Surgical site infection(以下,SSI)は医療関連感染のなかで大きな割合を占めており,患者負担・医療負担に関しても世界的に問題となっている。このような背景から,「消化器外科SSI予防のための周術期管理ガイドライン2018」が日本外科感染症学会から発行された。諸外国のガイドラインとは,対象とする領域や作成方法,推奨方法など相違点が認められることから比較検討を行った。その結果,諸外国の手術全般を扱ったガイドラインと比較しても多くの勧告がなされていることがわかった。また,エビデンスに基づきながら,日本の現状に即して推奨度を記載している点から,現在の日本においてもっとも信頼に値するガイドラインであると考えられた。一方,本ガイドラインは,感染が成立している腹膜炎手術などは対象にふくめていないことから,SSIの発生割合が高いこれらの領域についても,約4〜5年後に予定されている改訂の際には,あわせて勧告がなされることを期待したい。
手術部位感染(surgical site infection:以下,SSI)予防のためには,対策をバンドル化して実施する必要がある。しかし,エビデンスがあるとされる対策を施設ですべて実践することは難しく,愛知医科大学病院でもすべての対策を実践できていないのが現実である。われわれは,エビデンスがあるといわれる対策を一つ一つ検討し,施設の現状に合わせて選択し実践してきた。2016年1月から愛知医科大学病院で直腸切除を行った患者のSSIについて検討してきた。その結果,2017年の表層SSI感染が多い現状が明らかとなったため,腹腔内洗浄終了後に手術器械を交換する目的で閉創セットを導入することにした。その結果,直腸切断患者のSSIの発生率は,器具交換導入前の22.6%(2017年1月から2017年9月)からその後9.6%(2017年10月から2018年12月)に減少した(P=0.06)。われわれの経験から,SSIサーベイランスにより施設の現状,問題を明確にし,有効とされる方法を一つ一つ実施していくことが実際的であり効果的であると考えられた。