速さや人口密度の内包量は、一般には2つの量の商として表示される。この場合、「割る数」と「割られる数」を入れ替えても、当該内包量の「強さ」の程度を比較することができる(これは小学校の算数教科書でも扱われている基本的な内容である)。本研究ではこれを「変数入れ替え原理」と名づける。本研究では変数入れ替え原理の理解を、①「任意性の理解」(どちらの変数を「割る数」「割られる数」にあてはめるかは任意であることの理解)、②「逆転性の理解」(変数を入れ替えると得られる結果の大小関係が逆転することの理解)、③「意味性の理解」(入れ替えた式で何が求まるのかの理解)の3つの側面から検討した。本研究では「人の混み具合」と「バイトの割のよさ」という2つの内包量を取り上げた。研究1では110名の大学生を対象にして、任意性の理解と逆転性の理解について調べた。研究2では133名の中学1年生を対象にして、意味性の理解、任意性の理解、逆転性の理解について調べた。その結果、これらの理解が成立していた者の割合は研究1でも研究2でもたいへん低く、学校で教えられる式(人数÷面積)や、日常生活で用いる式(賃金÷時間)のみが正しいと考えている学習者の実態が示された。これらの結果を「硬直化した公式観」という観点と工藤(2005)の言う「操作」の観点から考察した。
抄録全体を表示