災害情報
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Print ISSN : 1348-3609
15 巻, 2 号
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特集 2016年熊本地震と災害情報
  • 横田 崇
    2017 年 15 巻 2 号 p. 75-76
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    昨年(2016年)4月の熊本地震では、M6を超える地震が3回発生し、うち2回は最大震度7を観測し、地表の広い範囲で断層変位も現れた。地震による被害は甚大で、多くの建物等の被災に加え、大規模な土砂災害も発生した。地震活動は極めて活発で、地震が続発する中、多くの方が避難し、避難所の運営や「災害関連死」等の課題が見られた。今回の特集号では、どのような地震が発生し、どのような被害を生じたのか、災害情報はどのように活用されたのか、防災に対する住民の意識はどうなのか、被災者の避難生活や被災者支援の課題と対策は、などについて、それぞれの視点から論じて頂くこととした。また、本稿では、特集号の巻頭として、地震活動と被害の状況等について概観し、今回の地震から学ぶ地震災害の防止・軽減の基本的な事項について述べる。

  • 青木 元
    2017 年 15 巻 2 号 p. 77-80
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    平成28年(2016年)熊本地震では、4月14日と16日の地震により最大震度7を2回観測した。16日の地震以降、一連の地震活動域は、熊本県熊本地方にとどまらず、阿蘇地方や大分県中部など広域に及んだ。大分県中部の活動は5月以降低下したものの、熊本地方及び阿蘇地方の活動は減衰しつつも活発な状態が続いた。震度1以上を観測した地震の回数は4月中に3千回を超え、9月には計4千回を超えるなど、他の地域で発生した過去の地震と比べても非常に活発な地震活動となった。

    一連の地震活動に対し、気象庁から様々な情報提供がなされた。このうち余震の発生確率に関する情報については、熊本地震の活動経過を踏まえて見直されることとなり、平成28年8月に地震調査委員会が「大地震後の地震活動の見通しに関する情報のあり方」として報告書をとりまとめた。

  • 赤石 一英
    2017 年 15 巻 2 号 p. 81-86
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    平成28年(2016年)熊本地震では、4月14日と16日の地震により最大震度7を2回観測した。長周期地震動についても、4月14日21時26分(M6.5)の地震で長周期地震動階級3を観測されたほか、4月15日00時03分(M6.4)の地震と4月16日01時25分(M7.3)の地震で長周期地震動階級4が観測されている。長周期地震動階級4を観測したのは平成25年3月の長周期地震動に関する観測情報(試行)発表開始以来初めてである。本稿では、これら3つの地震について、観測された地震動等について図やグラフを用いて解説する。データにより、特にM7.3の地震では、震源近傍で階級4を観測したのみでなく、非常に広い範囲で長周期地震動を観測し、観測された長周期地震動の特徴として、震源近傍では比較的短周期寄りの揺れが卓越し、遠方になるに従い、卓越周期が概ね長くなることがわかった。

  • 久田 嘉章
    2017 年 15 巻 2 号 p. 87-94
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    2016年熊本地震では活断層の近傍で震度7となる非常に強い揺れが発生し、さらに地表地震断層の断層ずれなどにより多数の建物被害が発生した。本報では、まず活断層近傍で観測された代表的な震源近傍の強震動を説明し、次に地表地震断層のズレ変位による典型的な建物被害の事例を紹介する。最後に、現行の建築基準法に基づく建築の「安全対策」が誤解を招きやすい現状を紹介し、活断層近傍の建物に有効な被害低減策を提案する。

  • 石黒 聡士, 横田 崇
    2017 年 15 巻 2 号 p. 95-96
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    2016年熊本地震に伴って出現した地表地震断層は、地震の直後から多くの活断層研究者によって調査された。地表地震断層の長さが30kmを超える長大なものであったため、結果的に国内の研究者が手分けをして調査を実施することとなった。本稿では、その時の調査において、情報の集約と共有がいかにして行われたかを記載し、将来の同様の事態における効率的な調査時の研究者間の連携、及び情報共有のあり方について考える。

  • 入江 さやか
    2017 年 15 巻 2 号 p. 97-102
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    2016年4月に発生した「平成28年熊本地震」は、内陸の活断層による「直下型地震」であった。筆者は、被害の大きかった熊本市東区、益城町、西原村、南阿蘇村の4自治体の住民2,000人を対象にした世論調査を行い、地震発発生前の活断層地震リスクの認知と、事前の防災対策の実施状況についてのデータを得た。

    この地域に地震を起こす活断層があることの認知は、自治体によって大きな差があった。村ぐるみで活断層地震の防災対策に取り組んできた西原村が68%と群を抜いて高く、次いで益城町(46%)、熊本市東区(26%)、南阿蘇村(21%)の順であった。活断層の存在を知った手段(メディア)は「人から聞いた」「自治体の防災マップ」「テレビ」「新聞」などが上位を占めた。年代によって認知手段に違いがあり、20~30代は「学校の授業」、40~50代では「市町村の防災マップ」、60代以上では「新聞」が多かった。

    活断層地震のリスクの認知の有無と、地震前の防災対策の実施状況の相関をみたところ、地域の活断層地震リスクを「知っていた」人は、「知らなかった」人に比べて、防災対策を実施している割合が高かった。活断層地震のリスクを住民に周知することで、防災対策を促す一定の効果が期待できるのではないだろうか。

  • 中森 広道
    2017 年 15 巻 2 号 p. 103-106
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    2016年の「熊本地震」において、たびたび緊急地震速報が発表された。この地震以前は、緊急地震速報は、震源に近い地域では強い揺れが到達する前に受け取ることが難しい(間に合わない)ため役に立たないと評価しているのではないかと考える傾向があった。しかし、「熊本地震」では、震源に近い熊本市などでも、緊急地震速報が役に立ったと評価した人が少なくはなく、人によって「役に立つ」という意味やとらえ方が違うことがわかった。また、震源から離れている、緊急地震速報の対象地域では、この速報が有効に活用されていることもわかった。これまでは、「地域によっては、緊急地震速報は強い揺れに間に合わないことがある」ということを強調して理解を求める傾向があったが、これからは、緊急地震速報がどのように役に立つのか、という点を強調し、周知していくことも必要だろう。

  • 一瀬 文秀
    2017 年 15 巻 2 号 p. 107-112
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    熊本地震は、情報の入手・発信手段として会員制交流サイト(SNS)が本格的に普及して初めての大災害だった。SNSは、肉親や友人の安否確認や救援物資の調達に力を発揮する一方、デマや誤報を拡散させ、被災地を不安に陥れた。その中で、新聞は人手とコストをかけて大規模な取材態勢を敷き、正確な情報を発信し続けた。災害弱者の高齢者らには重宝されたものの、新聞になじみの薄い若者は、地震後も新聞を読もうとしなかった。新聞は部数減に歯止めがかかっていない。大災害に対応する取材態勢を敷ける体力を維持するためにも、日頃から新聞は若者も引きつける内容の濃い記事を提供していくことが求められている。

  • 中村 功
    2017 年 15 巻 2 号 p. 113-120
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    本論では、2016年に発生した熊本地震を例にとり、災害時の通信がどのように進展し、またどのような課題があるか、について明らかにした。方法としては、被災地における住民ネット調査、携帯電話事業者への聞き取り、被災した自治体への聞き取り、各種資料の整理などを行った。その結果、携帯のパケット通信の疎通がよかった、LINEが役所の情報共有に使われた、緊急速報メールで避難勧告が送られた、DMATが広域災害救急医療情報システム(EMIS)を使った、などの進展がみられた。その一方で、停電時に一部の携帯基地局や防災無線が使えなくなった、震度情報が伝わらなかった、ネットニュースが流言を拡散した等々、新旧の課題もみられた。

  • 福田 充
    2017 年 15 巻 2 号 p. 121-126
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    2016年4月に発生した熊本地震において被災者がどのような対応行動や避難行動をとり、災害情報を利用したか、その実態を解明するための被災者アンケート調査を実施した。その結果、14日の前震において低かった避難率(52.6%)が16日の本震で高まったこと(94.1%)、避難先は14日の前震で自家用車による車中泊が多かったが16日の本震で指定された避難所への避難が増えたことが明らかとなった。自宅の倒壊により下敷きとなった被災者の生存者のほとんどが自力脱出または家族や地元の消防団によって救助されている。地震情報の第一報は14日の前震ではテレビが多く、16日の本震では携帯メールや家族や知人、ラジオが多い傾向があった。避難生活において、風呂やトイレに対する苦労や、飲料水・食料に対する苦労、ライフラインなどに関する苦労が、それらに対する情報ニーズの高まりにつながっており、そうした情報ニーズに対して役立ったメディアはテレビやラジオからの災害情報であることが明らかとなった。

  • 宇田川 真之
    2017 年 15 巻 2 号 p. 127-130
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    熊本地震における救援物資対策では、東日本大震災以降に行われてきた広域物資拠点候補の情報の共有化などの取り組みが功を奏したほか、災害対策基本法の改訂にもとづく初めての国のプッシュ型支援や物流企業と流通企業の連携などが行われ、関連する業務支援情報システムも幅広く利用された。また義捐物資をきめ細かく被災者へ提供できるようインターネットを利用した民間セクターの取り組みも行われた。本災害での対応実績や教訓を踏まえ、より円滑かつ的確に救援物資を被災者へ提供できるスキームを構築するためには、ロジスティクス全体の最適化の観点から、広域的に各行政機関(国、都道府県、市町村)および民間事業者・団体(物流、流通)が連携を強めることが期待され、関連する情報の標準化や共有システム構築の取組みの推進が望まれる。

    また熊本地震では、自治体からの避難勧告等の迅速な配信の情報基盤として広く利用されてきたLアラートが、自治体からの応急期の行政情報等の提供でも継続的に初めて利用された。関係機関による代行入力や臨時災害放送局原稿の転用など、被災自治体の作業負荷軽減の工夫によって実現されたと考えられる。被災者にとっての有用性は高いと想定され、今後の利用拡大のために、被災自治体における行政情報の集約・発信体制の強化の取り組みが望まれる。

  • 森本 輝
    2017 年 15 巻 2 号 p. 131-136
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    平成28年4月に発生した熊本地震では、東日本大震災を踏まえて改正された災害対策基本法に基づき初めて実施したプッシュ型物資支援や、避難所運営等における専門的な知識を有するNPO等との連携など、これまでの災害を教訓にした取組が一定の成果を上げた一方、今回の対応で課題として指摘されたものもある。

    今後の災害に備え、熊本地震への対応から教訓を得るため、被災自治体や有識者が参加する「熊本地震を踏まえた応急対策・支援策検討ワーキンググループ」が設置され、応急対策や生活支援策の今後の改善の方向性について提言がとりまとめられた。

    この提言を踏まえ、防災基本計画の修正や物資の輸送状況を関係者で共有するためのシステムの構築、避難所運営の事例集や受援体制の検討のためのガイドライン等の関係マニュアルの整備など、関係機関で防災対策の見直しを進めている。

    今後発生が懸念されている首都直下地震や南海トラフ地震などの大規模災害に備えるためには、国と地方公共団体等に加え、民間企業やボランティア、地域住民も含めた社会が一体となって取り組むことが必要不可欠であり、それぞれの災害対応組織が具体的な対策を実行に移していくことを期待している。

投稿
[論文]
  • 小林 秀行, 田中 淳
    2017 年 15 巻 2 号 p. 137-147
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    本研究は、災害に対する住民の災害知識構造が、災害情報の入手や避難などの対応行動に対してどのような影響を与えているのかを検討したものである。災害時には、人は必ずしも迅速な避難を行わないことはすでに指摘され、災害情報の制度的・技術的向上や防災教育によって避難を促す取り組みが続けられてきた。しかし、これまでの災害情報や防災教育は災害に関する断片化された情報を提供してきており、ある情報を得たときに、今後どのような事態が発生しうるのかを予測できるような構造化された知識が醸成されていないことが指摘されている。

    そこで本研究では、平成27年関東・東北豪雨において水害を発生させた鬼怒川流域の住民を対象とした質問紙調査を実施し、災害知識構造が災害情報の入手や対応行動に与える影響を明らかにすることをと試みた。調査はインターネット調査によって実施し、茨城県常総市周辺の8市町に居住する調査会社のモニター300名を対象とした。

    結果として、災害知識構造をもつ調査協力者ほど早期の災害情報入手や翌日に早起きしようと思うなどのコストが低い対応行動を意図し、実際に災害情報を早期に入手していることが明らかとなった。ただし、本調査では鬼怒川から離れた場所に住む住民も対象に含めたため、実際に避難行動をとった割合については、調査協力者全体の7.7%と少数にとどまった。

  • 横尾 泰輔, 矢守 克也
    2017 年 15 巻 2 号 p. 149-159
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    東日本大震災で、日本放送協会(NHK)は、巨大地震の発生直後に緊急災害報道を開始し、第1著者は、全国放送のキャスターとして、津波情報の伝達や避難の呼びかけを行った。しかし、多数の住民が、津波到達まで時間的猶予があったにもかかわらず、適切な避難をせずに死亡した。これは、メディア(放送)による情報伝達はできていても、それが住民の避難行動を誘発・促進するのに十分効果のあるものではなかったことを示唆している。

    本研究では、東日本大震災の初動報道に対応したキャスター当事者の視座から、放送内容および各局面におけるキャスターを取り巻く状況・心理等を自己分析するとともに、放送を視聴・聴取していた住民が、情報をどのように受けとめ、それに基づきどう行動していたかについての聞き取り調査を実施した。その結果、情報の送り手と受け手の間にある認識の相違が明確となった。

    その上で、住民の避難行動の誘発・促進に資する緊急災害報道の手法として、次の5つの項目を導出した。①インパクトのある表現(強い口調・キーフレーズ)、②発表情報・数値への解釈の付加、③教訓(リアルな事例)を盛り込んだ呼びかけ、④避難行動の段階的アプローチ、⑤津波映像の具体的実況描写と普遍化、である。

    以上5つの手法を取り入れた緊急災害報道モデルを新たに構築し、訓練等を通じて実践的な考察を試みた。

  • 中川 歩美
    2017 年 15 巻 2 号 p. 161-172
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    本研究は災害時に外国人住民が情報弱者となる現状を問題視し、特に外国人住民の中でも日本語を学ぶ「日本語学習者」に焦点をあて、災害情報におけるどのような日本語語彙・表現、文法形式が、日本語学習者にとって理解困難であるかを検討することを目的とする。大阪市内で震災時に用いられる公的アナウンスを対象に、形態素解析ソフトKH Coderを用いて語彙・表現の分析を行い、「災害時公的アナウンス 頻出語彙リスト」を作成した。さらに頻出語彙のうち決まった出現形態で用いられる表現を抽出し示すとともに、指示文の文末形式に着目し災害時に多用される文法形式を示した。これらを日本語教育の視点から分析し、日本語の災害情報において、日本語学習者の理解を困難にしていると考えられる語彙、表現、文法形式を示した。

  • 及川 康, 片田 敏孝, 西澤 篤
    2017 年 15 巻 2 号 p. 173-185
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    避難誘導のための標識デザインは、誰が見てもその意図を即座に直感的に正しく理解できることが最大限求められる。このことについて検証を行った先行研究は、まず、避難に関する現行の図記号に対する理解特性として「避難経路を示す現行の図記号には、意図する内容が伝わりにくいにとどまらず、真逆のメッセージを発しかねない」および「避難先の施設種別を示す現行の図記号を多くの人々は正確に識別できない」などの点を指摘し、また、避難誘導効果の向上のための図記号デザインのポイントに関して「『備えるべきハザードの図記号』と『避難行動の喚起を意図とする図記号』を併記することが重要」としたうえで「『備えるべきハザードの図記号』の工夫」と「『避難行動の喚起を意図とする図記号』の工夫」が求められると指摘していた。しかし、そこでの指摘は大学生を対象とした試行的な調査に基づくものであったため、その一般性・汎用性についての再検証が課題として残されていた。これらの課題の再検証を行うため、本稿では、新たに日本国内在住およびアメリカ在住の一般成人を対象とした2つの調査を行った。その結果、一部を除き概ね先行研究での指摘事項を支持する結果を得るに至った。

  • 倉田 和己, 新井 伸夫, 千葉 啓広, 上園 智美, 福和 伸夫
    2017 年 15 巻 2 号 p. 187-195
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    災害発生時の初動対応の成否は、被害を軽減する上で極めて重要である。時間的、リソース的に限られた中で、適切な対応を選択し実行するためには、災害情報の共有が欠かせない。それには、平常時から活用可能な情報収集・共有システムの開発と、情報共有を実現するための関係者間の取り決めをはじめとした社会実装の取り組みが必要となる。

    本研究では、地域社会が連携して情報収集・共有を行えるシステムの社会実装へ向けて、平常時と災害時の連続性、情報の双方向性、即時性を実現するシステムを開発した。続いて、開発したシステムを利用場面、利用主体の異なる複数のケースにおいて試用し、システムが有する機能の有効性を確認した。さらに、基礎自治体と産業界が連携した情報共有の実験を行うことで、システムを用いた情報共有が市の防災計画の中に組み込まれるなど、社会実装へ向けた取り組みが進捗した。

  • 佐藤 良太, 谷口 綾子
    2017 年 15 巻 2 号 p. 197-205
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    東日本大震災は社会に未曾有の被害をもたらした。交通インフラにおいても、鉄道網・航空網の復旧には大幅な時間がかかっており、現在においても復旧が終わらない箇所も存在する。被災を受けた公共交通網の輸送を代替するため、各地で短期間のうちに期間限定のバス路線が新設され、それらは都市・地域間を結ぶ重要な役割を担った。本稿では、東日本大震災発災後に期間限定で運行された仙台空港アクセスバスの新設に焦点を当てる。筆者らは、被災地の行政機関、バス協会、バス事業者を対象として応急・復旧期における対応について、インタビュー調査を実施した。当時の災害対応プロセスを時系列にまとめた上で、教訓を定性的に抽出するとともに、今後の防災並びに災害応急・復旧期対応に資する示唆を得ることを目的とする。

  • 富田 史章, 大柳 良介, 久松 明史, 山田 修司, 石橋 信治, 渡邉 俊介, 金子 亮介, 安西 瞳, 久利 美和
    2017 年 15 巻 2 号 p. 207-219
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    2011年に発生した東日本大震災を契機に、小・中学生を対象とする実践的な防災教育の充実が求められている。加えて、災害時の避難行動の多様性(状況依存性)を防災教育において認識することの重要性や、他者との議論を通じて自分の考えを深める「思考促進」型の防災教育の重要性が認識され、そのための教材開発とその実践が喫緊の課題となっている。本研究では、小・中学生を対象として開発された「思考促進」型の防災教育教材「減災アクションカードゲーム」の年齢別・地域別の有用性について調査を行った。小・中学校の45~50分間の授業内において実践と調査ができることを条件とし、簡易的な質問紙を用いたアンケート調査を実施した。宮城県・福島県の小・中学校での実践における調査結果より、「減災アクションカードゲーム」が、年齢や性別・地域などの参加者の「属性」や「学習経験」に左右されず使用可能な娯楽性のある防災教育教材として活用できることが確かめられた。また、少なくとも小学校高学年以上の児童・生徒に対しては、災害時の避難行動における状況依存性への理解を促す「思考促進」型の防災教育教材として機能しうる可能性も示された。

  • 小髙 暁, 近藤 伸也, 川崎 昭如
    2017 年 15 巻 2 号 p. 221-231
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    今後も多くの人々の居住が予想されるアジアの農村地域では、災害リスクの増大に伴い地方レベルの災害対応能力の向上が重要である。地方行政の限られた資源及び災害経験を補い、効率的な情報伝達体制を整備するためには、災害経験で得られた他地域の知見や経験を生かすとともに、対象地域の住民のニーズを把握することが重要である。

    本研究は、はじめに日本とタイそれぞれの地方行政の担当者及び住民へのインタビューに加え、各地域の防災・減災計画の内容を調査した。つぎに、組織間の役割分担を示した業務プロセス図と、観測情報と避難情報それぞれの送受信者の関係をマトリクスで整理した情報連関表を作成し、両地域の災害対応の比較分析を行った。その結果、研究対象地であるタイ地方行政では、中央政府の観測情報・予警報の共有、及び災害対応を指揮する地方行政から住民への避難促進が不十分という課題が明らかになった。本稿では、この課題に対する情報伝達過程の改善策を対象地域の住民のニーズを考慮した上で提案した。

  • 金井 昌信, 蟻川 景介, 片田 敏孝
    2017 年 15 巻 2 号 p. 233-243
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    防災に関するソフト対策として、様々な災害を対象にハザードマップ(以下、HM)が全国各地で作成・公表されている。そして、これまでにHMに関連した様々な研究も実施されてきた。ここで既往研究を概観すると、住民がHMを閲覧することを前提として、HMの公表効果やHMの記載内容の検討、新たなHMの提案などがおこなわれている。その一方で、「低調なHM閲覧率」を指摘している既往研究は少なくない。しかし、HM閲覧率や保管率に関する知見は不十分であり、HM閲覧率や保管率の高低を判断する基準がない現状にあるといえる。そこで本稿では、HM閲覧・保管状況の改善策を検討するための基礎的知見として、HMの閲覧および保管に関する現状を把握し、その基準を検討した。

    既存調査結果を用いたメタ分析によって、個人属性とHM閲覧・保管状況との関係を確認した。その結果、性別の違いによる差よりも、年齢の違いによる差の方が大きいことを把握した。次に、“地域特性”に関する要因と“調査”に関する要因が、HM閲覧率・保管率に与える影響を定量的に把握するために重回帰分析を行った。その結果を用いて、世帯単位でのHM閲覧率・保管率を推定し、その結果をHM閲覧・保管状況の検証するための基準として用いることについて考察を行った。

  • 金井 昌信, 上道 葵, 片田 敏孝
    2017 年 15 巻 2 号 p. 245-254
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    平成23年3月11日に発生した東日本大震災の津波被害は、それまでの想定を越える甚大なものであった。この経験を踏まえ、内閣府から南海トラフ巨大地震に関する新想定が平成24年に公表された。そして、この新想定によって甚大な津波被害が想定された地域を中心に、津波避難タワーや人工高台などの津波避難施設が新たに建設された。津波避難タワーなどの多くは、津波浸水想定区域内に建設されることから、これらの施設への津波避難には、メリットとデメリットが存在する。しかし、地域住民が津波避難タワーや津波避難ビルへの避難に対してどのような認識を持っているのかは詳細に把握されていない。

    本研究では、住民の津波避難施設への避難に関する認識と津波襲来時の津波避難意向の関連を把握した。具体的には、和歌山県新宮市と南海トラフ巨大地震が想定されている太平洋沿岸6県102市町村の2つを対象にアンケート調査を実施し、津波避難タワー・ビルへの避難に関するメリット・デメリットに関する認識と避難先選択との関係を把握した。その結果、避難途中で被災する危険性を強く考慮し、二度逃げの必要性をあまり考慮していない人が、避難タワー・ビルへの避難を選択する傾向にあることが把握された。さらに、高齢世代は避難途中で被災する危険性を考慮し、若い世代は二度逃げの必要性を考慮することが把握された。以上の結果より、平常時から個人属性に応じた情報提供をする必要があることが確認された。

  • 秦 康範, 関谷 直也, 廣井 悠
    2017 年 15 巻 2 号 p. 255-266
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    2016年熊本地震においては、2度にわたる震度7を記録するとともに、活発な余震活動のために、大量の避難者が発生した。特に、指定避難所以外の場所への避難者の把握は困難で大きな課題となった。本研究では、地震災害時における広域避難の実態を把握することを目的として、2016年熊本地震を対象に、人口統計を使って市町村を越える避難行動について考察を行った。具体的には、NTTドコモ社提供のモバイル空間統計を活用し、人口統計が持っている時間、場所、人数に加えて、居住地、年代、性別といった属性情報を加味した検討を行うことにより、広域避難の実態を明らかにすることを試みた。

    本震、前震の前後を含めた2016年4月1日から30日の一ヶ月間を対象期間として分析を行った結果、熊本県内居住者の人口は前震直前の4月14日を基準として、本震翌日の17日78千人減少していること、益城町内の益城町居住者の人口は、4月14日を基準として、前震後の15日2,250人減少、本震後の16日に4,640人と大きく減少していることが示された。

    本研究で示したのは、地震前後の人口変動の傾向である。実際に市町村外へ避難した延べ避難者数はさらに多いと考えられる。今まで把握されていなかった震災時の広域避難の実像に初めて迫る成果が得られた。

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