日本教育メディア学会研究会論集
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  • プロンプトインジェクションとステガノグラフィの体験学修による批判的思考の育成
    加納 久子
    2025 年59 巻 p. 1-4
    発行日: 2025/07/27
    公開日: 2025/08/03
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    本研究は,高等教育における生成AI活用の一環として,大学初年次生を対象に実施した体験学修の成果を報告するものである。授業では,「不可視化文字(見えない文字)」や「ステガノグラフィ」(データ内に情報を隠蔽する技術)を活用し,AIに意図しない出力を生成させる「プロンプトインジェクション」の仕組みを体験的に学ぶ機会を提供した。具体的には,不可視化文字や音声ステガノグラフィを用いたプロンプトインジェクションの実践,およびChatGPTのAdvanced Data Analysis機能を利用した画像へのテキスト情報の隠蔽と抽出を行った。授業後のアンケート調査では,学生がAIの脆弱性やセキュリティリスクを実体験し,AIの出力情報を批判的に検証する必要性を実感したこと,また生成AIの利便性とリスクの両面について理解を深めたことが確認された。本研究は,体験学修を通じてAIリテラシーと批判的思考を同時に育成する教育モデルの有効性を示唆するものである。
  • 動画制作での生成AI利用の認知
    和田 正人, 高橋 敦志, 小川 真理絵
    2025 年59 巻 p. 5-14
    発行日: 2025/07/27
    公開日: 2025/08/03
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    教員養成系大学生がメディア・リテラシー学習において,自分のメディア接触経験をメディア史としてデジタル・ストーリーテリング動画を制作した。動画は生成AIを利用した動画とオリジナルの動画の2種類とし,これらを比較した。生成AI利用動画はオリジナル動画に比べて自分の表現の可能性が有意に低かった。そこには,生成AI利用動画は自分の思い(想い)をオーディエンスに伝えられないと認知していることによった。しかし,生成AIの光と影についてのブレーンストーミングの学習では,自分の思いとオーディエンスの関係に関する意見はなかった。そこで,生成AI利用動画で学習者が指摘した自分の思いとオーディエンスの関係は,生成AIを利用して動画を創造した時に生じたものであった。こうした関係は,小説で登場人物の気持ちを理解する教育,さらに自分の思いを書く作文教育によるために,生成AIの発展で解決されることは難しいことを指摘した。
  • 大学生による予備的調査
    津田 奈々, 花手 裕, 平石 雄大, 佐藤 和紀
    2025 年59 巻 p. 15-24
    発行日: 2025/07/27
    公開日: 2025/08/03
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    本研究は,英語で記述された文章に対する中学生の批判的思考と英語力の関連性を明らかにすることを目的に,虚構記事を題材とした英文を用いて大学生を対象に2回の予備調査を実施した。調査1では,大学生2,3年生を対象に実施し,調査2では大学1,2年生を対象とし,調査1の結果を踏まえて調査に使用した英文の難易度を下げて実施した。その結果,調査1では,調査問題の平均点は30点中21点であった。自由記述に関しては,テスト環境や設問形式に関する記述と,英語読解の難しさ・課題に関する記述が全体の50%を占めていた。また,調査2では英文の難易度を下げたことで調査問題の平均点が26点と調査1よりも高くなった。自由記述に関しては,英文に関する記述が全体の74%を占めた。一方,批判的思考を発揮した回答者は,調査1では1名で,調査2では0名であった。
  • 上田 妃菜, 手塚 和佳奈, 津田 奈々, 佐藤 和紀
    2025 年59 巻 p. 25-32
    発行日: 2025/07/27
    公開日: 2025/08/03
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    自己調整学習を支援する小学校教師が実践したメディア・リテラシー教育の特徴を調査することを目的に,小学校教師11名を対象とし,各学級において2024年4月下旬から2025年3月下旬までに実施されたメディア・リテラシー教育の実践の内容を分析した。実践された「教科」は,国語,社会,総合的な学習の時間の順に多かった。「実践の目的」は,中橋(2014)のメディア・リテラシーの構成要素を参考に新たなカテゴリーを作成して分類した結果,「1.メディアの機能や特性を理解し活用する能力」に焦点を当てた実践が21回と最も多かった。「自己調整の段階」は,社会的認知に基づく自己調整の発達の多段階モデル(B.J.ZIMMERMAN and D.H.SCHUNK 2014)を参考にして分類した結果,「観察」が20回と最も多く,「自己調整」は0回だった。しかし,授業時間数と自己調整学習の段階の関連においては,時間数が長くなるに連れて,教師主導から学習者主体の活動へと自己調整が段階的に変化する様子が見られた。
  • 小川 哲哉
    2025 年59 巻 p. 33-41
    発行日: 2025/07/27
    公開日: 2025/08/03
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    本研究では,総合的な探究の時間の授業において生成AIを活用した討議活動がどのような教育的効果をもたらすかを論究した。そのために茨城県私立A高校で研究授業を行い,授業実践の教育的効果のプロセスを確認するために授業前,授業中,授業後とWebによるアンケート調査(Googleフォーム)を実施し,生徒たちの思考活動の変化を明らかにした。授業のテーマは,「高校生のキャリア形成」であり,そのために「闇バイト」問題を取り上げ,その問題点を論究した。さらに批判的思考による探究学習を行うため,敢えて闇バイトの「良い点」を3つの生成AI,ChatGPT,Gemini,Claudeに回答させ,その回答の意味をグループワークで分析,比較・検討させた。そこから「仕事とバイト」の違いを明らかにし,キャリア形成の2つの意味である①働くことの知識・技能の習得,②自分の役割を果たすことで,自分らしい生き方と生きがいを見出すことを考えさせた。
  • 後藤 康志
    2025 年59 巻 p. 42-47
    発行日: 2025/07/27
    公開日: 2025/08/03
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    教職課程学生は生成AIをどのように感じているか?本稿ではディープリサーチの活用と学生のディープリサーチの評価活動を手がかりに考えてみる。 結果として,深層研究のメリットは情報収集の効率化と時間の短縮,学習内容の深化と多様な視点の獲得,生徒の主体性・思考力の涵養と情報リテラシーの育成,プロジェクト型学習・探究活動の充実と考えている。デメリットとして,情報の正確性と信頼性,学習者の思考力・探求心・主体性への悪影響という意識であることがわかった。「高校生,中学生で,深層研究を使ってどのような教育活動ができるか」は,探究活動・調べ学習の深化と効率化,各教科における学習内容の深化と支援,生徒の主体性・思考力・情報リテラシーの育成という意識である。また,「深層研究の使う教師は,どのような力量が必要なのか」は,AIリテラシーと情報の正確性・信頼性の判断力,指導法とファシリテーション能力,専門知識と幅広い知見,ICTスキルと実践的活用力が必要であるであるという意識ということがわかった。
  • 水野 一成, 近藤 勢津子
    2025 年59 巻 p. 48-51
    発行日: 2025/07/27
    公開日: 2025/08/03
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    多くの小中学生は,GIGAスクール構想及びスマートフォンの所有低年齢化等により,タブレットやスマートフォンなどの情報機器を利用している。また,情報機器を利用し,生成AIの利用も増えている。そうした中,文部科学省は「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン(Ver.2.0)」を2025年12月に公表した。生成AIの利用には親の同意が必要であること,また今後家庭での学習に生成AIを利用することが広がるかもしれないことから,親は子が生成AIを学習に利用することについて,関わることも増える可能性がある。本稿では,子が生成AIを学習で利用することに対し,親はどのような考えを持っているか,親の生成AIの理解と合わせて分析した。その結果,親が生成AIを理解していない場合,子が生成AIを利用することへ「わからない」と答える傾向が,また生成AIを理解している親の中で,学習への効果を期待する親は「賛成」,効果を期待できない親は「反対」の傾向であることが明らかになった。
  • 佐藤 和紀, 玉木 脩一, 古澤 勇人, 髙山 直也
    2025 年59 巻 p. 52-60
    発行日: 2025/07/27
    公開日: 2025/08/03
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    生成AIを活用して研究授業における教師の発話を分析し,その分析結果を研究協議に活用することの小学校教師の意識を調査した。授業者の発話をリアルタイムでテキスト化し,対話型生成AIによって発話内容を速やかに分類・分析し,分析結果を踏まえて研究協議に取り組んでもらった。その後,教師の生成AIの活用実態に関する調査と生成AIを授業研究に用いることに関する質問紙調査を実施した。その結果,教師の振り返りや授業改善に対して生成AIの活用は有用だと捉える傾向があることが示唆された。一方で,誤出力や信頼性に対する慎重な見解も示され,生成AIの活用には人間の判断を併せ持つ運用の必要性が示唆された。
  • 平石 雄大, 伊藤 真紀, 三井 一希, 千葉 康弘, 新保 元康, 佐藤 和紀
    2025 年59 巻 p. 61-67
    発行日: 2025/07/27
    公開日: 2025/08/03
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    本研究は,校務の情報共有の手段としてチャットを活用する公立小学校の教職員のチャットへの投稿を対象に,GIGAスクール構想前後の校務における教職員間の情報共有について比較することで,その特徴を明らかにすることを目的とした。そのために,対象校で活用されているチャットスペース上の投稿を整理し,①投稿数の統計量,②月別の投稿数,③投稿者の属性と投稿数の3観点について,GIGAスクール構想以前に調査を行った先行研究である三井ほか(2020)と比較した。その結果,投稿総数はGIGAスクール構想前後で約5倍に増加している一方で,平均文字数は44.8文字と約5分の1に減少していること,本調査と三井ほか(2020)のいずれの結果においても,8月の投稿数が最も少ないことが確認された。さらに,本調査では,投稿者に外部指導者や他校の教職員,PTA関係者など,調査対象校の教職員ではない属性の投稿者が含まれていることが確認された。
  • 加藤 芙月, 齊藤 陽花, 津田 奈々, 佐藤 和紀
    2025 年59 巻 p. 68-75
    発行日: 2025/07/27
    公開日: 2025/08/03
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    本研究は,自律性支援を志向する小学校教師の,授業形態と家庭学習の方法や内容との関連を把握することを目的とし,質問紙調査を実施した。その結果,授業形態は,授業の内容に応じて「学習者中心」と「教師主導」を併用されていることが確認された。家庭学習の方法については,「学習者中心」の授業形態を取っている教師は,児童が計画して学習に取り組むことができる課題を提示しており,「教師主導」の授業形態を取っている教師は,教師が内容を決定した課題を提示していた。家庭学習の内容については,授業形態によらず,児童が自主学習に取り組み,授業で学習したことを家庭学習に活かすものが確認された。
  • ドキュメンタリ演劇によるアートベース・リサーチ
    岸 磨貴子, 武田 廉, 綿田 奈月, 川井田 友紀
    2025 年59 巻 p. 76-86
    発行日: 2025/07/27
    公開日: 2025/08/03
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    本研究は,高等学校における総合的な探究の時間(総合探究)において,生徒の学びをいかに評価するかという問いに向き合った教師たちの,問いの変容とその探究プロセスを明らかにするものである。研究チームは,「探究学習における生徒の多様な学びとそのプロセスを,いかに評価するか」を主題とし,成果発表の形式として従来の学術論文ではなく劇作品を用いた。これは,定量的な評価では捉えきれない,生徒の多様で状況的な学びのプロセスをより豊かに表現するためである。その台本は,総合探究を担当した教師たちの実際の対話をもとに構成され,教師らが自らの経験を演じるドキュメンタリ演劇として制作された。そこには,違和感や葛藤,手応え,そして新たな問いが織り込まれている。本研究では,この台本をアートベース・リサーチの成果であると同時に,教師の問いの変容を読み解くデータとして位置づけ,分析を行った。これにより,生徒の多様な学びに向き合う教師の評価観の変容プロセスを明らかにすることを試みた。
  • 門松 怜史
    2025 年59 巻 p. 87-94
    発行日: 2025/07/27
    公開日: 2025/08/03
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    本研究では,オンライン教材開発における学生参画の実践的指針を明らかにすることを目的として,先行事例調査を行った。まず,学生参画の度合いに応じて,「技術運営補助型」「評価者型」「コンテンツ設計者型」「共同設計者型」の4類型を定義し,この枠組みに基づいて先行事例を分析した。その結果,学生参画は,主体性向上,キャリア形成,スキル獲得といった「学生自身の成長」と,「教材の質的向上」という二重の効果をもたらすことが明らかとなった。一方で,教員と学生との間に生じる役割認識の相違など,学生参画における課題も確認された。これらを踏まえ,学生参画を円滑に進めるために,(1)段階的なプログラム設計とスキルセットの明確化,(2)合意形成と定期的な見直し,(3)継続的なリフレクションの実施,という3つの実践的指針を提示した。
  • 南條 優, 若月 陸央, 佐藤 和紀
    2025 年59 巻 p. 95-100
    発行日: 2025/07/27
    公開日: 2025/08/03
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    本研究は,小学校第4学年の児童が学校放送番組を視聴する際に,内容を場面ごとに整理する分析的視聴シートを継続的に活用することで,認知的映像視聴能力における順序再生に与える効果を検証することを目的とした。児童は全7回の実践を行い,3回目と7回目の実践後に,映像の内容を時系列で再構成する順序再生テストと質問紙調査を実施した。その結果,3回目の実践後のテストでは24名中19名が正しく順序再生を行えたのに対し,7回目の実践後のテストでは23名に増加しており,分析的視聴シートの継続的な活用が順序再生に影響を与えた可能性が考えられる。さらに,7回目の実践後の自由記述においては,主題把握や構造理解に関する記述があり,順序再生にも影響を与えることが示唆された。
  • 場面構成と登場キャラクターの発話に着目して
    齊藤 陽花, 今村 和花奈, 白井 健大, 佐藤 和紀
    2025 年59 巻 p. 101-109
    発行日: 2025/07/27
    公開日: 2025/08/03
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    学校放送番組の「ズームジャパン」は,社会的な題材を扱いながら,子どもたちに身近なキャラクターを通して社会的事象を分かりやすく提示するメディアであり,社会科における学習の導入や理解を深める手段として有効であると考えられる。そこで,本研究では,学校放送番組の「ズームジャパン」を対象に,場面構成と登場キャラクターの発話を分析し,学習者が社会的な見方・考え方を働かせるための構成要素の特徴を明らかにすることを目的とした。その結果,全24本の動画は,毎回一定の探究の過程を踏みながら進行し,登場キャラクターの発話数に変化はないものの,学習の主体であるミウの社会的な見方・考え方に関する発話や,ミウに伴走するショーゴの発話といった役割が確認された。また,学習者に対する単なる情報提供のための動画ではなく,問いを持つまでの流れや,自らの生活に結びつけて単元が終わる構成など,学び方を示す動画であることが分かった。
  • 井上 美空, 今村 和花奈, 津田 奈々, 佐藤 和紀
    2025 年59 巻 p. 110-118
    発行日: 2025/07/27
    公開日: 2025/08/03
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    本研究は,NHK幼児教育番組「おかあさんといっしょ」の番組構成と,その内容に含まれる価値観を明らかにすることを目的とした。そのために2025年3月上旬から4月上旬の1ヶ月間に放送された「おかあさんといっしょ」を対象に番組を視聴した。その上で田島ほか(2013)のRokeach:7による価値尺度(The Rokeach Value Survey;RVS)を用いて価値観分類を行い,番組の特性を評価・分析した。その結果,曜日ごとに番組構成に含まれている価値観やコーナーの放送時間に差異が見られ,それぞれのコーナーには,子どもに培わせたい価値観や,親子の触れ合いの時間を意識した配慮など,多様な目的や意図が含まれていることが示唆された。また,各コーナーや各楽曲が放送される順序においても,表現される価値観や教育的意図に相違が見られた。
  • 2024年度「NHK小学校教師のメディア利用と意識に関する調査」から
    及木 駿, 宇治橋 祐之
    2025 年59 巻 p. 119-124
    発行日: 2025/07/27
    公開日: 2025/08/03
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    NHK放送文化研究所では,教育現場におけるメディアの利用やデジタル化の実態を把握するため,2024年度に小学校教師を対象とした調査を実施し,全国の1学年から6学年の担任教師,計2,335人の回答を得た。調査結果から,教師の75%が「タブレット端末」を授業で「ほとんど毎日」利用していることが確認された。児童に1人1台ずつ配付されたパソコンやタブレット端末については,教師の64%が授業において「ほとんど毎日」児童が利用していると回答し,75%が家庭への持ち帰りを行っていると回答した。そうした環境下で特に利用率の高いメディア教材は「NHK for School」(94%)と「YouTube」(74%)で,ネット配信の動画コンテンツがよく利用されていた。また,授業支援ツールの機能の利用について経験年数別にみると,熟練教師は「スライド作成機能」,「チャットでの意見交換」,「アンケート,意見集約」の利用が比較的少なく,生成AIの授業中の利用にも他の教師より消極的であることが確認された。
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