災害情報
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19 巻, 1 号
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[論文]
  • ―岡山県真備地区避難所対策での成功例と改善策の提案―
    廣本 篤, 平松 洋子, 岡野 泰子, 岡部 由香, 橋本 ひかり, 明石 宙郎, 手嶋 大輔, 毎熊 隆誉
    2021 年 19 巻 1 号 p. 1-10
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/07/20
    ジャーナル フリー

    岡山県真備地区を襲った平成30年7月豪雨において、避難所における夜間対応や中長期的な薬剤師の活動の可能性を検証することを目的として、被災地近隣に在住する薬剤師の活動と他の医療者団体の活動について活動時間とその内容を比較検討した。今回の救援活動は、倉敷地域災害保健復興連絡会議(KuraDRO)と連携して実施したものであり、それは「薬剤師のための災害対策マニュアル」に準ずるものであった。避難者が50名以下の避難所と250名を超える大規模避難所での活動を比較した結果、避難所での受付担当者の役割が、避難者の個人情報の管理や多職種と情報共有する際に重要であり、鍵付きロッカーの利用や避難所の規模に応じたアナウンス方法および受付担当者の人員配置等の体制整備が重要であると考えられた。また、医療者の夜間巡回スケジュールや避難所に必要な物資の把握にソーシャルネットワークサービスのLINE®の活用は有益であることが示唆された。

  • -水害を対象とした事前検証を通じて-
    竹之内 健介, 本間 基寛, 矢守 克也, 鈴木 靖
    2021 年 19 巻 1 号 p. 11-22
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/07/20
    ジャーナル フリー

    日本は災害大国と言われるように、発生間隔に違いはあれ、災害は繰り返し起こりうる。特に水害は毎年のようにどこかで発生しているが、水害が発生するたびに、「こんなことになるとは思わなかった」といった言葉が聞かれるなど、その発生状況とは矛盾した状況が確認される。実際、水害時における住民の対応行動については、過去の多くの災害で教訓や課題が指摘されてきたにも関わらず、長年十分な改善が見られず、災害が起こるたびに同じような課題が指摘され続けている。

    このような状況を打開するために、著者らは災害の「素振り(災害発生前に災害発生を想定して対応行動を確認したり実施したりする)」と「振返り(事象が落ち着いた段階で自身が採った対応行動を評価し再検討する)」に焦点を当て、これらをWEB上で疑似的に体験する訓練ツールの開発を進めている。本研究では、訓練ツールの事前の効果検証として、訓練ツールを用いて作成した動画を利用し、3地区において水害を対象にした実験を行った。その結果、素振り時と振返り時で、明確な対応行動の変化が見られるとともに、参加者を対象としたアンケート結果から「現実感」・「行動時期の確認や改善」・「リアルタイム感覚」などの効果が確認された。

    今後、本結果を踏まえ、訓練設定の作成手法の開発を進め、WEBを通じた災害発生前の疑似的な災害対応訓練のためのプラットフォームとしての展開を図っていく。

  • ―減災システム社会はどこへ行くのか―
    高原 耕平
    2021 年 19 巻 1 号 p. 23-33
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/07/20
    ジャーナル フリー

    減災の実践や研究は生活を構成する多様な価値や意味に対して摩擦を生じうる。たとえば高齢者が避難訓練への参加を「(災害が起きたら)もう死ぬからいい」と拒むといった例がある。死生観、自然観、公共性、宗教性といった諸価値と「減災」が調停されないままであれば、減災が社会と生活に本当の意味で息づくことが妨げられてしまう。わたしたちが取り組んでいることの意味を解釈するために、減災と社会の関係を生活と身体の次元にまで降りて捉え返す必要がある。そこで本稿では、減災・防災に関する様々な技術や制度が有機的につながり、そこに生きる人々の生活や姿勢に影響を与えながら、みずから発展してゆく社会を「減災システム社会」と名付け、その構造を素描する。まず減災システム社会における技術の好事例として緊急地震速報を取り上げ、有機的に接続された技術ネットワークが生活と身体に浸透するさまを分析する。ついで減災システム社会の一般的構造を記述し、技術・身体・行動・改良のPDCAサイクルが中心を持たないまま持続することを指摘する。最後に、こうした減災システム社会の将来像の可能性として、減災システム社会それ自体の進化を徹底する「情報アプローチ」と、生活における意味を注意深く読み取りながら諸価値の調和を試みる「生活アプローチ」を提示する。

  • 及川 康
    2021 年 19 巻 1 号 p. 35-46
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/07/20
    ジャーナル フリー

    水害時において、行動指南型情報としての役割を避難情報のみに期待するのは無理がある。より生の情報、すなわち防災気象情報に目を向けるほうが得策であるというのが避難情報廃止論の要点である。

    一方、避難情報廃止論が我々に問うものは、単に避難情報を廃止すべきか否かといった表面的な議論だけではない。もしも防災気象情報で事足りる環境が十分に整うのであれば、そのもとでなお避難情報が必要なのか否かの判断は、住民の避難判断とは別の論理、すなわち、その人の準拠社会における住民と自治体との関係性についての認識のありようによって大きく異なる可能性があるのである。我々はそこで、防災行政と住民との間に信頼関係や一体感が存在する社会を目指すのか、それとも、互いに責任の追及と回避を応報的に繰り返すような殺伐とした社会を目指すのか、あるいはそれらとは別な社会のあり方を模索するのか、と問われることになる。

    いずれにしても、現状にて避難情報至上主義のような固定概念が存在するとするならば、まずはそれを解凍することが必須であろう。そのうえであらためて、避難情報は本当に必要なのか否かを真摯に議論することが必要であると考えられる。

  • 及川 康, 片田 敏孝
    2021 年 19 巻 1 号 p. 47-59
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/07/20
    ジャーナル フリー

    本稿では、防災の責任の所在に関するコンセンサスの在り方について考察する。ここでは、言語の態である能動態・受動態・中動態の概念を参照しつつ、自ら「する」の徹底を図る米国(能動的防災)と、防災行政に「される(してもらう)」を求める日本(受動的防災)を対置させたうえで、第3の防災の在り方として「防災の責任の所在を問わず、結果として防災がそこに現前する状態」を指向する社会(中動的防災)の存立可能性に言及する。

    中動的防災なる社会状態は、受動的防災や能動的防災に拘泥した人々においては俄かに想像し難いばかりか、ともすると、単に責任の所在を曖昧にしているだけではないのか、責任の曖昧化に便乗した無責任な行動を肯定するだけではないのか、あるいは、単なる全体主義や集団主義の賛美に過ぎないのではないか、などといった懸念も生じかねない。それはちょうど、言語の態の区分には能動態と受動態しか存在しないという思い込みが、中動態の概念への理解を妨げている状況と同じである。その思い込みを解凍する契機として本稿では、キューバおよびニュージーランドの防災を参照する。なお、そのような懸念は、中動的防災の実践国としてのニュージーランドでは杞憂であり、むしろ日本において憂慮すべきものである可能性がアンケート調査により示された。

  • ~南海トラフ地震の懸念される地域の事業者への調査から~
    宇田川 真之, 田中 淳
    2021 年 19 巻 1 号 p. 61-71
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/07/20
    ジャーナル フリー

    介護保険施設の事業継続において重要業務の一つである給食事業は、近年、外部事業者への業務委託率が高くなっている。災害発生時や南海トラフ地震臨時情報発表時に、これら給食関連事業者の業務に支障が生じると、施設入所者への食事提供に影響すると考えられる。そこで介護保険施設の給食事業における防災対策を対象に、介護保険施設の給食担当者と給食関連事業者への大規模な調査を行った。南海トラフ地震防災対策推進地域の介護保険施設として、高知市の施設担当者へのヒアリングと、令和元年台風第15号で広域停電の発生した千葉県の全施設への質問紙調査を行った。施設の防災対策の現状と課題を抽出するとともに、給食関連事業者との連携の必要性を確認した。そして、南海トラフ地震防災対策推進地域の都道府県内の介護保険施設等を対象とした給食サービス事業者および食材卸売事業者全社へ質問紙調査を行った。調査結果から、受託施設の半数で食料備蓄を外部委託事業者が行っていることなどが明らかとなり、給食関連事業者との連携強化が事業継続に重要であることを確認した。また、南海トラフ地震臨時情報発表時に、避難勧告発令地域内で事業継続中の施設に対して、約8割の給食サービス事業者からは職員が派遣されない可能性が示された。今後の対策として、行政による物資供給、代替食材開発等のサプライチェーン全体での検討体制の構築などを提案した。

  • 石橋 真帆, 安本 真也, 岩崎 雅宏, 石川 俊之, 藁谷 峻太郎, 関谷 直也
    2021 年 19 巻 1 号 p. 73-83
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/07/20
    ジャーナル フリー

    本研究は、新型コロナウイルスパンデミック下における情報認知の実態を、不安感との関連性から明らかにすることを目的とする。前述の目的を達成するため、2回に渡り行われた4700サンプルのアンケートデータを基に、不安感、メディア利用、情報認知に関する探索的な統計分析を行った。

    結果として、①自分自身が感染する不安を感じていた人の方が感染症関連用語の認知度が高かったこと、②自分自身が感染する不安を感じていた人の方が、テレビ、スマートフォン等を経由したインターネットを長時間利用していたこと、③自分自身が感染する不安感はリスク属性によって顕著な差異が見られないことが明らかになった。つまり、3月初旬、および4月初旬の時点において、本邦の人々はほぼ自身の重症化、感染リスクに関係なく自身が感染する不安を抱いており、そのような不安をメディアによる情報認知によって解消しようとしたのではないかと推測される。

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