日本外科感染症学会雑誌
Online ISSN : 2434-0103
Print ISSN : 1349-5755
18 巻, 2 号
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原著
  • ─2018年データより─
    立石 渉, 山本 博之, 中井 真尚, 種本 和雄, 宮田 裕章, 本村 昇
    2021 年 18 巻 2 号 p. 283-288
    発行日: 2021/12/15
    公開日: 2022/01/07
    ジャーナル フリー

    【目的】心臓胸部大血管術後創部感染の発生は術後の成績に大きな影響を及ぼす。2018年の本邦で施行された心臓胸部大血管術後創部感染の現状を検討した。【方法】データは2018年の日本心臓血管外科手術データベースから抽出した53,186例を対象。Japanese Healthcare Associated Infections Surveillance(JHAIS)に準じ大伏在静脈(SVG)を使用した冠動脈バイパス(SVG+)14,246例,SVGを使用しない冠動脈バイパス(SVG-)5,535例,冠動脈バイパス以外の心臓胸部大血管手術(CABG以外)33,405例に分類。術後創部感染は深部胸骨感染,下肢創感染を対象とし,発生数を集計。術後成績への影響として90日以上の長期入院,退院時転帰,術後30日以内の再入院について検討した。【結果】深部胸骨感染発生率は全体で770例(1.4%),SVG+群1.7%,SVG-群1.2%,CABG以外1.4%であった。深部胸骨感染例の術後在院死亡率は24.7%(非感染例4.8%,P<0.01)と有意に高かった。とくにCABG以外で深部胸骨感染死亡率が30.1%と高かった。深部胸骨感染症例の長期入院率(9.5% vs 0.8%),30日以内の再入院率(1.9% vs 0.2%)も高値であった。【結論】本邦における2018年の心臓胸部大血管手術における深部胸骨感染の発生頻度は低く抑えられているが,発生した場合の死亡率,入院日数に与える影響は依然として大きいことがわかった。

ミニ特集:サルコペニアと外科感染
巻頭言
総説
  • 海道 利実
    2021 年 18 巻 2 号 p. 290-297
    発行日: 2021/12/15
    公開日: 2022/01/07
    ジャーナル フリー

    進行性および全身性の骨格筋量減少と筋力の低下を特徴とする症候群であるサルコペニアは,その成因によって加齢による一次性サルコペニアと活動性の低下や低栄養,臓器不全や手術侵襲,腫瘍などの疾患による二次性サルコペニアに分けられる。高齢化社会を迎えた今日,外科手術患者も高齢化しており,一次性サルコペニア患者が増加している。さらに,外科手術患者においては担癌状態であることが多く,経口摂取不良による術前低栄養や手術侵襲を伴うため,多くが二次性サルコペニアを有する。したがって,サルコペニアは外科診療においても重要な意義を有する。実際,術前サルコペニアや体組成異常患者は,術後感染性合併症発症率が高い。そこで,術前サルコペニア評価や栄養状態評価に基づく適切な周術期リハビリテーション・栄養介入が手術成績向上のブレークスルーとなるであろう。

原著
  • 武田 茂, 飯田 通久, 渡邊 裕策, 西山 光郎, 中島 千代, 山本 常則, 松隈 聰, 松井 洋人, 徳光 幸生, 新藤 芳太郎, 友 ...
    2021 年 18 巻 2 号 p. 298-303
    発行日: 2021/12/15
    公開日: 2022/01/07
    ジャーナル フリー

    癌患者におけるサルコペニアの臨床的意義について注目されている。今回,食道癌切除例において術前サルコペニアが術後成績に与える影響について検討した。当科における食道癌手術を行った124例を対象に,サルコペニアを腹部CT画像における第3腰椎レベルの大腰筋断面積から定義し,術後合併症と予後について検討した。術前のサルコペニアの割合は77例(62%)で,男性,BMI 20未満に多く,進行癌の頻度が高かった。術後合併症は,手術部位感染(SSI)が25例(32.4%),感染性合併症が31例(40.2%)とサルコペニア群で有意に多かった。全術後合併症が有意に多く有意なリスク因子であった。長期予後は無再発生存率がサルコペニア群で有意に不良であったが,全生存率には有意差は認めなかった。食道癌手術患者における術前サルコペニア状態は感染性合併症の高リスクで慎重な周術期管理を要する。

総説
原著
  • 安田 将, 杉本 元一, 後藤田 直人
    2021 年 18 巻 2 号 p. 314-321
    発行日: 2021/12/15
    公開日: 2022/01/07
    ジャーナル フリー

    【目的】大量肝切除術前のリハビリ栄養療法(リハ栄養)による骨格筋指数(Skeletal muscle index,SMI)変化および術後経過への影響を検討した。【方法】2008年9月から2019年5月までに門脈塞栓術後に大量肝切除を施行された全99症例のうち,術前待機期間中にリハ栄養を行った症例群(リハ栄養群)と対照群で臨床的特徴およびSMI変化率を比較した。また,リハ栄養群においてSMI増加群と減少群の術後合併症発生率を比較した。SMIは門脈塞栓術前後の腹部CT画像で評価した。【結果】リハ栄養群30例では対照群69例と比較し,SMIの有意な増加を認めた(中央値+1.8% vs. +0.1%,P=0.038)。リハ栄養群30例において,SMI増加群21例では減少群9例と比較し,術後に手術部位感染(臓器体腔)(14% vs. 56%,P=0.032)と肝不全(14% vs. 56%,P=0.032)の発生率が低く,術後在院日数(17日 vs. 24日,P=0.033)が短かった。【結論】術前待機期間中のリハ栄養により骨格筋量が増加し,術前の骨格筋量増加は術後合併症軽減に有用であると考えられた。

総説
  • 北川 雄一, 川端 康二, 藤城 健, 金子 博和, 鈴木 優美, 小林 真一郎
    2021 年 18 巻 2 号 p. 322-327
    発行日: 2021/12/15
    公開日: 2022/01/07
    ジャーナル フリー

    サルコペニアは,1989年にRosenbergによって提唱され,2010年にヨーロッパのワーキング・グループ(European Working Group on Sarcopenia in Older People(EWGSOP))により定義された。日本人でサルコペニアを診断する場合,Asian Working Group for Sarcopenia(以下,AWGS)による定義である,AWGS2019が,最新のものである。サルコペニア症例の,術後短期予後が悪化するとの報告は少なくないが,高齢者消化器外科手術における感染性合併症に限ると,大腸癌や膵頭十二指腸切除での関連性の報告がある。高齢者に限定しない場合や,骨格筋量の低下を指標とすると,感染性合併症との関係を報告している論文は散見される。われわれの,高齢者消化器外科手術の予備的検討では,サルコペニアと術後感染性合併症には関係を認めなかった。

症例報告
  • 吉田 有佑, 常光 洋輔, 稲垣 優
    2021 年 18 巻 2 号 p. 328-331
    発行日: 2021/12/15
    公開日: 2022/01/07
    ジャーナル フリー

    結核性腹膜炎は公衆衛生の向上と抗結核薬の進歩による全結核罹患率の低下とともに減少しているが,緊急で外科的治療を要する疾患の1つである。症例は82歳,男性。腹痛,嘔吐を主訴に当院を受診し絞扼性イレウスの診断で緊急開腹手術を施行した。10ヵ月前まで肺結核と結核性腹膜炎に対して内服治療を行っていた。また,ステロイド内服歴と腹部手術歴があった。医療従事者はN95マスクを装着し,通常の手術室で実施した。絞扼の原因は癒着であった。腸間膜に白色の結節を複数触知し,1個を摘出し結核性腹膜炎と確定診断した。術後は感染性のないことを確認し,陰圧室での管理を解除した。一般に結核性腹膜炎に感染力はないとされるが,腹部手術中のエアロゾル発生による感染対策は必要である。病歴聴取を怠らないこと,原因不明の腹膜炎症例では結核性腹膜炎を鑑別にあげること,緊急手術時の院内感染対策マニュアルを作成しておくことが必要と思われる。

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