近年の聖地巡礼の隆盛とその要因について分析したリーダーは、巡礼をかたちづくる市場の働きの一つとして、聖地における消費と聖地の商品化に焦点化した考察を行っている。本論文ではこれらの議論を受け、チュニジアにおける聖地を題材とした室内装飾具を事例に、イスラームにおける巡礼と聖地の商品化に関わる問題について考察する。
調査の結果、チュニジアのムスリムの室内空間には多くのイスラーム装飾具が飾られ、そのうちの一定数は聖地を題材にしたものであることが明らかになった。それらの多くは、安価に大量生産できる印刷物に日付と企業の広告が付されたカレンダー型のものであり、無料で配布されていた。しかしながらマッカの徴表は、他の図像のように際限なく商品化されるわけではなく、一部のムスリムは聖句や聖地が記されたものの正しい扱いをめぐって葛藤し、大量消費することへの対策を講じていた。実際にマッカへ巡礼することが叶わないムスリムによって、マッカの徴表をめぐる再定式化が行われることにより、それらが聖地であることは支えられていると考えられる。
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