日本外科感染症学会雑誌
Online ISSN : 2434-0103
Print ISSN : 1349-5755
18 巻, 5-6 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
特集:消化器外科SSI予防のための周術期管理ガイドラインを検証する
巻頭言
トピックス
  • 畑 啓昭, 後藤 健太郎, 宗景 史晃, 三木 晶森, 末永 尚浩, 中西 保貴, 山口 高史
    2022 年 18 巻 5-6 号 p. 389-395
    発行日: 2022/10/20
    公開日: 2022/10/21
    ジャーナル フリー

    Surgical site infection(以下,SSI)は医療関連感染のなかで大きな割合を占めており,患者負担・医療負担に関しても世界的に問題となっている。このような背景から,「消化器外科SSI予防のための周術期管理ガイドライン2018」が日本外科感染症学会から発行された。諸外国のガイドラインとは,対象とする領域や作成方法,推奨方法など相違点が認められることから比較検討を行った。その結果,諸外国の手術全般を扱ったガイドラインと比較しても多くの勧告がなされていることがわかった。また,エビデンスに基づきながら,日本の現状に即して推奨度を記載している点から,現在の日本においてもっとも信頼に値するガイドラインであると考えられた。一方,本ガイドラインは,感染が成立している腹膜炎手術などは対象にふくめていないことから,SSIの発生割合が高いこれらの領域についても,約4〜5年後に予定されている改訂の際には,あわせて勧告がなされることを期待したい。

総説
  • 針原 康
    2022 年 18 巻 5-6 号 p. 396-401
    発行日: 2022/10/20
    公開日: 2022/10/21
    ジャーナル フリー

    日本手術医学会の「手術医療の実践ガイドライン改訂第3版」と日本外科感染症学会の「消化器外科SSI予防のための周術期管理ガイドライン2018」との推奨内容を比較した。日本外科感染症学会のガイドラインは消化器外科手術に特化しているという違いがあるが,具体的な推奨内容の相違点として,予防的抗菌薬投与における術中再投与や投与期間,手術野皮膚消毒に使用する薬剤,インサイズドレープの使用,術中の手袋交換,二重手袋,閉腹時の手術器械交換,創洗浄,腹腔内洗浄,周術期の血糖コントロール,周術期高濃度酸素投与に関する推奨に言及した。周術期管理に関するガイドラインが多く発表されていて,いずれのガイドラインも基本的にエビデンスに基づいて作成されているが,その推奨内容は必ずしも同じではない。各施設はそれぞれのガイドラインの推奨内容とその理由,背景を批判的に吟味して,何をどのように取り入れるかを決めるのが適当である。

  • 内野 基, 池内 浩基
    2022 年 18 巻 5-6 号 p. 402-407
    発行日: 2022/10/20
    公開日: 2022/10/21
    ジャーナル フリー

    【はじめに】抗菌合成吸収糸は手術部位感染(SSI)予防に有用であることが報告されているが,さまざまなガイドラインでの推奨は若干異なっている。日本外科感染症学会のSSI予防に関するガイドライン作成にあたりシステマティックレビュー,メタ解析を行ったので報告する。【方法】【結果】10介入試験5観察研究でメタ解析を行った。介入試験では,リスク比0.68,95%信頼区間0.48-0.95と抗菌縫合糸による皮切部SSI予防効果を認めた。観察研究ではオッズ比0.4,95%信頼区間0.3-0.54と抗菌縫合糸による皮切部SSI予防効果が認められた。縫合糸の種類別解析では,Poly-filament縫合糸の場合,リスク比0.45,95%信頼区間0.26-0.77と予防効果を認めたが,Mono-filament縫合糸の場合ではリスク比0.82,95%信頼区間:0.57-1.18,P=0.28と抗菌縫合糸による有用性は認めなかった。入院期間の比較で有意差がなかった。【考察】消化器外科手術での抗菌合成吸収糸による皮切部SSI予防の効果が示された。しかし縫合糸の種類によっては考慮が必要かもしれない。

  • 内野 基, 池内 浩基
    2022 年 18 巻 5-6 号 p. 408-415
    発行日: 2022/10/20
    公開日: 2022/10/21
    ジャーナル フリー

    炎症性腸疾患における抗TNF(tumor necrosis factor)α抗体製剤が手術部位感染(SSI)に及ぼす影響についてシステマティックレビュー,メタ解析を行い検討した。【方法】2019年6月までの論文を検索し,潰瘍性大腸炎(UC)13論文,クローン病(CD)16論文でアウトカムをincisional SSI(I-SSI),organ/space SSI(O/S-SSI)としメタ解析を行った。【結果】UCでは,I-SSIはオッズ比(OR)1.04,95%信頼区間(CI)0.47-2.32,P=0.92,O/S-SSIはOR 1.85,95%CI 0.82-4.20,P=0.1と治療による影響はなかった。CDでも,I-SSIでOR 0.98,95%CI 0.52-1.83,P=0.94,O/S-SSIでOR 1.08,95%CI 0.79-1.48,P=0.62と影響は認めなかった。【結語】メタ解析の結果では術前の抗TNFα抗体製剤の使用はSSIに影響を与えなかった。

原著
  • 村松 有紀, 山岸 由佳, 三鴨 廣繁
    2022 年 18 巻 5-6 号 p. 416-420
    発行日: 2022/10/20
    公開日: 2022/10/21
    ジャーナル フリー

    手術部位感染(surgical site infection:以下,SSI)予防のためには,対策をバンドル化して実施する必要がある。しかし,エビデンスがあるとされる対策を施設ですべて実践することは難しく,愛知医科大学病院でもすべての対策を実践できていないのが現実である。われわれは,エビデンスがあるといわれる対策を一つ一つ検討し,施設の現状に合わせて選択し実践してきた。2016年1月から愛知医科大学病院で直腸切除を行った患者のSSIについて検討してきた。その結果,2017年の表層SSI感染が多い現状が明らかとなったため,腹腔内洗浄終了後に手術器械を交換する目的で閉創セットを導入することにした。その結果,直腸切断患者のSSIの発生率は,器具交換導入前の22.6%(2017年1月から2017年9月)からその後9.6%(2017年10月から2018年12月)に減少した(P=0.06)。われわれの経験から,SSIサーベイランスにより施設の現状,問題を明確にし,有効とされる方法を一つ一つ実施していくことが実際的であり効果的であると考えられた。

総説
  • 森兼 啓太
    2022 年 18 巻 5-6 号 p. 421-425
    発行日: 2022/10/20
    公開日: 2022/10/21
    ジャーナル フリー

    SSI防止ガイドラインで推奨された対策が行われ,結果としてSSIが減少したことが示されてはじめてその臨床効果があったと言える。そして,SSIの減少を示すためには継続的なSSI発生の監視,つまりSSIサーベイランスが必要である。その意味でSSI対策とSSIサーベイランスはクルマの両輪のように協調して運用され,SSIの減少という患者にとって望ましいアウトカムに向かっていく。日本で実施されているSSIサーベイランスは手法が標準化されている。そのシステムであるJANISのデータを用いてガイドライン発行前と後のSSI発生頻度の推移を見ると,肝胆膵手術では発行前に横ばいであったが,発行後には有意な減少傾向を示した。一方,結腸・直腸手術は発行前にもSSI減少傾向が有意であり,発行後も着々と減少していった。術式が複雑で比較的標準化しにくい肝胆膵手術において,ガイドラインによってSSI対策が標準化され,SSI発生が減少傾向に転じたことが考えられた。

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