日本外科感染症学会雑誌
Online ISSN : 2434-0103
Print ISSN : 1349-5755
15 巻, 6 号
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特集:免疫抑制治療における周術期管理
原著
  • 蝶野 晃弘, 内野 基, 皆川 知洋, 桑原 隆一, 堀尾 勇規, 佐々木 寛文, 坂東 俊宏, 竹末 芳生, 池内 浩基
    2018 年 15 巻 6 号 p. 632-638
    発行日: 2018/12/31
    公開日: 2019/04/20
    ジャーナル フリー

    周術期ステロイド使用は手術部位感染のリスクになることが報告されているが,ステロイド使用例の周術期にはステロイドカバーを行うことが一般的である。しかし,その必要性や方法には明確なエビデンスが乏しい。潰瘍性大腸炎手術での人工肛門閉鎖時におけるステロイドカバーの必要性について検討した。対象は 2015年7月から2018年6月までに,当科で潰瘍性大腸炎に対し 2期分割手術を行い,人工肛門閉鎖時にステロイド離脱状態になっている43例とした。ステロイド総投与量8,000mg(1,000~35,000mg)ステロイド離脱期間:43日(2~166日)であった。41例(95.3%)が早朝コルチゾール基礎値<18μg/dLで,そのうち7例,(17.1%)が迅速 ACTH負荷試験コルチゾール頂値<18μg/dLであったが,続発性副腎皮質機能低下例はなかった。全例ステロイドカバーを行わなかったが,副腎不全症例はなかった。潰瘍性大腸炎手術において,人工肛門閉鎖時にステロイド離脱していればステロイドカバーを行わなくてよい可能性が示唆された。

  • 佐藤 寿行, 内野 基, 横山 陽子, 應田 義雄, 樋田 信幸, 渡邊 憲治, 堀 和敏, 三輪 洋人, 池内 浩基, 中村 志郎
    2018 年 15 巻 6 号 p. 639-644
    発行日: 2018/12/31
    公開日: 2019/04/20
    ジャーナル フリー

    Ulcerative Colitis (UC)に対する免疫抑制系薬剤で治療中に発症する Pneumocystis Pneumonia(PCP)の危険因子を明らかにすること。【方法】2007年から2017年までのUC患者 1,669例中9例でPCPを発症していた。PCP発症者で retrospective case-control studyを行った。【結果】PCP発症群では,年齢と1日あたりの prednisolone(PSL)投与量が有意に高く(年齢: P=0.02,PSL: P=0.002),免疫抑制系薬剤併用数 3剤が有意に多かった (P=0.004)。治療中リンパ球数は有意に低く(P<0.001),cutoff値は 570/μLであった。【結語】PCP発症の危険因子は高齢,治療中リンパ球数低下,免疫抑制系薬剤併用数3剤であった。これらの症例に対して,sulfamethoxazole/trimethoprimの予防内服を検討すべきである。

総説
  • 海道 利実, 上本 伸二
    2018 年 15 巻 6 号 p. 645-654
    発行日: 2018/12/31
    公開日: 2019/04/20
    ジャーナル フリー

    当院では,2012年夏,多剤耐性緑膿菌(MDRP)のアウトブレイクを契機に,一旦成人肝移植プログラムを中断し,手指衛生の徹底,移植適応の見直し,積極的な周術期栄養リハビリ介入,プロカルシトニン測定導入の4項目からなる周術期感染対策バンドルを樹立した。2013年1月以降,前向きにその妥当性を検証したところ,有意に感染関連アウトカムや移植後生存率が改善した。われわれは,生体肝移植患者において術前サルコペニア(骨格筋量低下など)が独立予後不良因子であることをはじめて報告し,さらに体組成を考慮した移植適応の運用と周術期栄養感染管理により,1年生存率98%と極めて良好な移植成績を得ている。本分野においても重要なことは,やはり「チーム医療」であり「イノベーション」である。

  • 大北 喜基, 荒木 俊光, 近藤 哲, 奧川 喜永, 藤川 裕之, 廣 純一郎, 問山 裕二, 大井 正貴, 内田 恵一, 楠 正人
    2018 年 15 巻 6 号 p. 655-659
    発行日: 2018/12/31
    公開日: 2019/04/20
    ジャーナル フリー

    近年の炎症性腸疾患に対する内科的治療は,従来から使用されてきたステロイドとともに免疫調節薬,生物学的製剤などの新しい内科的治療が開発され,治療薬の選択は多様化している。内科的治療は進歩したものの,治療抵抗や腸管合併症などの理由で手術を余儀なくされる症例は存在し,手術症例においては内科的治療が周術期管理に影響を与える可能性がある。長期ステロイド投与患者では,急性副腎不全に対する予防としてステロイドカバーが行われるが,従来の侵襲の大きさにかかわらず一律に高用量ステロイドを投与する方法から,近年では侵襲の程度に応じて投与量を決定する方法が推奨されている。炎症性腸疾患に対する手術は,内科的治療による免疫抑制のみならず,低栄養,慢性炎症などが原因で術後合併症,とくに感染性合併症の発生頻度が高いと考えられている。これまで多くの報告で術前ステロイド高用量投与が術後合併症のリスクとなることが示されており,ステロイドの投与量は手術タイミングと術式の選定,周術期管理を行ううえで重要な情報となる。

  • ―ステロイド以外について―
    高橋 賢一, 羽根田 祥, 小島 康弘, 白木 学, 徳村 弘実, 成島 陽一, 赤田 昌紀, 西條 文人, 松村 直樹, 野村 良平, 武 ...
    2018 年 15 巻 6 号 p. 660-668
    発行日: 2018/12/31
    公開日: 2019/04/20
    ジャーナル フリー

    炎症性腸疾患治療においては各種の免疫抑制治療が行われるため,手術例では術後の感染性合併症が問題となり得る。免疫抑制治療が術後早期合併症に与える影響についてはこれまで多くの研究が行われてきた。アザチオプリン / 6-メルカプトプリン,カルシニューリン阻害薬については術後合併症リスクを増大させないと報告されている。これらの薬剤よりはむしろステロイドの使用や長すぎる内科治療期間が術後合併症と関連する可能性が報告されている。抗TNFα抗体製剤については,クローン病では手術時の薬剤血中濃度依存性に術後合併症が増加する可能性が報告されており,潰瘍性大腸炎では術後合併症リスクは増大しないと報告されている。その他の生物学的製剤・分子標的薬剤についてはいまだ報告が少ない。周術期管理では,術前の化学的前処置を含む適切な予防策の導入により手術部位感染発生率低下を図ること,ST合剤投与によるニューモシスチス肺炎予防など日和見感染対策が重要である。

  • 高田 昌幸
    2018 年 15 巻 6 号 p. 669-677
    発行日: 2018/12/31
    公開日: 2019/04/20
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    腎移植における周術期管理についてはいくつか気をつけなければならないことがあるが,以下の 3点はとくに注意が必要である。①免疫抑制療法下で行う手術である,②腎不全患者に対する手術である,③拒絶反応,である。免疫抑制剤を用いることで免疫機能が抑制されるため感染症には注意が必要である。一旦感染症が起こると重症化しやすく,拒絶反応を引き起こすこともあるため感染予防が大切である。ドナー,レシピエントとも術前に感染症のスクリーニング検査を行っておくこと,可能な限りワクチン接種を施行しておくことが有効である。腎不全患者は(とくに生体腎移植では)腎移植手術を受けた後,比較的早期から利尿がみられる。血圧などを中心とした全身管理や十分な補液で尿量を確保することが大切である。近年免疫抑制剤の進歩により急性拒絶反応は減った一方,免疫学的リスクの高い腎移植も行われるようになってきており拒絶反応は今でも腎移植手術の重要な課題の 1つである。周術期を無事乗り切ることが移植腎予後に大きく影響するため,免疫抑制療法下で不測の事態に対応できるように移植に特有な感染症や拒絶反応など合併症によく精通しておく必要がある。

症例報告
  • 阪本 達也, 田端 正己, 藤村 侑, 前田 光貴, 大澤 一郎, 加藤 憲治, 岩田 真, 三田 孝行
    2018 年 15 巻 6 号 p. 678-682
    発行日: 2018/12/31
    公開日: 2019/04/20
    ジャーナル フリー

    虫垂炎および肝膿瘍を発症した赤痢アメーバ症の1例を報告する。症例は45歳男性。入院5日前に発熱を主訴に近医を受診,抗菌薬を処方されたが改善なく,当院を紹介された。体温38.1℃,WBCおよび CRPが上昇していた。腹部 CTでは虫垂は腫大し壁は良く造影された。また,肝前上区域に径60mm大の低濃度腫瘤が認められた。虫垂炎および肝膿瘍の診断で,スルバクタム /セフォペラゾン4g/日投与を開始したが解熱なく,入院4日目にタゾバクタム /ピペラシリン13.5g/日に変更するとともに,エコー下肝膿瘍ドレナージを施行した。しかし,改善傾向なく,入院6日目,腹腔鏡下虫垂切除術を施行した。また,抗菌薬が無効なことからアメーバ性虫垂炎を強く疑い,術翌日からメトロニダゾールの内服を開始した。以後,次第に解熱し,10日間で MNZの投与を中止,第18病日に軽快退院した。赤痢アメーバ抗体は400倍と陽性で,摘出した虫垂からは赤痢アメーバ虫体が同定された。

  • 大樂 勝司, 船水 尚武, 矢永 勝彦
    2018 年 15 巻 6 号 p. 683-687
    発行日: 2018/12/31
    公開日: 2019/04/20
    ジャーナル フリー

    症例は84歳女性。発熱,腹痛を主訴に前医を受診した。腹部CT検査で腹腔内遊離ガスを認め,消化管穿孔疑いで当科紹介となった。血液検査で,炎症反応高値,肝機能異常,高血糖を認めた。当科での腹部CT検査で肝右葉に約7cm大の肝膿瘍を認め,内部にはガス像を伴っていた。さらに腹腔内には,遊離ガスおよび多量の腹水を認めた。肝膿瘍および消化管穿孔による汎発性腹膜炎疑いで緊急手術を施行した。腹腔内に多量の混濁した腹水が貯留し,肝S5の肝膿瘍穿孔部より,膿汁の流出を認めた。消化管に穿孔部や腫瘍性病変などは認めず,膿瘍腔および腹腔内の洗浄,ドレナージ術を施行した。肝膿瘍の起因菌として,Klebsiella pneumoniaeが検出された。術後,敗血症性ショックおよびDICを呈していたが,薬物治療により改善した。術後8日目以降肝の同部位に2度膿瘍形成を認めたが,経皮経肝ドレナージで改善し,術後67日目で退院となった。

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