本研究の目的は,学び合う授業の実現に向けて,教師は,児童の実態に応じながら如何に談話方略を運用しているのかを明らかにすることであった。学び合う授業づくりに熟練した教師が担任となった学級を対象に,縦断的な授業観察,教師へのインタビュー調査を行った。結果,教師は,(1)発言への消極性・伝え合う意識の低さを児童の実態と認識していた時期は,(a)児童の発言をそのまま言い直す働きかけを通して,児童に肯定的な評価を示し安心して発言できるようにする事や,他の児童に発言の内容を正確に伝える事を,(b)個人内の思考を明確にさせる働きかけを通して,伝え合うために必要な話し方や思考の仕方を学ばせる事を,図っていた。そして,(2)発言への意欲・伝え合う態度の芽生えを児童の実態と認識し始めた時期からは,(a)児童の発言に新たな意味を付与して言い変える働きかけや,(b)考え相互の関係性を思考させる働きかけを通して,児童が互いの考えを相互に繋いでいけるようになる事を,図るようになっていた。教師がそのように児童の実態に応じて談話方略を使い分けていたことが,徐々に児童主体の学び合いを授業の中に定着させていくことへと繋がったことが示唆された。
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