日本外科感染症学会雑誌
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特集:周術期感染管理マニュアル
巻頭言
総説
  • 草地 信也
    2023 年 20 巻 2 号 p. 51-60
    発行日: 2023/09/15
    公開日: 2023/09/15
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    1980年代後半に消化器外科周術期にMRSA感染の急激な増加を招いた日本の消化器外科医はその反省から世界に先駆けて周術期の抗菌薬療法を見直し,1990年代にはMRSA感染発症率を低下させ,Cefazolinを術後感染予防薬の世界的な標準薬とした。現在,周術期感染症は手術部位感染,遠隔感染,手術関連死亡率とも極めて低いレベルにある。一方で,日本の外科医は減少傾向にあり,将来的には現在のように外科医が周術期管理を行うことが難しくなっている。このマニュアルでは現在の日本の周術期管理を示し,外科医以外の方々にも周術期管理を学んでいただき,施設ごとに競い合い,さらに高めていただくことを目的とした。

  • 森兼 啓太
    2023 年 20 巻 2 号 p. 61-69
    発行日: 2023/09/15
    公開日: 2023/09/15
    ジャーナル 認証あり

    周術期感染性合併症を防止する対策を実施することと同様に重要なことが,実際に減少しているかどうかを継続的に監視する活動としてサーベイランスを行うことである。医療機関において発生する感染症のサーベイランスは,すでに構築されたシステムに沿って行うのが一般的である。その理由は,医療機関の感染症防止対策を評価する上で感染症発生状況(発生頻度など)を医療機関同士で比較することが有用であり,そのためには同じデータ収集項目や感染症に関する同じ判定基準を用いることが必要だからである。周術期感染性合併症の中でサーベイランスの対象となっている代表的なものは手術部位感染(SSI)である。日本では2000年頃から徐々に普及し,現在は約1,000施設がSSIのサーベイランスを行っている。これによって日本におけるSSIの発生状況が明らかになり,日本全体の発生状況と比較することで自施設におけるSSIの発生が多いのか少ないのかが言えるようになってきている。比較の際には,単純なSSI発生率ではなくさまざまな要因を調整することが必要であるが,その手法も研究が重ねられ進化している。

  • 渡邉 学, 草地 信也, 浅井 浩司, 萩原 令彦, 森山 穂高, 渡邉 隆太郎, 斉田 芳久
    2023 年 20 巻 2 号 p. 70-74
    発行日: 2023/09/15
    公開日: 2023/09/15
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    腹部救急疾患は緊急手術を含む迅速な対応を要する腹部疾患群であり,消化器疾患が多くを占める。なかでも,汎発性腹膜炎や敗血性ショックなどを呈する急性炎症性疾患では,緊急の手術やinterventional radiology(IVR)による処置が必要となる。緊急手術を要する消化器疾患では術後感染性合併症の発生率が高く,腹腔内膿瘍などの臓器/体腔SSIが発生することも多い。この術後腹腔内感染症も早期に適切な治療を行わなければ重篤となる可能性があり,治療の基本は抗菌薬治療と,感染源の適切なコントロールである。腹部救急疾患やその術後腹腔内感染症の抗菌薬治療では広域スペクトラムの抗菌薬を使用することが多いため,薬剤耐性菌の増加が問題となる。日本においても基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生菌が急速に増加しており,antimicrobial resistance(AMR)対策を考慮した,適切な抗菌薬使用を行わなければならない。また,感染源の局所コントロールは,各施設で安全に施行可能な手技を選択して実施すべきである。

  • 福島 亮治
    2023 年 20 巻 2 号 p. 75-85
    発行日: 2023/09/15
    公開日: 2023/09/15
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    感染と栄養が密接に関連していることはよく知られており,栄養管理は周術期感染の予防や治療に不可欠である。基本は,まず患者の栄養状態を把握し,積極的な栄養管理が必要な患者を同定し,その患者に対して適切な栄養療法を行うことである。とくに上部消化管手術では,術前から栄養不良に陥っている患者が多く,術後も経口摂取が十分進まない場合が多い。栄養は可能であれば腸を介して投与する(経口・経腸栄養)。しかし,これが不可能,あるいは不十分な場合は,躊躇なく静脈栄養を併用することが肝要である。

  • 柚木 靖弘, 金岡 祐司, 種本 和雄
    2023 年 20 巻 2 号 p. 86-91
    発行日: 2023/09/15
    公開日: 2023/09/15
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    通常の心臓外科手術は清潔手術であるが,手術部位感染(surgical site infection:SSI)は少なからず発生する。胸骨正中切開後の胸骨骨髄炎・縦隔炎の深部胸骨創感染(DSWI)の発症率は0.25〜5%で,発症した場合の死亡率は20〜45%にも及ぶ。DSWIは在院日数・医療コストの点からも問題である。いかにDSWIを減らすか,ERAS(enhanced recovery after surgery)プロトコールを念頭に置き周術期感染管理を行っている。外科医者にとり一番問題なのは周術期感染症により自分たちの手術に対する患者の満足度が損なわれることである。心臓の状態がいかに良好でも,術創の表層の感染に対しても満足度は低下する。周術期感染症を発症させないという明確な目標を掲げ,自分たちが正しいと信じる管理をバンドルとして行っていくことが大切である。

  • 鍋谷 圭宏, 加野 将之, 水藤 広, 桑山 直樹, 首藤 潔彦
    2023 年 20 巻 2 号 p. 92-100
    発行日: 2023/09/15
    公開日: 2023/09/15
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    食道癌に対する食道切除再建術(食道癌手術)では,術後感染性合併症(postoperative infectious complication:以下,PIC)が術後短期・長期の予後不良因子となる。近年は鏡視下/ロボット支援下の低侵襲食道癌手術(minimally invasive esophagectomy:以下,MIE)が普及し,縫合不全が関与しない切開創手術部位感染(surgical site infection:以下,SSI)や遠隔部位感染である肺炎の減少に貢献している。しかし,縫合不全による臓器/体腔SSIの発症率はいまだ高く,その対策が予後向上のために重要である。これまで,手術などの治療関連因子に加えて,高齢・低栄養・併存疾患などの患者因子がPICの発症リスクとされているが,施設ごとの治療法の違いもあって対策のエビデンスは乏しい。MIE時代となったが,縫合不全の少ない安全な手術に加えて,リスクに応じて個別化された周術期管理,合併症の早期診断と適切な治療,抗菌薬適正使用などをチーム医療で行う感染管理が求められる。将来的には,食道癌と診断された患者がPICのリスク因子をできるだけ持たないような予防医学や社会栄養学の普及も,広い意味で感染管理の1つになるであろう。

  • 福島 亮治
    2023 年 20 巻 2 号 p. 101-105
    発行日: 2023/09/15
    公開日: 2023/09/15
    ジャーナル 認証あり

    胃手術の主な対象となる胃癌の罹患年齢は近年高齢化が顕著である。進行胃癌患者は術前から栄養不良に陥っていることが多く,胃癌術後は食事が十分摂取できないことが多い。高齢化や低栄養による体力低下は,免疫能低下や誤嚥,排痰障害などを助長し術後肺炎や縫合不全発生のリスクとなる。手術部位感染(surgical site infection:SSI)は大腸手術に比べて少ないが,リンパ節郭清の合併症として膵液瘻を起こすことがあり,腹腔内膿瘍を形成し治療に難渋することがある。このような胃手術の特徴を踏まえた周術期感染管理が必要である。

  • 毛利 靖彦, 山本 晃, 尾嶋 英紀, 大毛 宏喜, 森兼 啓太, 真弓 俊彦, 種本 和雄, 久保 正二, 小野 聡, 佐々木 淳一, 岡 ...
    2023 年 20 巻 2 号 p. 106-112
    発行日: 2023/09/15
    公開日: 2023/09/15
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    大腸手術は,消化器手術の中でも手術部位感染の頻度が高い術式である。大腸手術における周術期感染対策について,当院で主に施行している術前,術中,術後対策について概要を述べる。術前に必要な処置としては,抗菌薬投与,術前腸管処置,術中処置としては,術野消毒,創縁保護器具の使用,手術器具の交換について最近のエビデンスを加えて概説する。

  • 永山 稔, 石貫 智裕, 水口 徹
    2023 年 20 巻 2 号 p. 113-116
    発行日: 2023/09/15
    公開日: 2023/09/15
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    肝切除術における周術期の感染対策をまとめた。研修医に向けて最低限度のエッセンスを紹介する。術前・術中・術後の各段階での注意点があり,すべてが統合されて初めて安全な肝切除術につながる。肝切除パスと合併症に対する術前術中予防・術後対策を紹介する。

  • 新川 寛二, 竹村 茂一, 田中 肖吾, 天野 良亮, 木村 健二郎, 大平 豪, 西尾 康平, 木下 正彦, 田内 潤, 白井 大介, 江 ...
    2023 年 20 巻 2 号 p. 117-122
    発行日: 2023/09/15
    公開日: 2023/09/15
    ジャーナル 認証あり

    胆道疾患に対する手術は胆囊癌や肝門部領域胆管癌などに対する胆道再建を伴う肝切除術や急性胆囊炎,胆石症に対する胆囊摘出術などさまざまである。胆道手術における感染対策には術前・術中・術後の感染管理が必要であり,全身管理とともに至適抗菌薬の投与と感染源のコントロールを行う。胆道感染などによって時に敗血症など重篤な病態に陥ることがあるため感染の早期診断と早期治療が安全な胆道手術に重要と考えられる。

  • 秋田 裕史, 土岐 祐一郎, 江口 英利
    2023 年 20 巻 2 号 p. 123-127
    発行日: 2023/09/15
    公開日: 2023/09/15
    ジャーナル 認証あり

    尾側膵切除術における周術期管理について大阪大学消化器外科で行っている実際に沿って解説する。尾側膵切除術は,膵液瘻などの合併症がなければ,術後は比較的短期間で退院できるが,一旦,合併症を併発すると,思いもよらない長期入院になることも少なくない。クリニカルパスを使用しながら,在院日数の短縮を目指すとともに,適切にドレーン管理を行い,合併症の重症化を防ぐことが,尾側膵切除術後管理において重要である。

  • 藤本 直斗, 清水 潤三, 山下 雅史, 小田切 数基, 竹山 廣志, 柳本 喜智, 鈴木 陽三, 池永 雅一, 今村 博司, 堂野 恵三
    2023 年 20 巻 2 号 p. 128-132
    発行日: 2023/09/15
    公開日: 2023/09/15
    ジャーナル 認証あり

    膵頭十二指腸切除術の周術期管理について概説する。術後合併症が多く発生する術式であるので,合併症は起こるものであり,合併症を早期に発見し致命的にならないよう対応することが重要である。市立豊中病院で実際に行っている周術期管理を中心に膵頭十二指腸切除術の管理の要点について解説する。いかにしてレスキューの失敗を防ぐかが重要な術式である。

  • 佐藤 幸男
    2023 年 20 巻 2 号 p. 133-139
    発行日: 2023/09/15
    公開日: 2023/09/15
    ジャーナル 認証あり

    本稿では対象疾患を体幹部外傷,熱傷,皮膚軟部組織感染症に限定して作成した。本マニュアルを作成するにあたっては,われわれの周術期感染管理方法をいわゆる“専門家による意見”として記載,かつ本文の骨格とし,過去20年間に報告されてきた無作為化対照試験,系統的レビュー,メタ解析およびガイドラインの文献検索を行い,“叙述的レビュー”の形式を取った。また,本会と日本化学療法学会合同の「術後感染予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドライン」との比較も行い,これらと異なる治療方針については理由を記載した。われわれの治療方針はエビデンスに基づいた医療を実施することを原則としており,大きな齟齬はないものと考える。一方で,エビデンスのまだないあるいは乏しい部分,とくに術後管理については初学者には参考となれるよう注意を払った。

  • 松田 直之
    2023 年 20 巻 2 号 p. 140-154
    発行日: 2023/09/15
    公開日: 2023/09/15
    ジャーナル 認証あり

    集中治療では,原疾患の病態管理に加えて,全身状態に影響を与える急性期因子を解析し,緊急性および重症性に対応する。手術,外傷,原疾患などの細胞障害が全身に与える分子応答パターンに対応する過程で,感染症罹患に注意し,接触感染予防策などの感染防御を徹底する。集中治療は,医師,看護師,臨床工学技士,薬剤師,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士,管理栄養士,事務職員などの多職種連携として,集中治療管理基準,集中治療室の設置基準,集中治療の管理内容,全身管理の病態,診断,治療,さらに感染管理を共有する。

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