観光学評論
Online ISSN : 2434-0154
Print ISSN : 2187-6649
4 巻, 2 号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
  • 韓 準祐
    2016 年 4 巻 2 号 p. 91-106
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/01/13
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿では、まず、観光まちづくり研究が成功事例の紹介と実践的なマニュアル化を意識した観光まちづくり擁護論に偏るなか、地域内外の多様なアクターの声と実践が捨象される課題を指摘した。次に、観光まちづくりの政策化に対する懐疑的視点からの考察、さらに観光まちづくり実践が行われる地域内における葛藤や対立に焦点を当てる研究など、観光まちづくり擁護研究に対する批判的考察をまとめた。その後、観光まちづくりの成功例でありながら、由布市への合併をめぐる地域内部の対立にも焦点が当てられてきた大分県由布院を事例として取り上げた。由布院内外の多様なアクター間で生じる軋轢や葛藤、対立の詳細について考察することで、観光まちづくり実践の成功物語及びその応用を視野に入れた観光まちづくり擁護論では掬い取られず、その批判論においても十分理解されないことが由布院の現在をかたちづくる上で重要な意味を有していることを明らかにした。
  • エコツーリズムと小笠原新島民の生活実践をめぐって
    山崎 真之
    2016 年 4 巻 2 号 p. 107-119
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/01/13
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿の目的は、東京都小笠原村における新島民と呼ばれる移住者たちの生活実践を事例に、エコツーリズムを通してゲストとホストが転位する社会的背景を明らかにすることである。小笠原は国内でもエコツーリズム先進地域として評価されており、2011年に世界自然遺産に登録された。小笠原のエコツーリズムに中心的に携わっているのは、全島民の大半を占めるに至った新島民であり、彼らの日常的な生活実践の多くはエコツーリズムと結ばれている。先に移住した新島民たちによる観光客への「演出」が見出せ、ゲストをホストに転位させる作用がうかがえる。小笠原の観光は、観光客のみならず、新たな島の担い手をも呼び込んでいる。ただし、移住した新島民のなかには小笠原におけるエコツーリズムのあり方に馴染めず、島外にて再びゲストに転位する者たちもいる。ここからは、エコツーリズムによって揺れ動くゲストとホストという現象を認めることができる。
  • 鳥取県境港市と長野県上田市の観光にみられる文化の脱文脈化
    権 赫麟
    2016 年 4 巻 2 号 p. 121-133
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/01/13
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究は、ポピュラーカルチャーの観光対象化を文化構築主義の観点から分析するものである。本稿が事例として取りあげる鳥取県境港市と長野県上田市は、マンガと歴史という対照的な二つの文化要素を対象とする観光地である。しかしながら、本研究の考察は表面的な様相とは違い、実際これらの地域で観光される文化はポピュラーカルチャーと伝統文化という規範的な範疇に収まるものではないことをみせてくれる。伝統文化とポピュラーカルチャーが「観光されるために」相互浸透的に脱文脈化するという事実は、現代観光が既存の二分法では説明できない新たな文化的価値を構築していることを示している。
  • 宮本 佳範
    2016 年 4 巻 2 号 p. 135-148
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/01/13
    ジャーナル オープンアクセス
    情報倫理、生命倫理、経営倫理など、倫理は各分野の重要事項として位置付けられている。しかし、観光研究・教育において倫理は未だ主要な分野として位置付けられておらず、観光倫理に対する認識自体定まっていないのが現状である。その要因を分析すると、観光に関わるステークホルダーの複雑性と倫理の判断基準の曖昧さの問題があることがわかった。そこで、まず観光倫理に関わる積極的行為主体と倫理的配慮対象の関係について整理した。そして、倫理の判断基準を明確にするために、観光倫理を、観光に関わる者の目指すべき方向性として既に広く合意されている持続可能な観光のための倫理として位置付けた。その観光倫理を実践的なものにするためには、現実の問題に関する実証的研究、それに基づく倫理的行為基準の構築に向けた研究、さらに持続可能な観光のための教育に向けた研究が必要である。その中で、教育、特に観光者に対する教育機会・内容に関する研究が遅れていることを指摘した。そして、観光者を含め幅広い行為主体を対象にした教育を実践するために、持続可能な観光のための教育をESD(持続可能な開発のための教育)に位置付けるという方向性を示した。
  • 山中 弘
    2016 年 4 巻 2 号 p. 149-159
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/01/13
    ジャーナル オープンアクセス
    聖地を訪れることが流行している。この流行は宗教の復興と見るよりも、宗教ツーリズムの流行と理解すべきだろう。なぜ、今日、宗教がツーリズムの資源として積極的に評価されるようになったのだろうか。この問題を考える手がかりは、ツーリズムそのものよりも、後期近代における宗教の変化の中にあるように思われる。本稿の目的は、「長崎の教会群」の世界遺産化に伴う巡礼の商品化の展開の事例を通じて、マクロな宗教社会学的視点から聖地や巡礼の観光資源化、商品化が意味しているものを、後期近代における現代宗教の特質との関連で検討することにある。以下、本稿ではまず、日本における宗教の観光資源化の動向に触れながら、「長崎の教会群」の世界遺産化に伴う巡礼の観光商品化の展開について具体的に紹介する。次いで、こうした事態の意味を理解するために、従来の聖地研究や宗教社会学の理論の若干の検討を行い、「マーケット・モデル」の重要性を指摘する。さらに、S. バウマンを参照して私が「軽い宗教」と呼んでいる現代宗教のいくつかの特質を論じ、最後に、これらの宗教の特質が宗教ツーリズムの流行と深く関わっていることを示唆したいと考えている。
  • 沖縄・斎場御嶽の管理技法と「聖地らしさ」の生成をめぐって
    門田 岳久
    2016 年 4 巻 2 号 p. 161-175
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/01/13
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿の目的は観光地化する聖地において、「聖地らしさ」の維持・生成を果たす要素を、特に聖域管理の技法や仕組みの空間的な展開に着目しながら民族誌的に明らかにすることである。沖縄にある斎場御嶽は琉球王国時代より最高位の聖地として信仰を集め、世界遺産にも登録されているが、2010年代に入り急激な訪問者の増加を見ている。その結果聖域の管理主体にとっては単に自然環境を維持するだけでなく、場所に埋め込まれた信仰や宗教性の維持が課題となっている。聖地の宗教性がいかに持続可能であるか明らかにするには複数の着眼点があるが、本稿では立て札、参道、ゾーニングといった可視的な管理技法に特に着目し、それらが訪問者の行動や意識に働きかけている状況を描写することを目指した。本稿ではこうした構造物やモノ、ボランティアを含む公共的な管理の仕組み、そして文化遺産の保護制度が聖地空間において結びつくことで、宗教とツーリズムの対立が(不完全ながらも)回避されている状況が明らかとなった。
  • 現代チベットの聖地と辺境市場経済システムの連環
    別所 裕介
    2016 年 4 巻 2 号 p. 177-193
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/01/13
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿は、青海チベット最大の聖山であるアニ・マチェンを対象に、「社会主義近代化」を標榜する中国の周縁部で再形成される民衆的な宗教実践領域について検討するものである。現代中国領チベットでは、2000年に始まる「西部大開発」(現在第二期)の15年に及ぶ継続により、巨大ダムと水力発電所による電力網、道路・空港及びチベット鉄道からなるインフラ網、さらに3Gブロードバンド回線による情報通信網がチベット人の生活社会を広くカバーしつつある。国家主導の開発に伴って広がる近代性のネットワークは、これまで厳しい自然環境に立地することで生活社会から隔絶されてきた伝統的なチベット仏教の聖地をも等しく包摂し、インフラと電子ネットワークに支えられた辺境特有の市場経済システムが聖地とそこへの巡礼活動の社会的存立に根底的な影響を及ぼしている。宗教性と近代性が複雑に絡み合って展開されるこうした状況は、仏教伝統の規範性を重視して聖地の構造を研究してきた既存の研究枠組みでは十分に捉え切ることができない。本稿では、当該聖山における集約的なフィールドワーク資料を用いて、「近代国家の内側での聖地の再形成」について総合的な検討を試みる。
  • チュニジアにおける室内装飾具の事例から
    二ツ山 達朗
    2016 年 4 巻 2 号 p. 195-210
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/01/13
    ジャーナル オープンアクセス
    近年の聖地巡礼の隆盛とその要因について分析したリーダーは、巡礼をかたちづくる市場の働きの一つとして、聖地における消費と聖地の商品化に焦点化した考察を行っている。本論文ではこれらの議論を受け、チュニジアにおける聖地を題材とした室内装飾具を事例に、イスラームにおける巡礼と聖地の商品化に関わる問題について考察する。
    調査の結果、チュニジアのムスリムの室内空間には多くのイスラーム装飾具が飾られ、そのうちの一定数は聖地を題材にしたものであることが明らかになった。それらの多くは、安価に大量生産できる印刷物に日付と企業の広告が付されたカレンダー型のものであり、無料で配布されていた。しかしながらマッカの徴表は、他の図像のように際限なく商品化されるわけではなく、一部のムスリムは聖句や聖地が記されたものの正しい扱いをめぐって葛藤し、大量消費することへの対策を講じていた。実際にマッカへ巡礼することが叶わないムスリムによって、マッカの徴表をめぐる再定式化が行われることにより、それらが聖地であることは支えられていると考えられる。
  • 「若者の海外旅行離れ」の実態と打開策を「若者」の声をもとに探る
    薬師寺 浩之
    2016 年 4 巻 2 号 p. 211-213
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/01/13
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