災害情報
Online ISSN : 2433-7382
Print ISSN : 1348-3609
18 巻, 2 号
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特集論文:災害時の「避難」を考える
査読原稿
  • 李 旉昕, 矢守 克也
    2020 年 18 巻 2 号 p. 187-197
    発行日: 2020年
    公開日: 2022/07/20
    ジャーナル フリー

    従来の集団一斉型の津波避難訓練においては、訓練を企画し実施する主体は行政や専門家で、対照的に一般住民は受動的な参加者、という役割の固定化が生じている。そのため、本来、訓練の主役であるべき住民は、予め定められたシナリオ通りに行動するだけの単なる追従者になっている場合が多い。こうした課題を解消するため、筆者らの研究チームは、津波避難訓練支援アプリ「逃げトレ」を開発した。5年間の開発と社会実装の過程で、筆者らは訓練参加者である地域住民とともに、「逃げトレ」の多様な活用法を生み出した。具体的には、「逃げトレ」を一斉訓練の改善に役立てるだけではなく、複数の避難場所・経路、移動手段の比較検討や要支援者の支援訓練など、少人数で活用する方法も考案した。「逃げトレ」の多様な活用法の意義は、大きく分けて次の2点である。第1は、訓練における固定化された役割の解消である。「逃げトレ」の活用によって、従来、行政や専門家任せにしてきた訓練方法の立案・検証を住民自らが担うようになる。第2は、「逃げトレ」を用いた訓練では、従来の一斉訓練のように、予め避難先や避難経路が「正解」として与えられることはない。そのため、訓練参加者(住民)が自ら主体的に、複数の選択肢について比較考慮し、状況に応じて最適な避難方法を見出すことが要請される。

  • ―NHK「阪神・淡路大震災25年アンケート」調査結果より―
    佐藤 公治, 木村 玲欧, 大友 章司, 伊藤 大輔, 吉田 堅一, 江崎 健治, 高瀬 杏, 小笠原 卓哉
    2020 年 18 巻 2 号 p. 199-209
    発行日: 2020年
    公開日: 2022/07/20
    ジャーナル フリー

    本研究は、NHK神戸放送局が実施した量的ランダム社会調査の結果を分析した。実施時期は、1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災から25年を迎えた2019年11月である。調査対象者は、大きな心理的影響を被っていると想像される震災当時に小・中学生であった子どもである。調査は、震災からの25年間が、子どもたちの心理状況や成長にどのような影響を与えたのかを明らかにすることを目的とし、内容は、個人属性、転居等の状況、進路・職業選択、震災のつらい経験の自己開示、心境の変化、震災体験の次世代への継承などである。主な結果としては、生きることには意味がある、震災体験を前向きに捉えているなど、震災体験を肯定的に考えていた。また回答者の6割が震災体験は風化していると考えており、5割が語り継ぐ必要があると考えていた。

  • 中林 啓修
    2020 年 18 巻 2 号 p. 211-221
    発行日: 2020年
    公開日: 2022/07/20
    ジャーナル フリー

    平成30年7月5日夜から8日にかけて西日本の広範な地域を襲った一連の豪雨災害(7月豪雨)では8府県38市町村において自衛隊による災害派遣および関連活動が行われた。本稿では、自治体の側の観点で、平素からの自衛隊との連携にどのように取り組み、また、災害派遣を受け止めてきたのかを明らかにすることを目的に、これら一連の災害派遣を事例として、自治体への質問紙調査と自衛隊へのヒアリングを行った。これらの調査から、7月豪雨で災害派遣を受けた自治体では、平素から自衛隊との間に一定の関係性を構築しており、災害時には自治体の災害対策本部に自衛隊を受け入れて対応を行なうなど、阪神・淡路大震災の際に課題とされた平素の連携の欠如や調整窓口の複雑さといった課題は改善されていたことがわかった。反面、活動拠点の確保や庁内での調整といった連携のための実際的・具体的な課題は依然として存在しており、これらの一部は東日本大震災でも指摘されていた。加えて、庁舎内での自衛隊の受け入れ場所に苦慮したことなど、従来あまり指摘がなかったような課題の存在も確認できた。

  • ~令和元年台風第19号の事例から~
    宇田川 真之
    2020 年 18 巻 2 号 p. 223-233
    発行日: 2020年
    公開日: 2022/07/20
    ジャーナル フリー

    2019年の出水期には、3月に改定された「避難勧告等に関するガイドライン」にもとづき市町村から避難情報が発令され、7月から市町村における避難勧告等の発令の支援情報となる大雨危険度通知の配信も気象庁より始まった。本研究では、こうしたなか10月に襲来した台風第19号を事例として、全国の市町村の避難勧告等の発令状況の分析を行なった。避難勧告等のデータとして、豪雨の際に情報共有基盤システム上で送信された実データを用いる手法を採用した。避難情報等の迅速で多様な伝達のための情報共有基盤システムであるLアラートが全47都道府県と接続し、2019年4月から全国市町村の発信する避難情報が集約され放送局等へ提供されるようになったことから、初めて本手法が可能となった。本研究は当該データを用いた分析を行い、その有用性や改善すべき点を明らかにすることを目的とした。

    台風第19号の事例分析の結果、災害対応中に集約されている避難勧告等の報告数よりも多くのデータ数を取得でき、各種の避難情報の発信の時間推移や空間分布、また各市町村における大雨危険度の上昇と避難情報の配信との時間関係を定量的に明らかにできることを示した。将来の豪雨災害時にも、同様のデータ分析を行い結果の蓄積を重ねることにより、今後に新しい避難に関する施策が導入された際、その効果を前後のデータから比較し定量的に評価できるようになる可能性がある。

  • 菊池 哲佳
    2020 年 18 巻 2 号 p. 235-245
    発行日: 2020年
    公開日: 2022/07/20
    ジャーナル フリー

    本研究は、1995年の阪神・淡路大震災以降に展開されている多文化社会の防災政策について、近年の調査や研究から、平時・災害時にかかわらず、多言語情報提供が主要な施策として位置付けられていることを述べた。また、災害時の多言語情報提供に向けた取り組みが各公的機関で進められているが、実効性のある施策を講じることが難しい実態を指摘した。

    さらに、外国人住民を対象としたアンケート調査から、外国人の災害時の避難行動には、外国人の多様なネットワークが強い影響を及ぼしていることを示した。そのうえで、災害時の多言語情報提供には被災者の安心に役立つ効果はあるものの、情報の速報性、個別性、流通性の3つの観点から限界が生じることを明らかにした。これらは将来の技術革新などによって解消される可能性があるが、現時点では「公助の限界」として認識すべき点である。

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