験開始にあたっては、それまでに得られた非臨床試験の全てのデータ・文献的考察・同種同効品の情報などを基に総合的にリスク評価され、その評価から臨床開始用量やモニタリングすべき項目が決定されてフェーズI試験が注意深く行われることになる。しかしながら、初期臨床試験において安全性の理由により、その化合物の医薬品としての開発が終結するケースが依然として多いのも事実である。非臨床安全性データから臨床の安全性をいかに予測しヒトの安全性を確保するかが重要な課題である。近年、オミックス等の新技術を駆使してヒト安全性の予測確度向上のために大きな努力が払われている。一方では、ケーススタディとして、実例を検証し情報を共有化することも意義があると思われる。本稿では、安全性の理由により開発が終結した具体的事例について非臨床と臨床のデータを紹介して、より安全な臨床試験の進め方と医薬品開発の成功確度向上について考察する。

  • 松本 一彦
    原稿種別: その他
    2010 年 2010 巻 12 号 p. 129-134
    発行日: 2010/06/20
    公開日: 2024/01/30
    解説誌・一般情報誌 フリー

     日本たばこ産業(株)安全性研究所で毒性試験に従事していたある日、前年に吸収合併した鳥居薬品(株)への転籍命令。それは鳥居薬品で発売している痛風薬ユリノーム(benzbromarone)が2000年2月に発売後20年間で8名の劇症肝炎患者を出したことによる緊急安全情報発信によるものであった。与えられたミッションは、医薬情報部の再構築とbenzbromaroneによる劇症肝炎の原因究明であった(図1)。

  • 菅井 象一郎, 岩井 久和
    原稿種別: その他
    2010 年 2010 巻 12 号 p. 135-138
    発行日: 2010/06/20
    公開日: 2024/01/30
    解説誌・一般情報誌 フリー

     ファーマコビジランス(PV)分科会およびスフェロイド分科会は、副作用研究における臨床と非臨床のギャップの最小化を目的としてそれぞれ異なる視点から活動を行っている。すなわち、PV分科会活動の目的の1つは、臨床副作用研究における非臨床からのアプローチ方法の探索であり、スフェロイド分科会活動の目的の1つは臨床副作用研究における種差の解消方法としてのスフェロイド培養系の可能性の検討である。両分科会の活動目的を達成するための共通課題として臨床副作用研究におけるヒト培養細胞の利用がある。

     特異体質性臓器障害をはじめとする医薬品の市販後の副作用の予測は、従来のスタンダードな毒性試験では困難なことが多い。このような状況においてヒトの副作用研究における非臨床からのアプローチについては、動物の病態モデルを用いた実験や培養細胞を用いたin vitro実験の積極的利用が今後さらに求められると考える。一方、これらの実験の背景値や得られた結果のヒトへの外挿性は必ずしも十分なものとは言えない。特に培養細胞をヒトの副作用研究に用いる場合は、細胞の培養条件や培養方法についても最適化を図る必要があると考える。また、培養細胞を用いたin vitro実験の結果をin vivoに外挿する場合は、その限界を十分把握する必要がある。さらに、ヒトと動物の細胞の反応性の違いも考慮すべきである。

     以上のような背景を踏まえ、本稿では以下の観点から臨床副作用研究におけるヒト培養細胞の利用について考察を行う。

    ① 医薬品の特異体質性臓器障害の想定メカニズムの1つであるミトコンドリア毒性の評価におけるヒト細胞を用いたin vitro実験の有用性

    ② ヒトの副作用を予測するうえで有用と考えられる培養細胞を用いる評価系

    ③ 培養細胞を用いる実験において検討すべき課題

  • 安全性評価研究会(PV分科会)
    原稿種別: その他
    2010 年 2010 巻 12 号 p. 139-150
    発行日: 2010/06/20
    公開日: 2024/01/30
    解説誌・一般情報誌 フリー

     抗体医薬・核酸医薬等の医薬品開発、オミクス・テクノロジー1)の網羅的解析等の進展に対応して、新たなトキシコロジー領域への関心が高まる中、第36回学術年会(2009年)は「トキシコロジストの社会的貢献と教育」をテーマとして、盛岡にて約1200人の参加者を得て開催された。

     この年会では、トキシコロジストも「ファーマコビジランス」を学ぶ機会が必要との学術年会会長からの意向を受けて、日本製薬医学会(JAPhMed2))と安全性評価研究会PV分科会の連携により本邦初の非臨床・臨床3)の直接対話によるジョイントディスカッションが実現した。

     開催に先立ち、日薬連Praise-netへの掲載(製薬協同時掲載)等により、多様な分野から500人を超える聴衆を得て、DSUR4)(開発時定期的安全性最新報告)導入に際して必要とされる「統括的安全性評価」における非臨床への期待、安全性の理由で終結した事例や市販後副作用事例を取り上げ、非臨床-臨床の連携によるファーマコビジランス(ヒトでのリスク低減化へ向けての取り組み)の可能性について検討した。

     今回、シンポジウム終了後に実施したアンケート結果を紹介するとともに、総合討論を振り返り、今後、シンポジウム「ファーマコビジランス」において取り組むべき課題についてとりまとめた。

Review
  • 菊池 康基
    原稿種別: その他
    2010 年 2010 巻 12 号 p. 151-157
    発行日: 2010/06/20
    公開日: 2024/01/30
    解説誌・一般情報誌 フリー

     この数年、食の安全を脅かす事件が続発している。中国産ウナギの禁止薬物汚染、中国産野菜の残留農薬、餃子の農薬汚染、牛乳へのメラミン混入、農薬やカビによる汚染米の不正販売、産地偽装等々枚挙にいとまない。昨年10月には、エコナ(食用油、花王㈱)の特定保健用食品(トクホ)承認取り下げが大きな話題となり、食の安全を考えるうえで大きな問題をつきつけた。また、2010年1月にはアルコールの販売・広告規制指針案がWHO執行理事会で採択され、春のWHO総会で承認される由、アルコールの害を減らすことが世界中の目標になろうとしている。

     私は、長い間、医薬品の安全性についての研究に関わってきた。今回は食品の安全について、どう考えどう向き合えばよいか、日頃の私の考えをお示ししたい。

     われわれが日常口にする、穀物、野菜、肉、魚貝類は、科学的には全て化学物質である。種々多様な化学物質を食品として摂取することによって、生命活動を維持している。したがって、食の安全とは、すなわち化学物質の安全性をどのように考えるかということになる。そこで最初に、地球上に誕生した生命が、その時時の環境にどのように適合して進化し、また生存環境中の化学物質とどう向き合ってきたかを考えることから始めたい(表1)。

  • 岡田 良子
    原稿種別: その他
    2010 年 2010 巻 12 号 p. 158-159
    発行日: 2010/06/20
    公開日: 2024/01/30
    解説誌・一般情報誌 フリー

    1. 医薬経済に着目したきっかけ

     みなさんは薬について考えるときにどのような言葉が思いつきますか。多くの方は「いのち」とか「科学」とか「社会貢献」という言葉を連想されるのではないでしょうか。逆に「経済」という言葉を思いつく方はほとんどいないと思います。本レビューでは薬を、研究者にとってあまり馴染みのない「経済」という視点から考えてみたいと思います。

     私は薬の探索研究に従事する研究者です。創薬を川に例えたとき、私の仕事は源泉に近い場所にあります。スクリーニング系を構築し、薬の種になるような化合物を見つける仕事です。日々向き合うのはサイエンスであり、自分の仕事が経済活動の一部であることを実感する機会はあまりありません。研究活動は未来への投資であって、すぐに利益を生み出すものではないからです。ところが、2008年の後期高齢者医療制度をめぐる議論をきっかけに、私はサイエンスだけでなく社会、経済という切り口から薬について考えたいと思うようになりました。医療保険制度と製薬企業の経済活動は密接な関係にあるからです。例えば、飲料メーカーであれば人々が商品を購入したお金がめぐりめぐって研究開発費になることが分かります。製薬企業ではどうでしょうか。患者さんは薬の費用の一部を負担しますが、残りの費用の大部分は医療保険から支払われます。保険から支払われることを「償還」といいます。薬の費用が償還されなければ、薬は使用されなくなり、製薬企業の研究開発費も生まれません。つまり製薬企業の一員として、医療保険制度をめぐる問題に当事者意識を持つ必要があります。医療保険制度だけではありません。薬の価格がどのように決まり、どのような流通経路で患者さんの元へ届けられるのか。また海外の医療保険制度はどうなっているのか。これらの疑問に対する答えを漠然と分かっていても、明確に答えられる研究者は多くないと思います。製薬企業の研究者はサイエンティストであると同時に経済活動に従事する社会人です。それならば社会、経済という視点から薬を見つめることも大切なのではないでしょうか。

毒性質問箱
編集後記
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