日本外科感染症学会雑誌
Online ISSN : 2434-0103
Print ISSN : 1349-5755
16 巻, 4 号
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原著
  • 開腹手術と鏡視下手術の比較
    小林 美奈子, 辻本 広紀, 髙畑 りさ, 矢口 義久, 永生 高広, 岡本 耕一, 長谷 和生
    2019 年 16 巻 4 号 p. 197-202
    発行日: 2019/08/31
    公開日: 2019/09/30
    ジャーナル フリー

    手術時手袋の着用は,患者と医療従事者間の病原微生物の伝播経路遮断が目的である。これまでに術中に手袋損傷が起こることは諸家により報告されているが,これらの多くは開腹手術での手袋損傷である。近年,消化器外科領域において内視鏡外科手術が普及しているが,鏡視下手術での手袋損傷の検討はほとんど行われていない。そこで今回われわれは,消化器外科領域において開腹・鏡視下手術時の手袋穿孔率を比較検討した。手術時手袋1,513双,3,026枚の検討を行い,穿孔率は全体で10.9%,開腹手術11.3%,鏡視下手術10.4%であり,穿孔率に差は認められなかった(P=0.4611)。また,二重手袋着用での穿孔率は,インナー手袋5.7%,アウター手袋11.9%であり,インナーはアウターに比し有意に穿孔率が低率であった(P=0.0001)。消化器外科手術における手袋穿孔率は,鏡視下手術においても開腹手術とほぼ同率であり,血液・体液暴露予防やSSI予防の観点から鏡視下手術においても二重手袋の着用が重要であると考えられた。

特集:大腸手術における術前経口抗菌薬投与の是非
巻頭言
原著
  • 藤井 能嗣, 富沢 賢治, 戸田 重夫, 前田 祐介, 平松 康輔, 花岡 裕, 佐藤 力弥, 的場 周一郎, 黒柳 洋弥
    2019 年 16 巻 4 号 p. 204-208
    発行日: 2019/08/31
    公開日: 2019/09/30
    ジャーナル フリー

    大腸切除において術前機械的腸管処置(mechanical bowel preparation:MBP)に経口抗菌薬(oral antibiotics:OAB)を加えることでsurgical site infection (SSI)に予防効果があることが示唆されている。当科におけるOAMBP(OAB+MBP)の腹腔鏡大腸切除のSSIの現状について報告する。方法:2013年から2017年に当科で,OAMBPを施行し,待機的に腹腔鏡下で大腸切除した2,003例のSSIについて検討した。結果:SSI全体は結腸1.9%(22/1,184),直腸7.4%(61/819)。創感染は結腸1.8%(21/1,184),直腸3.7%例(30/819)。縫合不全は結腸0.1%(1/1,146),直腸4.0%(30/753)。腹腔内膿瘍は直腸0.1%(1/819)。腹会陰式直腸切断術(APR)における創感染は36.7%(18/49)。APRを除く直腸SSIは5.5%(42/770)であった。腹腔鏡大腸切除におけるSSIは低率であり,OAMBPにおけるコントロール良好であった。ただしAPRのSSIについては今後検討,改善が必要である結果となった。

  • 池田 篤志, 向井 俊貴, 山口 智弘, 長嵜 寿矢, 秋吉 高志, 長山 聡, 上野 雅資, 福長 洋介, 佐野 武, 小西 毅
    2019 年 16 巻 4 号 p. 209-216
    発行日: 2019/08/31
    公開日: 2019/09/30
    ジャーナル フリー

    近年,大腸手術における予防的経口抗菌薬についてのエビデンスが集積しつつある。一方,本邦で急速に普及した腹腔鏡下手術は術野感染(surgical site infection:SSI)が少なく,そのSSI予防対策の効果・意義は開腹手術と別に検討する必要がある。当院で待機的腹腔鏡下大腸手術を予定した患者を対象とし,経口抗菌薬内服群,内服なし群の2群間でSSI全体の発生率を比較した無作為化比較臨床試験では,SSI発生率は内服群7.8%(20/255),内服なし群7.8%(20/256)であり,内服なし群の非劣性が確認された(P=0.017)。また切開創SSI,臓器/体腔SSI,その他合併症発生率で両群に差はなかった。よって,待機的腹腔鏡下大腸手術において,経口抗菌薬投与は省略可能であると結論した。本稿では,本試験の結果を,本邦において行われた大腸手術における予防的経口抗菌薬に関するエビデンスとの比較を踏まえて考察する。

臨床研究
  • 池永 雅一, 安井 昌義, 三嶋 秀行, 太田 勝也, 上田 正射, 加藤 亮, 家出 清継, 津田 雄二郎, 中島 慎介, 松山 仁, 遠 ...
    2019 年 16 巻 4 号 p. 217-221
    発行日: 2019/08/31
    公開日: 2019/09/30
    ジャーナル フリー

    大腸癌手術での機械的腸管前処置(mechanical bowel preparation:MBP)について,周術期管理の見直しを行う過程で,術前MBPを順次省略・変更することを行ったので,その成績につき大阪医療センターでの経験を報告する。第1期(全症例MBPなし)では手術部位感染(surgical site infection:SSI)は19例中7例(36.8%)であった。第2期(直腸のみグリセリン浣腸)では,17例中3例(17.6%)であった。ともに直腸癌症例で縫合不全を発症し重篤化した。第3期では直腸癌症例にMBPを開始したところSSIを認めなかった。しばらく継続して症例を重ねると,第3―5期(直腸にMBP)ではSSIは125例中14例(11.2%)であった。重篤な合併症はなかった。結腸癌症例ではMBP省略が可能と考えられる一方で直腸癌症例では,縫合不全など合併症を併発すると重篤化することがあり,MBPは必要と考えられた。

総説
トピックス
  • 畑 啓昭
    2019 年 16 巻 4 号 p. 229-234
    発行日: 2019/08/31
    公開日: 2019/09/30
    ジャーナル フリー

    大腸術前の経口抗菌薬による腸管処置については,日本では1980年代以降に術前の2~3日間経口抗菌薬を使用したことによる重症腸炎の合併症例が報告され,その後術前の経口抗菌薬の使用が減少していた。近年多くのガイドラインで,術前日のみの経口抗菌薬の使用が推奨されるようになり,今後使用頻度が増加すると考えられる。一方,Clostridioides difficile (CD)に代表される,抗菌薬の使用に関連して発生する腸炎については世界的に問題となっている。最近の無作為化比較試験の結果では,術前経口抗菌薬を使用した場合のCD感染症の発生割合は0.11%程度で,これまで危惧されているよりは低い発生割合である。しかし,今後経口抗菌薬の使用量が増加することが予想されるため,注意しておくべき腸炎に関連する知見をまとめる。

症例報告
  • 大倉 啓輔, 畑 啓昭, 山口 高史, 妹尾 充敏, 加藤 はる
    2019 年 16 巻 4 号 p. 235-239
    発行日: 2019/08/31
    公開日: 2019/09/30
    ジャーナル フリー

    症例は60歳代,女性。S状結腸の側方発育型大腸腫瘍に対して,内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)を施行した。前処置として,ESD前日の経口抗菌薬の内服およびESD直前から処置後24時間の経静脈抗菌薬投与が行われた。ESD後5日目より腹部膨満を認め,次第に発熱や水様性下痢が出現した。ESD後10日目にClostridioides difficile感染症(CDI)と診断され,VancomycinとMetronidazoleの経鼻経腸投与が開始された。しかし症状は徐々に悪化し,内科的治療抵抗性と判断され,CDIの診断翌日に緊急大腸亜全摘術が施行された。本症例では,内視鏡手術前後に推奨されていない化学的腸管処置が重篤な合併症を伴うCDIの発症の誘因となった可能性があり,CDI予防には適切な抗菌薬の使用が重要であると考えられた。また,重症化を防ぐためにも積極的なCDIの細菌学的検査施行が望ましいと考えられた。

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