胃癌を中心とした胃手術の現在のアプローチ法には開腹,腹腔鏡手術があり,腹壁瘢痕ヘルニアの成因や予防法をアプローチ法ごとに知っておく必要がある。腹壁瘢痕ヘルニアは切開創の手術部位感染と強い関連があるとされ,術前栄養管理,適切な抗菌薬使用,創縁の術中保護,吸収糸の使用などを行うことで切開創感染を予防することが重要である。欧州では開腹手術における閉腹は,吸収の遅いモノフィラメント糸を用いた筋膜1層連続縫合が推奨されている。腹壁瘢痕ヘルニアを予防する胃手術に限定した開腹手術のエビデンスは少ないが,腹腔鏡下胃手術では開腹に比べて創長の短縮による腹壁瘢痕ヘルニア発生率の減少が期待される。一方でポートサイトヘルニアは腹腔鏡手術に特有であり,8〜10mmのポート創の閉鎖による予防が重要である。
腹壁瘢痕ヘルニアは術後の創部合併症の中でも遭遇する頻度が高い疾患である。当科で行った2018年から2020年の3年間に腹腔鏡下肝切除を行った肝細胞癌の70例中6例に腹壁瘢痕ヘルニアが認められ,発生率は8.6%であった。発生例の背景としては肥満,創感染,術後腹水が多く,正中線上部・標本摘出創部からの脱出が多かった。リスク因子としては術後腹水が認められ,SSI発生例が多い傾向にあった。リスクを認識し,エビデンスに基づいた腹壁閉鎖法と予防措置を行うため,本稿では自験例でのリスク調査の結果を含め,最近の知見を中心に腹壁瘢痕ヘルニアの予防策について述べる。
【背景】腹部正中切開で行う術後の腹壁瘢痕ヘルニアは頻度の高い術後合併症のひとつである。腹部大動脈瘤手術後ではその頻度がさらに高いと報告される。そこで当院で行った腹部大動脈瘤に対する術後の腹壁瘢痕ヘルニアの発症状況を調査し,その危険因子について検討した。【方法】当院で2015年1月から2020年8月までに腹部大動脈瘤に対し腹部正中切開で人工血管置換術を行った100例を対象とした。周術期の因子について,腹壁瘢痕ヘルニアを術後合併した群(H群)16例と合併しなかった群(N群)84例の二群間で比較した。【結果】二群間の比較では,H群で75歳以上の高齢者の割合が高かった。また,H群では有意にCOPDの罹患率が高く,SSIの発生が多かった。多変量解析では75歳以上の高齢者,COPDの罹患が独立した危険因子であった。【まとめ】当院での腹部大動脈瘤術後の腹壁瘢痕ヘルニアの発症率は16%であり,その危険因子は年齢が75歳以上,COPDの罹患であった。
手術時の腹壁閉鎖については,清潔創・準清潔創を中心に術後合併症を減らす手技に関するエビデンスが構築されている。しかし,緊急手術の適応となるような汚染創・感染創に関する検討は多くはない。本稿では,吸収糸・非吸収糸,抗菌縫合糸,洗浄,縫合方法,皮下ドレーン,皮膚閉鎖法,陰圧閉鎖療法などの,清潔創・準清潔創に適応される腹壁閉鎖法に関して,汚染創・感染創を対象とした研究が含まれているかを確認し,結果を当てはめることが可能かを検討した。緊急(汚染)手術における創閉鎖については,予定手術(清潔創・準清潔創)で行っている手技がどのようなエビデンスに基づいているのか,その結果が汚染創・感染創に外挿できるのかを理解したうえで,手技を選択することが重要である。また,現状ではエビデンスが不足し,手技が確定していない部分も多いため,常に新しい情報を得て日々の診療をアップデートしていくことが重要である。
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