観光学評論
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9 巻, 2 号
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  • 「アクセス」概念が拓くツーリスト像の検討に向けた理論的整理
    石野 隆美
    2021 年 9 巻 2 号 p. 79-92
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/09/30
    ジャーナル オープンアクセス
    ツーリストに「なる」こと、あるいはツーリストで「ある」ことはいかにして可能となっているのだろうか。本論文は、「ア クセス」を従来のツーリスト理解を相対化するための概念道具としてとらえ、これを観光研究に導入する可能性とその展望について議論することを目的とする。まず、モビリティと社会的排除の問題として検討されてきた「アクセス」の議論をモビリティ・スタディーズの既存研究にもとづいて整理する。次いで、すでに「アクセス」の概念を議論に取り入れてきた観光研究の蓄積を検討し、その課題と可能性をまとめながら、「アクセス」概念を位置づけていく。事例としてフィリピン・マニラの旅行会社において進行する訪日観光ビザ申請の手続きを取りあげ、実際に人びとがツーリストに「なる」ために経験する「アクセス」のプロセスの一端を考察する。
    ツーリストに「なる」ために経験されるプロセス(「ツーリスト・アクセス」)への着目は、ツーリストが決して無条件に成立する存在ではなく、つねにその周囲を取り巻いている種々の制約や条件に関係づけられた存在であることを可視化させてくれる、有用な手がかりとなるものである。
  • 日本人観光者の交流に関するパフォーマンス論的研究
    鍋倉 咲希
    2021 年 9 巻 2 号 p. 93-110
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/09/30
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿は日本人向けゲストハウスにおける観光者の交流がいかに生み出されているのかを、パフォーマンス理論から明らかにする。日本人向けゲストハウスでは、初対面の観光者同士が交流し、親密な関係性が築かれている。これまでゲストハウスにおける観光者の交流を扱ってきた日本人バックパッカーに関する研究は、主に観光者個人の内面に注目し、観光者同士の交流の次元を議論してこなかった。本稿ではまず、グローバル化とメディア化が進展した1990年代以降の日本社会において、他者とのつながりや交流が重要な論点となりつつあることを確認し、そのうえでゲストハウスにおける他者とのつながりの生成過程を明らかにした。パフォーマンスの観点から分析すると、ゲストハウスには交流を促進するための舞台装置や演出、型があり、観光者はそれに沿って行為している。一方で、型に規定されるだけでなく、自ら積極的に交流に参与したり、ときに拒否したりする様子がみられた。こうした観光者の行為はゲストハウスの交流の型をつねに再構築していく。ゲストハウスの交流は事前決定性と未決定性の往還によって生み出されていることが明らかになった。
  • カシュガル旧市街地から何が見えるのか?
    山田 勅之
    2021 年 9 巻 2 号 p. 111-129
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/09/30
    ジャーナル オープンアクセス
    中国では政府主導で観光開発が推進されており、観光空間化にともなう少数民族文化の再編についても、国家の価値観が大きく反映されている。従来の研究は、この点の解明に力点が置かれてきたが、再編の過程で生じる国家の価値観と少数民族の持つエスニシティとの間のせめぎあいについては検証が不足している。そこで本稿では、民族問題が噴出する新疆ウイグル自治区のカシュガル旧市街地を対象に、ウイグル文化とモスクの観光対象化の検証から、観光空間化の意味するところを考察した。まず、ウイグル文化の観光対象化について、観光専門の業態が新たに生じる一方で、職業を単位とするマハッラが観光空間化のなかで存続し ていた。これに対して、中国国内観光客の多くは少数民族が持つプリミティブ性の表象と捉えているが、一方で他の国民国家に対して持つ認識に近い者もいる。またモスクの多くは「宗教の中国化」政策の下、存在そのものが危い状況にあるものの、観光対象化は継続されている。このことは、宗教を消除し切れない実態を表している。他方、カシュガル旧市街地では「壁」が構築され、住民への監視強化が図られている。すなわち、マハッラの観光空間への包摂が、民族騒乱の元凶とみなされる伝統的社会組織の維持につながったためになされた措置と言える。
    カシュガル旧市街地の観光空間化の検証から、ウイグル族の強靭さが見えて来るのである。
  • 国鉄時期の『時刻表』の読書行為に着目して
    安 ウンビョル
    2021 年 9 巻 2 号 p. 131-144
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/09/30
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿は、戦後の国鉄時代(1949-1987)における列車時刻表の読書行為をモビリティの観点から考察する。時刻表とは、列車の運行を定めたダイヤグラムを利用者向けに翻訳したもので、各線区のそれを網羅した月刊の書物を指す言葉でもある。その書物はほとんど数字と記号からなる情報誌であるにもかかわらず、日本では人気を博し多数の愛読者を作り出してきた。本稿は単なる利用とは区別される時刻表の「読書」に着目し、それを「想像されたモビリティ」と「実現されたモビリティ」の2つの局面を行き来する「モビリティ経験」の過程として捉える。『時刻表』の読者欄及び「時刻表の読者」が書いた随筆や書籍に現れる読書の諸相に迫り、時刻表を読むことが単に「旅を計画すること/準備すること」だけではなくさまざまな他の行為を創造したり、またその諸行為との関係のなかで行われることを明らかにする。そうすることによって、複数の時制にわたってさまざまなモノや行為を媒介しながらそれらを連結させる旅のダイナミズムを浮き彫りにする。
  • トライブの研究の再検討と新たな方法論への試み
    山口 誠
    2021 年 9 巻 2 号 p. 145-162
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/09/30
    ジャーナル オープンアクセス
    新型コロナウィルス感染症(COVID-19)後の大学で、観光を学ぶ価値とは何か。この問いを学術的に探究するため、本稿は大学における観光教育の歴史を概観したうえで、今日の観光教育論における準拠点と目されるJ. トライブの研究を再検討し、その主要な論点を考える。記念碑的論文「哲学的実践者」(2002年)を含むトライブの観光教育論を分析し、職業訓練とリベラル教育のバランス、エシカルな観光、フロネシス、スチュワードシップなどの概念を理解したうえで、今日の日本社会において求められる観光教育のための道筋と方法論を考える。トライブは「哲学的実践者」の養成を観光産業の人材あるいはホストに限定して構想したが、本稿ではそれを観光する人びとあるいはゲスト=ツーリストの全般として捉え返し、これからの観光教育ではリベラルでエシカルなツーリストの育成が課題となることを指摘した。
  • 観光行動研究におけるツーリストのリテラシー
    中村 哲
    2021 年 9 巻 2 号 p. 163-178
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/09/30
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿は、観光行動論の立場から、ツーリストのリテラシーについて、以下の2点について既存の研究を基に検討することを目的とする。第1に、旅行をするためのリテラシーとは何かを明らかにする。第2に、旅行を通して得られるコンピテンスは何かを提示する。旅行をするために必要なリテラシーは、旅行全般のリテラシー、地理リテラシー、文化コンピテンスに大別することができ、これらのリテラシーがあることにより、満足が高まる、知覚リスクが減少する、決定延期や回避をしなくなる、記憶に残る経験をできる、ポジティブな文化行動をする、というアウトカムに繋がっていく。旅行を通して得られるコンピテンスは、新しい環境や異文化への適応、オープンマインドであること、他者への理解、他者とのコミュニケーション、自信と独立、ストレスやプレッシャーといった不快な感情へのマネジメント、寛容さ、金銭管理、に整理される。得られるコンピテンスの種類や高低に影響する要因として、モチベーション、関与の程度、旅行経験回数、滞在期間、属性が指摘されている。この知見を踏まえて、日本人の若者の海外旅行に適用する検討を行った。さらに今後の研究の課題を示した。
  • アイヌ—古老のライフストーリー展示にみる観光の可能性
    吉本 裕子
    2021 年 9 巻 2 号 p. 179-195
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/09/30
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿は、「リベラルアーツとしての観光—ツーリストのリテラシーとは何か」という特集の趣旨を踏まえ、アイヌ観光の主要な舞台である博物館において、観光者が獲得できる「リテラシー」とは何かを問いながら、現代の先住民観光の可能性を検討するものである。
    モノ資料を用いて民族文化を分かりやすく展示してきた博物館は、しばしば過去の「伝統」を強調した展示になりがちで、先住民の現況への理解を深めるよりも、固定的で本質主義的なイメージを助長してしまう危険性もあると指摘されてきた。よって近年は、現代の多様な先住民文化を含めた展示を構成することが大きな課題となっている(須永, 2016; 吉田, 1999)。アイヌ文化を展示する博物館でも現代性を含む展示が増加しているが、その多くは工芸家の作品や文化継承者の現況等に偏る傾向にある。一方、本稿で取り上げる現代展示は、同化政策の影響によって文化継承の機会を失った一古老のオルタナティブなライフストーリーを題材にしたものである。古老と筆者との対話から生み出された展示内容や、古老と観光者のコミュニケーションに着目し、本展が観光者に与えた影響を検証しつつ、現代の先住民観光の可能性を考える。
  • 観光とメディアの現代的な関係を問いなおす
    松本 健太郎
    2021 年 9 巻 2 号 p. 197-199
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/09/30
    ジャーナル オープンアクセス
  • 地域社会における「ナショナリゼーション」の力学と揺らぎ
    平井 健文
    2021 年 9 巻 2 号 p. 201-203
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/09/30
    ジャーナル オープンアクセス
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