新型コロナウイルスが深刻化した2020年以降、観光業界では「リアル旅=移動と対面を伴う観光」とそれに対峙する「非リアル旅=オンラインツアー」という新たな枠組みで旅を認識するようになった。確かに、オンラインツアーは実際の観光の場を非物質化した仮想空間であるため、非リアル旅という理解は一理ある。しかし、それではオンラインツアーは「疑似イベント」や「虚構空間」に還元されることとなり、オンラインツアーのもつ多様な価値や複数の方向性へと進化する様相を明らかにすることができない。
そこで本稿では、人間と非人間の相互実践やネットワークから還元主義を是正しようと試みるアクターネットワーク理論(Actor Network Theory、以下、ANT)と、不在のエージェンシーという視座を用いて、オンラインツアーがリアルと非リアルの異種混交的なアソシエーションによって方向付けられ、価値付けられる実態を明らかにする。具体的には、リアルと非リアルが「反転」、「結合」、「溶解」する様相を3つの事例から論じる。こうした本稿の主張は、実際の観光の場における真と偽、リアルと非リアルを明確にわけてきた従来の観光人類学に一石を投じるものである。
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