日本外科感染症学会雑誌
Online ISSN : 2434-0103
Print ISSN : 1349-5755
17 巻, 1 号
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特集:陰圧閉鎖療法(NPWT)による治療と予防
巻頭言
原著
  • SSIを減らすのか
    水口 徹, 真弓 俊彦, 大毛 宏喜, 内野 基, 北川 雄一, 小林 昌宏, 小林 求, 清水 潤三, 鈴木 克典, 土師 誠二, 毛利 ...
    2020 年 17 巻 1 号 p. 2-7
    発行日: 2020/02/29
    公開日: 2020/03/18
    ジャーナル フリー

    陰圧創閉鎖療法は創傷治癒を促進する方法としてさまざまな創管理に使用されてきた。2019年に予防的な一次創閉鎖創に対する有効性を検証した3報のランダム化比較試験が報告された。従来の結果にこれらのエビデンスを加えてシステマティックレヴューとメタ解析を行った。NPWTにおける標準創閉鎖法と比較したSSI発生率はリスク比0.55,95%信頼区間は0.33─0.92であり,NPWTによるSSI低下効果は統計学的に有意であった(P=0.02)。ファンネルプロットは非対称性を示し,I2値 65% (P=0.009)であり高度の異質性を認めた。一次創閉鎖における予防的NPWTはSSI予防効果が再検証された。一方で異質性を認めており,対象疾患を均一にしたさらなる研究も必要である。

  • 充填術へのBridge therapy
    森崎 晃正, 藤井 弘通, 山根 心, 柴田 利彦
    2020 年 17 巻 1 号 p. 8-19
    発行日: 2020/02/29
    公開日: 2020/03/18
    ジャーナル フリー

    【目的】当施設における心大血管術後の深部胸骨創感染(以下,DSWI)の死亡因子を評価するとともに有用な治療方法を評価した。【対象・方法】1991年から2019年8月の間で胸骨正中切開による心大血管術後,外科的治療を要したDSWIを発症した84例を対象とした。2006年以前は連日洗浄後に,2007年以降は持続陰圧吸引療法(以下,NPWT)後に,単純閉鎖あるいは充填術を施行した。【結果】DSWI死亡は17例(20.2%)認めた。多変量解析で女性,年齢,透析例,術後脳障害発症,MRSA感染がDSWI死亡の独立危険因子であり,NPWT,充填術が死亡率を下げる独立因子であった。治療方法ごとの成績では充填術が有意に死亡率を下げる治療法であった(P=0.002)。一方MRSA DSWIにおいては,NPWTが有意に死亡率を減少させるものであった(P=0.003)。【結論】NPWT,充填術はDSWI死亡率を減少させる独立因子であり,NPWT後に充填術(bridge therapy)を施行することで根治的治療につながり,DSWIの死亡率を減少させる有益な治療方法と考えられた。

総説
臨床研究
  • 鶴間 哲弘, 太田 盛道, 奥村 紀美恵, 原田 朱美, 平田 公一
    2020 年 17 巻 1 号 p. 27-32
    発行日: 2020/02/29
    公開日: 2020/03/18
    ジャーナル フリー

    (目的)当院の消化器外科領域手術においての陰圧閉鎖療法(negative pressure wound therapy:以下,NPWT)の現状を報告し,NPWTの効果を最大限に誘導し感染創治療期間短縮化をめざす治療方針について検討した。さらに,NPWTと灌流式持続陰圧洗浄療法(negative pressure wound therapy with instillation and dwelling:以下,NPWTi–d)の有用性について比較検討した。(方法)当院外科にて2013年5月から2019年12月までに,SSIに対しNPWTを導入した消化器外科領域手術症例を検討対象とし後方視的に検討した。このうち,予後の明らかな消化器領域手術後の症例52例をNPWT終了後の治癒過程として遅延1次縫合群(9例)と2次治癒群(43例)に分類し比較検討した。(結果)NPWT開始から創治癒までの期間(中央値)は,遅延1次縫合群では11日(5〜27),2次治癒群では25日(6〜286)。遅延1次縫合群ではSSI診断後から全例16日以内にNPWTが開始されており,さらに,SSI診断からNPWT開始までの期間が長くなっても診断時から治癒までの総期間には大きな変化がない傾向にあった。当施設では2018年11月からNPWTi–dを導入した。従来法のNPWT群(43例)とNPWTi–d群(9例)に分類しSSI診断からNPWT開始までの期間を比較したところ,NPWT群は6日(0〜45),NPWTi–d群は1日(0〜15)であった。さらに,SSI診断時から創治癒までの総治療期間はNPWT群31日(11〜297),NPWTi–d群25日(5〜66)であった。(考察)SSI診断からNPWT開始までの期間が長くなったとしても十分な洗浄やデブリードマンなどによって創傷環境調整(wound bed preparation:以下,WBP)を整えてた後にNPWTを導入し,遅延1次縫合での創治癒を目指した方が結果的に総治療期間は短縮化されると思われる。NPWTi–dは,より早期からの創傷治癒治療開始を可能にし,総治療期間短縮にも寄与すると思われた。

症例報告
  • 板倉 弘明, 池永 雅一, 太田 勝也, 上田 正射, 加藤 亮, 津田 雄二郎, 中島 慎介, 松山 仁, 遠藤 俊治, 山田 晃正
    2020 年 17 巻 1 号 p. 33-37
    発行日: 2020/02/29
    公開日: 2020/03/18
    ジャーナル フリー

    陰圧閉鎖療法(negative pressure wound therapy:以下,NPWT)は難治性開放創だけでなく,手術部位感染(surgical site infection:以下,SSI)の予防にも有用とされ,その用途は拡大している。NPWTの有害事象に出血があり,抗凝固薬や抗血小板薬の投与は慎重に行う必要がある。また,NPWT施行中に抗凝固薬や抗血小板薬を投与する安全性の報告はない。高齢化に伴い,抗凝固薬や抗血小板薬を投与されている症例は増加しており,NPWT施行中に抗凝固薬や抗血小板薬を投与する機会は増加すると予想される。 今回,NPWT施行中に抗凝固薬を投与し,安全に創管理しえた6例を経験した。われわれは抗凝固薬を投与する症例は,NPWTの陰圧を下げ,排液の性状に注意し,交換時はフォームの剝離を丁寧に行った。1例でNPWTの排液が淡血性となったが自然止血され,全例で臨床上問題となる創出血は認めなかった。NPWTを施行中の抗凝固薬の投与は注意喚起されているが,陰圧の設定に留意し,厳重な監視と愛護的な処置により安全に創管理可能と思われた。

臨床研究
  • 野沢 彰紀, 上西 崇弘, 佐野 智弥, 安田 拓斗, 中西 紘一, 中 亮子, 川口 貴士, 宮下 正寛, 田中 宏
    2020 年 17 巻 1 号 p. 38-41
    発行日: 2020/02/29
    公開日: 2020/03/18
    ジャーナル フリー

    【目的】人工肛門閉鎖創に対して皮膚環状縫合および局所陰圧閉鎖療法(negative pressure wound therapy:以下,NPWT)を施行した症例についてその治療成績を報告する。【対象と方法】2017年1月から2019年4月までに人工肛門閉鎖術後に皮膚環状縫合およびNPWTを使用した10例を対象とした。人工肛門閉鎖創は皮膚環状縫合を施行し,NPWTは術翌日より開始し,創閉鎖までに3〜4日ごとに交換した。【結果】対象は男性8例および女性2例の10例であり,年齢(中央値)は61(41〜75)歳であった。人工肛門の部位は横行結腸が6例,S状結腸が3例,および回腸が1例であった。NPWTの交換回数(中央値)は3(2〜5)回交換した。術後閉鎖創感染は1例(10%)であった。術後在院日数(中央値)は13日(9〜46日)であり,創閉鎖までの期間(中央値)は20日(13〜30日)を要した。【結語】人工肛門閉鎖創に対する皮膚環状縫合とNPWTの併用は,創傷処置の回数を低減させるだけでなく,創傷治癒を促進させ,創閉鎖期間の短縮につながる可能性がある。

症例報告
  • 西脇 亮, 佐竹 美和子, 濱口 哲也, 井上 靖浩, 竹内 謙二, 伊藤 佳之, 加藤 俊夫
    2020 年 17 巻 1 号 p. 42-45
    発行日: 2020/02/29
    公開日: 2020/03/18
    ジャーナル フリー

    症例は慢性腎不全に対する維持透析中の70歳台男性。腹痛を主訴に救急受診され,汎発性腹膜炎のため緊急開腹手術を施行した。術中所見から宿便による小腸穿孔の診断で小腸部分切除を施行,術後5日目に深部切開創surgical site infection(SSI)をきたし,以後創部出血をきたすなど,腹膜まで至る創部離開が遷延した。肺気腫,胃癌による幽門側胃切除術の既往もあり,基礎疾患・低栄養状態から創傷治癒遅延が予想された。創傷治癒対策として,術後9日目より窒素負荷の少ないオルニチン含有食品の投与を開始した。さらに術後23日目より,圧を適宜調整した局所陰圧閉鎖療法negative pressure wound therapy(NPWT)を行った所,安全かつ早期に創傷治癒が図れたため,文献的考察を含め報告する。

症例報告
  • 風見 由祐, 里舘 均, 東 侑生, 渡邉 一輝, 長尾 厚樹, 奈良 智之, 古嶋 薫, 針原 康
    2020 年 17 巻 1 号 p. 46-53
    発行日: 2020/02/29
    公開日: 2020/03/18
    ジャーナル フリー

    Aeromonas hydrophilaShewanella algaeは悪性腫瘍罹患者や術後などで免疫能が低下している症例では壊死性軟部組織感染症(necrotizing soft tissue infection:以下,NSTI)や敗血症の起炎菌となり,劇症化することがある。症例は66歳男性。進行胃癌に対し開腹幽門側胃切除後で,術後補助化学療法施行し,以降無再発であった。胃癌の術後3年目の定期フォロー中に早期食道癌が発見され,胸腔鏡補助下食道亜全摘,開腹による胸壁前回結腸再建(頸部吻合),3領域郭清を施行した。手術翌日夕方,創部を観察したところ下腹部創から腐敗臭を伴う滲出液が多量に認められたため,再建に用いた腸管の虚血・壊死,それによる縫合不全と考え,緊急開腹手術を施行したが,明らかな異常腸管は認められなかった。その後ショック状態となり敗血症性ショックと考え種々の薬剤投与および集中管理を行ったが,状態は改善しなかった。再手術後から手術創を中心に皮膚および皮下組織に高度の炎症と壊死性の変化を認め,範囲も拡大していたため,NSTIを疑い,異常部位を広範囲に切開開放および壊死組織のデブリードマンを行ったが,急速に多臓器不全へと移行し,再手術翌日に死亡した。創部滲出液と腹腔ドレーン排液からの培養検査でA. hydrophilaS. algaeが検出され,2種の細菌の菌血症および劇症型NSTIと診断した。A. hydrophilaS. algaeそれぞれ単一細菌によるNSTIや菌血症の報告例は認められ,いずれの場合も死亡率が高い。また本症例は,A. hydrophilaS. algaeが経口的により術前より腸管内に保菌されており,それらが手術操作中に軟部組織に付着し,混合感染をきたした可能性が考えられた。

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