近年多くの観光列車が導入されており、観光列車は沿線地域の活性化に貢献するものと思われる。本稿は、旅行者の誘客に有益な観光列車の観光価値とその構造について観光要素論・言語学的視座から、それを備えた観光列車による旅行者数の増加を通じた地域経済への効果の大きさを経済波及効果の推計から捉えることで、観光列車の導入による地域経済への効果とその課題について明らかにするものである。
本研究では運行開始後、高乗車率を維持している観光列車「伊予灘ものがたり」を事例とし、沿線住民が関わる「参加・交流」の要素を持つこと、観光列車のテーマを構成することが誘客力に寄与していることを示した。経済波及効果を推計し地域経済への効果の大きさを捉えたところ、先行研究と比較し効果は小さいことが明らかとなったが、沿線住民が観光価値に関与していることを踏まえると、運行頻度の増加は却って観光列車の価値を低下させる可能性がある。従って、観光列車の導入により地域経済に大きな効果をもたらすには観光列車の魅力を高めるだけでなく、域内での観光消費の増大に繋がる観光振興策や域外への漏出を低減させる産業政策を併せて実施することが重要となる。
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