本稿は、筆者の研究関心である人類学的まちづくり論の観点からまちづくりの議論を辿り、その実践の理論の枠組みを経由し、そこから「アナーキーなまちづくり」というまちづくり実践の展開について論じたものである。
観光まちづくりの実践とその研究は、まちづくりにおける経済的活性化の側面に光を強く当ててきた。しかしCOVID-19の世界的流行にともなって、観光まちづくりを含む観光研究は、議論の土台そのものから改めて問い直す必要がある。そこで本稿は、デヴィッド・グレーバーの議論を参照し、これからのまちづくりを検討した。
観光まちづくりをよりオルタナティヴな未来に向けた「変革のための企画」として再構想するために、本稿では、「アナーキーなまちづくり」の議論が「新たな地平」をひらくに資するかどうかを検討した。「アナーキーなまちづくり」とは、互酬性に基づきながら、即興性や協働性を発揮して生活空間を再編していくプロジェクトのことを指す。そしてその実践の理論は「自己の受容と把握」「他者との協働の作法」「世界認識の理論」の3つの方向性があることを確認した。今後は、現実のまちづくり活動のエスノグラフィックな関与を通じて、新たな研究方法と全体を見渡す理論の整備が必要となる。
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